概要
脳炎とは、脳自体に炎症が起こる病気のことです。多くの場合では、脳自体だけではなく、脳を覆っている髄膜にも炎症が及んでおり、髄膜炎のような症状も併発します。
脳炎には、その経過によって急性、亜急性、慢性の3つのタイプがあります。また、原因や治療が適切に行われたかによって経過は大きく異なり、命にかかわることも少なくありません。軽快した場合でも、てんかんなどの重度な神経学的後遺症が残ってしまうこともあります。ですから、脳炎は正確な診断を行い早期に適切な治療を行う必要があります。
原因
脳炎の原因は、(1)感染症、(2)自己免疫によるものの2つが挙げられます。それぞれの原因は以下の通りです。
(1)感染症
脳炎の原因となるウイルスは数百種類にのぼりますが、日本でみられるウイルスには以下があります。
- 単純ヘルペスウイルス
- 日本脳炎ウイルス
- コクサッキーウイルス
- エコーウイルス
これらのウイルスは一気に脳に炎症を起こすものもあれば、その感染症が重篤化するとともに最終症状として生じるものもあります。一方、細菌感染では脳炎よりも髄膜炎が主体となります。
ほとんどのウイルス感染は急性の経過を取りますが、麻疹ウイルスは長い時間脳に感染することで亜急性の経過を辿ります。また、JCウイルスは免疫不全状態の患者さんが感染すると慢性的に進行する多発的な脱髄病変を引き起こします。
(2)自己免疫性
患者の体内で産生された自己抗体が原因となります。自己抗体は正常な体の組織を異物と認識して攻撃してしまう作用があり、これが脳を攻撃して炎症を起こします。脳炎を起こす自己抗体にはいくつかの種類がありますが、抗NMDA抗体と抗VGKC抗体と呼ばれるものが有名です。
また、肺小細胞がんや乳がん、卵巣奇形腫の患者さんはこれらの自己抗体を産生しやすいといわれています。さらに、橋本病や全身性エリマトーデスなどの自己免疫性疾患は、その原因となっている自己抗体が脳炎を引き起こすことがあります。
症状
症状は、脳の炎症部位によって異なります。急性脳炎は、一般的に発熱や意識障害が生じ、炎症部位に依存する痙攣発作を生じます。また、幻覚や人格変化、異常行動などの精神症状も現れます。
亜急性脳炎は感染後6~8年の潜伏期間を経て、学業成績の低下や人格変化が起こります。症状が進行すると、けいれん発作や視覚障害などが生じ、末期には意識障害が起こります。慢性脳炎は、視野障害や認知機能障害、人格障害などが生じます。亜急性と慢性脳炎はウイルス性急性脳炎に典型的な発熱や頭痛などは生じないのが特徴です。
検査・診断
脳炎の検査はその原因によって特徴的なものもありますが、基本的には同じです。脳炎は1つの検査のみで診断できるものでなはなく、いくつかの検査を行って複合的に確定診断を行います。
脳髄液検査
高度な頭蓋内圧亢進がみられる症例以外では、第一に髄液検査を行います。ウイルス感染症による脳炎では、髄液のリンパ球増加とたんぱく質軽度上昇がみられます。また、髄液のPCR法(DNAを増幅するための原理を用いた手法)や培養を行うことで、原因ウイルスを特定することが可能です。
画像検査
画像検査にはCT検査とMRI検査があります。これらの検査では、病変部位の特定を行うことができ、脳腫瘍や脳膿瘍などとの鑑別を行うことも可能です。多くの場合では、造影剤を用いた検査が行われます。また、CTよりもMRIのほうが早期に病変を発見できます。たとえば単純ヘルペスウイルスによる脳炎ではMRIで側頭葉に限局した病変が特徴です。
さらに、画像検査では自己免疫性脳炎の原因となる腫瘍などの病変がないかを調べることもできます。
脳波検査
脳波検査では脳活動に伴う電位変化を各部位ごとに頭皮上から観察します。脳炎では脳全体に異常がみられることが多く、ヘルペス脳炎は側頭葉に限局して異常を認められます。脳波検査はMRI検査と合わせて、早期病変の発見に役立ちます。
自己抗体
画像検査や脳波検査で脳炎が強く疑われたにも関わらず、髄液検査で感染症を示唆する所見がない場合には、自己免疫性脳炎を疑います。自己免疫性脳炎の確定診断には自己抗体の特定が必要です。これには血液検査や髄液検査を行う必要があります。また、検査できる期間は限られるので専門的な医療機関への入院が必要となることもあるでしょう。
治療
ウイルス性の場合は、原因ウイルスにピンポイントで作用する抗ウイルス療法が行われます。また、脳圧が亢進している場合や痙攣発作を起こしている場合には、それぞれに応じた治療が必要です。痙攣を生じていない患者さんにも予防的に抗痙攣薬が投与されることもあります。亜急性や慢性脳炎では根本的な治療はなく、諸症状に対応した治療を行うのみとなります。
また、自己免疫性脳炎には、ステロイド投与が効果的です。ステロイド投与で改善しない場合や重度な副作用がある場合には、免疫抑制剤や血漿交換、大量免疫グロブリン静注が行われることもあります。腫瘍による自己免疫性脳炎が疑われるときには、全身状態が落ち着いてから外科的な腫瘍摘出術や抗がん剤、放射線治療が行われることもありますが、神経学的な後遺症に効果は期待できません。
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