一宮市のがん医療
高齢化と検診受診率の低下、
喫煙率が課題
愛知県一宮市の人口は2012年までは増え続けていましたが、その後は減少の一途を辿っています。加えて高齢化も進んでおり、2014年は24%だった65歳以上の人口の割合が、2023年では27%程度に増えています。検診の受診率も低下傾向にあり、一宮市の死亡原因では男女共にがんが1位となっています。肺がんのリスクとなる習慣的な喫煙については、市全体の喫煙率は低下しているものの、40歳から64歳の男性の喫煙率は27.8%とまだ高い状況です。
尾張西部の医療を支える
一宮西病院
“断らない医療”と一貫したサポートで
患者さんに寄り添う“断らない医療”と一貫した
サポートで患者さんに寄り添う
患者さんに寄り添う
サポートで患者さんに寄り添う
一宮西病院は愛知県西部の一宮市に位置する総合病院です。“断らない医療”をモットーに、24時間365日救急車の受け入れを行っています。また予防から救急・急性期、回復期まで切れ目のない医療を提供できることも特徴です。人間ドックや健康診断を行うメディカルサポートセンター、治療中・治療後のリハビリを行うリハビリテーション技術部も備えています。高齢の患者さんが増えるなか、がん治療を続けるうえでもリハビリは重要です。自分で歩いて通院できる体力を維持していただくためにも、治療と並行してリハビリを行う体制を充実させています。当院が率先して“断らない医療”と一貫したサポートを実践することで、地域医療によい影響を与えたいと考えています。
一宮西病院の 肺がん・胃がん・大腸がんの治療肺がん・胃がん
大腸がんの治療
大腸がんの治療
肺がんの治療
進歩が目覚ましい肺がんの薬物療法
肺がんにおける薬物療法の進歩は目覚ましく、肺がんの治療成績は改善されてきています。薬物療法はこれまで(細胞障害性)抗がん薬のみでしたが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった薬が登場したことで選択肢が広がりました。
分子標的薬はがんの生存・増殖に関わる分子をターゲットとして攻撃する薬で、異常がみつかったがん遺伝子に応じて薬が選択されます。がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう抗がん薬と比べて副作用が軽く、高い治療効果が期待できます。免疫チェックポイント阻害薬は、人間に備わっている免疫を利用してがん細胞を攻撃する薬です。免疫細胞の1つであるT細胞は本来がん細胞を攻撃する力がありますが、一方でがん細胞はT細胞の攻撃にブレーキをかける力があります。免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを防ぎ、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
患者さんにとってどの薬が効果的なのか、診断時の検査で採取したがん細胞を調べて治療を進めていきます。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は画期的な薬ですが効果には個人差があるため、抗がん薬と組み合わせて治療を進めることもあります。
スピード感を重視した検査で早期に治療を開始
肺がんが見つかったらがん細胞の種類や広がりを調べて治療方針を決めますが、治療方針はステージによって変わります。当院の肺がん診療の特徴は“検査から治療までのスピード感”があることです。肺がんの診断には気管支鏡検査、採取した細胞を調べる病理検査、がんの広がりを確認するためのPET検査・頭部MRI検査などを行いますが、当院では患者さんが来院されてから約1週間以内にこれらの検査を完了させて診断を確定しています。そして肺がんとわかったら診断に使用したがん細胞で遺伝子検査とPD-L1検査*を行い、どのような薬が効きやすいのかを調べ、診断後10日ほどで治療を開始します。進行性の肺がんの場合は検査に時間をかけず、いかに速やかに治療を始められるかが重要です。当院ではさまざまな検査を院内で完結する体制を整えており、無治療の期間を短縮することができています。
*
PD-L1検査:がん細胞の表面にあるPD-L1というたんぱく質の割合を調べる検査。免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測できる。
診療科を超え、病院全体で同じ方向を向いて治療にあたる
当院では呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科が密に連携を取り、患者さんに安心・安全な医療を提供することを1番に考えて診療にあたっています。以前は呼吸器外科が薬物療法を行うこともありましたが現在は役割を分け、手術前後の薬物療法や術後再発時の治療も呼吸器内科が担当し、呼吸器外科の医師は手術に集中できるようにしています。治療ごとに高い専門性が求められるなか、それぞれに精通した医師が治療にあたることで、患者さん一人ひとりに合わせたよりよい医療の提供がかなえられる体制になったと感じます。 私たちはとにかく前向きに、“できない”ではなく“やるためにどうするか”を考えています。これは診療科の垣根を超え医師同士で信頼し合い、同じ方向を向いているからこそできることです。医療技術の進歩により治療選択肢が増え、何が自分にとってよい治療なのか迷うこともあるでしょう。ライフステージやこの先の人生をどう生きたいのかによって、治療選択肢も変わります。患者さんと医師とお互いに納得して治療にあたることが重要と考えていますので、分からないことや不安なことはどのようなことでもご相談ください。
胃がんの治療
新しい技術を積極的に導入し、正確な診断・治療を目指す
胃がんは初期の自覚症状がほとんどなく、進行してからも症状が現れないこともあるため、検診による早期発見が重要です。胃がんの代表的なリスク因子はピロリ菌で、ピロリ菌が引き起こす胃炎が進行しているほど胃がんができやすいため、胃炎がある場合は検査で詳しく観察することも必要です。
近年では診断・治療の技術が目覚ましく進歩しており、当院では特殊な光を当てることでがんを見つけやすくする内視鏡を使用し、早期がんの診断・治療に努めています。がん病変の表面の色調は周囲と違うため、特殊な光を当ててその違いを強調することで、境界が分かりづらい早期がんを発見しやすくなります。また最近ではAIを活用して早期胃がんを検出する技術も登場しており、今後さらなる精度の向上が期待されています。安全にがん治療を行うためには正確な診断が重要です。当院では新しい検査技術を積極的に取り入れて、患者さんの予後に貢献したいと考えています。
苦痛の少ない“経鼻内視鏡検査”で早期発見を
早期発見につなげるためには定期的に検査を受ける習慣をつけていただくことが非常に大切です。特に内視鏡検査は胃がんの発見や診断に欠かせないものですが、口から挿入する内視鏡検査(経口内視鏡)は患者さんの負担が大きいという課題があります。そこで当院は楽に検査を受けていただけるよう、“経鼻内視鏡検査”という鼻から内視鏡を挿入する方法を導入しています。
経鼻内視鏡検査は日本では2003年頃より始められた比較的新しい検査で、当院では2004年より導入し、患者さんの負担の軽減・安全性について研究を重ねてきました。 経鼻内視鏡は舌や喉の奥を刺激しないため、吐き気や息苦しさといった苦痛が軽減されます。また、経口内視鏡検査では静脈麻酔を使用することが多いですが、経鼻内視鏡検査は鼻腔の麻酔だけで済みます。そのため検査後は行動制限が必要なく、自動車で来院いただけることもメリットです。
経鼻内視鏡検査は画質が悪くがんを見落としやすいのではという懸念もありましたが、近年では機能が改善され、がんの発見のしやすさは経口内視鏡に劣らないレベルとなっています。胃がんが見つかった場合はさらに詳しく調べるため拡大内視鏡を口から挿入して検査を行いますが、経鼻内視鏡を用いることで最初の検査のハードルは下げられるのではないかと思います。当院の内視鏡センターでは上部消化管内視鏡検査の90%以上を経鼻内視鏡で行っており、2021年度の年間検査件数は1万件を超えました(2021年1〜12月実績)。これまで胃カメラに抵抗があった方も、一度鼻からの内視鏡検査を試してみていただければと思います。
早期発見すれば、内視鏡治療でがんを取り除ける
がんがごく浅いうちに見つかれば、外科手術で胃を切除することなく、内視鏡治療でがんを取り除ける可能性があります。胃の全部もしくは一部を切除した場合は術後の食事量が減って体力も落ちてしまいますが、内視鏡治療で済めば胃を全て残すことができ、食事をしっかり取ることで体力を維持することが可能です。内視鏡治療の中で現在主流となっているのが、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)です。内視鏡の先端についた高周波ナイフでがんを剥ぐようにして切除します。
がんが進行していて手術が適さない場合は化学療法を行います。当院には腫瘍内科に薬物療法を専門とする医師が在籍しており、共に協力して治療にあたっているのが強みです。各分野に精通した医師が連携し、さらに治療のレベルを上げられるように努めています。
大腸がんの治療
日本人に1番多い大腸がん。まずは便潜血検査を定期的に受けて
大腸がんは初期症状が乏しいですが、進行すると血便・下血、便秘・下痢、便が細くなるなどの症状が起こります。がんが完全に腸をふさいでしまうと腸閉塞になり、緊急で処置が必要になることもあります。
大腸がんやポリープがあると便が大腸を通る際に出血するため、早期発見するためには検診で行われる便潜血検査が有用です。便潜血検査は便を採るだけで簡単に行うことができ、便に血液が混じっているかどうかを調べることができます。ただしこの検査は大腸ポリープがゆっくり大きくなってがん化する過程で起こる出血を発見することが目的です。1回受けて陰性であったとしても、毎年継続して受けていただきたいと思います。
精密検査にハードルを感じている方もぜひ相談を
便潜血検査で陽性になった場合、がんやポリープがあるかどうかを確認するために大腸内視鏡検査や大腸CT検査などを行います。大腸内視鏡検査は内視鏡を肛門から入れて観察する検査です。切除したほうがよい病変なのかを判断し、必要に応じてその場で治療を行う場合もあります。大腸CT検査はX線を使って病変を撮影するため、身体的・心理的な負担が少なく済む検査です。ただし進行した大腸がんを発見することには適していますが小さい病変や厚みのない病変を発見するのは難しく、また大腸CT検査だけで診断を付けられるわけではありません。
大腸がん診療の課題として、便潜血検査で陽性になっても精密検査を受けない方が多いことが挙げられます。大腸内視鏡検査は肛門から内視鏡を挿入することに恥ずかしさを感じられる方が多いためです。ハードルが高いかもしれませんが、検査を受けずに放置することは避けていただきたいと思います。当院では大腸内視鏡検査に抵抗がある方に対しては大腸CT検査を提案することも可能です。各検査のメリット・デメリットをご説明し、納得いただいたうえで選択、実施していきますので、不安な点があれば気兼ねなくご相談ください。
お腹を切らない内視鏡治療を積極的に行い、腸閉塞にもフレキシブルに対応
治療に関しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を積極的に施行しています。内視鏡治療が適応になるかどうかの基準は“がんの深さ”です。がんが浅ければある程度大きくても内視鏡で切除することが可能となり、当院では9cmの大腸がんを内視鏡で切除した実績もあります。
大腸がんが進行すると腸閉塞になることがあり、救急車で運ばれてくる方もいらっしゃいます。以前はこうした腸閉塞の方は緊急の外科手術が必要とされましたが、近年では大腸内視鏡を用いてステントと呼ばれる金属の筒を挿入する処置を行い、一時的に大腸の詰まりを解消することが可能となっています。症状が落ち着いてからあらためて手術をしますが、緊急の外科手術より人工肛門を避けられる可能性が高くなります。状況に応じて外科手術と内視鏡治療を選択するフレキシブルな対応は、消化器外科をはじめ他の診療科と密に連携を取り合っているからこそできています。
- 公開日:2024年4月25日