函館医療センターの医療体制
函館市の人口減少と
医療需要の縮小がもたらす課題
函館市は、2020年から2050年の30年間で消滅可能性がある自治体とされており、人口が8万人にまで減少すると予測されている人口減少が顕著にみられる地域です。また、医療に関していえば、高齢者の人口減少とともに市内の病院の入院患者数も減少しています。患者数は今年がピークであるとされており、道内では札幌や旭川などの主要都市をのぞき、今後はがんや循環器を含めた全ての医療領域で患者数が減少していくという予測もあります。つまり、函館市を含む他の市では人口減少とともに医療需要も低下している状況です。逆に慢性期病床や訪問医療の供給が不足していることが目下の課題であり、今後どのように病院経営を続けていくかは医療機関にとって重要な問題となっています。
地域連携で函館市の医療を支える
独立行政法人国立病院機構
函館医療センター
名称変更でさらなる進化へ。函館医療センターが目指す地域貢献と持続可能な医療
当院では、2024年3月には手術支援ロボット「Da Vinci Xi」を導入し、消化器外科や呼吸器外科でのロボット支援手術を開始しています。消化器外科の食道がん手術の実績や乳腺領域の外科は当院の強みです。当院のそういった強みを生かしながら、地域の医療を支えるため、病病連携・病診連携・介護連携を深め、地域のニーズに応える医療サービスを提供していくことを目指しています。また、医療水準の向上や病院機能の充実に力を入れ、持続可能な経営を実現しながら、遠隔医療やDXを活用し、過疎地域でも質の高い医療を届けることに取り組んでいます。
当院の理念では、「患者さんに寄り添い、生涯にわたるウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)を実現するお手伝いをするため、力を尽くす」ということをお伝えしています。この理念の背景にあるのは、地域に求められる医療を提供し、患者さんに寄り添い、共に闘う存在でありたいという我々の願いです。2024年8月1日には、病院名を「函館病院」から「独立行政法人国立病院機構 函館医療センター」に変更しました。この変更が、当院が急性期治療に対応していること、そして患者さんにとって、より身近な存在であることを地域社会に認識していただく契機となることを期待しています。
函館医療センターの
乳がん・鼠径ヘルニア・
大腸がん・心筋梗塞の治療
乳がんの治療
増加する乳がん患者さんを早期発見することの重要性
乳がん患者さんは、2000年頃には25人に1人といわれていましたが、現在は8~9人に1人が乳がんにかかり、2020年には9万人以上の女性が発症しています。近年、働く女性が増え、結婚や出産を経てもキャリアを続けることが一般的になっています。仕事や子育てが忙しい中で乳がんは突然発症することがあります。また、コロナ禍で受診率が減り、その結果、進行した状態で診断される患者さんが増えている印象があります。乳がんの治療は、進行度が高くなるほど治療が難しくなるわけではありませんが、やはり早期に発見されるほうが望ましいです。特に、リンパ節に転移がないステージ1や2の段階での発見が重要です。
乳がん検査では、視診・触診に加え、マンモグラフィや超音波検査で病変の有無や広がりを確認します。乳がんの疑いがある場合は、病理検査で細胞や組織を調べ、がんの診断を確定します。また、MRIやCT、PET検査などでがんの広がりや転移を確認します。
乳がん治療には手術、放射線治療、薬物療法があり、治療方針はがんの進行度や性質、患者さんの体調を考慮して決定します。乳がんは手術で取り除くことが基本ですが、X線を照射して治療をする放射線治療も行っており、がん細胞を小さくしたり、死滅させたりするための治療として用います。
柔軟なサポート体制と心配りによる、患者さんに寄り添う乳がん治療
当院の乳がんにおける治療計画では、単に乳癌診療ガイドラインに従うだけではなく、患者さんの生活環境や家族の状況、仕事なども重視しています。特に、遠方から通院する患者さんにとって移動や通院の負担は大きな問題ですし、働き盛りの方であれば治療のために仕事を休む必要が出る場合もあります。治療選択においては、患者さんが仕事や生活と治療をどう両立するかも考慮したうえで、治療内容をご提案するようにしています。また、当院では、日本看護協会 がん化学療法看護認定看護師やがん性疼痛緩和の認定看護師、医療相談担当の看護師によるサポートも行っています。さらに、乳がんにかかわる技師が女性であるため、安心して診療を受けていただける環境を整えています(2024年10月時点)。
また、乳がんは現役世代である働き盛りの方たち、特に幼い子どもを持つ母親にも突然発症する可能性がある病気です。若い世代がリスクを抱えるため、定期的な検診が非常に重要です。当院では、検診は週2〜3回行っていますし、婦人科検診と併せて乳がん検査をできる日も設けられています。
自分で見つけられる乳がん早期発見のためのセルフチェックと定期検診を
乳がんの特徴は、ほかのがんと異なり、自分でしこりを見つけることができる点です。つまり、乳がんは「自分で見つけられるがん」になります。そのため、日頃から乳房の状態に関心を持ち、セルフチェックを行うことで早期発見が可能です。自分の乳房の状態を意識して生活してもらえたらと思います。そして何か少しでも異変を感じたら、すぐに医療機関へ行くようにしてください。国は40歳から2年に1回の乳がん検診を推奨していますが、早期発見が重要な病気ですので、できることなら2年といわず1年に1回の検診をおすすめします。
鼠径ヘルニアの治療
自然治癒は望めない鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは、お腹の壁(腹壁)が弱くなり、足の付け根(鼠径部)から内臓が飛び出た状態を指します。一般的に、「脱腸」とも呼ばれる病気として知られています。お腹の壁は皮膚、脂肪、筋膜、そして腹膜という薄い膜で構成されていますが、そのもっとも内側の腹膜が袋状になって飛び出してしまうことが特徴です。飛び出た患部によって発症を認識することが多いですが、患者さんの中には患部が飛び出ていなくても痛みのような違和感を覚える方もいます。まれに、飛び出た臓器が戻らず、血の巡りが悪くなってしまうことがあり、これを嵌頓といいます。臓器が腐る前に戻せれば待機的に手術となりますが、戻せなければ緊急手術となります。また、診断は問診や患部の視診、触診のほか、エコー検査やCT検査を行うこともあります。
鼠径ヘルニアは自然治癒が期待できず、治療法は手術が基本になります。手術には、前方切開法と腹腔鏡法の2つの方法があり、当院では腹腔鏡(TAPP法)を選択することが多いです。TAPP法は、お腹の中から腹膜を切開・剥離してヘルニアの穴をメッシュで覆い、再び腹膜を閉じる方法です。TAPP法の利点は、お腹の中からヘルニアの穴を直接確認でき、確実に修復できる点です。
小さなポートで痛みを軽減する鼠径ヘルニア治療
TAPP法は全身麻酔が必要なため、患者さん側のリスクファクターを考慮したうえで、治療法を検討しています。また、当院の腹腔鏡下手術では、アクセス用のポート(内視鏡や鉗子などの手術道具を挿入するための筒)は全て小さめの5mmの太さのものを使っています。小さなポートを使うことで、患者さんの痛みや瘢痕ヘルニアのリスクを減らせるという利点があります。
なお、ヘルニアに関しては出血や感染などの合併症のリスクはかなり低いといえます。しかし、再発と神経性疼痛のリスクには注意しなければいけません。
気になることがあれば、ためらうことなく医療機関の受診を
鼠径ヘルニアは重大な病気というわけではないため、気軽に受診していただければと思います。当院ではヘルニア外来を設けておりますので、ご相談いただければお話をすることができます。鼠径部に腫れがみられるなど、何か気になることがあったらぜひお問い合わせください。
大腸ポリープ(大腸がん)の治療
40歳代から発症リスクが増加――大腸がんの早期発見と定期検診の重要性
大腸ポリープは、大腸の内側にできる隆起物のことで、良性も悪性も含まれます。多くは「腺腫」と呼ばれる前がん状態のもの(腺腫性ポリープ)です。大腸がんの危険因子としては、加齢 年齢(50歳以上)、大腸がんの家族歴、高カロリー摂取および肥満、過量のアルコール、喫煙などが挙げられますが、大腸に発生する悪性腫瘍である大腸がんはこの腺腫性ポリープから発生することが多いです。ポリープが10mm以上になるとがん化するリスクが高まるため、定期的な便潜血検査やポリープの早期切除が推奨されます。大腸がんのリスクは40歳代から増えるので、早めの検診が重要です。大腸にポリープができても通常早期の段階ではほぼ無症状です。たとえば便が細くなったり、体重が減り始めたり、便に血が混じるなどの体の変化を感じたら受診していただきたいですし、症状がなくても定期的な検査をしていただくことをおすすめします。
内視鏡治療とロボット支援下手術による適切な治療アプローチ
大腸がんの検査方法としては、まずは大腸内視鏡検査を受けていただき、もしポリープが見つかった場合は内視鏡治療を行います。腺腫性大腸ポリープを内視鏡で切除することで、大腸がんの発生および死亡率を減少させることができると報告されており、発見した全すべての腺腫性ポリープを取り除くこと「クリーンコロン」を方針としています。たとえば、10mm未満のポリープは、高周波電流を使わずに切除する「Cold Forceps Polypectomy(CFP)」という方法が行われます。当院では、10mmから20mmの腺腫やがんの疑いがある場合には「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」、20mm以上で一括切除が難しい場合は「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という高周波ナイフを用いた方法で切除します。粘膜内や粘膜下にがんが広がっている場合には、外科手術が必要になります。
外科手術では、腹腔鏡下手術が広く受け入れられています。腹腔鏡下手術は腹部を大きく切開する開腹手術に比べ、手術時間は長くなる一方、傷が小さいため術後の痛みが少なく、出血量も少なく、早期回復が可能な手術で、当院でも大腸がんに対する腹腔鏡下手術を積極的に行っています。2023年は大腸がん切除のほぼ全例を腹腔鏡下手術で行いました。
一方で従来の腹腔鏡下手術では、直線的な器具による操作の制限や操作者の手ブレなどの弱点も指摘されていましたが、当院ではこれらの弱点を克服し、利点をさらに進化させた手術法であるda Vinci (ダビンチ) Xiによるロボット支援下手術を導入しています。
ロボット支援下手術は関節のある器具を用いることで手術操作の自由度が高く、精細な3Dハイビジョンカメラ、手ブレ防止機能などを活用してより精密な手術を行うことができます。ロボット支援下手術は腹腔鏡下手術に比べ、開腹手術への移行が少ないこと、泌尿生殖機能の温存に優れること、術後の合併症リスクが低いことなどのメリットが挙げられいて、それらによって早期の社会復帰が期待できます。
また、進行直腸がんでは周囲へのがんの拡がりによる術後の局所再発が問題となっていますが、当院では放射線科と連携して術前に化学放射線治療を行い、がんの拡がりを小さくすることで、手術後の局所再発リスクの低下や肛門をできるだけ温存できるように努めています。
早期発見のためにも40歳以上の方はまずは検査を
便潜血検査を用いた大腸がん検診を受けること、大腸内視鏡検査により腺腫性ポリープを発見し切除することが大腸がん予防につながります。特に、がんの発症が始まりやすい50歳以上の方には1回でも大腸検査を受けていただきたいです。当院では、鎮静剤を使って眠った状態での検査や、細長いカメラを使った痛みの少ない内視鏡検査など、複数の検査の選択肢を用意しています。柔軟な対応で、安全と苦痛に配慮した検査を提供しています。
心筋梗塞の治療
突然死に至る可能性もある恐ろしい心筋梗塞
心筋梗塞は、心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈の動脈硬化が進行し、プラーク(冠動脈の内側の壁にたまった脂肪などの塊)が破裂してできる血栓(血管のなかにできた血の塊)によって冠動脈が詰まることで心臓の筋肉(心筋)が壊死していく病気です。心筋梗塞の典型的な症状には、胸の圧迫感や痛みがありますが、顎や、肩から腕にかけて痛みを感じることもあります。特に高齢者や糖尿病をお持ちの方は痛み感じにくいことがあり、たとえば吐き気や体のだるさといった症状でも実は心筋梗塞を起こしているという場合もあります。痛みの性状が典型的でない場合や、軽い症状でも重篤なケースがあるため、注意が必要です。
また、心筋梗塞のリスクは、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などの要因によって高まります。これらは、動脈硬化のリスクを高める要因とされているものです。動脈硬化が進行すると、狭心症、脳卒中、末梢動脈疾患などの病気を引き起こす可能性があります。そのため、心筋梗塞の発症リスクを減らすためにも、これらの病気のある方は適切な治療が必要になってきます。
専門スタッフによる24時間体制と地域医療と連携した迅速な診療体制
当院では、最新の設備と24時間体制の専門スタッフで緊急の患者さんに対応しているほか、心筋梗塞と診断されるか疑われた場合は緊急で冠動脈造影検査を実施し、原因となった冠動脈の病変に対してprimary PCI(心電図でST上昇を伴うST上昇型心筋梗塞(STEM)に対する再灌流治療において、血栓溶解薬を使った血栓溶解療法を行わず、最初からカテーテルを用いた経皮的冠動脈形成術(PCI)を選択すること)を行い、迅速に血流を再開させるための体制を整えています。また、ロスタイムをなくし、迅速に治療を進めるため、当院では「断らない医療」を目視しています。その一環として、地域の先生方や救急隊からの診療要請に対してはすぐに対応できるよう、私の携帯電話に直接連絡が入るようにしています。函館の広大な医療圏では、緊急カテーテル治療が可能な施設は当院も含め市内に集中しており、救急医療体制の強化や地域医療機関との連携が非常に重要です。一部の病院には循環器ホットラインが設置され、心筋梗塞や心臓血管病全般の相談に直接対応する体制が整っていますし、当院は道南ドクターヘリの連携病院の1つとなっているため、道南ドクターヘリとも連携し、遠隔地域の患者さんも搬送して治療できるようにしています。
心筋梗塞と似た症状の病気は多く、誤診すると治療が遅れ、治療機会を失う恐れがあります。そのため、患者さんの訴えをよく聞き、身体所見やバイタルサインを見極める、丁寧な診療を心がけるようにしています。基本的な診療を丁寧に行うためには、豊富な経験と知識は必須です。また、どの医師にかかっても同じ水準の治療が受けられる標準治療を実現するためにも、当院では若い医師や研修医、医学生への教育に力を入れています。
心臓と血管に関わる病気に幅広く対応――気になる症状が出たら早めの受診を
当院では、心筋梗塞をはじめ、心臓と血管に関わる幅広い病気疾患に対応しています。特に高齢者の心臓血管病が増加しているため、低侵襲治療やリハビリテーションに注力しています。カテーテル治療に特化し、さまざまなインターベンション治療(カテーテルを用いた血管内治療)における実績があるほか、和温療法などの特徴的な治療も実施しています。また、外科手術が必要な患者さんには、心臓血管外科やメディカルスタッフとで構築された「ハートチーム」で治療法を検討し、他病院との連携も行いながら適切な治療にあたっています。
心筋梗塞は、胸の痛みや苦しさがある場合、症状が一時的に治まっても早めに受診することが重要です。症状が続く場合は救急車を呼んで受診することをお勧めします。また、薬を服用している方は、自己判断で中止しないことも大切です。
- 公開日:2024年11月29日