膵臓がんは早期での発見が困難とされ、発見したときにはすでに進行してしまっていることもあります。膵臓がんに対して、どのような治療方法が選択されるのでしょうか。本記事では、膵臓がんの治療の流れにそって、治療方法の選択から治療方法の紹介、手術後の生活、再発や転移について、湘南厚木病院の川元俊二先生にお話しいただきました。
膵臓がんのステージ分類は、0〜IV期に分けられます。主なステージ分類の基準は以下になります。
ステージ分類を考慮し、患者さん一人ひとりの状態に適した治療法を選択します。膵臓がんの標準的な治療方法は外科治療、化学療法、放射線治療です。当院では、より膵臓がん治療の効果を高めるために、いくつかの治療法を組み合わせて行う集学的治療を行っています。なお、集学的治療は、選択する治療法により、得られる効果や起こりうる副作用、治療期間が異なるため、主治医と相談しながら治療を進めていくことが大切です。
膵臓がんに対して主に行われている外科治療は、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術、バイパス手術が挙げられます。外科手術は、主にステージIとIIの患者さんが適応になります。
膵頭十二指腸切除術は、膵頭部およびその周辺にできたがんを切除するための手術です。結腸など周辺の臓器や血管へのがんの浸潤がみられる場合には、血管の一部も合わせて切除します。
膵頭十二指腸切除術では、がんを切除した後に残る膵臓と小腸、胆管と小腸、さらには胃と小腸を縫合する消化管再建法を行う必要があります。
消化管再建術を行う必要がある膵頭十二指腸切除術において考えられる合併症としては、縫合した部分から胆液や膵液が漏れることで、感染や腹膜炎、出血などが生じる可能性があります。
膵体尾部切除術は、膵臓の体部あるいは尾部にできたがんを切除するための手術です。この術式のほとんどが、脾臓を同時に摘出します。
膵体尾部切除術においても、膵頭十二指腸切除術と同様に、縫合した部分から胆液や膵液が漏れることで、感染や腹膜炎、出血などが生じる可能性があります。
膵全摘術は、がんが膵臓全体に広がってしまっている場合に選択されます。
膵臓を全摘出した場合には、膵液およびインスリンやグルカゴンをつくる機能が失われるため、手術後にはそれらを補充し続けることが必要になります。膵全摘術は、患者さんのQOL(生活の質)も著しく低下してしまうことから、切除による治癒が見込めない場合には、基本的には行われていません。
膵全摘術を行ううえで合併症として、糖尿病の発症や消化吸収障害、脂肪肝が挙げられます。糖尿病に対しては定期的にインスリンを投与することで管理を行い、消化吸収障害や脂肪肝に対しては消化剤の服用をすることで管理をしていきます。
がんが十二指腸や胆管を塞ぐことで、食事を取れない、食事を取っても戻してしまうなどの症状や、皮膚が黄染する黄疸が現れます。バイパス手術は、がんを切除することが不可能な場合にそれらの症状を緩和する目的として行われる手術方法です。胃と小腸、胆管と小腸を吻合*することで症状を緩和し、日常生活に早期に復帰できることを目的とする手術です。また、出現した黄疸に対して内視鏡を用い、閉塞した胆管にステントを挿入、拡張させて留置するステント手術も行われています。
*吻合:血管や腸管などの端どうしを手術によってつなぐこと。
化学療法には、2通りのパターンがあります。
1つ目は、手術後に補助的な治療として化学療法を行う場合です。外科手術でがんを取り除いたあとに、化学療法を受けることで再発しにくくなることがあります。2つ目は、手術が適応にならない場合や再発が確認された場合です。基本的に、ステージIII、IVの患者さんは外科手術が適応にならないケースが多いため、化学療法で症状の緩和に努めていきます。
また、化学療法の主な内容としては抗がん剤を用いた治療を行っています。抗がん剤と聞いて、「副作用がつらい」というイメージを持たれる方が多いと思いますが、抗がん剤にもさまざまな種類があり、患者さんの体の状態やがんの状態に合わせて治療を進めていくことが可能です。
放射線治療は、外科治療や薬物治療と組み合わせることで、治療効果を高めることを目的にしています。放射線治療では、皮膚の色素沈着や食欲不振、白血球の減少などの副作用が挙げられるため、患者さんの状態に合わせて治療を進めていきます。
膵臓がんは、外科手術を受けられた場合でも再発のリスクが高く、転移することも少なくありません。その理由としては、膵臓の周りには大血管や神経叢、十二指腸、総胆管などの器官が存在しており、それらに浸潤したり血液を通ってがん細胞がほかの臓器に飛んでしまったりする可能性があるからです。膵臓がんは、再発・転移のどちらも可能性として挙げられる病気です。そのため、手術を終えた後も定期的な検査を受けることが重要です。
湘南厚木病院 肝胆膵外科 無輸血外科治療外科 部長
湘南厚木病院 肝胆膵外科 無輸血外科治療外科 部長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医
輸血を受けられない患者さんの声から無輸血外科治療の道へ
1983年に熊本大学医学部を卒業後、消化器外科医としてのキャリアを歩み始める。肝臓移植を学びたいとの思いから、オーストラリアへ留学。当地でエホバの証人の方から、「宗教上の理由により輸血が受けられない」という話を聞いたことがきっかけで、無輸血外科治療に興味を持つ。1996年からは、福岡徳洲会病院にて、宗教上の理由や様々な免疫反応、感染症の予防的観点から輸血を希望しない患者さんに対して、無輸血外科治療の実践を開始する。現在は、湘南厚木病院の肝胆膵外科にて無輸血外科治療を提供している。
川元 俊二 先生の所属医療機関
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