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患者さん自身の望む医療を考える“アドバンス・ケア・プランニング(ACP)”の目的と方法

患者さん自身の望む医療を考える“アドバンス・ケア・プランニング(ACP)”の目的と方法
徳原 真 先生

国立国際医療研究センター病院 医療連携広報管理部門長・緩和ケアセンター長・入退院支援センター長

徳原 真 先生

目次
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もしも重い病気やがんにかかったとき、どのような医療やケアを受けたいか、どのような形で最期を迎えたいかについて考えたことはありますか。人生の最終段階に差し掛かったとき、本当に望む治療や療養を受けるため、自分自身の気持ちを考えたり、その意思を家族や医療従事者と共有したりするプロセスを“アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)”といいます。では、ACPはいつから開始し、どのくらいの時間をかけて行うことが望ましいのでしょうか。今回はACPについて、国立国際医療研究センター病院 緩和ケア科 医長の徳原(とくはら) (まこと)先生にお話を伺いました。

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)とは、一言で述べると自発的な“プロセス”です。人生の最終段階が来たときに備え、患者さんご自身が望む療養の場所や受けたい治療法などについて家族と一緒に話し合ったり、代理人を決めたりします。

ACPはあくまで“プロセス”であり、何度も話し合いを繰り返すことを前提にしています。「ACPで一度自分の意思を決めたら二度と変更することはできないのか」と思われる方もいるかもしれませんが、ACPは“事前指示書*”とは異なり、一度決定した考えが何回変わっても問題ありません。ACPを繰り返すうちに新しい価値観が生まれることもあるでしょうし、治療の段階に応じて思いが変わることは自然なことです。ですから、その過程で考えが変わってもよいのだということを、まずはお伝えしたいと思います。

*事前指示書:意思決定が不可能になったときに備えて医療に関する本人の希望を伝える法的文書。

ACPを行う目的は、本人がもっとも望む形で最期を迎えられるようにすることです。

私が現場でさまざまな患者さんを診ている中でも、終末期を迎えた患者さんの一部はすでにご自分で意思決定ができず、本当に望んでいる治療を受けられたかどうかが分からない方もいるのが現状です。終末期を迎えたとき、もしもその方が望む治療があらかじめ家族にも伝わっており、その意思を代弁する役割の方も定まっていれば、本人の望んだ形で治療を行うことができるかもしれません。

ACPはその方の望む生き方を考えるプロセスですから、切り出すタイミングは慎重に考える必要があります。たとえば、早期がんと診断されて治療をすれば治る方に、「あなたは最期をどのように迎えたいですか」などと医師が突然切り出したら、患者さんは「自分はもう助からないのだろうか」と誤解を抱かれてしまうかもしれません。伝え方によっては、時として患者さんを傷つけることになってしまうため、ACPを開始する時期は患者さん一人ひとりの病態や状況によって異なるといえます。

私や当緩和ケアチームがACPの話を切り出すタイミングの一例としては、がん患者さんであれば病期が進行して根治的治療が難しくなったとき、ご高齢の方であれば自分のお墓について周囲に話をしてきたときなど、ご自身の最期の形について意識し始めたときなどが挙げられます。

当院におけるACPの主な対象はがん患者さんです。ただし当院は総合病院という施設の性質上、がんに限らず心疾患(心不全)や慢性閉塞性肺疾患COPD)など、がん以外の慢性疾患の患者さんを診る機会が多く、そういった患者さんにも積極的にACPを行いたいと考えています。なぜなら心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの病気は、急激な悪化と改善を繰り返しながら病気が悪化していくため、どの変化の段階で終末期に至ったかという判断が難しいためです。

当院の所在地である新宿区は一人暮らしをしている高齢の方(独居高齢者)が多いとされています。そのような方は自分の意思を普段から家族に話す機会が少ないため、意思決定ができなくなったときにどうするべきか判断に困ってしまう事態が予測されます。そのため万一に備えて、当院や地域医療機関等が一人暮らしの高齢の方に対して支援を行い、意思決定ができるうちからACPを行っておくことが大切だと考えています。

家族がいない場合は、その方をよく知る人物であれば、たとえばケアマネジャーなどが意思決定の代理人を務めることも可能です。これからは、一人暮らしのご高齢の患者さんに対するACPを積極的に行っていきたいと考えています。

ACPを行うにあたり必要な相手は、患者さん本人、医療従事者、そして代理人となるご家族(または本人と関係性の深い第三者)です。医療従事者は必ずしも医師である必要はなく、患者さんと深い関係性が構築されているかどうかが重要です。そのため、場合によっては看護師やソーシャルワーカーなどが一緒に話し合いをさせていただくケースもあります。

特別な決まりはありませんが、少なくとも1~2回で完了するものではないと考えます。繰り返しになりますが、その方の病気の進行度や状況によって本人の考えや価値観も変わることがあるので、段階ごとにACPを行って、その都度、患者さんの思いを確認することが大事です。

ACPは一度決めたらそれで終了ではなく、患者さん自身は何回でも意思を変えることができます。そのため通常は1回30分程度じっくりと時間をかけてACPを行い、必要に応じて何回も繰り返し実施しています。

ACPを行うことで病気や治療による痛みが和らいだり、病気そのものが治ったりするわけではありません。ただしACPを行うことで、あらためて自分の病状を受け入れるきっかけが生まれ、自分が最終的にどうしたいかという意思を明確にすることが期待できるでしょう。

生きていれば人生の最期と向き合わなければならない瞬間は誰しもいつか訪れますが、なかには人生の最期についてなるべく考えたくないという方もいらっしゃいます。もちろん、全ての方がACPをしなくてはならないわけではありません。

しかし、万一自分の意思が表示できない段階になったとき、あらかじめ自分の決めておいた意思を周囲の方が知っていれば、本人の望む治療を行い、本人の望む形で最期を迎えられるかもしれません。こうした意味では、ACPは治療に対してプラスの影響をもたらすのではないでしょうか。

病診連携では当院が地域の在宅医療機関等から患者さんの紹介を受ける場合と、当院から地域の在宅医療機関等へ患者さんを紹介する場合があります。当院から地域の在宅医療機関等へ患者さんを紹介する際には、すでに分かっている情報や患者さんの状態、意思などをなるべく細かく共有するよう意識しています。多くの情報共有は、地域でACPを引き続き行ううえでも重要です。

ただし、それまで当院のような高度急性期病院*ないし急性期病院**で行ってきたACPをシームレスに地域の在宅医療機関等につなぐことにおいては、今後解決すべき課題もあると感じています。たとえば、地域の在宅医療機関等では、病院から紹介された患者さんの主治医になったときから、その患者さんとの話し合いをスタートさせます。患者さんによっては残された時間が限られていることもあるため、その限られた時間の中で信頼関係を一から築き上げながらACPを進めていかなければなりませんが、それは決して簡単なことではありません。今後さらに幅広いフィールドでACPを行うためには、急性期病院と地域の在宅医療機関等がよりよく情報共有できるような連携システムを構築する必要があるでしょう。

*高度急性期病院:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、 診療密度が特に高い医療を提供する機能を持つ病院。

**急性期病院:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、 医療を提供する機能を持つ病院。

ACPは緩和ケア科とも深く関係しています。緩和ケア科では日々の診療などでもがん患者さんを診ていますし、ACPは人生の最終段階に近いところで話をはじめることが多いためです。なお、末期がんに限らず、がん患者さんであればいつでも緩和ケア科に相談できることはあまり知られていません。当院で行っている緩和ケアについては、こちらのページで詳しくご紹介します。

がんなどの病気になったとき、病気を治すことはひとつのゴールであり、前向きに治療を受けることはとても大切です。その一方で、もしも人生の最終段階を迎えるならばどのような形で終わりたいかについて考えたり、家族に話したりすることもまた大切ではないでしょうか。

“自分の命の終わりについて話し合う”と聞くと構えてしまう方は多いかもしれませんが、まずは気軽にACPを始めてみてください。ご自身の考えを家族や大切な方と共有し合うことで、よりよい生き方や自分の望む最期を迎えることにもつながってくるのだと思います。

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