臨床と研究がつながる医療を実現したい

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臨床と研究がつながる医療を実現したい

乳がん治療の発展のため、研究と臨床に力を注ぎ続ける石川 孝先生のストーリー

東京医科大学 乳腺科 主任教授
石川 孝 先生

消化器外科から始まった医師人生

乳腺専門医になって15年の月日が経ちました。しかし、私は最初から乳がん専門医を志していたわけではいません。

私の出身大学である横浜市立大学では、乳腺外科は消化器外科の医局の中に含まれています。私は大学を卒業後約15年間は消化器外科医として消化器がんと乳がんの診療に当たりました。いくつかの偶然が重なった結果、今、私は乳腺科専門医としてこの場所にいると思っています。

論文のための研究ではなく、臨床と研究をつなぐには?

消化器外科時代、2年間の留学を含めて研究に専念していた時期がありました。大学院生とともに論文も数多く執筆してきました。しかし、次第に実地の臨床とそぐわないような「論文のための研究」をしている自分に気がつきました。

医学研究とは、得られた結果を通して臨床に応用して、患者に還元していくことが根本的な目的です。しかし、研究に没頭するあまり、その研究が臨床にどのように役立つかを考えることなく、論文を書くためのような研究が増えてしまったのです。

「果たして、このままでいいのか」

臨床的にも研究的にも消化器がんと乳がんを広く浅く扱っているような状況のなかでいくつかの挫折を経験しました。そして乳がんを専門にする環境になったときに、これからは臨床に直結した研究だけをしようと決意しました。

乳がんの治療に関しても、多くの症例の手術を経験して、さらに幸運にも乳房再建に熱い情熱を持っている形成外科医と巡り合い、一緒に働く機会を得て、消化器外科として片手間で乳がんの手術を行っていたころとは違う、大きなやりがいを感じている自分がいることに気づきました。

また、研究が進んで、乳がんの多様性が解明されるとともに、乳がんに対する治療の選択肢も多様性を持つようになりました。正確な画像診断、効果の高い個別化された薬物療法、さらに整容性を重視した手術と乳がん治療は目覚ましい発展を遂げています。

臨床と研究がつながる医療を行うにあたって、まさに乳がんとは、理想の領域だと思ったのです。だから私は、乳がん専門医の道に進んだのです。

乳腺専門医に方向転換してからもしばらくの間は横浜で研鑽を積んでいくなかで、乳がんの診療と研究を通して全国の仲間も増えていきました。何も疑いも持たずに母校で乳がんの診療と研究を続けて発展させていきたいと考えていました。まさか東京医科大学に異動することになるとは夢にも思っていませんでした。

「もう治療しないでください」安らかに息を引き取った患者さん

横浜と東京で数多くの乳がんの患者さんを治療し、残念ながら多くの方を看取ってきましたが、今でも記憶に残っているのは再発した1人の患者さんです。性質によって多少の差はあるものの、乳がんの場合、転移しても薬物療法の進歩によって長期の延命が可能になってきました。骨転移などでは転移してから10年以上お元気な患者さんも珍しくありません。しかし再発した場合には完治は望めず、やがて亡くなってします。それでも医師は、目の前の患者さんがどうすればできるだけ長く、楽しく生きられるか、を考えて提案します。多くの患者さんは提示した治療を受けて、病気と共存する道を選択します。

その方は肺転移で紹介された患者さんでした。最初に化学療法を行うことになりましたが、非常によく効いて、しばらくの間は何の支障もなく日常生活を送ることができていました。ご自分の仕事を楽しみながら、いつもご主人と一緒に外来に通われていましたが、がんが再燃しました。病状が悪化したため、次の薬剤の治療を彼女に治療を勧めましたが、ご主人と相談のうえ、その患者さんは冷静に、「治療してもまた悪くなって、もう一度辛い思いをするのは嫌だから、これ以上治療はしないでください」とおっしゃいました。治療する側からは、次の薬剤でもう少し、普通の生活ができる可能性があるのに……と思いました。しかしお話をお伺いするとご主人と人生を楽しまれてきて、お2人で相談した結果とのことでした。私は彼女とご主人の意思を尊重して、苦痛だけは除く約束をして、最後まで看取りました。

医師は誰でも最初に、手術や化学療法によって病気を治すことを第一に考えます。しかし、ときには私たちが考えるようながんの治療をしないという選択肢が、患者さんが望む治療であることもあり、状況を理解したうえでの判断であれば、それが一番いい選択枝のこともあります。この患者さんには、乳がんの治療においてとても大事なことを教えていただいたと思っています。

乳がんは手術がすべてではない。だからこそ面白い

乳がんの治療では、現在でも手術でがんを取り除くことが重要です。しかし、乳がんはひとつの疾患ではありません。タイプによっては術前化学療法ですべて消失する症例もあります。今後さらに、画像診断と化学療法が進歩すれば、手術せずに治療ができる症例は出てくると思います。手術がすべての時代はもう終わりを迎えているのです。

もちろん、乳がん治療において手術がなくなることはありませんが、治療の幅が広がっていくことで、一人一人の患者さんに最適な治療法を提示することが可能になるでしょう。

手術においても画一的に切除するのではなく、一人一人にあった切除方法や再建方法があります。患者さんが求める治療を提供する使命があると思いますし、その実現に向けてこれからも頑張っていくつもりです。

臨床と研究の融合の面白さを多くの医師に知ってもらうために

乳腺外科になってからも、私はこれまでにたくさんの失敗の経験を積み重ねてきました。紆余曲折を経ましたが、私は常に「臨床につながる研究を行うこと」をモットーに、大学で研究を進めながら臨床への応用を考えることを軸にしてここまでやってきました。臨床と研究が融合する面白さは筆舌に尽くしがたく、今後はこの気持ちを若い医師たちに味わってもらいたいと思っています。

研究のための研究では医療は進歩しません。東京医科大学乳腺科主任教授として新宿、八王子、茨城の3病院の乳腺科をまとめる役割を担ったこれからは、自分の後輩たちの育成が最大の役割です。多くの若手医師に、研究的な目を持って臨床に臨み、臨床への反映を考えて治療や研究を行う姿勢の大切さを伝えていきたいです。

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