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早期乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験─治療の流れについて

早期乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験─治療の流れについて
小此木 範之 先生

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構QST病院・医長/群馬大学医学部 講師(非常勤)

小此木 範之 先生

村田 裕人 先生

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構QST病院

村田 裕人 先生

重粒子線治療は、体への負担が少ない治療法として、がん治療の選択肢の幅を広げる可能性が期待されている放射線治療のひとつです。現在、早期乳がんに対する重粒子線治療は、臨床試験としてのみ行うことが定められています(2019年6月時点)。

今回は、早期乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験を行っている、QST病院の小此木範之先生、村田裕人先生に、実際の治療の流れについて伺いました。

放射線治療とは?

がん医療の3本柱のひとつ、放射線治療

がん医療には、手術療法、放射線療法、薬物療法(抗がん剤などの治療)という3本柱があって、そのひとつが放射線療法(放射線治療)です。切らずに治すがん治療で、熱や痛みなどを感じないことが特徴です。ただし、全身に効果があるわけではなく、治療した部分だけにしっかりと効く治療です。

放射線治療のメカニズム

放射線治療では、がん細胞のDNAに対して放射線が当たることによって、がん細胞が増えることができなくなり、がん細胞の死滅につながります。

放射線が当たった部分は、正常な細胞もダメージを受けますが、正常な細胞とがん細胞では、正常な細胞のほうが正確に早く回復するといわれています。そのため、回復する時間の差を利用して、正常な細胞のはたらきや形を残しながら、がん細胞を死滅させる治療を、複数回に分けて行います。

死滅したがん細胞は、体内の異物を掃除する役割を果たす「樹状細胞(じゅじょうさいぼう)」のはたらきによって排除されたり、体内で行われる代謝によって溶けるように消えていったりします。

重い粒子を照射する放射線治療「重粒子線治療」について

記事1「早期乳がん治療の新たな可能性、重粒子線治療の歴史」でもご説明しているように、重粒子線治療とは、重さのある粒子線ビームを体内のがん細胞に照射して、がん細胞のDNAに強いダメージを与える放射線治療です。

本記事では、QST病院で臨床試験として行われている、早期乳がんに対する重粒子線治療について、実際の流れをお話しします。

重粒子線治療の流れ─治療する前の準備とは?

重粒子線治療を行うことが決まったら、主に2つの準備を行います。それは、金属マーカーを体内に挿入した状態で固定具をつくることと、その固定具を用いてCT撮影を行い、治療のための設計図をつくることです。

金属マーカーを挿入した状態で固定具をつくる

金属マーカーとは、放射線治療の際、照射する位置を正確に決めるために体内に挿入する、細い針金状の小さな目印のことです。治療後に体内から取り出すことはありませんが、体内に長期間入っていても全く問題のないものです。

金属マーカーを挿入する前には、超音波検査を行います。乳がんの患者さんの乳房を超音波検査でみると、病気のある場所を確認することができます。局所麻酔をしたうえで、病気のところに金属マーカーを挿入します。

固定具とは、治療の精度を高めるために、患者さんの体を安定させ、固定する器具のことです。オーダーメイドで、患者さん一人ひとりに合わせて作成します。

乳房はやわらかい組織であり、X線写真だけでは病気の位置が分かりません。あらかじめ金属マーカーを挿入して治療に臨むことで、より正確な位置に照射することができます。

CTとMRI検査の結果をもとに、治療のための設計図をつくる

重粒子線治療では、重さのある粒子(炭素イオン)を加速させて、体内に照射します。粒子には、止まったところでエネルギーを発揮する性質(ブラッグピーク)があるため、照射した粒子線の到達点が、がん細胞にしっかりと当たるように調整することが重要です。

そのため、重粒子線治療を行う前には必ず、CTとMRI検査で、病気のある部分を詳しく調べます。病気がどこにあるのか、正常な組織はどこにあるのか、病気がどの方向に広がっている可能性があるのかなど、重粒子を当てる必要がある部分の輪郭を確かめ、設計図として描き出します。次に、病気に対してどのくらいのエネルギーが必要なのか、コンピューターで計算します。そして、作成した設計図やデータが適切であるかどうか、複数の医師が責任をもってチェックします。

治療の準備が終わったら退院

治療の前の準備は、外来診療でも、入院でも、どちらでも行うことができます。患者さんのご希望に合わせて選んでいただけます。入院した場合は、治療の設計図づくりが終わったら、いったん退院となります。その後、治療のために改めて入院していただきます。

重粒子線治療の当日の流れ

QST病院 治療室
QST病院 治療室

体の位置の確認作業を入念に実施

治療の当日、患者さんが治療室に入ったら、固定具を用いて姿勢を固定します。そして、X線撮影を行って、正面と側面から骨の位置を確認し、適切な位置で患者さんの体が安定していることを確認します。また、事前に埋め込んだ金属マーカーは、X線撮影すると位置を特定することができ、治療計画時の位置とのずれがないかどうかを確認します。

正確に治療するために、何度も固定具を外したり付け直したりして、体の位置の確認作業に1時間ほどかかることもあります。しかし、体の片側にわずかに力が入っているというだけでも、誤差が出てしまう可能性があるため、正確な治療につなげるためには欠かせない作業です。

治療室で重粒子線治療を開始

体の位置の確認作業を終えたら、重粒子線治療を開始します。粒子線ビームを数分間照射して、治療は終了です。照射回数は計4回で、治療期間は4日間です。また、早期乳がんに対する重粒子線治療は、臨床試験として行われているため、技術料について患者さんの自己負担は必要ありません。

QST病院 回転ガントリー

これまで、重粒子線治療は、固定された方向からしか照射できない点が課題でした。斜めの位置から照射が必要なときには、患者さんに体を傾けていただく必要がありました。しかし、患者さんの負担を減らすために、QST病院では、さまざまな方向から重粒子線を照射できる、回転ガントリーという装置を開発しました。患者さんには、安定した姿勢で治療を受けていただくことができます。

治療中の注意事項

粒子線ビームを照射している間、患者さんが注意すべきことはほとんどありません。

乳房は、呼吸のリズムにあわせて、ほんのわずかに動いていますが、呼吸を無理に止めたりする必要はありません。呼吸同期CTという方法で乳房を撮影し、呼吸の動きにあわせてがんを正確に照射することが可能なためです。しかし、眠ると呼吸の動きが揺らいでしまうため、治療中は眠らないようにしてください。

治療中に困ったことがあれば、手元のボタンを押すと粒子線ビームは止まりますが、基本的に、それを押さなければいけないケースはほとんどありません。たとえば、くしゃみをしようとしただけでも、オートロックがかかって粒子線ビームは出なくなります。くしゃみをする瞬間、普段の呼吸とリズムが変わり、機械が検知して制御されるからです。

もちろん機械だけでなく、医師たちがモニターを通して患者さんを見守り、人の目でもしっかりとチェックしています。

重粒子線治療後の生活について

村田裕人先生
村田裕人先生

日常生活の制限はとくにない

重粒子線治療を行ったあと、普段の生活で心配することはとくにありません。通常の放射線治療と同じように、乳房に対しては優しくケアするようにしてください。たとえば、入浴時は、石鹸を泡立てて優しく洗うとよいでしょう。一般的に、放射線治療を行うとそれに伴って皮膚炎が起き、強い刺激を与えると皮膚炎を悪化させる恐れがあります。乳がんに対して重粒子線治療を行った場合の皮膚炎は軽度ですが、重粒子線が当たった部分を強くこすると皮膚炎が悪化する可能性がありますので、過剰な刺激は避けることが大切です。

経過観察が大切

治療のあとは、通常の診察に加えて、MRIや超音波検査によって、病気が小さくなっていく様子を確認します。副作用、乳房の変化など、色々な観点でみていきます。通常、治療の1か月後に受診していただき、そのあとは3か月に1度ほど通院していただくことが多いです。

がんは、重粒子線治療のあとすぐに消えるわけではありません。重粒子線治療を行った患者さんの乳がんは、時間をかけてゆっくりと小さくなっていきます。その速さは患者さんによって異なります。また、がん細胞に傷がついて、転移や増殖ができない状態になっていても、体内にがんが残っているようにみえることもあります。当院では、画像診断を専門とする医師の協力を得ながら、経過を丁寧にみていきます。

整容性(美容)と生存率のバランスを追求するなかで

小此木範之先生
小此木範之先生

患者さんの「傷がなくて嬉しい」という言葉に感動した瞬間

私は、乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験を行った患者さんから、さまざまなことを学ばせていただいています。

あるとき、「重粒子線治療を選んでよかった」と言う患者さんに理由を尋ねたら、「毎晩お風呂に入るときに自分の乳房を見て、傷がない、と思う瞬間が嬉しい」とおっしゃっていました。私も、医師として、病気の経過が順調で嬉しいという思いがあります。しかし、患者さんご本人からの「乳房に傷が無いことが、こんなに嬉しいとは思わなかった」という一言には、ハッとさせられました。

医師の目線で、整容性(美容)に問題がないと考えるのは、乳首の位置が左右対称であること、色素沈着が少ないこと、横から見たときにディンプル(くぼみ)がないことなどです。しかし、患者さんが御自分の体をみるときは、当然ながら医者の視点より細かくみていると思います。患者さんの視点で「治療を受けてよかった」と思っていただけたことは、重粒子線治療の意義を感じた瞬間でした。

唐澤久美子先生のプロジェクトが、乳がん治療のひとつの方向性を示す

日々進歩する医療のなかで、乳がんの治療においては、整容性(美容)と生存率のバランスを追求する歴史が連綿と続いてきました。

かつて、ハルステッド法と呼ばれる手術が乳がんの標準的治療でした。ハルステッド法は乳房やリンパ節とともに胸の筋肉を切除する方法であり、患者さんの負担が大きいことから、乳房を温存する縮小手術が検討されました。その後、乳房温存術後にX線治療を加えることで、従来の手術方法と同等の成績であることが証明され、患者さんの負担が減らせる点においても、画期的なことでした。

その後も、乳がんの治療についてはさまざまな工夫・検討が続けられています。そのなかで、早期乳がん治療の選択肢として、新たな挑戦を始めたのが、唐澤久美子先生(現 東京女子医科大学)です(詳しくは記事1「早期乳がん治療の新たな可能性、重粒子線治療の歴史」をご覧ください)。唐澤久美子先生が当院で2013年から実施している、早期乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験は、これからの日本の乳がん治療における、ひとつの方向性を示しているのではないかと考えています。

新たな試みを続けるQST病院

QST病院外観
QST病院外観

「乳癌診療ガイドライン2018年版」にも記述があるように、乳がんの標準的な治療は手術療法です。重粒子線治療をはじめとする、早期乳がんに対する局所治療は、臨床試験としてのみ行うことになっています。つまり、重粒子線治療が本当によい結果をもたらせる治療法なのかは、まだ証明されていないということです。

私たちQST病院は、がん治療に携わってきた歴史があり、早期乳がんの患者さんにとって、新たな治療方法の提案ができるのではないかという思いから、臨床試験を続けています。

早期乳がんの患者さんで、重粒子線治療にご興味のある方は、遠慮なく当院にご連絡ください。

 

【QST病院へのお問い合わせはこちら】

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受付時間: 平日9:00~11:30、12:30~15:00

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お問い合わせの際はメディカルノートのこちらの記事を見た、とお伝えいただくとスムーズです。

 

【出典元】

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

(URL:https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/)

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子医学・医療部門 重粒子線治療研究部

(URL: https://www.qst.go.jp/site/qms/1885.html)