病院を検索するこんな時は総合診療科へ
東邦大学医療センター大森病院 佐々木 陽典 先生
患者さんが困っていたらまず駆けつけるのが総合診療医――東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター(内科)
佐々木 陽典先生

総合診療科の医師は、患者さんの健康に関わるさまざまな問題に対応し、専門の枠にとらわれない総合的な医療を提供しています。東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター(内科)は地域密着型の大学病院として、どの診療科を受診すればよいか分からない方や診断がつかずに悩んでいる方など、困っている患者さんに寄り添いながら幅広く診療を行っています。
本記事では、大学病院の総合診療科ならではの取り組みや総合診療医としての思いについて、同センター講師の佐々木 陽典ささき ようすけ先生にお話を伺いました。

東京都
東邦大学医療センター大森病院

東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター(内科)の特徴

東京都大田区における地域密着型の大学病院

当院の特徴は、大学病院でありながら地域密着型の医療を提供していることです。昔の病院はクリニックや大学病院など規模に応じた役割分担が明確ではなく、近隣の患者さんを中心に軽症から重症まで幅広く診察していました。しかし近年は病院の機能が分担され、軽症の患者さんは主に地域のクリニックなどで診察しています。一方で大学病院は、クリニックでは対応できない特殊な検査や治療を必要とする患者さんが紹介状を持って受診するような場所になってきています。
そのようななかで当院は、近隣の患者さんを幅広く診察する昔ながらの病院が持つ特徴を残した形で診療を行っています。かぜや生活習慣病などよくある病気の患者さんや、まだ診断がついていない患者さん、受診する診療科を迷っている患者さんが多く訪れており、当院が家族全員のかかりつけになっているという患者さんもいらっしゃいます。一般的な大学病院のイメージとは少し異なり、地元の病院らしい要素が強くあるとともに、総合的な医療を提供する総合診療医にとって活躍の場が広い大学病院といえるでしょう。
当院は、特定機能病院(高度な医療の提供や新しい医療技術の開発、高度な医療に関する研修や教育などの機能が備わった病院)として1次救急から3次救急まで患者さんを受け入れる診療体制を整えています。同じ総合診療・急病センターの仲間として外科や感染症科の先生もいてくれるほか、救命救急センターとも連携しており、重症度の高い3次救急の患者さんについては総合診療科ではなく、救命救急センターでの対応が可能です。
ただ、患者さんの状態は刻一刻と変わっていくものです。医療を提供する側が患者さんの状態を完全に切り分けて分類してしまうと、2次救急と3次救急の間の状態にある患者さんが見落とされてしまう恐れもあります。だからこそ、こうした“2.5次救急”の患者さんも含めて、どのような患者さんも取りこぼすことなく診療する役割を当科が担っていくべきだと私は考えています。

原因不明の病気にも対応――原因を探るために医師が行うこととは?

不定愁訴(明らかな異常が見つからないのにさまざまな自覚症状を患者さんが訴える状態)で受診して、ほかの病院で診断がつかなかったような難しい患者さんがいらっしゃることもあります。たとえば、激しい腹痛を繰り返していて複数の救急病院で診察してもらっているものの、原因を特定できない患者さんなどです。腹痛はよくある症状ではありますが、腹部はさまざまな臓器が重なり、人によって位置も異なるため、腹痛の診断は実はとても難しく、痛みの原因を探し出すことは容易ではありません。それでは、どのように原因不明の腹痛を診ていくかというと、まず緊急手術を要するような危険な病気ではないかを判断したうえで、問診により症状がいつからどのように始まったのか、どこが痛むのかなど、下の図にあるような内容を確認しながら痛みの原因を探っていきます。問診をしながら原因を想定し、また必要に応じて血液検査や画像検査などの検査を行い、原因を突き止めます。多くはありませんが、希少疾患(患者数が少ない病気)が隠れている場合もありますので、見逃さないためにもいろいろなアプローチで診断を行っています。

腹痛で受診した患者さんへの重要な問診事項

どんなときに相談できるの? 総合診療・急病センター(内科)受診の流れ

初診――基本的にどのような不調でも相談可能

当科では、紹介状を持参された方はもちろんのこと、紹介状がない方や救急車で搬送された方の診療も行っています。さまざまな窓口から診療が受けられるので、「調子が悪いけれど何科を受診すればよいか分からない」という方は遠慮なくご相談ください。
また当院は、教育病院の役割も兼ね備えています。教育病院とは、厚生労働省からの指定により、研修医や医学部生の教育を担当している病院のことです。そのため初回の問診では20分程度時間をいただき、研修医や医学部生がお話を伺います。その後、担当医が診察をして、診療方針を決定します。必要に応じて、患者さんとも相談して方針を一緒に決めていくこともあります。ただ、大学病院では、紹介状なしで初めて受診された方は別途自己負担の費用(選定療養費)が発生することや、待ち時間が長くなることなどのデメリットもあります。この2点についてはご了承のうえでご来院いただければと思います。

診察――緊急度の高さを把握してから治療法を検討

私が診察するときにまず注意しているのは、治療を急ぐ病気かどうかという点です。たとえば、「激しい腹痛が突然起こって受診した」という患者さんの場合には、治療を急がなければならない可能性があります。一方で、病気の特性を考えながらじっくりと時間をかけたほうが解決策を導きやすいケースもあるため、患者さん一人ひとりに合わせて判断するスキルが総合診療医には求められます。
また、当科にはさまざまな症状の方がいらっしゃるため、診断が難しいことも少なくありません。腹痛の患者さんを例に挙げると、発作的に起こる発熱や腹痛が特徴とされる家族性地中海熱という希少疾患(患者数が少ない病気)など、何度も通院を続けていただくなかで診断に至ったケースもあります。そのため、病気の特性を考えながら継続的に診ていくことも大切になります。

当科の外来を受診する患者さんにお願いしたいこと

他院に通院中の場合は紹介状を持参すること

当科を受診される方にお伝えしたいのは、かかりつけ医がいる場合は紹介状の作成を依頼して、持参していただきたいということです。患者さんの中には、かかりつけの先生に悪いからということで紹介状をお願いせずに受診される方もいらっしゃいます。しかし、医師としては情報が多いほうがありがたいのです。私たちも、当院だけでは治療が難しい場合や患者さんが希望される場合は、ほかの病院への紹介状を作成しています。遠慮せず紹介状を書いてもらってほしいと思います。

使用中の薬や現在の病気を伝えること

診察時には、飲んでいる薬や治療中の病気についてもぜひ教えてください。お薬手帳を利用している方は、受診の際に持参してもらえると助かります。お薬の情報を見ながら、処方が重なったり飲み合わせの悪い組み合わせになったりしないよう確認しています。治療中の病気も、場合によっては今お悩みの症状と関係があるかもしれません。「今日の症状とは関係ないだろう」と考えて話されない方もいますが、遠慮なく伝えてもらえると嬉しく思います。できれば時系列に沿ってお話ししていただけると、医師側も理解がしやすくなります。

気になる点は遠慮せずに話すこと

患者さん自身が何を心配していて、病気の原因としてどのような心当たりがあるのかも、説明するのは恥ずかしいと思われるかもしれませんが話していただきたいことです。私が診察するときは、最後に「ほかに気になることはありませんか」と質問するようにしています。もしも言いそびれたことがあれば話して、安心してお帰りいただければと思っています。

総合診療・急病センター(内科)のチームとしての取り組み

各医師のスキルを発揮するチーム医療

当科の医師は、総合的な医療を提供しながらも各々が得意分野を持っているのが特徴です。私は感染症と腎臓の病気を専門としていて、ほかには消化器内科の病気や糖尿病を専門とする医師などもいます。加えて、自分の専門分野だけを診療するよりも幅広く患者さんを診ようという、ジェネラルマインドを兼ね備えています。それぞれのスキルを発揮するとともに、お互いに相談しながら総合的に診療を進めていけるのがチームの強みといえるでしょう。たとえば、糖尿病で血糖値がうまくコントロールできていない患者さんに対して次の治療手段を考える際、同じ診療科内で糖尿病を専門としている医師がいればその場ですぐに気軽に相談できる点も強みの1つです。

他科との連携を積極的に実施

チーム内での連携だけでなく、他科との連携も積極的に行っています。たとえば外来で治療を続けることになった方は、専門の診療科へバトンタッチすることが珍しくありません。当日の早い時間までに診察を終えられた場合はその場で紹介状を書き、同日中に専門の診療科を受診してもらうこともあります。専門の診療科と当科の間で密にやりとりをしながら診療を進めているのが特徴です。また一例として、頭痛で当科を受診した患者さんで、くも膜下出血が疑われるといった緊急性の高いケースでは、すぐに脳神経外科の医師へ対応をお願いすることも可能です。夜間当直の時間帯に入院された患者さんの場合は、翌朝には当科内で情報を確認し、該当する診療科を判断しています。
ただ、専門の診療科で検査をしても異常が見つからないことはあり得ます。もし専門の診療科で原因が分からなかった場合、その診療科でできることがなくなってしまう可能性も考えられるでしょう。もしそうなった場合に患者さんの行き場がなくなってしまわないよう、当科ではいつでもフォローできる体制を整えています。入院して治療することになった方は多くの場合、当科内で入院治療を完結させることが可能です。
当科から専門の診療科に依頼するだけでなく、専門の診療科から当科に相談が来ることも多々あります。たとえば、糖尿病・代謝・内分泌センターに入院していて原因不明の発熱をきたした患者さんに関して相談を受けたことがありました。私たちには、入院患者さんが困ったときに原因を探し出して解決する、トラブルシューティングのような役割を担っている面もあります。看護師や薬剤師とチームを組んで回診しながら、場合によって主治医にアドバイスをするなど、各専門診療科との連携をさまざまな場面で進めています。

大学病院として臨床・研究・教育の3本柱を遂行

大学病院は研究機関や教育機関としての役割もあるため、臨床と研究、教育のバランスを意識して仕事に取り組んでいます。特に臨床と教育は密接に関連しているので、臨床医としての技能を向上させることは現場でも教育の場面でも役に立つでしょう。私自身、さまざまな病院の医師が参加する症例検討会での事例共有や、医療雑誌への症例投稿などを実践しています。
研究については、私は主に日常でよくみられる病気を診察しているときに浮かぶ疑問からテーマを設定しています。たとえば右側の下腹に痛みのある患者さんが受診された場合、主に虫垂炎または憩室炎が疑われます。問診や触診である程度どちらの病気かを予想してからCT検査を実施するのですが、この予測を経験値ではなくデータにできるのではないかと考えて研究を行いました。痛みの場所や血液検査の結果、年齢などの統計を取り、傾向性を見出しています。このように、知っているつもりでも分かっていないことは意外に多くあるので、小さな疑問を見逃さないことが大切だと考えています。

院内勉強会の様子

専門の枠にとらわれない医師を目指して――総合診療医としてのあゆみ

研修医時代に総合診療医を目指すと決めた

学生時代に読んだ教科書にあった“苦しむ患者さんを助けるためには技術、知識、人への理解が求められる。これらを勇気と思いやりと謙虚さを持って用いれば、自分にしかできないサービスを提供できるようになるだろう。それを通じて自分自身の人格が形成されていくだろう。”というメッセージに感銘を受け、幅広く患者さんを診療できる内科医になろうと思い始めました。生理学や解剖学などの知識に基づいて理論的に診断することに憧れていて、診察で患者さんから丁寧にお話を伺いながら、基礎知識を結びつけて診断できる医師になりたいと思っていました。
総合診療医を志したのは、研修医時代の出来事がきっかけです。当時、私が大学病院で研修をしていた際、診察で息苦しさを訴えていた患者さんがいらっしゃいました。私が行った聴診では心雑音があり、心不全だと思ったのですが、検査結果などから息苦しさの原因が心不全なのか肺炎なのか循環器内科と呼吸器内科の間で意見が分かれ、どちらが診療すべきか決まらずに患者さんは何度も診察や検査を受けることになってしまいました。最終的には総合診療科が診療を引き受け、肺炎をきっかけとした心不全の悪化であることが判明したのですが、病気がどの臓器にあるか分からなければ担当する医師が決まらない当時の診療現場は私にとって衝撃的でした。この経験を通して、私は臓器の枠にとらわれない内科医を目指そうと決め、総合診療医の道へと進むことにしたのです。

患者さんと向き合えるようにフットワーク軽く

総合診療医になった今大切にしているのは、診断が困難な患者さんであっても粘り強く診断に取り組むことです。大学病院なので難しい症例の患者さんもいらっしゃいます。ただ私たちが病気を見落としてしまうと、患者さんは治療してよくなるチャンスを失ってしまいます。だからこそ、総合診療医として診断することを諦めない姿勢が大切です。
一方で、残念ながら、なかなか診断がつかないことも少なくありません。それでも患者さんには通院を続けていただき、診察を通して定期的に様子を伺うようにしています。病気と付き合っていくうちに、症状が月日の経過によって徐々に改善することもあるでしょう。また、誰かが自分のことをみてくれて気にかけてくれていると感じられることでつらさを乗り越えられる場合もあるとも考えています。寄り添い続けることで、患者さんが病気でつらい思いをしていることを私はきちんと知っている、気にかけていると伝えられたらと思っています。
さらに、フットワークを軽くすることも大切です。“総合診療医は戦いの現場に最初に上陸して作戦を遂行する海兵隊のようなものだ”と言っている先生もいらっしゃいます。だから私は、患者さんが困っていたら真っ先に駆けつけて向き合えるようにしておきたいと考えています。また、全てを自分1人で担うのではなく、積極的に周りを巻き込みながら診察にあたるのも重要なことです。周りを巻き込むだけでなく、普段から自分もほかの先生から相談を受け、連携を取ることも心がけています。

専門医療機関・教育病院の側面の両立に向けて

今後の展望としては、若手医師や医学生に総合診療の重要性とやりがいを感じてもらえるような診療科を目指したいと思っています。大学病院は専門医の集団であり、国からも先進的な医療が求められている場所です。同時に教育機関でもあることから、医療の初心者が初めて患者さんと接する場所でもあります。
そこで、専門性の追求と若手の教育という大学病院が持つ一見矛盾した2つの役割を、総合診療科は同時に担える存在であるべきだと考えています。診療の場では患者さんの病気が治ったら終わりと考えず、できる限り再発しないように問題解決する姿勢が大切です。そのうえで、現場で浮かんだ疑問を原点とした研究を進めていきます。私たちがやりがいを持って頑張っている姿が、若手医や医学生に伝わると嬉しく思います。

佐々木先生からのメッセージ

当院の総合診療・急病センター(内科)は、大学病院の中にありながらも気軽に何でも相談しやすい、いわゆるかかりつけのクリニックや町医者のような存在です。体調が悪いけれど、どの診療科を受診したらよいのか分からない、なかなか診断がつかない、どの診療科にも症状が当てはまらないなど、お困りの際には遠慮なく相談していただきたいと思っています。

東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター 講師
佐々木 陽典 先生
どの診療科に相談すればよいのかお困りの方へ
ご自身の健康に関して「どの診療科に相談すればよいのか分からない」「体の複数の場所に症状がある」など、困っていることはありませんか。気になることがある場合には、総合診療科で相談してみましょう。