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肺がんの薬物療法とは?抗がん剤・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害剤について

肺がんの薬物療法とは?抗がん剤・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害剤について
磯部 宏 先生

国家公務員共済組合連合会 KKR札幌医療センター 病院長

磯部 宏 先生

目次
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肺がんの治療には、主に3つの方法があります。外科療法(手術)、放射線療法、そして抗がん剤などを用いる薬物療法です。肺がんに対する薬物療法は、近年大きく進歩しました。以前までは「抗がん剤」が薬物療法の中心となっていましたが、2000年代前半より「分子標的治療薬」、2014年から「免疫チェックポイント阻害剤」といった薬が相次いで登場したため、肺がん治療の流れは大きく変化しました。

本記事では、進歩する肺がんの薬物療法について、KKR札幌医療センター病院長であり、「北海道肺がん患者と家族の会」のアドバイザーを務められている磯部宏先生にお話を伺いました。

点滴

薬物療法とは、がんを小さくしたり、がんの再発を抑えることを目的に行うものです。肺がんの治療には、細胞障害性抗がん剤や分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤といった薬剤が用いられます。

まずは薬物療法がどういったときに行われるのかを知るために、肺がん治療の概要をみてみましょう。

肺がんの治療には、主に下記の3つの治療選択肢があり、薬物療法はそのなかのひとつです。

  • 外科治療(手術)
  • 放射線療法
  • 薬物療法(抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤などの投薬)

一般的に、肺がん治療の中心となっているのは「外科治療(手術)」です。手術によってがん病変を取り除くことでがんの根治を目指します。

放射線を用いてがん細胞を消滅させたり、増殖を抑えたりすることを目的に行う治療法です。がんの治療に用いられる放射線の種類には、X線、γ(ガンマ)線、電子線、陽子線、重粒子線などがあります。

肺がん治療の場合、放射線療法は切除不能(手術が適応されない)の患者さんに対して、「がんの治癒」と「転移がみつかった臓器で起こる症状を緩和」することを目的に行われます。

外科治療や放射線療法が局所療法(限局した腫瘍に行う治療)であるのに対して、薬物療法は全身療法(体全体に対して行う治療)です。主に進行性肺がん※の患者さんが対象になります。

※進行性肺がんの定義については、本記事末のQ1を参照ください。

薬物

肺がんに対する薬物療法の種類には、主に下記が挙げられます。

  • (細胞障害性)抗がん剤
  • 分子標的治療薬
  • 免疫チェックポイント阻害剤

このほか、肺がんの症状を和らげるための鎮痛薬、薬剤の副作用を軽減させるための制吐剤(せいとざい)(吐き気止め)などが使用されることがあります。

どの薬剤を使用するのかについての判断は、肺がんの種類、がんの大きさ、個数、病期(ステージ)、転移の程度、患者さんの状態などに応じて検討されます。また、薬物療法は単剤で使われるだけでなく、2~3剤を組み合わせて使用する場合もあります。

従来から広く知られているがん細胞の増殖を抑える薬剤です。がん細胞のみならず正常細胞の増殖にも影響しますので、「細胞障害性抗がん剤」と呼ばれますが、ここでは「抗がん剤」という呼び方で統一します。そのほとんどが、細胞の増殖を抑える物質の中から人体に使用できる物質を探し出して、薬物として開発されたものです。

分子標的治療薬はがん細胞の増殖に関連する分子をターゲットとしてはたらく薬剤です。がん細胞の表面にあるタンパク質や遺伝子に作用することから、がん細胞を特異的に攻撃することで、副作用が軽減できると考えられています。

※分子標的治療薬の副作用については、記事末尾のQ2を参照ください。

免疫細胞が、がんを攻撃するメカニズムに注目して開発された薬剤です。がん細胞は「免疫細胞のはたらきにブレーキをかける部位(チェックポイント)」を持っています。免疫チェックポイント阻害剤は、チェックポイントにはたらきかけてブレーキを解除することで、免疫細胞のはたらきを活発にさせ、がん細胞への攻撃を促進します。免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療も、免疫系に作用する機序を持つことから「免疫療法」と呼ばれることがあります。

近年では上述のように、肺がん治療に関する薬が続々と登場していることから、薬物療法の選択肢が大幅に広がりました。

しかし、新薬の治療成績などに関するデータは、まだ十分積み重ねられていない状況です。そのため、2019年9月時点では、どの薬剤を、どの順番で、どういった患者さんに使用すればよいかについて、より適切な判断を行うことは非常に難しいといえます。

このように様変わりする肺がんの薬物療法の現状を受け、医療従事者向けの診療指針を示した「日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン」は、現在も一定期間ごとに改訂され続けています。それほど肺がんの薬物療法が急速に進歩しているといえるでしょう。

抗がん剤

新薬が登場して、どのように肺がん治療が変化したのか、ここでは肺がんの薬物療法の進歩について順を追ってみていきましょう(2019年9月時点)。

1980年代は、抗がん剤を用いた「化学療法」が薬物療法の主軸でした。

当初使用されていた抗がん剤は、肺がん治療に対する有効性が比較的低いものが多くありました。そのため、肺がん患者さんに使用しても、副作用が大きく、肺がん患者さんへ抗がん剤を使用するメリットは乏しいという状況でした。

しかしその後、肺がんに対する治療が奏効する抗がん剤が登場しました。なかでも白金製剤は1983年に日本で承認されてから2019年現在に至るまで、肺がん治療のキードラッグとして広く用いられています。白金製剤は、投与すると、がん細胞のDNA複製を阻害してがん細胞を死滅させます。2019年現在も、白金製剤を中心にほかの抗がん剤を併用する、複数の抗がん剤の組み合わせで薬物療法が進められています。

※抗がん剤の併用については、記事末尾のQ4を参照ください。

看護

こうして抗がん剤による治療が主軸となっていきましたが、当時から本人の自覚する症状として「嘔気・嘔吐(吐き気)」や「食欲不振」、「下痢」や「脱毛」といった副作用、検査で分かる副作用として「白血球減少」、「血小板減少」、「肝機能異常」、「腎機能異常」、そして時に死亡の危険もある「間質性肺炎」や「ショック、アナフィラキシー様症状」などのリスクが懸念されていました。

その後研究が進み、こうした副作用をより抑制することが可能になってきました。

吐き気に対しては、制吐剤(吐き気止め)の開発が大きく進歩し、吐き気を感じる前から制吐剤を使用することが標準的となりました。下痢に対する止痢剤(下痢止め)の使い方も体系立てられましたし、白血球減少時の薬剤も開発が進みました。さらには、腎機能障害の副作用を予防するために抗がん剤の投与方法を変えたり、アナフィラキシー症状を抑えるために抗がん剤の剤形自体を変えたりと、安全な抗がん剤投与の取り組みは、新規抗がん剤の開発と並行して日進月歩で進んでいます。

これまで抗がん剤による治療が中心だった肺がん治療でしたが、2000年代に入り、その状況は一変します。これまでにない新たな作用機序をもつ「分子標的治療薬」という薬剤が登場したためです。

分子標的治療薬とは「がん細胞はどうして増殖してしまうのか」という点に着目して研究開発された薬剤です。

これまで肺がん治療の中心であった抗がん剤では、がん細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃してしまいます。一方で分子標的治療薬は、がん細胞の表面にあるタンパク質や遺伝子をターゲットとして攻撃します。分子標的治療薬が登場したことで、肺がんの薬物療法に選択肢が広がりました。

がん増殖のメカニズム

さらに2015年以降、「免疫チェックポイント阻害剤」という薬剤が登場しました。この免疫チェックポイント阻害剤も、これまでの薬剤とは異なる作用機序を持っています。

免疫チェックポイント阻害剤は「体の免疫システムを担う免疫細胞が、がんを攻撃するメカニズム」に注目して開発された薬剤です。

もともと体には免疫システムが備わっており、たとえ体内にがん細胞が存在したとしても、体内でがん細胞を攻撃・排除する仕組みが備わっていました。

しかし近年の研究により、がん細胞は「PD-L1」などの分子(細胞表面のタンパク質)をもつことで、免疫細胞のはたらきにブレーキをかけていることが明らかになってきました。

そこで、このブレーキがかかっている部位(チェックポイント)に作用することで、ブレーキを解除して、免疫細胞のはたらきを活発にさせようとする薬剤が開発されました。これが免疫チェックポイント阻害剤です。

チェックポイント

分子標的治療薬に続き、免疫チェックポイント阻害剤が登場したことで、肺がんに対する薬物療法はさらに進歩しました。

とはいえ、先ほどもお話したように、「どのような薬物療法が適切なのか」を判断することが現状では難しいといえます(2019年9月時点)。これから臨床データを集め、研究を進めることで、より適切な治療を検討していく必要があります。

※分子標的治療薬の適応は、記事末尾のQ5、Q6を参照ください。

看護

分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤をどのような位置づけで使っていくべきかについては、2019年の現在も活発に論議されています。

また、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤といった薬剤は、現れる副作用が、上述したような抗がん剤の副作用とは異なります。薬の有用性だけでなく、副作用についてもしっかりと理解したうえで治療を検討することが重要です。

さらに、現状の薬物療法では、薬剤を使用し続けることのベネフィット(有益性)と、リスク(不利益)が釣り合わなくなっていくことがあります。そうした場合には患者さんへの負担を考え、治療の断念が推奨されるケースもあります。

肺がん治療は進歩し続けています。しかし、進行性の肺がんの場合には現状の治療には限界があることも事実です。治療に臨むときは、あらかじめそのことを患者さんにお伝えし、治療の限界をご理解いただくこともとても大切だと考えています。

A1:「進行性肺がん」とは転移のある肺がん(臨床病期Ⅳ期の肺がん)のことで、「末期がん」とは全く別の意味です。肺がんが他臓器などに広がってしまっているため、全身療法としての薬物療法が必要です。全身に広がるまで進行したため、薬物療法を考えましょうという段階で、積極的な治療方法のない「末期」「終末期」を意味している言葉ではありません。

A2:分子標的治療薬が作用する細胞増殖に関係する分子は、多かれ少なかれ、正常細胞にも存在することがあります。従って正常細胞にも影響することがあり、それが副作用として現れます。また、分子標的治療薬も薬剤(体にとっては異物)ですので、それぞれ特有の副作用があります。従って、分子標的治療薬は副作用のない安全な薬とは一概には言えません。

A3:そうではありません。奏効率とは、抗がん剤の効果を判定する指標の1つであり、その抗がん剤を投与することにより、X線写真等で腫瘍の長径が7割以下になり、その期間が4週間以上続いたら奏効したと判断します。その奏効した患者さんの割合が奏効率です。ですから、「生存率」とは全く別の指標です。

A4:抗がん剤は細胞の増殖を抑制しますが、それぞれの抗がん剤で作用機序(主にはたらくところ)は異なります。染色体(DNA)に直接作用したり、DNA合成に関係する酵素や増殖に関係する酵素に作用したりと、さまざまです。これらの作用機序の異なる抗がん剤同士を併用します。抗がん剤にはそれぞれ特有の副作用があり、また、副作用の出現時期が異なる場合があります。その副作用が、できるだけ重ならないような組み合わせを考えて、併用しています。

A5:分子標的治療薬は、がん細胞の増殖に関係する特定の分子に作用します。たとえば、ゲフィチニブやエルロチニブは、変異したEGFR遺伝子が作る異常なEGFR分子に作用して、抗がん作用を発揮します。これらの薬剤は変異したEGFR遺伝子がない方には効果が望めないので、使用されません。

このように、多くの分子標的治療薬はそれぞれ対応するタンパク質や遺伝子に異常が認められた際に使われることになります。

ただし、分子標的治療薬の一種である血管新生阻害剤(たとえばベバシズマブやラムシルマブ)は、がん細胞の異常分子ではなく、腫瘍血管の内皮細胞に作用する薬剤で、これは副作用を考慮して投与の可否を判断します。

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