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肺がんの「抗がん剤」治療 ―抗がん剤で肺がんは治せる?

肺がんの「抗がん剤」治療 ―抗がん剤で肺がんは治せる?
磯部 宏 先生

国家公務員共済組合連合会 KKR札幌医療センター 病院長

磯部 宏 先生

目次
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肺がんの治療では「抗がん剤」が使用されることがあります。抗がん剤がどのような目的で使用されるのか、ご存知でしょうか。抗がん剤は「がんを完治させるため」に使用されることがありますが、がんの完治を目標とせずに使用される場合もあります。ですから、抗がん剤の使用目的は必ずしも「がんの完治」ではないということを知っておかなければいけません。肺がんに対する抗がん剤治療はどのような目的で行われるのでしょうか。KKR札幌医療センター病院長であり、「北海道肺がん患者と家族の会」のアドバイザーを務められている磯部宏先生に解説していただきました。

基礎知識:肺がんの種類「小細胞肺がん」「非小細胞肺がん」とは?

肺がんには複数の組織型がある

がんは、発生する臓器だけでなく、細胞の形や集合の様子からも分類されます。これを組織型と呼びます。多くのがんは、発生する臓器によって組織型が決まっています。

たとえば、食道がんの多くは扁平上皮がんという組織型であり、胃がんの多くは腺がんという組織型です(例外もあります)。ただし、肺がんの場合は複数の組織型があります。主な組織型は下記の4種類です(このほかにも、まれな組織型がいくつかあります)。

扁平上皮がん

肺の中枢(肺門部と呼びます)に多く発生し、無気肺や閉塞性肺炎といった病気を合併することがあります。肺の末梢(肺野と呼びます)にできた場合は、空洞を作ることがあります。喫煙歴と強い相関があるといわれ、比較的男性に多い組織型です。

腺がん

肺野部に多く発生する肺がんで、近年増加傾向にあります。末梢に発生するため、早期では自覚症状が出にくいのも特徴です。女性の肺がんにはこの組織型が多くみられます。遺伝子異常によって生じることもあります。

大細胞がん

肺野部に多く発生するがんで、扁平上皮がんに比べて無気肺や空洞形成は少なく、腫瘤形成が多い組織型です。肺がんの中では頻度は少ない組織型です。

小細胞がん

肺門部の発生が多く、早期からリンパ節転移や他の臓器への転移(遠隔転移)の多い組織型です。喫煙者に多くみられます。

※肺がんの組織型の見分け方については、記事末尾のQ1を参照ください。

※腺がんの遺伝子異常については、記事末尾のQ2を参照ください。

小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別される

肺がんの治療法は、長らく小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けて考えられてきました。

小細胞肺がんは肺がん全体の約15%を占めます。他の組織型に比較して進行が速く、発見時には遠隔転移していることも多いため、手術の適応になることはまれです。ただし、細胞障害性抗がん剤や放射線治療の効果が比較的高いという特徴があります。

一方で、非小細胞肺がんである扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんは、合計して肺がん全体の約85%を占めます。これらはひとまとめにして非小細胞肺がんと呼ばれ、治療方針も細かく分けられていませんでした。

しかし、「記事1」でも述べた分子標的治療薬が登場してからは、非小細胞肺がんとひとまとめにするのではなく、扁平上皮がんと腺がん・大細胞がんをしっかり分けて治療方法を考えるようになりました。

今回は、比較的多くの方が罹患する、非小細胞肺がんの抗がん剤治療についてお話しします。

※肺がんの区別については、記事末尾のQ3を参照ください。

非小細胞肺がんに対する細胞障害性抗がん剤の役割とは?

点滴

(細胞障害性)抗がん剤は、がんの増殖を抑制する薬剤です。抗がん剤を使用することで、がん腫瘍を小さくしたり、がんの再発を抑制したりすることが期待できます。

医師からこうした話を聞いて、患者さんやそのご家族のなかには「抗がん剤を使えば肺がんを完全に治すことができる」と考える方がいらっしゃいます。しかし、それは必ずしも正しい考え方ではありません。抗がん剤を使用する場合でも、がんを治すことが目的ではないことがあります。

非小細胞肺がんに対する「抗がん剤の使い方」には主に3つの方法があり、それぞれ治療の目標は異なります。非小細胞肺がんの患者さんやそのご家族の方には、ぜひ、これから行われる、または現在行われている「抗がん剤治療の役割」を適切に理解したうえで、治療を進めていただきたいと思います。

では、「抗がん剤の3つの役割」とはいったいどのようなものなのでしょうか。

抗がん剤の役割1:手術との併用による再発予防

医師

1つ目の役割は、手術のあとにがんの再発を予防する「再発予防」です。こうした治療は術後補助化学療法とも呼ばれます。がんの再発を予防することで、患者さんがより長い期間、健康な生活を送れるようにすることを目指します。

再発予防目的での薬物療法は、主にⅠA~ⅢA期の比較的早期の肺がんに対して行われます。

ⅠA~ⅢA期の肺がんの場合、まずは手術を行うことが一般的です。手術後はこれまで通りの生活に戻っていただくことが可能です。しかし、手術によって病変がしっかり切除されていても、肺がんが再発することがあります。そこで、がんの大きさが2cm以上の場合などでは、手術によってがん病変を取り除いた後であっても、がんが再発しないよう薬物治療を行っていくことがすすめられます。これが、抗がん剤による再発予防の治療です。

役割2:放射線療法との併用により目指すがんの治癒

医師と患者

2つ目に挙げられるのは、放射線療法との併用で、可能な限り「がんの治癒」を目指す使い方です。

これは主にⅢB,C期の肺がんに対して行われます。

ⅢB,C期の肺がんは、局所進行切除不能と呼ばれます。この病期では、肺の縦郭(じゅうかく)リンパ節にまで転移がみられます。そのため、手術による根治を目指すことは難しいと考えられます。

そこで、局所進行切除不能の非小細胞肺がんの患者さんには、放射線療法を行いながら、抗がん剤治療も併用して進めることで、「がんの治癒」を目指します。

リンパ

薬物療法と放射線療法を併用する治療法は、患者さんに大きな負担がかかる恐れがあります。2つの治療法を併用していることから、治療の副作用なども多く起こるためです。たとえば、放射線を縦隔の部分にあてることで現れやすい副作用は、食道炎です。食道炎が起こることで、飲み物や食べ物を飲み込もうとすると食道にしみて痛みが生じます。そのため、飲む、食べるといった日常の行為に支障をきたします。この副作用から、患者さんは治療を継続することがつらいと感じてしまう場合もあります。

薬物療法と放射線療法を併用する治療法は、可能な限りの「がんの治癒」を目指した治療です。ⅢB.C期の肺がんでは、患者さんやがんの状態にもよりますが、まだがんを治癒できる可能性があると考えられます。上記のように、負担がかかることが懸念される治療ではありますが、治療効果が得られれば、がんを治すことができる見込みが立てられます。

役割3:抗がん剤単独の治療による元気な期間の延長と症状緩和

抗がん剤治療

そして、3つ目の抗がん剤治療の役割が、抗がん剤単独の治療です。多くの場合、「元気な期間の延長や症状の緩和」が治療の目的になります。

この治療法の対象となるのは、肺以外の臓器へ転移がみられるⅣ期の肺がん(進行非小細胞肺がん)です。

Ⅳ期肺がんは、全身への転移もみられることから、完治は難しい状態と考えられます。そのため、この場合には「元気な期間の延長や症状の緩和」のために抗がん剤が使用されます。

かつては、Ⅳ期の肺がんに対して抗がん剤を使用しても、元気な期間の延長や症状緩和にはつながらないと考えられていましたが、近年ではより症状を改善し、進行を遅らせることが期待できる抗がん剤が登場してきました。その結果、Ⅳ期の肺がん患者さんにも抗がん剤を使用するメリットがあると判断されるようになってきました。

このように、抗がん剤の使用の目的は、がんの治癒だけではなく、元気な期間の延長や症状の緩和に対しても使われることがあります。

がんが診断されたときに進行非小細胞肺がんであれば、抗がん剤を使用し始めるときから、治療の目的は元気な期間の延長や症状の緩和だということを、スムーズにご理解される患者さんも多いかもしれません。しかし、がんが進行していく過程で完治が望めない状態になったケースでは、こうした治療の目的を認識していないままになっているケースも、ときにはあるかもしれません。

抗がん剤による治療は、副作用が現れることから、負担の大きな治療になることも少なくありません。「がんは治る」と信じて抗がん剤による治療を受けていたにもかかわらず、本当は治癒が難しい状態で「元気な期間の延長や症状緩和」のために治療が行われていたことを後から知ってしまった場合、患者さん、そしてご家族の方はショックを受けてしまうことがあるでしょう。

そのような事態を防ぐためには、医療従事者が現在の治療方針を的確に患者さんやご家族にお伝えすること、そして患者さんやご家族も「抗がん剤の役割」を理解したうえで治療に臨んでいただくことが、非常に重要だと考えます。

早い段階で、より正確な治療の方針を理解しておくことで、残された時間をどのように過ごすのか、患者さんの選択肢の幅が広がります。後悔しない肺がん治療を行うためにも、抗がん剤治療の正しい目的を知っていただけたらと思います。

非小細胞肺がんに対する薬物療法の発展

ここまで、抗がん剤(いわゆる細胞障害性抗がん剤)についてお話ししました。抗がん剤単独で肺がんを完全治癒に導くことは、困難かもしれません。

抗がん剤の登場から現在に至るまで、よりよい薬物療法を目指して多くの研究開発が続けられています。近年では、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤が登場してきました。「記事3」では、これらの治療薬について話します。

ただし、これらの薬剤にも限界があることは、あらかじめ承知しておいていただきたいと思います。

肺がんの抗がん剤治療に関するよくある質問集と回答

Q1:肺がんの組織型はX線写真やCT検査で分かるのですか?

A1:それぞれの組織型には特徴があるので、X線やCTで撮影した写真を見れば、組織型を推測できます。ただし、最終的には顕微鏡検査で診断するので、腫瘍からの組織の採取が必要です。採取した組織からは、組織型だけでなく、がん細胞の遺伝情報も得ることができます。これらは極めて重要な情報であるため、腫瘍からの組織採取は大事な検査といえます。

Q2:なぜ、腺がん(非扁平上皮がん)は扁平上皮がんに比べて遺伝子の異常が多いのですか?

A2:分かっていません。ここからは私見ですが、腺がんは1つの重要な遺伝子の異常によって発生するのに対して、扁平上皮がんは喫煙の影響などによる複数の遺伝子異常が重なって発生すると考えられます。したがって、腺がんでは特定の遺伝子異常を見つけることができたのでしょう。

なお、今後の研究により、扁平上皮がんでも遺伝子異常(ただし複数の遺伝子異常)が明確になり、複数のターゲットにはたらく分子標的治療薬が開発されることを期待しています。

Q3:扁平上皮がんと腺がんを区別するようになったのは何故ですか?

A3:分子標的治療薬は、がん細胞の増殖に関連する分子をターゲットとしてはたらく薬剤ですが、その多くが腺がんに対して有効だと分かりました。言葉を変えると、がん細胞の発生・増殖に関係する分子、それを作る異常な遺伝子は、腺がんに多くみられるということです。分子標的治療薬を適切に使用するために、非小細胞肺がんとひとくくりにするのではなく、しっかりと組織型を診断する必要が出てきました。現在では「扁平上皮がん」と「非扁平上皮がん(腺がんや大細胞がん)」に分けて治療法を考えています。非扁平上皮がんと診断された場合、さらに遺伝子異常の有無の検査が重要になってきます。