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糖尿病網膜症について

糖尿病網膜症について
田口 朗 先生

医療法人社団 育生會 山口医院 院長

田口 朗 先生

目次
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糖尿病の三大合併症のひとつである、糖尿病網膜症。糖尿病網膜症は、外界から情報を得るために重要な視力を失う可能性がある病気です。糖尿病はどのように目に影響を及ぼし、視力低下につながるのでしょうか。

糖尿病網膜症がどのような病気なのか、医療法人社団 育生會 山口医院の院長である眼科医の田口 朗(たぐち ほがら)先生にお話を伺いました。

糖尿病網膜症とは、目の奥の網膜と呼ばれる部分の毛細血管の壁が、糖尿病の影響で傷むことによって生じる病気です。網膜は、眼球をカメラにたとえればフィルムに相当するはたらきをしています。毛細血管の傷んだ箇所から水分が漏れると網膜がむくみます。さらに毛細血管が傷んだことによって詰まってしまうとその部分の網膜のはたらきが損なわれます。その結果、視野の中にゆがむ場所や見えない場所が生じてきます。毛細血管の閉塞が広範囲に及ぶと、病的な血管(新生血管)が生えてきて眼内で多量に出血したり、網膜を引っ張って網膜剥離を起こしたり、放置すると失明に至ることもあります。糖尿病網膜症は、成人の失明原因の高い割合を占めると報告されている病気です。

後で詳しく述べますが、“病状と自覚症状が必ずしも相関しないこと”と、“現在の血糖コントロールの状況と病状が必ずしも相関しないこと”がこの病気の管理を難しくしています。「よく見えているから大丈夫」や「血糖値が落ち着いているから大丈夫」という考えは危険です。

糖尿病網膜症は、血管の壁に傷みが蓄積されていく病気であるため、高血糖の状態が長期間続くことが発症の要因となります。そのため、糖尿病網膜症の発症には、糖尿病の罹病期間が関係しています。

糖尿病には大きく分けて、1型糖尿病2型糖尿病があります。1型糖尿病は、食生活や生活習慣とは関係なく、自己免疫が原因で発症します。また、小児を中心に比較的若い方に発症することが多い点も特徴です。一方、2型糖尿病は、生活習慣を背景に発症します。1型糖尿病の患者さんでは罹病期間が15~19年で81%、2型糖尿病の患者さんでは罹病期間が15~19年で57%の方が糖尿病網膜症を発症するといわれています。

30歳代で糖尿病を発症した方は、ちょうど働き盛りの年齢で糖尿病網膜症を発症しやすいことになります。また最近は、2型糖尿病であっても30~40歳代で重症の糖尿病網膜症を発症する方が多くなってきた印象を持っています。

糖尿病網膜症の診断は、眼底の網膜血管の状態(眼底所見)を診て、評価することになります。糖尿病網膜症は、進行度によって大きく3段階に分類されます。

<糖尿病網膜症の分類>

  • 単純糖尿病網膜症
  • 前増殖糖尿病網膜症
  • 増殖糖尿病網膜症
糖尿病網膜症の進行度と症状
糖尿病網膜症の進行度と症状

いずれの病期においても網膜の中心である黄斑にむくみが生じると、視野の中心がゆがんだり、見えにくくなったりします。この状態を糖尿病黄斑浮腫(糖尿病黄斑症)といいます。

次の項目では、それぞれの症状について、お話しします。

単純糖尿病網膜症の眼底所見としては、毛細血管の壁が傷み、網膜に点状の出血が見られます。また、微小血管瘤という(こぶ)が生じ、そこから血管の外に水分が漏れ出し、網膜にむくみが生じます。漏れ出した水分に含まれる脂肪が沈着すると、白斑(白い斑点)が生じることもあります。しかし、これらの変化は、網膜の中心部である黄斑に起こらない限り、直接見え方に影響が出にくいため、ほとんどの場合、患者さんには自覚症状がありません。

病状がさらに進むと、毛細血管が閉塞し、虚血と呼ばれる酸欠状態になります。前増殖糖尿病網膜症の眼底所見としては、毛細血管の閉塞に伴う網膜内の神経線維のむくみ(軟性白斑)と変形・蛇行した網膜血管の異常(網膜内細小血管異常)が見られます。前増殖糖尿病網膜症の状態でも、黄斑部に病変が生じない限り、自覚症状はほとんどありません。

毛細血管が閉塞し、網膜の虚血状態が続くと、その部分の網膜は本来のフィルムとしてのはたらきを失ってしまい、視野の中に見えない場所(暗点)が生じます。また、虚血状態に陥った網膜は、新生血管という病的な血管を誘発する物質を分泌します。その結果、新生血管が生えてきます。新生血管は、正常な血管ではないため、脆く出血しやすいという特徴があります。目の中の大部分を占める硝子体というゼリー状の組織に大量の出血(硝子体出血)が起きると、目の中に入る光を遮るため、著しい視力低下が起こります。

また、増殖膜という病的な膜を伴いながら、新生血管が生じることもあります。増殖膜に網膜が引っ張られることで網膜が剥がれた状態を牽引性網膜剥離と呼びます。牽引性網膜剥離が起こると、視力低下や視野欠損を起こします。

加えて、新生血管が虹彩(茶目)の付け根にある隅角に生じた場合には、隅角が詰まり、眼圧が上昇します。これを、新生血管緑内障と呼びます。牽引性網膜剥離や新生血管緑内障は、失明の原因になる重篤な合併症です。ただし、増殖糖尿病網膜症の状態であっても、黄斑部に病変が及んでいなければ、見えにくさを感じない場合もあります。

糖尿病網膜症は自覚症状がない場合も多いため、早期発見が難しい病気といえるでしょう。糖尿病網膜症の進行度による分類を先ほどお話ししましたが、自覚症状と重症度は必ずしも相関関係があるとはいえません。自覚症状の有無、特に視力低下に関しては、黄斑部に病変があるかないかによって決まります。黄斑部に病変が生じれば、軽症である単純糖尿病網膜症の段階でも自覚症状が出ます。一方、黄斑部に病変がたまたまなければ、重症の増殖糖尿病網膜症でも自覚症状が出にくいことになります。「まだよく見えているから大丈夫」では、決してないというわけです。

硝子体出血によって著しい視力低下が起きた場合に、しばらくして偶然中心部分の出血が吸収されることがあります。これによって、見え方が改善し、糖尿病網膜症が治ったと勘違いしてしまう患者さんもいらっしゃいます。しかし、出血の中心部分が吸収されただけで、病気が治ったわけではなく、その間も病状は進行していきます。自覚症状の改善によって治療を中断してしまわないように、糖尿病網膜症の病態について、正しく理解していただくことが大切です。

糖尿病による血管への障害は蓄積されていきます。そのため、血糖コントロールが悪い時期に糖尿病網膜症を発症したり、悪化したりするとは限らず、血糖コントロールが改善した頃に、遅れて糖尿病網膜症が発症や悪化をすることもあります。もちろん長期的には、血糖コントロールが良好であるほうが予後はよいですが、短期的には「血糖値が落ち着いてきたから大丈夫」ではないことも多いので注意が必要です。

次の記事では、糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫に対する検査と治療について、お伝えいたします。

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    田口 朗 先生

    1990年から眼科医としてのキャリアをはじめる。京都大学大学院では網膜硝子体の過酸化活性について、ハーバード大学では加齢黄斑変性症に対する新しい治療方法についての研究に取り組む。
    現在は眼科手術の中でも特に網膜硝子体手術と緑内障、白内障手術を専門としながら、神経眼科領域(脳神経や全身の病気によって目が見えなくなったり、物が二重に見えたり、瞼の動きが悪くなったりする病態)にも興味を持ち、正確な診断、適切な治療、そして何より患者さんへの分かりやすい丁寧な説明を心がけて診療に当たっている。

    田口 朗 先生の所属医療機関

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