沖縄県北部の医療

平均寿命の低下が課題とされる沖縄県――健康寿命の延伸を達成するために

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平均寿命の低下が課題とされる沖縄県――健康寿命の延伸を達成するために

かつては長寿県といわれてきた沖縄県の平均寿命は、2020年の全国順位で男性43位、女性16位と下がる一方です。死因は悪性新生物(がん)や心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病が上位を占め、これらの発症・重症化を予防するためにはリスクの1つとなる“肥満”を改善する必要があるといわれています。肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態をいい、体格指数(Body Mass Index:BMI)が25以上の場合を指します。沖縄県では、40~69歳の“BMIが25以上の方”の割合が男女ともに増加傾向にあるのが現状です。2020年においては男性の49.2%(全国平均37.9%)、女性の31.7%(全国平均21.6%)がこの基準に該当するとされており、全国平均に比べても高い割合となっています。
こうした状況を踏まえ、沖縄県では県民健康づくり運動を推進するため“健康おきなわ21(第3次)”を策定。重点的に取り組む事項として、肥満の改善(適正体重を維持している県民の増加)を挙げ、対策に乗り出しています。

沖縄県北部の医療を支える
北部地区医師会病院

“主役”の患者さんにチーム医療を届ける

“主役”の患者さんにチーム医療を届ける

北部医師会病院は、北部地区の中心、名護市に位置する中規模の急性期病院です。高度な医療機関を求め遠方の病院を受診する北部地域の方々の精神的・経済的な負担を軽減すべく、1991年に開設されました。診療の主な柱としては、生活習慣病診療、救急、がん診療、健康診断を行っています。医師会立の病院ですので、地域の診療所の後方支援という役割も担っています。
当院の特徴は院長室も医局もないことです。1つの部屋に全診療科の医師が集まり、診療科を超えて医師同士がなんでも話し合える環境があります。私は医療の主役は患者さんであると考えてきました。当院はこれからも、地域に暮らすみなさまを主役にした医療の提供に努め、患者さんの気持ちに寄り添う医療を実践してまいります。

院長プロフィール

北部地区医師会病院における
肥満症治療

肥満症について

肥満症とは――BMIが25以上、かつ肥満が健康に影響している状態

肥満という言葉をよく聞きますが、医学的には肥満と肥満症は異なるものです。BMIが25以上の場合に肥満と分類されますが、25以上だからといって必ずしも医学的な介入が必要なわけではありません。BMIは身長と体重の値から算出されるものですので、たとえばアスリートなど筋肉量の多さから体重が重くなり、BMIが25を超える方もいらっしゃいます。BMIが25を超えていても、体脂肪量が過剰でなく、健康に影響を与えていない場合は治療の対象とはなりません。

肥満症とは――BMIが25以上、かつ肥満が健康に影響している状態

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これに対し、治療の対象となる肥満は“肥満症”といいます。肥満症は体重が重いだけでなく、肥満に起因・関連する病気を発症している、あるいは発症が予測され、医学的に治療が必要と判断された場合などに診断されます。肥満に関連する病気はさまざまで、具体的には2型糖尿病や脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症へんけいせいしつかんせつしょうなどが挙げられます。なお、肥満症の定義を満たす方のうち、BMIが35以上の場合は、高度(病的)肥満症と診断され、特に治療が難しいとされています。

解説医師プロフィール

肥満の原因

食べ過ぎや運動不足、生活環境が原因となって肥満につながることが多い

食べ過ぎや運動不足、生活環境が原因となって肥満につながることが多い

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以前は、肥満=遺伝によるものといわれたこともありますが、その原因の多くは日常的な食べ過ぎと運動不足によるものです。近年では生活環境の影響も大きいとされています。肥満において問題となるのは体脂肪の蓄積であり、これは摂取カロリー(食事量)が消費カロリー(運動量)を上回った場合に生じます。たとえば、運動習慣がない方が高カロリーの食事を摂取すると、過剰分のエネルギーが脂肪として蓄積され、肥満や肥満症につながります。
なお、ほかの病気や使用している薬が原因となって生じる肥満もあり、この場合は二次性肥満と呼ばれます。
蓄積した脂肪は量的な問題と質的な問題を引き起こします。量的な問題とは膝や腰の痛み、睡眠時無呼吸症候群など体重増加に伴う問題のことです。また質的な問題は2型糖尿病や脂質異常症・高血圧・心筋梗塞しんきんこうそく・脳血管障害などが代表的です。

沖縄で特に肥満が増えた理由

沖縄で特に肥満が増えた理由

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沖縄県の肥満率が高い原因として、外食が多く、高カロリー・高脂肪の食事が多いことが指摘されています。また公共交通機関が少なく移動手段が自動車中心であることも原因として考えられています。平均的な飲酒量の多さも原因の1つです。また、近年では沖縄県の小中学生の肥満率が全国平均より突出して高いことも指摘され問題となっています。沖縄県の肥満は個人の問題のみならず社会の問題として取り組んでいく必要があります。伝統的なおもてなしであるカメカメ文化も将来的には見直しが必要になるのかもしれません。

肥満を予防するためには――食事と運動のバランスが重要

肥満を予防するためには――食事と運動のバランスが重要

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脂肪が蓄積することが問題となるわけですから、まずはこれを回避することが大切です。規則正しい食生活を心がけ、適度な運動をするなど、一般的にイメージされるような健康的な生活を目指すことが肥満や肥満症の予防・改善につながります。
なお、先に述べたとおり健康診断で肥満を指摘されたとしても必ずしも医学的な介入が必要とは限らず、健康障害のリスクが懸念されなければ、基本に医療機関への紹介はありません。ただし、脂肪の蓄積がある限り「まったく問題がない」というわけではありませんので、健康診断の際に医師から生活習慣の改善を促された場合は、肥満症の予防も含めぜひ改善に取り組んでいただきたいと思います。

解説医師プロフィール

肥満症の治療

肥満症を治療する意義――健康的な生活を長く送るために

肥満症を治療する意義――健康的な生活を長く送るために

肥満症の方は肥満に関連する病気の影響により健康な方と比べて寿命が短くなりやすい傾向にあります。肥満に関連する病気とは代表的には2型糖尿病・高血圧・睡眠時無呼吸症候群・心血管疾患などですが、そのほかにもたくさんあります。体重を減らすこと(減量)は、これら併存疾患を改善させることができる可能性があります。肥満症治療は減量そのものが目的ではなく、減量することで肥満に関連する健康障害の改善を得て寿命を伸ばすことが目標となります。また、肥満症の患者さんは合併している病気によっては一生病院通いを続けなければならないなど、ご本人のQOL(生活の質)に影響を及ぼすことも多いです。体重減少によりこれら併存疾患を改善させることができれば(薬の量や通院の頻度が減れば)QOLの改善が得られる可能性があり、その観点からも治療の意義はあると考えます。
しかしながら、多くの方でご経験があると思いますが、自分の努力で体重を減らしたりそれを維持したりすることは簡単なことではありません。相当な努力のうえで減らした体重が数か月で元に戻ってしまうこと(リバウンド)なども珍しくはありません。

肥満症の治療選択肢――内科的治療と手術

肥満症の治療には、大きく分けて内科的治療(手術以外の治療)と手術の2つがあり、まず内科的治療からご紹介します。BMI35未満の一般的な肥満症の方には、食事療法と運動療法、行動療法、薬物療法(薬を使った治療)の4つの手段があります。
食事療法は、文字どおり食事を調整して病気の改善を図ることをいいます。まずは患者さんに普段の食事・運動習慣を伺いながら、摂取カロリー量・消費カロリー量を確認します。そのうえで、栄養士と協力しながら食事量やバランス、成分を調整して適切な食事を指導し、体重の減少を目指していきます。
客観的にみて日常的に食べ過ぎとなっているご家庭は多いです。長年の習慣であり問題に気がつくことが難しいことでもあります。普段の食事のカロリー量が適切かどうかを自分で判断するのは難しく、ご自身やご家族の肥満を指摘された場合は一度栄養指導を受けることをおすすめします。

肥満症の治療選択肢――内科的治療と手術

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運動療法は、30分を週3回といったように定期的な運動を行うことで、体重の減少を目指します。行動療法は食事療法と運動療法とともに、何が原因で肥満になっているのかをきちんと知り、自ら食生活や生活習慣などライフスタイルそのものを変えていくためのアプローチです。
薬物療法では、食欲を抑制する効果のある薬などを用いて治療を行います。近年ではGLP-1受容体作動薬など新しい肥満症治療薬が登場し、注目されています。ただしその適応にはさまざまな要件があり、どこでも誰でも使用できるわけではありません。
BMI35以上の高度(病的)肥満症の患者さんの場合、残念ながら自分の努力で痩せる/痩せを維持することが多くの場合で困難とされています。また併存疾患も重度でその治療も困難なことが多く、手術(減量・代謝改善手術)を第一選択として検討します。BMI35以上の高度肥満の方、あるいはBMI32.5以上で糖尿病のコントロールが困難な方など*については、手術は保険診療で受けていただけます。ただし手術のみをおすすめするわけではなく、患者さんの併存疾患や個別の事情などを時間をかけて検討・相談し、手術や手術以外の治療(GLP-1受容体作動薬の使用など)も含め患者さん個々に適した治療方針を決定します。
職員一同、健康をサポートいたしますので、肥満症治療について気になることなどがあれば、どんなに些細なことでもお尋ねください。

BMI 32.5-34.9で併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群など)治療が主目的の手術の場合。

解説医師プロフィール

肥満症の手術

肥満手術とはどのような治療?

肥満手術にはさまざまありますが、当院では腹腔鏡下ふくくうきょうかスリーブ状胃切除術を導入しています。腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、2014年に保険適用となった治療方法です。腹腔鏡を用いて胃袋の約80%程度を切除し、胃をバナナ1本程度の大きさにすることで、摂取カロリー(摂取できる食事量)を物理的に抑えます。

肥満手術とはどのような治療?

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また、この手術では、胃袋の上のほうから分泌されている食欲を増進させるホルモン(グレリン)が胃の切除により減少することからも減量の効果が期待できます。
その名のとおり腹腔鏡を使用した手術ですので、開腹は必要ありません。お腹に6か所ほどの小さな穴を開け、そこから医療用カメラなどを入れて手術を行います。
肥満症の手術は摂取カロリー制限による体重減少効果のみならず、2型糖尿病や高血圧をはじめとしたさまざまな併存疾患の改善効果が証明されています。そのため減量・代謝改善手術と呼ばれます。
この手術では術後1年時点で平均的に20~30%の体重減少が見込めます。また、ほかの手術以外の肥満治療と比べて長期にわたり体重減少を維持できる可能性があるとされています。

肥満手術の流れ――シミュレーションを実施し、安全性の高い手術を目指す

当院では手術が決まったら、まず内科的減量で可能な限り体重を落とします。手術日の2週間前には入院をしていただきます。肥満の方は手術自体のリスクが高いため、この期間でできる限り体重を減らすことでより安全な手術が可能となります。この間は食事制限のみならずリハビリテーションや運動療法も取り入れていきます。
術後はおおむね1週間で退院となります。この期間は水分(水かお茶・流動食)のみを摂取いただき、管理を行います。一定量の水分摂取が確保できないと退院後に脱水を引き起こす可能性があるため、当院では1日2Lの水が飲めることを退院の判断基準の1つとしています。以後は外来へ定期的に通院していただき、健康状態の確認や食事指導を継続していきます。

肥満手術の流れ――シミュレーションを実施し、安全性の高い手術を目指す

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当院では安全な手術の遂行を目指し、あらゆる工夫を行っています。肥満の方は首回りに脂肪が多いことで術中に舌根沈下(舌がのどの奥に落ちること)が起こりやすくなるため、体位の工夫が必要になります。ただ、体重が重いことにより術中に体位を変更することが困難であるため、手術の1日前に麻酔をかけない状態で手術室に入ってベッドに寝ていただき、手術体位のシミュレーションを実施し患者さん個別に適切な体位が取れるように調整しています。麻酔についても専門的な知識が必要とされますので、麻酔科医とも協力しながらより安全な手術を目指しています*。

麻酔科標榜医:中島 昌暢なかじま まさのぶ 先生

地域の方々、患者さんへのメッセージ

地域の方々、患者さんへのメッセージ

沖縄県の中北部地域において高度(病的)肥満症に対する手術を行っている病院は、当院のみです(2024年12月時点)。全国的には対応する病院が増えており、高度(病的)肥満症に対する一般的な治療になりつつあります。しかしながら、一般的な外科手術とは異なりさまざまな専門職種が協力してチーム医療を行える施設でないと実施が難しくなります。当院では外科医・内科医・麻酔科医・看護師・管理栄養士・理学療法士・薬剤師・ソーシャルワーカーなどでチームを形成し診療にあたっています。また、地域の内科・精神科などのクリニックとも協力しております。
肥満症にお困りで、肥満手術を考えている方には、ぜひ地元で手術を受けていただきたいと思います。地元の病院であれば受診のたびに長時間の移動は必要ありませんし、急に調子を崩した際もすぐに相談できることは安心感にもつながると考えます。当院では、医師だけでなく看護師やコメディカルも含め、手術前・手術中・手術後の管理を安全にできるよう、常に知識やノウハウのアップデートに努めています。専門性を活かし、職員一同精いっぱいサポートしますので、健康的な生活を目指して一緒に頑張りましょう。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年2月27日
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