石川県金沢市の医療

高齢化により増える医療ニーズ――包括的な診療体制の整備が大切に

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高齢化により増える医療ニーズ
――包括的な診療体制の整備が大切に

石川県の人口は約110万人(2024年2月時点)で、能登北部、能登中部、石川中央、南加賀の4つの医療圏に分かれています。能登北部は医療需要が減少する一方、石川中央は医療需要の増加が見込まれており、地域によって状況は異なります。2024年1月1日に能登半島地震によって能登地区の医療は大きな打撃を受け、現在は少しずつ立ち直りつつあります。しかし、被災前から続いていた人口減少の傾向は変わっておらず、金沢市も人口は横ばいですが、少子高齢化が進行しています。
高齢化により増える病気の1つに骨粗鬆症があります。高齢になるとささいなことで骨折につながり、それまで歩けていた方が少し転んだだけで骨折し、そこから日常生活動作(ADL)が低下してしまうことがあります。また、糖尿病に関しても高齢の方は、重症な低血糖になりやすいなどの特徴があります。いずれも検診などで早期に発見し、適切な治療を開始することが重要です。人口減少が進む中でも、高齢化によって増加する病気の医療ニーズに応えるため、石川県ではさまざまな病気に対する包括的な診療体制の整備が求められていくでしょう。

石川県金沢市の医療を支える
浅ノ川総合病院

急性期から在宅まで地域の医療を守り支える

急性期から在宅まで
地域の医療を守り支える

当院は金沢市の北東部に位置しており、救急医療も含めた“ケアミックス型病院”として地域医療に貢献してまいりました。急性期を脱したものの、療養が必要な方向けの“地域包括ケア病棟”や長期にわたって療養が必要な方の“医療療養病床”のほか、人工呼吸器を装着した患者さんのための“人工呼吸センター”などを擁しています。併設の訪問看護ステーションを活用し、在宅での生活の支援も行っています。
私たちの“浅ノ川病院グループ”は5つの病院で構成されています。心臓血管疾患を専門とした“心臓血管センター金沢循環器病院”、脳神経疾患を専門とした“金沢脳神経外科病院”、精神科に特化した“桜ヶ丘病院”、療養型病院の“千木病院”などです。このように、急性期医療から始まり、回復期、慢性期、そして在宅まで、グループ全体で一貫した医療を提供しています。

少しでも不安を和らげられるように――よりよい治療を追求する

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少しでも不安を和らげられるように――よりよい治療を追求する

当院は治療面において“救急医療”“がん医療”“生活習慣病治療”を3本柱としており、治療の選択肢の広さが強みです。
たとえば脳卒中に対する“t-PA静注療法”や“血栓回収療法”などの血管内治療が可能です。脳腫瘍に対しては“ガンマナイフ”という頭部専用放射線治療装置を備えています。がん医療では、手術、化学療法をはじめ放射線治療装置“リニアック”や“高気圧酸素療法”、“温熱療法(ハイパーサーミア)”といった多様な治療に対応しています。
当院では“患者さんとそのご家族に寄り添う医療”を職員全員で心がけています。特にご高齢の方は体調に変化を感じたら、どうか1人で抱え込まず、お早めに私たちにご相談ください。早期に受診していただくことが、健やかな生活を長く続けるための第一歩です。ぜひご来院いただければと思います。

医師プロフィール

浅ノ川総合病院における
糖尿病・椎体骨折・
鼠径ヘルニアの治療

糖尿病の治療

放置するとリスクが高まる――重症化の前に糖尿病専門医*に相談を

放置するとリスクが高まる――重症化の前に糖尿病専門医*に相談を

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“糖尿病”という病名から、文字のとおり“尿に糖が出る病気”と捉える患者さんが多いのですが、本質は血液の中の糖分(血糖)が増える病気です。膵臓すいぞうから分泌されるインスリンというホルモンの分泌が不足したり、十分に働かなくなったりすることで、血液中に取り込まれた糖分がエネルギーとして使われず、血液中の糖が増えることで発症します。
糖尿病は放置すると血管の老化が進み、脳梗塞のうこうそくや心筋梗塞のリスクが高まります。また、腎臓病や心臓病などの合併症を引き起こすこともあります。こうした兆候を早期に発見し、重症化する前から適切な治療介入を行うためにも健康診断などで血糖値の高さを指摘されたら早めに日本糖尿病学会が認定する糖尿病専門医にご相談いただければと思います。
当院は紹介状をお持ちの患者さんが多いですが、そうではない患者さんも診察します。治療後は地域の先生とも連携しながら、何かあったときには当院が責任を持って対応するという形で、継続的にサポートさせていただきます。

日本糖尿病学会認定

“幸せに長く生きる”を目標にライフスタイルや価値観に合わせた治療法を提案

糖尿病治療の最終的な目標は、“糖尿病がない人と変わらない生活の質 (QOL)と寿命を実現すること”であると、日本糖尿病学会の診療ガイドラインでも定められています。当院でもただ血糖値を下げるだけでなく、患者さんに生きがいや楽しみを持って幸せに長く生きていただくことを目指しています。

“幸せに長く生きる”を目標にライフスタイルや価値観に合わせた治療法を提案

たとえば、食べることが好きな方に極端な食事制限を強いると、QOLは下がってしまいます。患者さん一人ひとりのライフスタイルや価値観、体の状態を総合的に判断しながら“10年後に何をしていたいか”といった将来の希望までお伺いしたうえで、よりよい治療法を考えます。
血糖値の上昇や肥満、高血圧の背景には、甲状腺や副腎などのホルモン異常が原因となっているケースが少なくありません。当院の“糖尿病内分泌センター”には日本内分泌学会認定の内分泌代謝科専門医が在籍しており、糖尿病だけでなく、その背景にある病気まで発見し治療できる体制が整っていることも強みの1つです。
また、多職種による“チーム医療”も充実しています。専門知識を持つ糖尿病看護認定看護師*による“糖尿病看護外来”では、合併症予防のためのフットケアや腎症予防指導などを受けながら、治療の悩みや不安なことを気軽にご相談いただけます。治療における管理栄養士による指導は患者さんの食生活や好みを尊重し、「これをしなさい」と押し付けるのではなく、無理なく続けられるアドバイスを心がけています。

日本看護協会認定

70点、80点の頑張りでも大丈夫――まずは気軽に相談を

糖尿病は自覚症状がないことが多くあります。健康診断で血糖値の高さを指摘されても、つい受診を先延ばしにしてしまいがちです。ですが、早くから治療を始めることでその後の人生が大きく変わる可能性があります。10年後、20年後のご自身の幸せのためにも、ぜひ一度受診をしていただきたいです。まずはご自身の体の状態を知る第一歩として、健康診断を受けていただき、異常が見つかれば、その結果を持っていつでもご相談いただけるとうれしいです。

70点、80点の頑張りでも大丈夫――まずは気軽に相談を

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「病院に行ったら、厳しいことを言われて好きなものが食べられなくなるのでは」と心配されるかもしれませんが、私たちは患者さんの楽しみやこだわりを最大限尊重し、無理に治療を強制することはありません。100点満点ではなく、70点、80点の頑張りでも大丈夫です。怖がらずに、ぜひお気軽に受診いただければと思います。

解説医師プロフィール

椎体骨折の治療

加齢により増える骨粗鬆症――ささいなきっかけで起こる骨折に注意

椎体骨折ついたいこっせつは背骨の椎体と呼ばれる部分がつぶれるように折れてしまう骨折です。骨の強度が低下する骨粗鬆症こつそしょうしょうに起因して生じる“骨粗鬆症性椎体骨折”が多くなっています。

加齢により増える骨粗鬆症――ささいなきっかけで起こる骨折に注意

骨粗鬆症は骨がもろくなる病気で高齢の方、特に女性に多く見られます。患者さんご自身では気付きにくい病気のため、診断や治療を受けていない方が多いのが現状です。
骨折は転倒など強い衝撃が原因だと思われがちですが、骨粗鬆症にかかると骨が折れやすくなるので、転倒せずとも、重い物を持つ、くしゃみをする、勢いよく座るなどの“ちょっとしたきっかけ”で骨折してしまうことがあります。背骨は24個の小さな骨で構成されており、一部分の骨折を放置してしまうと次々と背骨が折れてしまうことがあります。治療が遅れると車椅子が必要になったり、寝たきりになったりする場合もあるため、早期に受診する意識がなにより重要です。痛みが気になる方はぜひ一度お気軽にご相談ください。

早期の痛み軽減を目指す低侵襲なBKP治療を実施

椎体骨折の治療法は、コルセットで固定する保存療法と手術による外科的療法があります。
保存療法を行っても改善が見込めないと考えられる場合には手術を検討します。現在では体への負担が少ない低侵襲ていしんしゅうな手術が増えています。

早期の痛み軽減を目指す低侵襲なBKP治療を実施

当院は外科的療法の1つである経皮的椎体形成術けいひてきついたいけいせいじゅつの一種であるBKP(Balloon Kyphoplasty:バルーン椎体形成術)を実施しています。早期に痛みを軽減し、元の生活に戻ることを目的として行われることが多い治療です。
手術は椎体に専用の穿刺針せんししんでバルーン状の機器を入れて空間をつくり、そこに骨セメントを充填させて固定します。背中を約5mmずつ2か所切開して行う低侵襲な手術で、時間は30分程度で済みます。手術の翌日からはコルセットを装着して離床も可能です。

チーム医療で二次骨折を防ぐ――治療後のQOL維持をサポート

一度骨折した患者さんは二次骨折のリスクが非常に高いため、当院では治療を受けた患者さんの次の骨折を未然に防ぐことにも力を入れています。医師や薬剤師、看護師、理学療法士らが各職種の強みを生かして連携するチーム“骨折リエゾンサービス(FLS)”を結成し、薬物治療の管理、リハビリテーションなどさまざまな視点から転倒予防を実践しています。
当院の骨粗鬆症の検査は骨密度測定だけでなく、背骨のX線検査まで行い、骨折や変形が起きていないかを丁寧に調べています。背中や腰の痛みがあったり、腰の曲がりが気になったりする場合は、ぜひ早めにご相談ください。早期診断から治療、そして治療後の生活の質(QOL)の維持まで、最大限サポートさせていただきます。人生100年時代となった今、一人でも多くの方に健康寿命を1日でも長く延ばしてほしいと願っています。

解説医師プロフィール

鼠径ヘルニアの治療

初期は症状がないことも――進行する前に受診を

鼠径部そけいぶ”とは足の付け根の部分を指し、“ヘルニア”は体の組織が正しい位置からはみ出した状態のことをいいます。“鼠径ヘルニア”は本来ならお腹の中にあるべき腹膜や腸の一部が、鼠径部の筋膜の隙間から皮膚の下に出てくる病気です。一般的には「脱腸」とも呼ばれます。成人鼠径ヘルニアの場合、加齢により鼠径部の筋膜などが徐々に弱くなることなどが原因と考えられています。重たい物を持ち上げることが多い方、立ち仕事の方、便秘症の方などは筋膜が弱くなりやすいため注意が必要です。

初期は症状がないことも――進行する前に受診を

初期の頃は立っているときやお腹に力を入れたときに鼠径部の皮膚の下に柔らかいふくらみが現れますが、指で押さえると引っ込みます。このように初期は症状が少なく、また恥ずかしさもあってか、受診を先延ばしにしてしまう患者さんが多くいらっしゃいます。しかし、病状が進行すると日常生活に支障をもたらすだけでなく、嵌頓かんとんという命に関わる状態になることもあります。これは、ふくらみが急に硬くなり押さえても引っ込まなくなった状態で、腹痛や嘔吐などの症状が現れます。腸閉塞やはまり込んだ腸管の壊死えしにつながることがあり、急いで手術をする必要があります。このような状態になる前に早めに病院を受診することが大切です。

1995年に腹腔鏡下手術を開始――低侵襲な治療に尽力

当院を受診いただいた際にはまずは症状の経過を詳しくお伺いし、腹部の視診や触診で鼠径ヘルニアの状態を詳しく調べます。超音波やCT検査を行うこともあります。

1995年に腹腔鏡下手術を開始――低侵襲な治療に尽力

鼠径ヘルニアは手術が唯一の治療法です。当院では以前から鼠径ヘルニアの診療に力を入れており、1995年には腹腔鏡下手術を導入して積極的に治療を行ってきました。手術は腹腔鏡(ふくくうきょう)による手術と前方アプローチによる手術の2つがあります。
腹腔鏡下手術は全身麻酔下で、お腹の中を観察する腹腔鏡によって映し出された画像を見ながら、細い手術器具を用いてお腹を大きく切開せずに行う方法です。当院ではおへそに1cm、左右側腹部に5mmずつの計3つの穴で手術を行います。お腹の中から見るとヘルニアの部分は腹壁に穴が開いていて(ヘルニア門)、腹膜ごと外側に飛び出している様子が見えます。このヘルニア門の周りにスペースを作り、メッシュという大きなシート状の人工物を留置してヘルニア門を覆います。鼠径部にはヘルニアになりやすい場所が3か所ありますが、これら全てをカバーできるため再発の可能性を低く抑えることができます。前方からのアプローチによる手術法に比べて傷が小さいため、痛みが少なく、入院期間も短く済むことがメリットです。腹腔内から観察するとヘルニアの状態をはっきりと診断できますので術前に分かりにくかった反対側のヘルニアを診断し、両側の鼠径ヘルニアを同時に手術することも可能です。

1995年に腹腔鏡下手術を開始――低侵襲な治療に尽力

前方アプローチによる手術は、鼠径部の皮膚を切開して前方からヘルニアを修復する方法です。心肺機能が悪く全身麻酔が不可能な場合や、過去の腹部手術により腹腔鏡下手術が困難な場合に適応となります。4~5cmの皮膚切開で手術を行い、ヘルニア門を含めた鼠径部全体にメッシュを留置して補強します。 2012年9月には鼠径ヘルニア外来を開設し、さらに力を入れて治療に取り組んでいます。手術については合併症をできる限り少なくできるよう常に努力していますので、鼠径部の違和感や気になる症状があるときはぜひお早めに当院を受診いただきたいと思います。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年9月24日
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