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治療と仕事の両立を支援する東北労災病院の取り組み

治療と仕事の両立を支援する東北労災病院の取り組み
野村 良平 先生

独立行政法人労働者健康安全機構 東北労災病院 外科部長

野村 良平 先生

目次
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それまで健康だった方ががんになると、治療のために、以前のように働くことが難しくなる場合があります。事実、治療を続けながら働くための制度や就労先の理解が不十分であることが影響し、がんと診断された方の約30%は会社を辞めているという報告もあります。そこで必要となるのが働く患者さんをサポートする「両立支援」という取り組みです。

2014年から院内に治療就労両立支援センターを設置し、早期から患者さんの就労問題に介入していた野村良平先生(東北労災病院ヘルニア外科副部長・内視鏡下手術センター副センター長・治療就労両立支援センター両立支援部長)、治療就労両立支援センターの草野浩治事務長、両立支援コーディネーターの佐々木唯さんに、東北労災病院が取り組む両立支援についてお話を伺いました。

野村良平先生

医師からがんと告知されると、多くの患者さんはショックを受け「それまでの生活が大きく変化するのでは」と不安に感じられるかもしれません。なかには仕事を続ける自信がなくなり、自ら退職される方もいらっしゃいます。しかし、今やがんは「長く付き合う慢性病」といわれ、長年考えられてきた「不治の病」ではありません。

当院の治療就労両立支援センターの両立支援部では、がんと診断された患者さんの両立支援を積極的に行い、患者さんが就労を続けられるよう、さまざまなアプローチを行っています。

将来や治療への不安から思わず退職を考える患者さんに対して、当院ではがんを告知したあとに「仕事を辞める決断をするのは早いかもしれません」とお伝えするようにしています。仕事を続けることは、社会とのつながりや安定した収入を得られるというメリットがあるだけではなく、熱中して取り組むものがあるという点からも、病にかかった患者さんの心を癒す効果があると考えているからです。

当院では、さまざまな医療スタッフが連携しながら両立支援を行っています。両立支援に携わる医療スタッフの具体的な役割は以下の通りです。

医師

患者さんに対して、病気の診断と告知を行い、入院・手術・通院治療・経過観察と一連の医療行為を行います。また、患者さんの症状を正確に把握し、就労先である企業に提出する分かりやすい診断書や意見書を作成することも医師の仕事です。

企業に提出する診断書は、一般的なものよりも詳細で、「治療の予定」や「業務の内容について職場で配慮したほうがよいこと」なども記載しています。

看護師

当院では両立支援コーディネーターの研修を修了した看護師が、患者さんの問診票の作成、今後の不安や就労先への懸念など患者さんやご家族からのご相談をお伺いします。両立支援コーディネーターの研修を修了した看護師は現在10名在籍しています(2019年5月時点)。

医療ソーシャルワーカー(両立支援コーディネーター)

当院では両立支援コーディネーター(注1)の研修を修了した医療ソーシャルワーカー(注2)が、患者さんに両立支援に関するご説明を行います。

当院には両立支援コーディネーターの研修を修了した医療ソーシャルワーカーが4名勤務しており、患者さんが仕事に復帰してからも半年間ほど面談を行い、両立をサポートしています(2019年5月時点)。

(注1)両立支援コーディネーター・・・治療と仕事の両立に向けて、支援対象者、主治医、会社・産業医などのコミュニケーションが円滑に行われるよう支援する役割を担っています。支援対象者が治療と仕事を両立できるよう、それぞれの立場に応じた支援の実施及び両立支援に関わる関係者との調整を行うことがその役割として求められていますが、労働者健康安全機構では研修事業を実施し、両立支援コーディネーターの養成を図っています

(注2)医療ソーシャルワーカー・・・長期治療が必要な患者さんとご家族の心理的、経済的、社会的な問題を一緒に考え、解決へのサポートを担う医療スタッフ

では実際に、消化器外科の病気のなかで、日本人の多くがかかる「大腸がん」を例に、患者さんへの両立支援の流れをご説明していきましょう。

まず、大腸がんは進行状態によって治療法が大きく異なる病気です。病気がだいぶ進行してから見つかった場合は、抗がん剤の投与や放射線治療が必要となります。さらに、手術する箇所によっては人工肛門(ストーマ)をつけることもあります。

人工肛門(ストーマ)

手術後に職場へ復帰する際、それまで満員電車で通勤していた患者さんの場合、人工肛門(ストーマ)をつけたまま混んだ電車に乗ることを不安視されるかもしれません。基本的に袋(パウチ)は防臭加工が施されているため、袋を開けなければそれほどにおいはしないのですが、気になってしまうお気持ちも理解できます。

そういった不安や悩みを、手術後にお伺いするのが看護師や両立支援コーディネーターです。伺ったお話をもとに医師が意見書を作成し、時差通勤などの解決方法を企業側へ提案します。意見書を提出することで、患者さんが企業側に話しにくいことや、説明が難しいことを代弁することができ、企業側も考慮すべき点を把握することが可能です。

以上、人工肛門(ストーマ)をつけた大腸がん患者さんの一例をご紹介しました。一口に「両立支援」といっても、患者さんが抱える悩みや課題は千差万別です。そのため、患者さんにあわせたサポートを、病院と企業の両方で考えていかなければいけません。

佐々木唯さん

私が担当している患者さんは30〜40名ほどで、全ての患者さんと定期的にお会いしています。多い方であれば毎週、定期通院の方であれば2、3か月に1度のペースで面談を行い、できるだけ患者さんの希望する形で復職できるように、患者さんそれぞれがもつ復職への課題をどうしたら解決できるかを一緒に考えています。また、復職後も就労定着するまでは通院時にお声がけし、不安なく働くことができているか確認しています。

また、両立支援ではチームとして対応することが必要なので、今後の治療方針、復職時の配慮事項について医師や看護師等に確認するとともに、患者さんを取り巻く環境や患者さんの思い等を情報共有して連携することを心がけています。

嬉しいことに、面談を行っている患者さんからは「安心する」というお声や「相談窓口があると心強い」というご意見をいただきます。その言葉を糧に、これからも両立支援の相談窓口として、患者さんの声に耳を傾けていきたいです。

当センターでは、がんの罹患者に対し休業等から職場復帰や治療と就労の両立支援への取り組みを行い、事例を収集し、医療機関向けのマニュアルの作成・普及に取り組むとともに、研修や講演会などさまざまな啓発活動を行っています。以下では最近の取り組みについてご紹介します。

当院では月に2回の頻度で「ろうさい医イはなし」と題し、病気や治療について知っておくとよい情報を提供する説明会を、院内1階ステンドグラス前で開催しています。

2018年10月17日の開催では、「働く人ががんになったら...」をテーマに、私(野村良平先生)がお話をさせていただきました。「ろうさい医イはなし」はどなたでも入場無料、事前申し込みも不要ですので、ぜひご参加ください。

「ろうさい医イはなし」で野村先生がお話をされているご様子

当院では、公開セミナーを行っています。たとえば、2019年1月18日には、東北大学大学院の黒澤一教授をお招きし、近隣の医療従事者を対象に、産業医の視点から「がんと就労」についてご講演いただきました。私(野村良平先生)も「がん治療と就労の両立支援」についてお話をさせていただき、当院で行われている両立支援の取り組みや、現状を詳しく説明しました。

「がんセンター公開セミナー」で野村先生が「がんと就労」についてご登壇

当院は、医療機関と患者さんの職場の橋渡しとなるコーディネーターの養成を目的に「両立支援コーディネーター基礎研修(宮城会場)」を宮城産業保健総合支援センターとともに開催しています。

もともと両立支援コーディネーター養成研修は、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する労災病院で勤務している医療スタッフを対象とした内部研修でしたが、働き方改革の一環として、コーディネーターの育成を国から要請されたことをきっかけに、2017年より一般の方の受講も可能になりました。

当機構がこれまで開催してきた養成研修にはおよそ2000名を超える方が受講され、毎回全国から受講希望者が殺到し、ご好評をいただいています。

草野浩治事務長

当院では、がん患者さんに対して治療と就労の両立支援を行っていますが、その取り組みを通じて集積された事例のデータは、がん分野の中核的施設である東京労災病院治療就労両立支援センターが取りまとめています。当機構では、がん以外にも、糖尿病脳卒中、メンタルヘルスの分野で中核的施設を定め、全国の労災病院と協働で支援事例の集積・分析・評価等に取り組み、医療機関がどう対応すべきか、一連の手順をまとめた「治療と就労の両立支援マニュアル」を作成しています。さらに、年に一度の実務者会議では時宜にかなった議論・症例発表を行い、マニュアルの内容をブラッシュアップすることも欠かしません。

こうして作成したマニュアルは、労災病院のみならず、全国の労災指定医療機関等にも提供しています。このように多くの情報を収集・管理できる点は、横のつながりがある労災病院だからこその強みです。

これまで、外科手術後の50名の患者さんに両立支援のサポートをさせていただき、うち47名の患者さんが復職されました。復職にあたっては、私の方から医師の意見書を提出させていただきましたが、このような取り組みは院内全てで行われているわけではありません。そのため今後は、全ての診療科で意見書を作成することを前向きに検討していきたいと考えています。

加えて、当院は両立支援コーディネーター養成研修にも力を入れています。近年、コーディネーターの需要は高まる一方ですが、研修場所は限られています。そういった現状に対して、当院のような「労災病院」が、コーディネーターの普及と周知に尽力できるのでは、と考えています。両立支援はまだ新しい取り組みですが、今後の発展にますます期待できる分野です。

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  • 独立行政法人労働者健康安全機構 東北労災病院 外科部長

    野村 良平 先生

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