新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
疾患啓発(スポンサード)

将来の発達向上を目指す小児てんかんの外科手術——方法やリスク・後遺症は?

将来の発達向上を目指す小児てんかんの外科手術——方法やリスク・後遺症は?
岩崎 真樹 先生

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科 部長

岩崎 真樹 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

てんかん発作が繰り返されると、度重なる発作の影響でお子さんの発達が止まったり、後退したりしてしまうことがあります。そのため、薬による効果が十分に得られなければ、外科手術が検討されます。

本記事では、てんかん診療全国拠点機関であり年間およそ100件前後てんかん外科手術を実施する国立精神・神経医療研究センター 脳神経外科部長の岩崎(いわさき) 真樹(まさき)先生に小児てんかん外科手術ついてお話を伺いました。

2016年〜2019年実績

小児てんかん治療のゴールは、“発作をゼロにすること”です。抗てんかん薬やホルモン療法を行っているにもかかわらず、発作がゼロにならないときには基本的に外科手術を検討します。

特に早急に外科手術を検討しなければならないのは、頻回に起こる発作によって発達が止まる、これまで普通にできていたことができなくなる、言葉が喋れなくなるなど、発達に異常が見られる場合です。治療が遅れるとさらに発達に悪影響が出る恐れがあるため、早急な外科手術の検討が必要です。

ただし、全ての患者さんが外科手術で治せるわけではありません。まずは外科手術ができる状態かどうかを調べて、手術で治せるてんかんだと分かれば外科手術に踏み切ります。

外科手術にもっとも期待される効果は、発作をゼロして発達によい影響を与えることです。また一部の患者さんでは、術後に抗てんかん薬を服用する必要がなくなる方もいらっしゃいます。

抗てんかん薬を減らしたり中止できたりする点は、外科手術の大きなメリットといえます。

提供:PIXTA
提供:PIXTA

年齢による適応は手術を行う施設によって異なりますが、生後2か月くらいまでの赤ちゃんに外科手術を行うことは少ないと思われます。生まれて間もない赤ちゃんは体も頭もまだまだ未熟であり、開頭する手術には大きなリスクを伴うためです。

当院では手術が必要とされるケースであれば、生後3か月以降から手術を検討します。基本的に1歳を過ぎていれば施設ごとの違いは少ないと思います。

冒頭でもお話ししたとおり、小児てんかんの外科手術の目標は発作をゼロにすることです。これを“てんかんの根治手術”と呼びます。根治手術にはてんかんのタイプなどによって、以下のような方法から選択されます。

根治手術のうち、もっとも基本的なものが皮質切除術や病巣切除術と呼ばれる方法です。脳腫瘍や脳の形成異常などの病変によっててんかんが引き起こされている場合に、原因となっている部分を取り除く手術です。

側頭葉の内部にある海馬(かいば)(記憶をつかさどる器官)が萎縮・変性してしまう“海馬硬化症”などによるてんかんに対しては、海馬や側頭葉を切除する手術を行います。海馬硬化症は小学校高学年くらいから発症することが多いため、実際に手術を受けるお子さんは中学生以降の方が多いです。

海馬硬化症では海馬の機能がすでに低下しているため、そのような海馬を切除しても記憶力が低下する危険性は低いですが、健康な海馬(特に左側)を切除してしまうと記憶力が低下します。そのため、海馬を切除して問題ないかを術前に確認してから手術に臨みます。

左右の脳のうち、てんかんの原因がある側の脳を健康な脳から切り離す手術を“大脳半球離断術”といいます。また、側頭葉と後頭葉など2つ以上の脳領域を切り離す手術を“多脳葉離断術”といいます。

対象となる代表的な病気は片側巨脳症(へんそくきょのうしょう)です。これは生まれつきの脳の形成異常によって片側の脳が腫大する病気です。てんかんの原因が広範囲にわたるために、生まれて間もないうちからてんかん発作を生じることがあります。抗てんかん薬の効果が十分に得られないと毎日のように発作を繰り返してしまうため、早ければ生後3か月くらいの時期に手術を行うこともあります。

提供:PIXTA
提供:PIXTA

前述の根治手術は、てんかんの原因が特定されていれば実施できますが、中にはどれだけ検査をしてもてんかんの原因が特定できない方も多くいらっしゃいます。遺伝子異常によるてんかんがその代表例です。

根治手術はできないものの、抗てんかん薬でも発作を止められないお子さんに対してできる治療が、症状を和らげる“緩和的な外科治療”です。

2021年3月現在、日本で承認されている緩和的な外科治療は以下の2種類です。

脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)とは、左右の脳をつなぐ“脳梁”という神経繊維を切断する手術です。

たとえば、全般てんかんでは、発作時の興奮が脳梁を通じて脳全体に行きわたり、脳の広範囲が同時に興奮します。そこで、脳梁を切断することで発作による興奮が反対側の脳に伝わらなくなり、発作の影響を小さい範囲にとどめることができます。脳梁離断術は、発作の症状が強いために転倒でけがをするリスクが高い方などを対象に検討されることが多いです。

首にある迷走神経を電気刺激することで発作を和らげる手術です。左側の迷走神経に電極を巻きつけて、胸の部分に電気刺激を発生させる装置を埋め込みます。電気装置から定期的に迷走神経を通じて脳に電気刺激が伝達されます。英語の“Vagus Nerve Stimulation”を略してVNS(ブイエヌエス)と呼ばれることが多いです。

近年では、発作による心拍数の上昇を自動的に検出し、発作のタイミングで電気刺激を送ることができる機種が標準になっています。

患者さんによっては、頭蓋内電極留置術という検査のための外科手術を行うことがあります。これは、てんかんの原因となる場所がおおよそ特定できるものの、それ以上のことがはっきり分からない場合、どの範囲まで切除すれば発作がなくなるのかを詳しく調べるために行います。

手術は2回に分けて行い、1回目の手術では頭を切開して脳に脳波の電極を留置します。留置後は入院中にその電極を用いて脳波を記録することで、脳のどの場所からてんかん発作が生じているのかを詳しく調べます。原因となっている場所が特定できたら、2回目の手術で電極を取り外すのと同時に、てんかんの原因となっている箇所を切除します。

岩崎 真樹先生
岩崎 真樹先生

開頭手術に伴うリスクとして、傷口から細菌に感染してしまうリスクがあります。また手術に伴う出血もリスクといえます。

片側の脳を切り離す大脳半球離断術を行うと、切り離した側の脳の機能を失うため、術後に麻痺や視野障害(見える範囲が狭くなる)が起こります。発作によって起こる悪影響を防ぐためには犠牲にせざるを得ない後遺症と言えます。しかし、大脳半球離断術が適応となるような患者さんの多くは、いずれ麻痺などの症状が現れてくるため、手術をしないよりも手術をすることによる利益のほうが大きいと言えるでしょう。

麻痺の症状をできるだけ改善させるためには、術後自分で歩けるようになるためのリハビリテーションを実施します。

脳梁切断術で見られる術後の症状が自発性の低下です。具体的な症状は、とても大人しくなる、ご飯をなかなか食べようとしない、自分から動こうとしないなどです。これを“離断症状”と呼び、術後1〜3週間ほどで自然に回復することが多いです。自発性が大きく低下している方に対しては、活動性を引き上げるためのリハビリテーションを術後早期から始めることがあります。

まずは傷口を清潔に保っていただくようにお話ししています。怖がってかばってしまう親御さんも多いですが、むしろしっかりと洗髪していただくことが大切です。

また、「手術をしたら薬を飲む必要はないのでは」と思われることも多いですが、術後も薬の服用は続けていただきます。術前と同じ状況にすることで、手術による発作抑制の効果が評価できるためです。また、手術は必ずしも完璧な治療ではありませんので、いつ起こるか分からない発作を抑制するためにも薬の内服は大切です。

なお、手術によって発作が改善したかどうかは術後半年〜1年ほどかけて経過を観察します。発作がなく経過がよければ、その後に抗てんかん薬を減らすことを検討します。

通常、てんかん外科手術では頭を切開して行いますが、年齢の低いお子さんにとっては体に大きな負担がかかります。

そこで当院では、病巣切除術や皮質切除術といった脳の一部分の病変を取り除く手術において、頭を切開せずに小さい穴だけを開けて行う手術方法に取り組んでいます。これは頭に開けた小さな穴から針状の器具を挿入し、その先端から熱を出して病変を焼き切る手術方法です。手術による体への負担が軽減するため、術後の回復が従来に比べて目に見えて早くなります。手術翌日から食事をすることも可能です。

同様に、検査のために行う頭蓋内電極留置術でも大きく頭を開けない方法で取り組んでいます。これは、定位的頭蓋内脳波という方法で、英語のStereo-electroencephalographyを略してSEEG(エスイーイージー)とも呼ばれます。術後の回復が早いだけでなく、開頭手術よりも診断の精度が上がることが利点です。

てんかんは発作の症状だけでなく、発達・知的な障害や精神症状を伴うお子さんが多数いらっしゃるため、幅広い診療科で協力しながら治療にあたる必要があります。当院はてんかん診療に関わる、小児科・脳神経内科・精神科・脳神経外科の4つの診療科全てに日本てんかん学会の専門医資格を持つ医師が在籍しており、てんかんセンターとして診断・治療を行っていることが特徴です。小児に限らず、高齢者までの全年齢を対象としています。

またてんかんの診断では、MRIなどの画像診断や病理診断(手術で切除した病変を顕微鏡で詳しく調べる)が非常に重要ですが、経験がないと診断に難渋するケースが多々あります。当院は画像診断や病理診断においても、てんかんに対する専門性を持っていることが大きな特徴です。

岩崎 真樹先生
岩崎 真樹先生

お子さんに手術が必要と言われても、その事実をすんなりと受け入れることは難しいと思います。特にお子さんが小さければ小さいほどなおさらだと思います。当院では、生まれて間もない生後3か月くらいの赤ちゃんから外科手術を行うこともありますが、診断・治療と慌ただしいスピードで進み、3か月はあっという間に過ぎていきます。計り知れないほどの心労が重なるなかで、病気に対してしっかりと理解し、受け止めるのはとても困難でしょう。

ですから、ほんの些細なことでも構いませんので、少しでも疑問に思うこと、不安に感じることがあれば、遠慮なく医師に相談していただきたいと思います。私たちは少しでも安心して治療に臨んでいただくために、真摯な説明ができるように心がけています。お子さんの将来をよりよいものにするために、治療の方法や手術の必要性などについて、よくお互いに話し合って理解を深めていただければと思います。

受診について相談する
  • 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科 部長

    岩崎 真樹 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    「てんかん」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。

    なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。