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肺がん脳転移時の治療——治療機器(ガンマナイフ)や薬剤の進歩による変化について​

肺がん脳転移時の治療——治療機器(ガンマナイフ)や薬剤の進歩による変化について​
長谷川 俊典 先生

小牧市民病院 医務局長 医療の質・安全管理室長 脳神経外科 部長 ガンマナイフ科部長

長谷川 俊典 先生

目次
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肺がんを発症した患者さんのうち、約40%が脳転移を起こすといわれています。ただし、近年、ガンマナイフなどの治療機器や分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤の進歩により、脳転移そのものが理由で命を落とすケースは少なくなってきているようです。今回は、肺がんの脳転移に対する治療法と、それに対する考え方の変化について、小牧市民病院の副院長兼脳神経外科部長の長谷川(はせがわ) 俊典( としのり)先生にお話を伺いました。

肺がんの脳転移に対しては、放射線治療、薬物療法、外科手術という三つの治療の選択肢があります。どのような選択をするかについては、転移した腫瘍の数や大きさ、肺がんの治療状況、患者さんの状態、施設の方針などによって異なります。そのため、肺がん治療に携わる呼吸器内科の医師を中心に、脳外科医や放射線治療医も交え、患者さんの意見も踏まえながら、治療方針を決定していきます。

肺がんが脳転移したことによる症状(運動麻痺や歩行時のふらつきなどの神経症状、もしくは頭痛や吐き気など)が現れている場合には、QOL(生活の質)の改善を目的に、放射線治療を行うことが一般的です。一方、脳転移による症状が出ていないときには、脳以外の治療(全身治療)のための薬物療法が優先されることもあります。ただし、脳転移した腫瘍のコントロールに放射線治療は有用であるとされているため、たとえ脳転移による症状が出ていなくても、患者さんの状態に合わせて、放射線治療を行うタイミングを検討します。

肺がん脳転移に対する放射線治療には、次の二つの方法があります。

定位照射は、脳転移した腫瘍に対して、多方向からピンポイントで放射線を当てる治療方法です。定位照射を行う代表的な放射線治療機器に、ガンマナイフが挙げられます。

ガンマナイフは、1968年にスウェーデンで開発されました。約200個のコバルト線源から、放射線の一種であるガンマ線を腫瘍に集中的に照射することで、腫瘍を壊死(えし)させるという仕組みです。ガンマナイフは、照射するときに通過する組織(頭皮や骨、血管、神経など)や、腫瘍の周囲にある正常組織への影響を、できるだけ少なくすることができますが、治療後半年以上が経過してから、脳の正常部分に放射線壊死が起こる確率がゼロではありません。一方で、外科手術ではリスクが高まる脳の深い部分にある腫瘍に対する治療をも可能にします。治療には、患者さんに局所麻酔を使用し、頭部をピンで固定して行う方法と、患者さんの顔に合わせて作成したマスクを使って固定する方法があります。

ガンマナイフ

一般的に、脳転移した腫瘍の大きさが3cm未満の場合には、ガンマナイフが用いられます。たとえば、腫瘍の数が4個以下で、それぞれの大きさが3cm程度という条件であれば、照射1年後の局所コントロール率(放射線を当てた部位からがんが再発しない割合)は60~90%程度です。従来、脳転移の個数が4個以下であればガンマナイフ治療が推奨されていましたが、最近では腫瘍の数が5~10個程度の場合にも、ガンマナイフ治療を行うことを推奨する流れもあります。

ガンマナイフによる治療は保険が適用され、2泊3日の入院費用も含めると、およそ17万円かかります(3割負担の場合)。

肺がんからの転移性脳腫瘍に対してガンマナイフ治療を行った症例。左から、治療前、治療3か月後、治療1年後、治療4年後
肺がんからの転移性脳腫瘍に対してガンマナイフ治療を行った症例。左から、治療前、治療3か月後、治療1年後、治療4年後

全脳照射は、脳転移した腫瘍や正常脳を含む脳全体に放射線を当てる方法です。従来、全脳照射は、肺がん脳転移が多数見つかった場合に行われてきました。また、肺がんの種類が小細胞肺がんである場合、脳転移を起こす前に予防的に全脳照射を行うケースもあります。

しかし、全脳照射を行うことで白質脳症*となり、認知機能(理解や判断といった知的機能)の低下を招くという報告もあるため、全脳照射実施の要否を判断するには、そのリスクについての考慮も重要です。

*白質脳症:脳、特に大脳にある白質とよばれる部分(大脳白質)が障害される病気。初期症状として、歩行時のふらつきや物忘れなどがある。進行すると意識障害を引き起こし、昏睡状態に陥る場合もある。

脳には、血液脳関門(けつえきのうかんもん)という、血液中の物質が脳へ移行することを制限する仕組みがあります。そのため、脳に転移した腫瘍に対し、抗がん剤を用いた薬物療法の効果は低いとされてきました。しかし、新たな薬剤の開発などにより、特定の遺伝子を持った患者さんに対しては、分子標的薬*や免疫チェックポイント阻害薬**を用いて肺がんの脳転移をコントロールするという薬物療法が、選択肢として考えられるようになりました。特に、脳転移した腫瘍による症状がなく、サイズが小さいときには薬物療法が選択される場合があります。その際にも、脳に転移した腫瘍の観察を続け、必要に応じて放射線治療などの追加が検討されることもあります。

*分子標的薬:がん細胞の増殖に関係する特定の分子を標的にして攻撃する治療薬

**免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞が体の免疫を抑制しようとするのを防ぎ、人間の体内にある免疫細胞の活性化が持続するようにはたらきかける治療薬

外科手術による腫瘍の摘出が検討されるのは、脳転移時の腫瘍の数が少なく、サイズが3cmを超える場合です。しかし、腫瘍が脳の深い部分にある場合は、腫瘍に到達するまでに脳を傷つけるリスクが高まるため、放射線治療が優先されます。加えて、外科手術は患者さんの体にかかる負担が大きく、年齢や肺がんそのものの影響などで全身状態が悪い場合には、手術ができないこともあります。

これまでは、脳の腫瘍のサイズが3cmを超えているときは、外科手術を検討することが一般的でした。しかし、2016年に日本で製造販売承認を取得したマスク固定式(フレームレス)のガンマナイフを使用して照射を何回かに分けることで、腫瘍のサイズが3cmを超えていても、放射線治療を選択することが可能になりました。

このように、治療機器の進歩によって、肺がん脳転移治療の選択肢が増えました。放射線治療と外科手術のどちらを選択するかという点に関しては、患者さんの状態をはじめ、その医療機関ごとの環境(設備)や考え方、方針によっても異なります。小牧市民病院では、3 cmを超える大きな脳転移の場合であっても、患者さんへの負担が少ないガンマナイフによる放射線治療を優先して行うことが多く、がんの脳転移(転移性脳腫瘍)に関して外科手術を行うケースは減りつつあります。

がんに対する新たな薬剤が開発されたことにより、肺がんそのものの予後が改善されています。それに伴い、前ページでも解説した通り、肺がんの脳転移が生じた患者さんの余命は、延伸傾向にあります。そのため、放射線治療によって引き起こされる晩期障害*を、できる限り発生させないようにすることが重要です。

晩期障害の代表的なものとして、全脳照射による認知機能の低下が挙げられます。認知機能の低下は、全脳照射の実施から1年以上が経過してから発生することが多く、いったん低下した認知機能は、その後改善することはないといわれています。脳転移が生じた肺がん患者さんが数年以上生存する症例も見られることから、治療後の患者さんのQOLを保つことを念頭において、治療方針を定める必要があります。

最近は、全脳照射による認知機能の低下を避けるため、定位照射を選択する例も増えつつあります。

*晩期障害:時間の経過に伴って生じる放射線治療の影響(合併症)

肺がんの脳転移に対する治療の考え方は、肺がんの治療の進歩とともに刻々と変化しています。肺がんの脳転移そのものが直接命を落とす原因になることは減ってきているため、転移した腫瘍といかにうまく付き合っていくかが重要になります。

肺がん脳転移に対して、患者さんの負担を減らしながら、より長期的に患者さんのQOLを保つことを重視した治療法が、今後も検討されていくだろうと思います。

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    長谷川 俊典 先生

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