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HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とはどのような病気?

HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とはどのような病気?
平沢 晃 先生

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 (臨床遺伝子医療学分野) 教授

平沢 晃 先生

目次
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遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer:HBOC以下「HBOC」)は、乳がん卵巣がん、膵がん、前立腺がんなど、さまざまながんを発症しやすくなる病態です。血縁者間で関連がんに発症する人が多くみられる、若年で関連がんになりやすいことなどが特徴として挙げられます。

今回は、HBOCとはどのような病態なのか、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床遺伝子医療学 平沢晃教授に伺いました。

遺伝性のがんとは何か

生物はさまざまな遺伝子の特徴をもって生まれてきます。これを「遺伝子バリアント」といいます。そのなかでも、病気と関連した遺伝子の特性を、病的バリアント(病的変異)と呼びます。

たとえば、遺伝性がんの病的バリアントをもっている場合、がんになりやすい体質であるといえます。HBOCもそのなかのひとつです。

ある遺伝子の病的バリアントが原因で発症

HBOCは、特定の病的バリアントが原因で発症する病気です。遺伝性の乳がんや遺伝性卵巣がんを引き起こす遺伝子には、さまざまなものが知られていますが、とくにBRCA1またはBRCA2(以下、BRCA1/2)遺伝子の病的バリアントを保持している方をHBOCと考えます。

発症頻度は一般集団の400~500人に1人

日本におけるデータはまだありませんが、一般集団の400~500人に1人がBRCA1/2病的バリアントを保持していると推定されています。日本人乳がんの患者さんの約10%、卵巣がんの患者さんの約15%が、HBOCだという報告もあります。

HBOCの特徴について

HBOCの特徴としては、主に次のようなことが挙げられます。

  • 女性の場合、乳がん、卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)、膵がんを発症しやすい 
  • 男性の場合、男性乳がん、前立腺がん、膵がんを発症しやすい
  • 若年性の乳がん(45歳以下)になりやすい
  • 両側性の乳がんになりやすい

HBOCは「常染色体優性遺伝」の形式で遺伝します。つまり、子どもの世代には50%(1/2)の確率で共有されます。

BRCA1/2の病的バリアント保持者の、一般集団と比較したがんの発症リスクは、次の通りです。

遺伝学的検査について

遺伝子を調べ、がんのリスクを知る検査

BRCA1/2病的バリアントをもっているかどうかは遺伝学的検査で調べることができます(2019年11月時点で、コンパニオン診断*の場合のみ保険収載されています)。遺伝学的検査を行い、がんのリスクを知って対策することで、がんの発症や死亡のリスクを低減することが可能になります。

*コンパニオン診断…薬剤の効果や副作用を予測するための臨床検査

検査の対象者

「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き」 2017年版(web改訂版)では以下の条件を満たすクライエントに対して、BRCAの遺伝学的検査を提供することが推奨されています。

  • 発症、未発症に関わらず(本人以外に)すでに家系内でBRCA1または/かつBRCA2の病的バリアント保持が確認されている
  • 乳癌を発症しており,以下のいずれかに当てはまる

45歳以下の乳癌発症

60 歳以下のトリプルネガティブ乳癌発症

2 個以上の原発性乳癌発症

第 3 度近親者内に乳癌または卵巣癌発症者が1名以上いる

  • 卵巣癌、卵管癌および腹膜癌を発症
  • 男性乳癌を発症
  • がん発症者でPARP阻害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合腫瘍組織プロファイリング検査で、BRCA1または/かつBRCA2の生殖細胞系列の病的バリアント保持が疑われる

*「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き」2017年版(web改訂版)より引用    

リスク低減卵管卵巣摘出術

BRCA1/2病的バリアント保持者にリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO、以下「RRSO」)を行うことで、乳がんや卵巣がんの発症リスクを低減するのみならず、乳がん・卵巣がんによる死亡、全死亡を低減します。

RRSOには現時点で手術費用が保険未収載であるという課題があります(一般的な費用は260,000円〜1,200,000円*)。また本人の意思決定によって行われる手術であり、更年期障害、セクシャルアクティビティ等の対応が必要になるケースがあります。実施する前には十分に相談し、がん予防との兼ね合いを考慮して検討することが大切です。

*特定非営利活動法人クラヴィスアルクス調査に基づく

HBOCの遺伝学的検査の有用性について

BRCA1/2遺伝学的検査の結果、BRCA1/2病的バリアントを認めた場合は次のようなことが分かります。

① 未発症者のがん発症リスク

発症する前から予防・治療を始めることができる(RRSO、RRMなどのリスク低減手術)

② がん既発症者の予防・治療の選択

  • 抗がん薬の感受性(PARP阻害薬など)
  • 術式の選択(乳がんなど)
  • 二次がん予防

二次がん予防については、たとえば、乳がんの患者さんがBRCA1/2病的バリアントを保持していることが分かった場合、対側乳がん、卵巣がん、膵がんなどの予防につなげる必要があります。

③血縁者のがん予防

がん発症リスクを確認することは、検査を受けた本人のみの情報であると思われがちですが、血縁者でも共有している可能性があります。遺伝学的検査の結果を家系のなかで共有することは、家系全体のがん予防にもつなげることが可能な場合があります。

HBOC関連のがん死ゼロ社会を目指して

最近は市民公開講座などの講演会でHBOCについてお話しすることがあります。そのなかで、BRCA1/2の病的バリアント保持者は400-500人に1人であり頻度の高い病気であると説明するために、「新幹線のぞみ号16両編成の定員が1,323名のなかに、BRCA1/2病的バリアント保持者が3名ほど乗車している可能性があります」といった例えを用いることがあります。「すごくめずらしい病気なのかな」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、HBOCは少ない病気ではありません。

だからこそ、BRCA1/2遺伝学的検査やサーベイランス、リスク低減手術が一日も早く保険収載されることを願っています。HBOC診療の保険収載を一日も早く実現し、自分の定年までにHBOC関連のがん死をゼロに近づけることが、私の目標です。