北海道における
消化器がんの医療

喫煙に関連するがんの罹患率が全国平均を上回る――早期発見・早期治療が重要

写真:PIXTA

喫煙に関連するがんの罹患率が全国平均を上回る――早期発見・早期治療が重要

北海道は全国の他地域と比べて、肺がんや大腸がん、膵臓がんといったがんの罹患率が高い傾向にあります*。北海道は喫煙率が全国平均より高く、これらのがんは喫煙との因果関係が指摘されています。また、がんは高齢になるほど罹患する割合が高くなる傾向があります。札幌市では、高齢化が年々進行しており、それに伴って高齢者のがんも増加傾向にあります。
一方で医療技術の進歩により、早期治療によるがん生存率は高まっています。札幌市では今後想定されるがん患者さんの増加に対応するため、早期発見・早期治療に向けた検診の普及啓発などを進めています。医療機関においても増加するがん患者さんに対応し、安心してがん診療を受けられる体制の構築が求められていくでしょう。

北海道がん登録 2020 年報告書、部位別年齢調整罹患率(人口 10 万対)より

北海道の消化器疾患の医療を支える
北海道消化器科病院

内科・外科が密に連携――幅広い治療を提供

内科・外科が密に連携
――幅広い治療を提供

当院は、消化器を専門とする病院として1988年の開院から、一貫して消化器疾患の診療にあたってまいりました。診断から治療までを完結できるようにとの思いで、当初から内科・外科を併設しており、診療科間の垣根が非常に低いのが特徴です。そのため、手術の適応やタイミングなどについて、常に密に相談できる体制が整っています。質の高い医療の提供を目指して、設備への投資にも力を入れています。CTやPET-CTはもちろん、手術支援ロボット“hinotoriヒノトリ”も導入しております。人の手の可動域を超えて動かせるロボットアームにより、緻密な手術が可能になりました。
消化器がんの治療においては、外科的治療、内視鏡治療、化学療法、および放射線治療まで幅広い選択肢を提供しています。さらに緩和ケア内科を併設し、終末期まで幅広く対応できる体制を整えています。また、がん以外にも、胆石症や鼠径ヘルニア、肛門疾患こうもんしっかんなど、消化器に関する一般的な病気にも対応しています。
お腹のことで何か気になる症状があれば、どんなことでも構いませんのでまずはご相談いただければと思います。患者さんに「当院を受診してよかった」と思っていただける病院を目指して、職員一丸となってこれからも努力してまいります。

理事長プロフィール

北海道消化器科病院における
大腸がん・胃がん・膵臓がん・
胆石症/胆嚢炎の治療

大腸がんの治療

早期発見のため積極的に検査受診を――苦痛の少ない検査を目指す

大腸がんは男女合わせたがん罹患数の全体のうち最も割合が高いがん(2019年時点)で、近年も増加傾向にあります。一方で、検査や治療の進歩もあり、高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率は緩やかに減少しています。大腸がんは早期に発見できれば5年相対生存率*は95%以上(2022年時点)となっていますが、早期の段階では症状がほとんどありません。このため、中年期以降の方は便潜血検査や内視鏡検査をぜひ積極的に受けていただきたいです。特に腹痛、出血、便通異常などの症状がある方は、速やかに検査を受けていただくことが早期発見につながります。

早期発見のため積極的に検査受診を――苦痛の少ない検査を目指す

内視鏡検査はどうしても抵抗がある方が大半だと思います。当院では鎮静薬を使用することで、うとうとしている間に検査を済ませられるようにするなど、苦痛の少ない検査を目指しています。当院では大腸CT検査も実施しています。ポリープなどが見つかった場合は改めて内視鏡治療を行う必要はありますが、検査自体は腸に空気を入れてCT撮影を行うのみで終了しますので、内視鏡検査に抵抗がある方はぜひご相談ください。

*
5年相対生存率:ある病気(がん)の診断から5年後に生存している人の割合を表す指標

内視鏡治療とロボット支援下手術で負担の少ない治療を提供

がんが粘膜の中にとどまっている早期の大腸がんであれば、お腹を切ることなく、内視鏡を使ってがんを切除する“内視鏡的粘膜下層剥離術ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ(ESD)が可能です。開腹手術と比較して体への負担が少なく、入院期間も短く済むのが大きな利点です。しかし、ESDは、出血や穿孔せんこう(腸に穴が開くこと)などの万が一の事態に備え、迅速に対応できる外科のバックアップ体制が不可欠です。当院は消化器を専門とする病院であり、内科と外科が密に連携することで安全性を高めた治療の体制を整えています。

内視鏡治療とロボット支援下手術で負担の少ない治療を提供

内視鏡治療が難しい場合には、手術が必要になります。当院では、お腹に穴を開けて内視鏡や鉗子かんしを挿入して行う腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつを実施しています。2024年には、国産の手術支援ロボット“hinotori”を導入しました。ロボット支援下手術も、腹腔鏡下手術と同じくお腹を切開する開腹手術よりも小さな傷で行う手術です。従来の腹腔鏡下手術で使う鉗子はまっすぐな棒状のため動きに制限がありましたが、ロボットのアームの先端は人間の手首のようになめらかに、人の手の可動域を超えて動かせるため、緻密な操作が可能になりました。
この利点が最も発揮されるのが、骨盤の奥深くにある直腸がんの手術です。直腸の周りには、排尿や性機能に関わる大切な神経がたくさんあります。ロボット支援下手術では、安定した操作でがんの切除と神経の温存の両立が期待できます。また、肛門温存手術である括約筋間直腸切除を積極的に行っています。肛門温存についてもご相談ください。
大腸がんは、早期に発見できれば決して怖い病気ではありません。気になる症状があれば、どうか1人で悩まず、お気軽にご相談ください。早期から進行がんまで、責任を持って一貫した治療を提供いたします。

解説医師プロフィール

胃がんの治療

“食道胃接合部がん”が増加傾向――症状がなくても必ず検診を
早期がんではESDで高率に治癒

“食道胃接合部がん”が増加傾向――症状がなくても必ず検診を

近年、ピロリ菌の検査や治療が進んだことで、胃がんになる方は少しずつ減ってきています。しかし、一度でもピロリ菌に感染したことがある方は、そうでない方に比べて胃がんのリスクが高くなります。また、もう1つ知っておいていただきたいのが、食道と胃のつなぎ目あたりにできる“食道胃接合部がん”です。これは胃酸が食道に逆流して胸やけなどの症状が起こる“逆流性食道炎”と関係があると考えられており、近年増加傾向にあります。胃がんは早期段階では自覚症状がほとんどないため、早期発見のためには検診をきちんと受けることが大切です。
当院では胃がんを早期の段階で発見すべく、微細な血管を観察可能な高精細内視鏡システムを導入し、拡大観察と画像強調内視鏡による微小がんの拾い上げに力を入れています。早期胃がんに対しては内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)による切除を行っています。従来の切除方法では病変の大きさに制限がありましたが、ESDは特殊な電気メスを使用して病変の周囲を切開して粘膜下層を剥がしていくことで、ほとんどの病変で一括切除が可能になりました。
ESDは従来の治療と比較して難易度の高い手技であることから、十分な訓練と経験を持った医師が治療することが大切です。当院では日本消化器内視鏡学会が認定する指導医・専門医が中心となり、安全性に配慮した治療を行っています。

腹腔鏡や手術支援ロボットにより負担の少ない手術を提供

手術の際、当院は患者さんの体の負担をできるだけ軽くする低侵襲手術ていしんしゅうしゅじゅつに力を入れています。具体的には、お腹に穴を開けて行う“腹腔鏡下手術”や“ロボット支援下手術”です。

腹腔鏡や手術支援ロボットにより負担の少ない手術を提供――空腸パウチ再建も実施腹腔鏡や手術支援ロボットにより負担の少ない手術を提供――空腸パウチ再建も実施

北海道消化器科病院の手術支援ロボット“hinotori(ヒノトリ)”

ロボットと聞くと、ロボットが全自動で手術をするイメージを持たれるかもしれませんが、実際は医師がロボットアームを操作して行います。ロボットは人の手のように滑らかで精密な動きができ、手ぶれを防止する機能もあります。開腹手術と比較して丁寧にがんを取り除くことが可能なため、手術中の出血も少なくなります。これにより合併症の発生も少なくなるという報告もあります。

全摘後も食べ物をためられるようにする“空腸くうちょうパウチ再建”を実施

胃がんの手術で胃を全て摘出する胃全摘術を受けると、多くの方が「食事が一度にたくさん食べられない」といった悩みを抱えます。当院では、患者さんの術後の生活を少しでも豊かにするために、“空腸くうちょうパウチ再建”という手術を積極的に行います。

腹腔鏡や手術支援ロボットにより負担の少ない手術を提供――空腸パウチ再建も実施

これは、ご自身の腸(空腸)を使って胃の代わりとなる袋(パウチ)を作り、食道とつなぐ方法です。この“新しい胃袋”があることで、食べ物を一時的にためる場所ができ、ある程度の量を一度に食べることが可能になります。また、急に食べ物が腸に流れることで起こる下痢や腹痛といった“ダンピング症状”や、食べ物の逆流も起こりにくくなるという利点があります。
胃がんの手術は、がんを取り除いて終わりではありません。当院では、手術後にできるだけ元の生活に近い形で不自由なく過ごせるように、栄養指導などを含めてチーム全体でサポートしていくことを大切にしています。どうか1人で悩まず、まずは私たちにご相談ください。

腹腔鏡や手術支援ロボットにより負担の少ない手術を提供――空腸パウチ再建も実施

新規薬剤による薬物療法で予後・生活の質(QOL)を改善

進行胃がんに対する薬物療法における新たな治療薬としては、免疫チェックポイント阻害薬の適応が拡大され、切除できないほどに進行した胃がんの治療において使用が可能になりました。免疫チェックポイント阻害薬は免疫の力を用いてがん細胞を攻撃する治療法です。がんの三大治療として“手術”“薬物療法”“放射線治療”が挙げられますが、免疫チェックポイント阻害薬は“薬物療法”の一つとして、生存期間と疼痛とうつうなどの症状を改善するエビデンス(科学的根拠)があります。当院ではがん薬物療法専門医*や外来がん治療認定薬剤師**などスタッフ体制の充実を図ったうえで実施しております。ぜひ頼りにしていただければと思います。

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がん薬物療法専門医:日本臨床腫瘍学会が認定
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外来がん治療認定薬剤師:日本臨床腫瘍薬学会が認定
解説医師プロフィール

膵臓がんの治療

内科と外科が連携し診断から治療までをスムーズに進める

膵臓すいぞうは胃の裏側にあり、体の中心の奥深くに位置する臓器です。膵臓がんは初期段階に症状が出にくく、早期発見が非常に難しいという特徴があります。特に糖尿病の方はリスクが高いとされていますので注意が必要です。急に血糖値が変動し、糖尿病が悪化したような場合には膵臓がんの可能性がありますので、受診のうえ検査を受けていただくことをおすすめします。
膵臓がんは進行が速いこともあり、診断から治療までを迅速に進めることが大切です。当院の強みは、診断を行う内科と治療を担当する外科の垣根が低く、風通しがよいことです。それぞれの視点を交えながら、患者さん一人ひとりにどのような治療選択肢があるかをカンファレンスで丁寧に検討していきます。消化器を専門とする病院だからこそのフットワークの軽さで、診断から治療方針の決定までをスムーズに進める体制が整っています。

開腹手術と腹腔鏡下手術を慎重に見極め――根治性と体の負担軽減を追求

開腹手術と腹腔鏡下手術を慎重に見極め――根治性と体の負担軽減を追求

手術が可能な場合には、がんを確実に取り切ること(根治性)を最優先に考えます。特に、膵臓の頭側(膵頭部)にできたがんに対する“膵頭十二指腸切除術”は、非常に複雑で長時間に及ぶ手術です。そのため当院では、安全性と確実性を第一に考え、開腹手術を選択しています。
一方で、膵臓の尾側(膵体尾部)にできたがんの場合は、がんを過不足なく切除できると術前に判断できたときには、傷が小さく患者さんの負担が少ない腹腔鏡下手術を行うこともあります。腹腔鏡下手術のメリットは回復の速さです。実際に、腹腔鏡下手術を受けられた患者さんの中には、手術の翌日からご自身の足で歩かれるほどに回復される方もいらっしゃいます。
当院の手術は、日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医*が執刀するか、その指導の下で安全性を高めて行う体制を整えています。万が一のトラブルへの対応や術後の管理についても、チーム全体で習熟度を高く保つよう努めています。

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高度技能専門医:日本肝胆膵外科学会が認定する「高難度肝胆膵外科手術を安全に、かつ確実に行うことのできる外科医」のこと。

手術担当医師が補助化学療法まで担当――チームで患者さんをサポート

手術担当医師が補助化学療法まで担当――チームで患者さんをサポート

膵臓がん治療では、手術後に再発を防ぐための抗がん薬治療(補助化学療法)を行います。当院では、手術を担当した外科医が退院後の外来での抗がん薬治療も継続して担当します。同じ医師がずっと伴走しますので、どうぞご安心ください。また、治療に臨むには、体力や栄養状態を良好に保つことがとても重要です。当院では、入院中に筋力が落ちてしまった方に対して理学療法士がリハビリテーションを行い、筋力の回復をサポートします。管理栄養士による一人ひとりの状態に合わせた食事や栄養の取り方のアドバイスも実施しています。このように医師や看護師だけでなく、さまざまなスタッフがチームとなって患者さんを支えます。もし治療について不安や疑問があれば、ぜひ一度当院へご相談ください。

解説医師プロフィール

胆石症/胆嚢炎の治療

繰り返す食後の腹痛は要注意――不安があればエコー検査の受診を

“胆石症”は、胆石ができる場所によって胆嚢結石、総胆管結石、肝内結石の3つに分類され、最も多いのは胆嚢結石症です。胆汁に含まれるコレステロールやビリルビンといった成分が固まることが原因です。

繰り返す食後の腹痛は要注意――不安があればエコー検査の受診を

胆石症の治療対象は、原則として何らかの症状がある場合です。検診などで胆石が見つかっても無症状の場合は、基本的に経過観察となります。注意すべき症状は“胆石発作”(胆石が移動して胆嚢の出口に詰まることで、腹痛などが起こる)と呼ばれるものです。これは食後、特に脂っこいものを食べた後に、みぞおちや右の脇腹あたりに痛みが生じる症状です。痛みは我慢できないほど激しい場合もあれば、なんとなく重い感じや不快感が続くといった場合もあり、個人差があります。みぞおちの痛みは胃などの不調と間違えられやすいのですが、食後の腹痛が繰り返される場合は胆石症を疑うべきサインです。

繰り返す食後の腹痛は要注意――不安があればエコー検査の受診を

イラスト:PIXTA

また、胆石が詰まった状態が続き胆嚢に細菌が感染すると“胆嚢炎”を引き起こします。胆嚢炎は腹痛に加えて発熱や吐き気といった症状が現れます。治療せずに放置すると重症化し、命に関わることもあるため、速やかな治療が必要です。思い当たる症状がある場合には腹部超音波(エコー)検査を受け、胆石の状態を確認することをおすすめします。

負担の少ない腹腔鏡下手術から内科的な処置の胆嚢ドレナージ術まで対応

胆石症が疑われる際にはまず、胆石の有無を確認するために体に負担なく簡単にできるエコー検査を行います。その結果、手術が検討される場合は、CT検査で石の位置や炎症の広がりを詳細に確認します。MRIなども用いて胆管と胆嚢の位置関係の正確な把握に努めることで、より安全性を高めた手術計画を立てます。

負担の少ない腹腔鏡下手術から内科的な処置の胆嚢ドレナージ術まで対応

胆石症や胆嚢炎の根本的な治療は、外科的な手術(胆嚢摘出術)が基本となります。当院では全身麻酔が可能であれば、患者さんの体の負担が少ない腹腔鏡下手術を第一選択としています。日本内視鏡外科学会が認定する技術認定取得者*が執刀、またはその指導のもとで手術を行っており、高い技術レベルを担保できるよう努めています。
また、腹腔鏡下手術は入院期間が短いのも特徴です。開腹手術の場合、1週間程度の入院が必要になりますが、腹腔鏡下手術は当院では通常であれば手術前日に入院いただき、問題がなければ術後2日で退院が可能です(術前術後含めて最短4日での退院となります)。

負担の少ない腹腔鏡下手術から内科的な処置の胆嚢ドレナージ術まで対応

当院の内科ではご高齢の方や重い持病がある方など、急性胆嚢炎の緊急手術のリスクが高い患者さんに対しては、内科的な処置として“胆嚢ドレナージ術”を行うことが可能です。これは、内視鏡などを用いて胆嚢にたまった胆汁を体外へ排出し、炎症を抑える治療です。この治療は状態を安定させて外科的な手術につなげる“橋渡し”となります。このように外科と内科が密に連携し、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療を迅速に提供できるのが当院の強みです。
なお、手術で摘出した胆嚢を調べた結果、偶然に胆嚢がんが見つかることがまれにあります。その場合は追加の手術などが必要になりますが、当院ではそうした悪性腫瘍あくせいしゅように対する治療にも対応しています。胆石症の方、またはその疑いがある方はぜひ一度、当院にご相談ください。

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日本内視鏡外科学会が症例数や手術指導の業績などを基に認定する
解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年11月18日
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