練馬区の医療情勢
高齢化と病床数の不足が課題
練馬区は、東京23区の中でも、世田谷区に次いで人口の多い区です(2024年7月現在)。2024年時点の高齢化率(65歳以上の人口の割合)は21.8%となっています。2025年には75歳以上の後期高齢者が8000人増加し、全高齢者の約60%を占めることになります。今後も高齢化はさらに進むが予測されることため、医療需要はさらに増加していくことでしょう。また練馬区は以前より、病院数や一般・療養病床数の不足が長年の課題となっています。急性期から慢性期、在宅療養まで各機能がシームレスに提供できるよう、効率的で質の高い医療提供体制の構築が求められています。
練馬区の医療を支える
順天堂大学附属練馬病院
地域のニーズに対応し、
よりよい医療提供体制を整備
当院は順天堂大学医学部附属の6番目の病院として2005年7月に開院しました。病床数は現在490床あり、3次救急を担う病院として、またがん診療の中心拠点として、地域に根ざした医療に努めています。がんの手術のなかでも、手術支援ロボット“ダヴィンチ”を用いた症例が増えており、泌尿器科や消化器外科、産婦人科などで導入しています。
私が院長に就任した2023年からは“Team Nerima is One Team!(チーム練馬はワンチーム)”というスローガンのもと、院内のチームの結束を高めています。これからも練馬区やその周辺にお住まいの方々の健康を支えるべく、よりよい医療提供体制作りを進めてまいります。
順天堂大学医学部附属練馬病院の
不整脈・子宮頸がん・大腸がん・前立腺がんの治療 不整脈・子宮頸がん
大腸がん・前立腺がんの治療
大腸がん・前立腺がんの治療
不整脈の治療
“患者さんファースト”で体の負担が少ない治療を
不整脈とは“脈が遅くなる、速くなる、不規則になる”といった状態をいいます。不整脈には生理的なものもありますが、病気が原因になっている場合も少なくありません。不整脈によって日常生活が制限されることもありますし、失神、脳梗塞を招いたり、不整脈の種類によっては突然死することもあります。ドキドキする、脈が飛ぶ、息切れ、めまい、胸が苦しい、気を失うなどの症状がある場合は不整脈の可能性がありますので、まずはお近くのクリニックなどへの受診をおすすめします。 早い段階で治療を開始すれば、さまざまな選択肢を検討することができます。 治療しなくてもよい不整脈もありますが、治療が必要かどうか確認するためにも、まずは受診していただきたいと思います。
カテーテルアブレーションを行う田淵先生
当院は薬物治療やカテーテルアブレーション(カテーテルという細い管を挿入し、心臓にある不整脈の発生源や不整脈の回路を焼灼する治療)を提供しており、“患者さんファースト”の治療に努めています。特にカテーテルアブレーションを得意としており、年間約250例施行しております(2022年1〜12月実績)。当院では現在高周波カテーテルアブレーションとクライオバルーン冷凍アブレーションを行っておりますが、今後パルスフィールドアブレーションも導入予定です(2024年8月現在)。専門的な技術が必要とされる治療ですが、当院の特徴として全身麻酔*(心房細動全例と一部の心室頻拍など)で行う症例が多く、術中痛みを感じないことと患者さんへの体の負担が少ないことがメリットです。
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麻酔科標榜医:菊地 利浩先生
“左心耳マネジメント”で脳梗塞の予防に尽力
心臓血管外科では、循環器内科とチームになり、心臓だけではなく脳梗塞の予防も含めて、患者さんのライフスタイルに合わせた治療を心がけています。心臓の手術は“大変危険で大がかりな手術”というイメージがありましたが、現在は患者さんの体への負担も少なくご高齢の方でも手術を受けることができるものへと医療技術が進歩しています。そのため、私たち心臓外科では、手術に適したタイミングを逃さずに、患者さんが早く社会復帰できるような提案をさせていただいています。
不整脈の1つである心房細動は、心房がけいれんするように細かく震えることで脈が不規則になります。けいれんしたような状態が続くことで血液がよどみ、血栓ができやすくなることから、脳梗塞を引き起こす原因になるとされています。心房細動が原因の脳梗塞は若年者でも突然起こることがあり、脳へのダメージが大きいという特徴があります。特に“左心耳”という部分は、心臓の左心房から耳のように突き出ているため構造的に血栓ができやすく、血栓が脳に運ばれて動脈で詰まると脳梗塞を起こしてしまいます。当院ではこの心房細動が原因で起こる脳梗塞を予防するため、薬物治療や手術による“左心耳マネジメント”を行っています。近年では特に、カテーテル(医療用の細いチューブ)を用いてデバイスを留置し、左心耳を閉鎖する治療を積極的に行っています。これは体への侵襲が少なく、患者さんの負担が少ない治療です。ほかにも左心耳そのものを手術で切除する方法があり、患者さんの希望や生活、医学的な効果を考慮し、メリットが多い治療を選択しています。
子宮頸がんの治療地域の婦人科と連携し、患者さんの一生をフォロー
子宮頸がんとは、子宮の入口にあたる子宮頸部にできるがんです。前がん病変というがんになる前の状態を経てからがんになります。前がん病変の段階では基本的に症状はありませんが、月経時以外の出血(不正出血)、性交時の出血や痛み、おりものや粘液が多く出るなどの症状が現れることがあります。普段の月経と少し様子が違うなど、気になる症状があるときは躊躇せずに早めに受診いただきたいです。
子宮頸がんの治療は手術が中心です。前がん病変や初期のがんの場合は子宮頸部円錐切除術を行います。これは、子宮頸部を円錐状に切除し、病変を切り取る方法です。進行したがんや子宮頸部円錐切除術で病変を取り切れなかった場合は、子宮を摘出する手術や放射線治療、薬物療法を検討します。子宮頸がんは若い女性にも起こることが多いため、患者さんによって妊娠の希望や生活環境は様々です。当院では、患者さんそれぞれの背景を考えて、今後のライフステージに寄り添った治療に努めています。
また、当院では早期発見・早期治療につなげるべく、近隣の医療機関の医師と連携し、必要がある場合はすぐに紹介していただける体制を整えており、治療の際は、かかりつけの医師と当院の両方で患者さんをサポートします。患者さんの一生をフォローしていく心構えで診療していますので、安心して受診いただければと思います。
予防の大切さを若い女性にも伝えていきたい
みなさまには定期的に子宮頸がん検診を受けるとともに、ささやかな悩みも気軽に相談できるかかりつけの婦人科を持っていただきたいです。また、子宮頸がんの予防として、HPVワクチンの接種もおすすめしています。子宮頸がんの原因の1つであるヒトパピローマウイルス(HPV)は性交渉で感染します。HPVの感染が継続すると一定の割合でがん化することが知られていますので、接種をするのであれば初めての性交渉前が有効です。対象の年齢であれば区内のクリニックなどで公費での接種が可能です。またHPVワクチンは計2回または3回接種しますが、接種後に気になる症状が現れた場合は2回目以降の接種をやめることも可能です。
ただし、HPVワクチンは全てのHPVの感染を予防できるわけではありませんので、定期的に子宮頸がん検診を受けていただくことも重要です。当院で治療をされている進行子宮頸がんの患者さんの中には、検診を一度も受けたことのない方や10年前に受けたきりという方がいらっしゃいます。仕事のことや家族のことなど、女性はどうしても自分のことを後回しにしてしまいがちです。もっと早くに検診を受けていただければと悔しく思ったケースもこれまで少なからずありました。HPVワクチン接種と定期的な子宮頸がん検診で子宮頸がんはしっかり予防できるといわれています。区とも連携しながらワクチン接種と子宮頸がん検診の重要性を今後も多くの方に伝えていきたいと考えています。
大腸がんの治療
気になる症状があれば速やかに受診を
下痢になる、便が出づらい、血が混じる、腹痛があるなど、いつもと違うと感じたときは医療機関を受診するサインです。大腸がんの自覚症状はほとんどありませんが、便に血が混じる、血が付着するといった症状は初期に見られるものです。痔などと同じ症状のために発見が遅れてしまうケースも多くありますので、自己判断せずに受診していただきたいと思います。早期の段階で治療できれば内視鏡治療でがんを切除できる可能性が高いですし、外科手術になったとしても抗がん薬治療を行わなくて済む可能性もあります。
当院は地域のクリニックと密に連携し、がんの疑いがある場合はすぐに紹介していただけるように体制を整えています。当院を受診されたらまずは大腸内視鏡検査やCT検査などを行って詳しく調べます。大腸内視鏡検査に抵抗がある方も少なくありませんが、当院では可能な限り痛みが少なくなるよう、痛み止めなどを用いて工夫しています。がんといわれると不安や怖さを感じられると思いますが、私たちは患者さんの気持ちに寄り添い、ご希望を尊重した診療を提供したいと考えています。
腹腔鏡下手術で患者さんの負担を軽減
当院は総合医局体制を取っており、消化器内科と消化器外科の医師が同じ部屋で仕事をしています。そのため常に意思の疎通をはかりながら、迅速に治療方針を決めることができています。たとえば内科にかかった患者さんが検査を受けて手術が必要と判断された場合は、速やかに外科と連携してその日のうちに手術日程を決めています。
大腸がんの切除の方法には内視鏡治療や外科手術があります。当院では開腹手術が適応になる患者さんに対して、腹腔鏡下手術腹腔鏡下手術を導入しています。お腹にいくつか小さい穴を開け、医療用カメラや手術器具を挿入して行う治療です。開腹手術と比べて小さな傷口で済むため、体への負担が少なく術後の回復が早いのが特徴です。さらに当院では腹腔鏡下手術のうち半数以上をロボット支援下で行っています。これにより、複雑で繊細な手術操作が可能となっています。
当院ではできる限り患者さんご自身の肛門の機能を温存できるように努めており、一時的に人工肛門を造設することになった場合は閉鎖手術を早期に検討します。また人工肛門を造設した方へはWOC看護相談外来でサポートいたします。皮膚・排泄ケア認定看護師*が2名在籍し、様々な相談をお受けしています。患者さんのライフスタイルに合わせて、毎日の生活を快適に過ごすためのアドバイスをさせていただきます。
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日本創傷・オストミー・失禁管理学会認定
前立腺がんの治療
前立腺がん手術のほとんどで体への負担が少ないロボットを使用
前立腺がんは、前立腺細胞が無秩序に増殖する悪性の病気です。多くの場合は比較的ゆっくり進行しますので、早期に発見して治療を行えば根治を目指すことが可能です。
早期の前立腺がんはほとんどの場合、自覚症状がありません。しかし尿が出にくい、排尿の回数が多いといった症状が現れることがあります。これらは前立腺肥大症でもみられる症状ですが、前立腺肥大症と前立腺がんが同時に起こっているケースもありますので、気になる症状があれば受診していただくことをおすすめします。
前立腺がんの治療には手術治療、放射線療法、薬物療法があります。当院では、がんの状態や患者さんの年齢、ご希望などをお伺いしながら治療方針を決めていきますが、根治を目指す場合は手術をおすすめしています。泌尿器科の手術は、周囲の血管や神経、周辺の臓器を傷つけずに切除し、かつがん細胞をすべて取り除く根治性を保つ必要があります。当院では2020年より“ダヴィンチ”を用いたロボット支援下手術を導入し、現在ではほぼ全ての症例をロボット支援下で行っています。ロボット支援下手術は繊細で複雑な操作を行うことができるため、狭いスペースでも低侵襲な手術が可能です。開腹手術と比べて患者さんの体への負担が少なく、術後の回復が早いことが特徴です。開腹手術が中心だった時代には高齢の方に対して積極的に手術を行っていませんでしたが、ロボットの普及により手術が可能となっています。ぜひ諦めずにご相談ください。
患者さん全体を診て、治療方針を決定
私は、医師として病気だけではなく“患者さん”を診るべきと考え、患者さんの人生に寄り添える医師でありたいと日々の診療に努めています。術前から手術、術後の生活まで関わらせていただいており、患者さんの中には30年以上通院している方もいらっしゃいます。私たちが考える治療は“手術をすれば終わり”ではなく、“術後の生活をいかに快適に過ごしていただけるか”が重要です。たとえば術後に排尿障害が起こる可能性もありますので、患者さんが許容できる排尿状態に合わせてどのような治療が適切かを決めています。術前の患者さんが術後の状態を具体的に想像することは難しいと思いますので、私たちはご職業や生活環境などを詳しくお伺いさせていただき、望まれる排尿状態はどの程度か、そのためにはどのような治療がよいかを判断します。ご家族の方の同席ももちろん可能ですので、相談しながら治療方針を決めていきましょう。また泌尿器科以外の病気に不安がある際もご相談いただければ、専門の医師を紹介することも可能です。ご不安が解消され、毎日の暮らしが不便なく過ごせるようサポートいたします。
- 公開日:2024年9月2日