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顎骨壊死とは? 原因や症状、治療法について解説

顎骨壊死とは? 原因や症状、治療法について解説
廣田 誠 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 歯科・口腔外科・矯正歯科 部長/准教授

廣田 誠 先生

目次
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顎骨壊死(がっこつえし)とは、頭頸部がんに対する放射線治療を受けた場合や、骨粗しょう症やがんの骨転移を予防する薬剤を服用している場合に、抜歯や歯茎(はぐき)の腫れ、入れ歯による粘膜の傷などを原因として起こる顎骨周囲の炎症によって、顎の骨が腐ってしまう状態を指します。腐ってしまうことを壊死と呼びますが、進行すると、顎の骨の露出、痛み、歯肉の腫れや(うみ)が現れることがあります。

横浜市立大学附属市民総合医療センターの廣田誠先生は、日本口腔外科学会認定口腔外科専門医として、顎骨壊死の治療に取り組んでいらっしゃいます。今回は、同センター歯科・口腔外科・矯正歯科部長の廣田誠先生に、顎骨壊死の原因や症状などの概要から、同センターの取り組みまでお伺いしました。

顎骨壊死とは?

顎骨壊死(がっこつえし)とは、何らかの原因によって、顎の骨を構成する細胞や組織が死んでしまい腐ってしまう状態を指します。軽症であれば腐っていても自覚症状なく経過することもありますが、進行すると、顎の骨の露出、痛み、歯肉の腫れや(うみ)などが現れることがあります。

  顎骨壊死の状態
顎骨壊死の状態

顎骨壊死の原因

顎骨壊死が生じる原因は、主に頭頸部がんに対する放射線治療歴、骨粗しょう症やがんの骨転移を予防する薬剤の服用歴がある方の歯茎の炎症、抜歯など歯や歯茎の外科処置になります。

骨粗しょう症に対する薬、がんの骨転移に対する薬などの服用

顎骨壊死の中には、特定の薬の服用を原因とする薬剤関連顎骨壊死と呼ばれるものがあります。特に骨を強くするために使用する薬剤が原因となることが多く、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死とも呼ばれています。この原因は十分に明らかになっていませんが、一定期間、薬を使用していると、顎の骨に異常をきたして顎骨壊死が発生します。

抜歯をきっかけに顎骨壊死が起こりやすくなることが分かっており、歯を抜いた部分が治らずに骨が露出して化膿することで、さらに壊死の範囲が広がっていきます。

頭頸部がんに対する放射線治療

口腔がんなど頭頸部がんに対する放射線治療によって顎骨壊死が起こることがあります。

がんを治すための放射線治療ですが、治療する範囲に顎の骨が含まれている場合、放射線があたった顎骨の組織が腐ってしまう副作用(後遺障害)が現れることもあります。がん細胞を殺すための放射線が、顎の骨までも殺してしまうことで壊死が生じます。さらに、顎の骨のすぐ内側には唾液を作る顎下腺(がっかせん)という組織があり、この組織も放射線治療の副作用として機能が低下してしまいます。唾液(だえき)の量が減ることで、口腔内の細菌が繁殖しやすくなり感染が起こった結果、顎骨壊死を発症します。

放射線治療

抜歯などによる顎骨壊死の発症

上記の顎骨壊死は自覚症状がないまま発生していることがほとんどであり、口腔内の症状が現れないまま経過することもあります。

無症状の顎骨壊死が骨の露出、疼痛(とうつう)(ズキズキとしたうずくような痛み)、排膿などの症状が起こるようになる原因の多くが抜歯です。壊死を起こしている骨の治癒する能力が著しく低下しているため、歯を抜いた周りの骨は治らず、さらには菌に感染することで発症します。抜歯に限らず歯の周りの炎症、歯根の先の炎症、入れ歯による粘膜のただれなどで菌が顎の骨に侵入すると顎骨壊死を発症します。

顎骨壊死の発症を防ぐために

特定の薬の服用や放射線治療を行った患者さんたちはみな、顎骨壊死を起こすリスクを持っていますが、必ず骨の露出などが起こるわけではありません。顎骨壊死の発症を防ぐためには、歯を清潔に保つようケアし、なるべく抜歯を避けることが大切といえるでしょう。

また、入れ歯がこすれた歯肉に傷や潰瘍(かいよう)が生じた結果、感染が起こり、顎骨壊死になることがあるといわれています。入れ歯の方は、こすれることがないよう調整するようにしてください。

顎骨壊死の症状

顎骨壊死が生じると、顎の骨の露出、痛み、歯肉の腫れや(うみ)が現れるようになります。

気づきやすい症状は「顎の骨の露出」と「その周囲の粘膜の腫れ・痛み」

自分で気づきやすい症状は、顎の骨の露出です。舌で触れたときにガサガサしたものがあたるようであれば、骨が露出している可能性があります。菌に感染している場合には露出している骨の周囲の粘膜が腫れて痛むため、さらに気づきやすくなります。特に下顎は骨壊死を起こしやすいので、上記のような症状を自覚した場合には受診していただきたいと思います。

顎骨壊死の治療

消毒と洗浄によって壊死した骨の自然排出を期待する

顎骨壊死が軽度であれば、頻回に口の中を消毒・洗浄し、腐骨分離(ふこつぶんり)を期待する治療を行います。腐骨分離とは、壊死した骨が分離し、自然に排出されることです。この腐骨分離によって、壊死した骨が自然に排出されて正常な粘膜で覆われれば、手術による切除が不要になります。

状態が進行していたとしても、継続的に消毒を続けることで、壊死した骨が時間をかけて分離することがあります。膿を生じている場合には、抗菌薬を服用していただきながら消毒を行います。

消毒を継続する期間は、患者さんの状態によってさまざまですが、当院では3か月から半年程度続けていただくことがあります。

手術によって壊死した骨を切除する

手術

腐骨分離によって、壊死した骨の排出が期待できないときには、手術による切除を検討します。特に頭頸部がんの放射線治療による顎骨壊死の場合には、手術が選択されることが多いです。顎骨壊死の程度に応じて、顎の骨を大きく切除することもありますし、表面を削るだけで治療が終わることもあります。

なお、壊死した顎の骨を切除した後には、腰や足の骨を移植し、人工の歯を埋め込むインプラント治療を行うこともあります*

*インプラント治療について、詳しくは記事2をご覧ください。

横浜市立大学附属市民総合医療センターの顎骨壊死の治療の特徴

なるべく体に負担の少ない治療を

当センターでは、顎骨壊死に対して、なるべく体に負担の少ない治療を行うよう努めています。手術で切除する範囲が広いほど、術後のQOL(生活の質)が下がってしまうからです。

まずは、低侵襲の治療から開始して腐骨の自然分離を促すような治療から段階的に進めていきます。画像検査によって炎症の強い部位を絞り込み、ナビゲーションなどを使用することで骨の中にある感覚神経の損傷を最低限度とし、形態・機能を温存するように心がけています。

重症化している患者さんも積極的に受け入れている

当センターは、顎骨壊死が広範囲におよんでいるなど重症化した患者さんも積極的に受け入れています。病状によっては広い範囲で顎の骨を切断する必要がある症例はありますが、その場合にも形成外科と連携して、手術シミュレーションを用いた再建手術などを実施し、顔貌の変化を少なくするように努めています。また、手術はもちろんのこと、手術後の咀嚼(そしゃく)機能などの回復にも力を入れているため、重症化しているケースであってもご相談いただきたいと思います。

廣田誠先生からのメッセージ

定期的に歯科を受診して早期発見を

お話ししたように、骨粗しょう症の薬の服用や、頭頸部がんの放射線治療の後には、顎骨壊死が起こりやすくなります。これらの治療を受けている患者さんは、特に口腔内を清潔に保ち、感染を予防するようにしてください。たとえ顎の骨が壊死したとしても骨の露出、腫れ・痛み、排膿などが必ず症状となって現れるわけではなく、口腔内を清潔にすることで発症を未然に防ぐことができます。

顎骨壊死は、軽症であればご自分で気づかないこともあるでしょう。しかし、軽症であるほど負担の少ない治療が可能になります。そのため、定期的にかかりつけの歯科を受診するなど早期発見に努めていただきたいと思います。

当センターでは、顎骨壊死を起こすリスクのある治療を開始する患者さんに対して、必ず治療開始前に口腔内の評価をさせていただいています。口腔内に問題がある場合には、かかりつけ歯科との連携を密にすることで予防に努め、発症した場合には早期に対応します。また、重症化した顎骨壊死の患者さんの治療にも注力しています。すでに重症化している場合であってもご相談ください。