脳卒中は、発症すると命に関わることがある病気として知られています。主な原因としては動脈硬化によるものが多いですが、それ以外のさまざまな脳血管の病気によっても引き起こされる場合があります。脳卒中を引き起こす病気が脳卒中をきたす前に発見されたら、すぐに治療が必要なのかどうかを慎重に判断することが必要となります。
今回は、脳卒中の原因となる病気について、その種類や検査方法などを横浜市立大学附属市民総合医療センター 脳神経外科の間中 浩先生にお伺いしました。
脳血管障害とは、脳の血管の異常が原因で起こる病気の総称です。くも膜下出血*、脳出血**、脳梗塞***の総称である脳卒中や、脳卒中の原因となるような脳血管の病気のことを指します。
この記事では、脳卒中を引き起こす可能性がある脳血管障害についてお話しします。
*くも膜下出血:主に脳の表面にできた脳動脈瘤が破裂して起こる病気。
**脳出血:脳内の血管が破れることで起こる病気。
***脳梗塞:脳に血液を運ぶ血管が詰まることで起こる病気。
脳卒中の原因となる脳血管障害には、次のようなものがあります。
未破裂脳動脈瘤は、血管の壁の一部が嚢状(袋のような形)に膨れてくる病気です。体質で血管の壁の一部に弱いところがあり、そこが何らかの要因で膨れてくることが原因との説があります。瘤ができる場所によっては、瘤が大きくなると周辺の脳や神経を圧迫して、視力低下などの症状が現れることがありますが、多くは瘤が存在していても無症状で経過します。無治療のまま放置すると、前兆なく破裂してくも膜下出血を引き起こすことがあります。
脳に血液を運ぶ頸動脈という血管の内腔に、首のあたりで脂質がたまり、血管が細くなる病気です。主に動脈硬化が原因ですが、頸部に放射線治療を行った後や、別の病気で現れることもあります。病気自体に症状はありませんが、進行すると脳への血流が滞ったり、病変部にできた血栓が脳に飛んでいって詰まったりすることで、脳梗塞を起こす危険性があります。
脳内にある太めの血管が細くなる病気です。頸部頸動脈狭窄症と同様に動脈硬化が原因のこともありますが、たとえば、もやもや病*といったほかの病気が原因となることがあります。頸部頸動脈狭窄症と同様に、脳梗塞が起こる危険性があります。
*もやもや病:内頸動脈の末端付近で脳血管の狭窄が起こる原因不明の病気。
脳の中に異常な血管の塊(ナイダス)ができる病気です。時に、てんかん発作や頭痛の原因になることがあります。無治療のまま放置していると、くも膜下出血や脳出血を引き起こすことがあります。この病気は小児期に発生してくることもあるため、成人のみならず小児期に脳卒中を発症してしまうことがあります。
脳や脊髄を覆う硬膜(あるいは骨)で、動脈と静脈が直接つながってしまう病気です。はっきりとした原因は分かっていません。たとえるとこの病気は、上水道と下水道に分かれているはずの水道管が、一部でつながってしまった状態です。したがって、下水管である静脈が流れにくくなったり、逆流したりすることになり、さまざまな症状が現れます。自分の脈と一致した耳鳴り、目の充血、ものが二重に見える、頭痛、てんかん発作、認知症の症状などです。また、脳出血を起こすことがあります。
脳卒中をきたす前の脳血管障害は、脳ドックの受診や、頭痛やめまいなどでMRI検査を受けたときなどに偶然発見されることがあります。
また、脳卒中をきたす前に、何かしらの症状が出現して発見されることがあります。たとえば、未破裂脳動脈瘤は、瘤が破裂してくも膜下出血をきたしていない状態でも、目の神経を圧迫して目が見えにくくなって発見に至るものがあります。硬膜動静脈瘻は、脈拍とともに“ザーッ、ザーッ”という耳鳴りが聞こえて発見に至る場合があります。そのため、眼科や耳鼻咽喉科にかかったときに発見されることがあります。
脳卒中をきたす前に脳血管障害が発見された場合は、専門医を受診して相談することが必要です。
脳血管障害の発見には、画像検査の1つであるMRIによるスクリーニング検査が有効です。血管を診るためには、MRI装置を用いた血管撮影(MRA)を実施します。放射線を使用しないため、検査の際に被ばくする心配のない検査方法です。
MRAは、患者さんの体への負担を抑えられますが、造影剤を用いた造影CT検査や造影剤およびカテーテルを用いた血管撮影検査と比べて検査精度は劣ります。
MRIやMRAで異常が疑われた場合、詳細に調べるためにヨード造影剤という薬剤を血管に注入し、CT検査や血管撮影検査を行います。脳血管造影は、MRI検査よりも精度の高い検査方法ですが、患者さんの体への負担が生じます。ヨード造影剤の使用には、アレルギー反応や腎機能低下、あるいは被ばくのリスクがあります。
脳卒中をきたす前の脳血管障害は、手術せずに様子を見たほうがよいのか、すぐに手術したほうがよいのかを判断することの難しい病気です。たとえば、未破裂脳動脈瘤が見つかっても、今すぐに手術する必要がないと判断したときは、経過観察をご提案することがあります。その場合は定期的に検査を行い、瘤が大きくなってきたら手術を検討します。
一方、高齢の方の場合、年齢に伴って手術のリスクが高くなる前に手術をすすめる場合もあれば、精神的な負担をかけないように経過観察をあえて行わない場合もあります。そういった判断は患者さんの状態によって慎重に考慮します。
当院では、脳血管障害が見つかって経過観察の判断をした患者さんには、半年~1年に1回ほど検査を受けていただいています。そのほか、「何かあったら来てください」とお話ししています。先述したように、脳血管障害は脳卒中を引き起こすだけではなく、ほかの症状が現れることもあるからです。患者さんご自身が気にされていなかった症状が、治療を決断する重要なポイントになることもありますので、気付いたことをお聞きするようにしています。
脳卒中になってしまった患者さんは言うまでもなく、脳卒中を起こしていない方でも、脳卒中の原因となる脳血管障害が発見されたら非常に不安なことと思います。しかし、その中には、脳卒中を引き起こす危険性が低いものや、手術を必要としないものもあるため、医師とよく相談して治療方針を検討することが大切です。定期的な検査が必要な場合は、きちんと通院するようにしていただいたほうがよいと思います。
私が診察するときは、まずは患者さんにできるだけ安心していただけるような言葉でお伝えすることを心がけています。そして、患者さんの年齢や生活スタイルなど、さまざまなことを考慮したうえで診療にあたっています。ご自身に合った治療法を見つけられるよう、ぜひ一緒に考えていきましょう。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 脳神経外科
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