肝臓がんは、ほかのがんに比べて再発しやすいことが特徴です。再発した肝臓がんに対しては、患者さんの肝機能や全身状態に応じて適切な治療を選択します。大阪市立十三市民病院では、消化器内科・消化器外科間の院内連携をはじめ、地域医療機関との地域連携クリニカルパスを用いた肝臓がん治療と治療後のフォローを行っています。引き続き、同院副院長 倉井 修先生、消化器外科担当部長 塚本 忠司先生、消化器内科副部長 山口 誓子先生に、再発した肝臓がんに対する治療法についてお話しいただきました。
倉井先生:
肝臓がん(肝細胞がん)は、がんの中でも再発率が高く、手術でがんを切除後、2年以内に70%の方が再発するといわれています。肝臓がんがこれほど再発しやすい理由としては、本疾患が慢性肝炎、すなわち肝臓の炎症をベースにしているということが挙げられます。慢性肝炎が持続すると、肝臓が徐々に硬くなっていきます。これを肝線維化といい、進行すると肝硬変や肝臓がんを発生しやすくなります。
倉井先生:
日本の場合、肝臓がんは、B型/C型肝炎ウイルス感染から生じる慢性肝炎が要因で発症するケースが多くみられます。B型肝炎ウイルスの場合、一度感染すると肝細胞の核に侵入します。薬物治療でウイルスが体から消えた後でも、ウイルスの鋳型であるcccDNA(covalently closed circular DNA)は肝臓の中に存在し続けます。このようにウイルスが体内に残留している場合は、がんの手術後に、体内に残った肝臓からがんが再発しやすいと考えられています。
山口先生:
アルコール性肝疾患を有する肝臓がんの方は、手術後に再び過度な飲酒を続けると高率にがんの再発がみられることがあります。
また、ウイルス性肝炎を発症している患者さんの中には、抗ウイルス療法でウイルスが体内から消えると「もう大丈夫だろう」と油断してお酒を飲んでしまう方がいらっしゃいますが、ウイルス性肝炎が治っても、基準量を超えてアルコールを摂取すれば、今度はアルコール性肝炎を発症する可能性があります。特に、肝硬変に近い状態でウイルスが消えたと診断された方は、注意が必要です。日常生活の飲酒は、機会飲酒*にとどめましょう。
倉井先生:
ウイルス性肝炎の患者さんや肝臓がん治療後の患者さんがお酒を飲む場合は、機会飲酒にとどめ、飲む量は厚生労働省で「節度ある適度な飲酒**」と定められている、1日当たり純アルコール20g(日本酒1合またはビール中瓶1本程度)以下、女性であればそれよりも少ない量にとどめましょう。
*機会飲酒:宴会や会合など何らかの機会があってお酒を飲むこと。
**厚生労働省「健康日本21(アルコール)」より
倉井先生:
肝臓がんを再発させない治療は、現在はありません。患者さんの容体を見ながら厳重に全身状態をコントロールしていき、再発した場合は再発箇所に対して再び治療を行う、という流れが基本となります。
塚本先生:
再発肝臓がんのほとんどは肝内再発です。肝内再発に対しては、肝予備能を考慮しつつ、腫瘍個数や大きさに応じて初回治療と同様の治療を行います。
肝外再発、すなわち他臓器転移に対しては、一般的には化学療法(分子標的治療)が適応されますが、患者さんの容体や転移部位や腫瘍個数によっては外科切除を選択することもあります。
山口先生:
肝予備能を念頭において、肝臓がんの治療法を検討するため、肝予備能が低下すると肝臓がんの治療の継続が困難になることがあります。このため、患者さんの肝機能をどこまで維持できるかが、再発肝臓がんに対する治療の大きなカギになるのではないかと考えています。
倉井先生:
当院の肝臓がん治療チームでは、内科・外科間で患者さんの情報を共有し合い、手術やラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法などのさまざまな治療法から1人の患者さんに適切な組み合わせを決定しています。
たとえば、内科で定期的に診療を行っていた患者さんに肝臓がんが見つかり、確実にがんを治療できる方法は手術だと判断できる場合は、すみやかに外科に手術を依頼する体制が整っています。
塚本先生:
同じように、外科側で診療していた患者さんに、ラジオ波焼灼療法(RFA)のほうが適切であると判断した場合は、すみやかに内科に治療を依頼しています。
2019年9月現在、当院における肝臓がんの治療は、私たち3人で行っており*、診療科間の依頼や患者さんの引継ぎもスムーズに実施しています。週に1回カンファレンスを開催して連携を密にし、患者さんにとってもっとも適切な治療を提供できるように努めています。
*2019年9月時点(実際の実態とは異なる場合があります)
倉井先生:
最近では、肝臓がんなどの特定のがん治療における「がん地域医療連携クリニカルパス」にも力を注いでいます。がん地域医療連携クリニカルパスとは、当院の医師と地域の先生とで患者さんのがん診療計画表=連携パスを作成し、それに基づいて当院と地域医療機関が機能分担しながら診断・治療を行うものです。腹腔鏡手術やラジオ波焼灼療法などの専門的な技術および設備が必要な診療は当院で、日常診療は地域医療機関で行うことは、受診の待ち時間や通院時間の短縮につながるものと考えています。
肝臓がんは、ほかのがんに比べて再発しやすいといわれています。だからこそ、治療後のしっかりとしたフォローアップが必要だと考えます。
手術後も、定期検査と外来通院は欠かさずに受けてください。また、お酒の飲み過ぎや栄養過多は脂肪肝になるリスクがあるので、治療後は日常的にお酒やカロリーの高い食べ物を取り過ぎないように節制する必要があります。日頃から、その点を十分に意識した生活スタイルを目指していただきたいと考えます。
肝臓がんは、早期の段階で治療を開始することで、予後の改善につながります。ウイルス性肝炎に伴って発症することも多いので、ウイルス性肝炎と診断されている方や、検診で肝臓に何らかの異常が見つかった方は、できるだけ早く病院にご相談ください。
かつて、肝臓がんは体を大きく切らなければ切除できないと考えられており、手術リスクが高く、患者さんの肉体的負担が大きいことが課題でした。現在は、小さな傷だけで治療ができる腹腔鏡手術を用いることで、患者さんの肉体的負担を減らすことが可能になりました。がんの治療で手術を受けることは怖いことかもしれませんが、医師はがんが治る可能性が高い治療法をじっくりと考えてご提案しているので、手術をすすめられた場合は、どうかあまり怖がらずに受けていただきたいと考えます。
大阪市立十三市民病院 病院長
日本内科学会 内科指導医・認定内科医日本肝臓学会 肝臓指導医・肝臓専門医日本消化器病学会 消化器病指導医・消化器病専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡指導医・消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本臨床栄養代謝学会 認定医
島根医科大学を卒業後、大阪市立大学医学部附属病院、芦原病院、大阪市立住吉市民病院、大阪市立総合医療センターを経て、2004年より大阪市立十三市民病院消化器内科。2014年からは同院副院長を務める。肝臓病学の専門家として、患者さんに日々向き合っている。地域と共同で患者さんを診療する「がん地域医療連携クリニカルパス」にも積極的に取り組んでおり、地域の肝臓がん患者さんの治療に力を注ぐ。
倉井 修 先生の所属医療機関
大阪市立十三市民病院 外科・消化器外科
日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本外科学会 指導医・外科専門医日本消化器外科学会 消化器外科指導医・消化器外科専門医・消化器がん外科治療認定医日本消化器病学会 消化器病指導医・消化器病専門医日本肝臓学会 肝臓指導医・肝臓専門医日本胆道学会 認定指導医日本膵臓学会 認定指導医日本消化管学会 胃腸科指導医・胃腸科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本外科感染症学会 外科周術期感染管理教育医・外科周術期感染管理認定医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター日本医師会 認定産業医・健康スポーツ医下肢静脈瘤血管内治療実施管理委員会 実施医
大阪市立大学卒業後、13年間、同大学病院に所属し、心臓血管外科、呼吸器外科、消化器外科、乳腺・甲状腺外科、小児外科を修練。そのうちの後半6年間は大学助手(現在の助教)として肝胆膵外科研究班に所属し、肝臓、胆道、膵臓の外科疾患の診療、研究、教育に参画。1989年から肝移植実施に向けての大動物を用いた実験を中心となって開始し、2000年に実臨床での生体部分肝移植が開始され、これに参画。また、門脈狭窄病態に対する門脈ステント留置術を初めて導入。研究分野では、肝線維化マーカー(7Sコラーゲン)測定の肝臓外科における重要性を初めて指摘し、後輩医師たちの学位論文の元となった。2002年より6年間、淀川キリスト教病院外科に所属し、消化器外科全般に携わる中、消化管手術への鏡視下手術の積極的な導入、肝臓や膵臓の手術症例に尽力。この頃より、今では一般的となった腹腔鏡下肝切除術も開始した。2008年に大阪市立総合医療センター肝胆膵外科部長に就任。日本肝胆膵外科学会高度技能指導医に認定されることで、同センターも日本肝胆膵外科学会高度技能修練施設(A)に認定された。同センターで腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術を導入し、腹腔鏡下肝切除術においては日本を代表する一施設にした。
塚本 忠司 先生の所属医療機関
大阪市立十三市民病院 消化器内科 副部長・栄養部 部長
日本内科学会 総合内科専門医日本消化器病学会 消化器病指導医・消化器病専門医日本肝臓学会 肝臓指導医・肝臓専門医日本超音波医学会 超音波専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本医師会 認定産業医
大阪市立大学大学院医学研究科 博士課程修了後、府中病院、大阪市立住吉市民病院を経て、2019年現在、大阪市立十三市民病院 消化器内科副部長 兼 栄養部部長。特に肝疾患の診断と治療を専門としており、日々の診療では、一人ひとりの患者さんの背景や病状に応じて適切な治療法を提案している。
山口 誓子 先生の所属医療機関
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