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肝臓がんに対して行う腹腔鏡下肝切除術−安全性の高い手術を行う工夫について

肝臓がんに対して行う腹腔鏡下肝切除術−安全性の高い手術を行う工夫について
森田 泰弘 先生

東京都立多摩総合医療センター 外科部長

森田 泰弘 先生

目次
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近年、お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が肝臓がんに対しても広く行われるようになってきています。従来から行われている開腹手術は、非常に大きな皮膚切開が必要であったため、腹腔鏡手術によって患者さんにかかる身体的負担が格段に軽減されるようになりました。今回は、東京都立多摩総合医療センターの外科部長である森田泰弘先生に、肝臓がんの腹腔鏡下肝切除術について、また安全性の高い手術を行うための取り組みについてお話を伺いました。

肝臓がんの治療法のひとつに、肝臓の一部をがんごと取り除く外科的肝切除という治療があります。肝細胞がんに対しては通常、がんが3個以内の場合に行われます。

腹腔鏡下肝切除術

従来の外科的肝切除は、お腹を大きく開けて行う開腹手術が一般的でした。肝臓はちょうど肋骨(ろっこつ)の裏側に隠れているため、肝臓を露出するためには、非常に大きく切り込む必要があり、術後数年間も痛みが残る方もいらっしゃいました。

そこで近年行われるようになってきたのが、腹腔鏡*を使った腹腔鏡下肝切除術です。当院の腹腔鏡下肝切除では、お腹に5mm~12mmほどの小さな穴を5、6個開け、そこから腹腔鏡や鉗子(かんし)*などを挿入します。そのほか、切除した肝臓を取り出すための切開創を作ります。お(へそ)の辺りを切開する方法もありますが、当院では摘出肝臓が大きい場合、痛みが少なく整容性にも優れる恥骨のあたりを切開しています。

*腹腔鏡…お腹の中を観察するための小型カメラ

*鉗子…組織をつまんだり、引っ張ったりするもの

従来の開腹手術に比べて小さな傷で行うことができるため、痛みが少ない、術後の回復が早い、整容性に優れている点は、腹腔鏡下肝切除術の利点といえます。

また、開腹手術に比べて出血量が少なくて済むことも大きな利点です。肝臓を切除する際には、肝臓を走行している「肝動脈・門脈・肝静脈」という3つの血管のうち、肝動脈と門脈を締めて血流を一時的に遮断しますが、肝静脈は遮断しないため、肝静脈からの出血が問題となることがあります。しかし、腹腔鏡手術はお腹の中を二酸化炭素ガスで膨らませて行うため、ガスの圧力と静脈から血液がでてくる圧力とが拮抗し、出血が起こりにくい状態となります。また拡大視効果により、細かい脈管などもしっかりと認識できるため、より繊細な手術が可能となります。

一方、開腹手術に比べて手術時間が長くなることは、腹腔鏡下肝切除術の欠点といえるでしょう。

腹腔鏡下肝切除術はどのような患者さんにでも行えるわけではなく、なかには適応とならない患者さんもいらっしゃいます。

肝臓がんのうち、胆管(胆汁の通り道)に発生する肝内胆管がんの場合では、肝臓の切除と同時に、胆道の再建を行わなくてはならない場合があります。その場合には、腹腔鏡下肝切除術が適応とならないため、開腹手術を行います。

がんを切除するためには、肝臓を切り開いて展開させていく必要があります。それが大きなサイズのがんの場合には、展開しなければならない範囲が必然的に大きくなります。

このとき、腹腔鏡手術では、お腹を二酸化炭素ガスで膨らませてはいるものの、その広がりには限界があるため、肝臓を大きく展開しきれない場合があります。開腹手術であれば、傷を大きくしたり、肋骨を上にあげたり、腸をいったん体外に取り出したりなどして、操作スペースを広げることができるため、がんのサイズが大きな場合には、開腹手術を選択することが多いです。

肝細胞がんの場合には、がんの数が3個以内という基準がありますが、転移性肝がんの場合には個数に制限はなく、数がたとえ10個あっても手術を行います。

しかしながら、先述したように、腹腔鏡を使った手術は開腹手術に比べて手術時間が長く、がんが多発していればいるほど、手術は長時間に及んでしまいます。このような場合には、開腹手術を行います。

心臓や肺などに病気を抱えているなどして全身状態が悪い患者さんの場合、手術時間が長くなると、体に大きな負担がかかってしまいます。このような患者さんには、できるだけ負担を軽減するために、手術時間が短い開腹手術を行うことが多いです。

具体的な手術内容や方法は、肝臓がんの種類によって大きく異なる場合があります。ここでは、肝細胞がんにおける肝切除の方法についてご説明します。

上図のように、肝臓はいくつかのブロックに分かれており、各ブロックに向かって門脈が枝分かれしています。がんは、この門脈の支配領域内で広がっていくといわれていることから、門脈の血流に沿って肝臓を一定のブロックごと切除する「系統的肝切除」が一般的です。

ただし、がんのサイズが小さく、肝臓の表面に近い場所にある場合には、ブロックごと肝臓を取ってしまうのではなく、がんから数センチ離れた場所をくり抜くようにして切除する「部分切除」が行われるケースもあります。

また肝機能が悪く、ブロックごと肝臓を切除してしまうと術後に肝不全*を起こすリスクが高いと考えられる場合には、あえて部分切除を行う場合もあります。

このように肝切除の範囲は、がんがある場所や個数だけでなく、患者さんの肝機能によっても大きく異なります。

*肝不全…肝臓の機能が大幅に低下した状態

肝臓を切除しなければならない範囲が大きくなる場合には、肝切除前に、残る肝臓の容量を大きくする「門脈塞栓術」という処置を行うことがあります。

肝臓には再生機能があるため、正常な肝機能の肝臓であれば60〜70%ほどまでは切除可能といわれています。しかし切除可能とはいっても、70%に近づけば近づくほど、当然肝不全のリスクは上昇していきます。そのため、当院では、術後に残る肝臓が40%以下となる場合、肝不全のリスクを回避するために、門脈塞栓術を行っています(2019年現在は局所麻酔下に、経皮経肝的穿刺による門脈塞栓術を行っています)。

門脈塞栓術ではまず、切除予定の肝臓に流れる門脈に塞栓物質を詰めて、血流を遮断します。すると、血流が遮断された肝臓が萎縮していく代わりに、残った肝臓がだんだんと大きくなってきます。たとえば、術後に300ccしか残らない肝臓が、門脈塞栓術を行うことで350cc、400ccと大きくなる場合があるのです。

肝臓は、腎臓や心臓のように、代わりの機能を果たす技術はないため、肝臓が機能しなくなると、命を落とすことになってしまいます。そのリスクを少しでも軽減するために、門脈塞栓術は有効な手段です。

当院では、より安全性が高く肝臓を切除する目的で「ICG蛍光法」と「リアルタイムエコーガイド下ナビゲーション」という方法を取り入れながら、肝切除を行っています。

肝臓の内部には多くの血管が複雑に走行していますが、表面からだけでは、どこにどのような血管が走行しているかを把握することができず、どこまで切り進めてよいかが分かりません。

そのため、インジゴカルミンという色素を門脈の枝に注入して、その門脈が支配しているブロックを染色する方法を用いることがありますが、症例によっては十分に染色されないなどの問題がありました。

ICG蛍光法
ICG蛍光法

2019年現在は「ICG蛍光法」という方法があります。インドシアニングリーンを投与し、特殊なカメラでみると、インドシアニングリーンが流れ込んだブロックが光ってみえるようになります。これを指標に肝切除を行う方法で、当院でも導入しています。

エコーガイド下ナビゲーション(エコー写真)
エコーガイド下ナビゲーション(エコー写真)

また、直接見ることができない肝内の脈管を正確に処理するのは、部位によっては困難になることがあります。「リアルタイムエコーガイド下ナビゲーション」では、手術中に超音波を直接肝臓の表面に当てることで、術者がリアルタイムに脈管の走行を確認しながら手術を行います。これによって、処理したい脈管を計画通りに処理することが可能です。さらに腫瘍と切離面の間を正確に把握できるので、がんを露出させてしまうことを防ぐことにも役立ちます。

当院ではICG蛍光法やリアルタイムエコーガイド下ナビゲーションを、開腹手術だけでなく腹腔鏡手術にも取り入れて行っています。このようなツールを用いながら、1つ1つの操作を丁寧に行い、安全性の高い手術を患者さんに提供できるような工夫をしています。

森田 泰弘 先生

肝臓がんの治療には、外科的肝切除術以外にも、ラジオ波焼灼療法(RFA)や肝動脈化学塞栓療法(TACE)など、いろいろな治療法があります。治療法を決めるうえでは、主治医の先生にそれぞれの治療のメリットやデメリットをよく聞いていただき、ご自身に合った治療を選択していただきたいと思います。

また、治療を受ける病院選びも大切です。病院選びには正解はありませんが、ひとつの目安として、「高度技能専門医修練施設」であるかどうかを確認してみていただくのもよいかもしれません。これは、難易度の高い肝胆膵外科手術を安全かつ確実に行う外科医を育成するために、日本肝胆膵外科学会が認定した施設です。そのほか、腹腔鏡手術を受けるうえでは、日本内視鏡外科学会に認定されている技術認定医がいるかどうかも、病院選びのポイントにしていただくとよいと思います。ぜひ、ご自身が納得いく形で治療が受けられるよう、治療法や病院を選んでいただきたいと思います。

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