概要
おたふく風邪は、ムンプスウイルスに飛沫感染や接触感染することで引き起こされる病気です。“流行性耳下腺炎”とも呼ばれています。
耳の下に位置する耳下腺(唾液を作る組織)に炎症が生じることから、同部位の腫れを特徴的な症状とします。両側が腫れた場合におたふくさんのように見えることから“おたふく風邪”と呼ばれます。発症した場合には両側が腫れることが多いですが、片側のみしか腫れない場合もあります。
おたふく風邪は、保育所や幼稚園などで集団生活を開始したばかりの小児に多く見られ、6歳までの子どもが発症例の半数以上を占めると報告されています。一度、感染することで生涯の免疫が獲得されますが、中には成人になってから初めておたふく風邪にかかる人もいます。
通常は大きな合併症もなく自然に治癒することが多い病気です。しかし、頭痛や吐き気を伴う髄膜炎の合併症は頻度が高く、ときに難聴や不妊の原因になることがあります。特に難聴は発症すると治らず、片側性が多いですが、両側性に発症した場合にはずっと聴力障害を抱えることになります。そのため、子どもも大人も予防接種を含めた感染予防策を徹底することが重要です。
原因
おたふく風邪を引き起こすウイルスは、ムンプスウイルスです。ムンプスウイルスは感染者の唾液中に大量に存在することから、咳や唾液などを介して感染が周囲に拡散することが知られています。
ムンプスウイルスは耳下腺以外の唾液腺(顎下腺、舌下線)、それ以外の膵臓や性腺(精巣や卵巣)など、消化液や精液などの液体成分を生成する腺組織と呼ばれる部位に感染します。その他にもムンプスウイルスは中枢神経に感染しやすいことも知られています。ムンプスウイルスが感染する部位を把握することは、おたふく風邪の合併症を理解するためにも重要です。
症状
ムンプスウイルスに飛沫感染や接触感染で感染した後、2~3週間ほどの潜伏期間を経ておたふく風邪の症状が現れます。
おたふく風邪は、耳下腺の周りに炎症が生じることから発熱が生じることに加えて、突然耳の下が腫れたり同部に痛みを伴ったりするようになります。片側から腫れることが多く、1~2日ほどのタイムラグを経て反対側の耳下腺も腫れるようになります。片側あるいは両側に腫れが見られますが、両側が腫れることが多く、症状は一週間ほどで徐々に治っていきます。また、唾液を作る組織に炎症が起きているため、食事摂取(特に酸っぱいもの)により唾液分泌が亢進すると、耳の下や顎の下の痛みが強くなるという特徴があります。
ムンプスウイルスの周囲への感染力が高い期間は、発症数日前から発症後5日までといわれています。症状が必ず現れるわけではなく、およそ3割の子どもはムンプスウイルスに感染しても症状が現れません 。これを不顕性感染といいます。症状が現れない不顕性感染の人からも感染する可能性があるため注意が必要です。
おたふく風邪の合併症
おたふく風邪にはさまざまな合併症を伴うことがあり、“後遺症として残る”という観点から、難聴と不妊の2つはとても重要です。
難聴
おたふく風邪に伴う難聴はムンプス難聴と呼ばれています。ワクチン接種率が低いためにおたふく風邪の流行が多い日本では見過ごすことのできない合併症のひとつです。毎年、多くの子どもや大人が聴力を失っています。
聴覚障害は、主に片側が多いですが両側に難聴が生じることもあります。両側の耳が聞こえなくなると、言語を習得していない子どもでは、聞くことができないために言葉の発達に影響が及びます。部分的な聴力障害であったとしても日常生活に支障をきたすことがあります。ムンプス難聴の場合、聴力は回復することはなく、程度によって補聴器、人工内耳などが必要になります。主におたふく風邪になる機会が多い子どもで難聴が多いですが、その子育て世代の大人がおたふく風邪にかったことがなかった場合には、子どもから感染して難聴になることがあります。
不妊
成人期に感染したおたふく風邪は、しばしば性腺(精巣や卵巣)に炎症を生じます。発熱に加えて、腹痛や陰嚢の腫れ・痛みを伴います。片方の性腺だけのことが多いですが、両側に炎症が起きることもあります。両側に炎症が起こった場合、まれに委縮して不妊の原因になることがあります。
このほかにも、髄膜炎や膵炎などを合併し、それぞれ頭痛や嘔吐、腹痛などを生じることがあります。これらの合併症は、おたふく風邪が治ったと思われる時期(すなわち、耳の腫れが治まりつつある時期)にも生じることがあります。おたふく風邪の経過中数週間は、合併症の発生にも注意を払うことが大切です。
検査・診断
おたふく風邪の診断は、主に臨床所見からなされます。しかし、耳下腺が腫脹する病気はほかにもあるため、判断に迷う際、もしくは合併症を呈して確定診断をすることが求められる場合には、ムンプスウイルス感染を証明する検査が行われます。
ウイルス感染を確かめるためには、一般的に血液検査で抗体を調べるという方法がとられます。特殊な状況があるケースではウイルス分離やウイルスの遺伝子を同定する特別な検査が行われることもあります。
治療
おたふく風邪の治療は、対症療法が主体です。発熱や耳下腺の痛みに対しては、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬が使用されます。症状によっては水分が取れないこともあるため、点滴が適応になることもあります。難聴が生じた場合には、聴覚障害の程度に応じて補聴器や人工内耳を使用します。
なお、おたふく風邪を発症した場合は、学校保健安全法で一定期間登校・登園を控えることが定められています。唾液腺が腫れてから5日間が経過して、全身状態がよくなるまでは自宅で安静にしていましょう。判断に困った場合には、かかりつけ医師の話をよく聞き、指示に従うようにしましょう。
予防
ムンプスウイルスに対する有効な薬は存在しないことから、ワクチンによる予防接種がとても大切です。ワクチンにおける予防効果は高く、合併症の発生率も有意に低下させると諸外国から数多く報告されています。そのため、多くの先進国では、ムンプスワクチンの定期接種が行われています。
日本では、1989年から麻疹・風疹・ムンプスの3種混合ワクチンが定期接種として導入されました。しかし、ワクチン関連の無菌性髄膜炎が多く発生したことを受け、1993年にムンプスの入った3種混合ワクチンの定期接種は中止されています。そのため、現在の定期接種では麻疹・風疹のみの2種混合ワクチンが用いられています。
こうした歴史的な背景もあり、日本においては2020年現在、ムンプスワクチンは任意接種ですが、近年ではワクチンの成分が分けられている、より安全性の高いムンプス単独のワクチンも登場しています。おたふく風邪は軽症のことが多いですが、難聴が合併すると回復しないため、子どもも大人もムンプスワクチンで予防するのが望ましいです。
過去にかかったかどうか知りたい場合は、血液検査で調べて、かかったことがない場合にはワクチンを受けるべきでしょう。またワクチン接種歴がない場合、血液を調べないでワクチンを行う方法もあります。ムンプスワクチンは2回受けるのが望ましいです。不安を感じたり、判断に困ったりした場合にはかかりつけ医に相談するようにしましょう。
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