石川県の医療

重要度の高まる心疾患対策に地域を挙げて取り組む

重要度の高まる心疾患対策に
地域を挙げて取り組む

金沢市の人口は約45万人で、全国的な傾向と同様に高齢化が進んでいる地域です。高齢化に伴って増える病気の1つに心疾患が挙げられます。石川県では心疾患で命を落とす方ががんに次いで多くなっており、地域を挙げて心疾患への対策に力を入れてきました。
石川県の健康寿命は全国平均よりも長い傾向にありますが、さらに延伸させるべく、同県では2022年に “石川県循環器病対策推進計画”が策定され、各自治体が心疾患の予防や啓発、医療・介護サービスの拡充に努めています。各医療機関も予防や啓発、連携を進めており、今後も県全体で一丸となって県民のニーズに応じた医療体制を整えていくことが求められるでしょう。

石川県の医療を支える
金沢医療センター

生命の尊さと人権を尊重し、安全かつ質の高い医療の実現を目指す

生命の尊さと人権を尊重し、
安全かつ質の高い医療の実現を目指す

金沢医療センターは開院以来、北陸地区の中核的な病院として地域医療に尽力してきました。
当院の血管病センターではリスク管理をしつつ適切な治療を行うため、循環器内科、心臓血管外科、脳神経内科/外科、呼吸器内科/外科が集結し、お互いに連携しながら患者さんの治療にあたっています。よりよい医療を実践するため2012年末にはカテーテル血管撮影室と手術室を兼ね備えたハイブリッド血管撮影室を設置しました。検査や治療に伴う放射線被ばくにも配慮しつつ、皆さんに不安なく治療を受けていただけるような環境整備に努めています。
当院の理念“私たちは生命の尊さと人権を尊重し、安全で最良の医療を目指します”を実践するためには、患者さんの心身の負担に配慮しつつ良質な医療をご提供しなければなりません。今後も時代とともに変化する地域の医療ニーズにお応えできるよう、病院としての機能を充実させてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

金沢医療センターにおける
不整脈(心房細動)・狭心症・大動脈瘤・心不全の治療
不整脈(心房細動)・
狭心症・大動脈瘤・心不全
の治療

不整脈(心房細動)の治療

治療が必要な患者さんを見逃さないよう検査体制を整備

心房細動は、不整脈の中でも特に頻度の高い病態です。自覚症状としては動悸や胸の不快感などが挙げられるものの、初期の心房細動は常に症状が現れているわけではなく、発作が生じたときだけ症状が現れます(発作性心房細動)。診断には心電図検査による異常な脈の検出が必要ですが、検査中(心電図の記録中)に発作が起こらない場合は診断がつきません。当院では治療が必要な患者さんの見逃しを防ぐべく、複数の検査方法を駆使しています。

治療が必要な患者さんを見逃さないよう検査体制を整備治療が必要な患者さんを見逃さないよう検査体制を整備

最大2週間心電図を記録し続ける“長時間心電図検査”を取り入れているほか、原因不明の失神や脳塞栓を生じた患者さんについては植込み型の心電図記録計も活用しています。植込み型の機器は数年間記録が可能なため、ほかの心電図検査では見つけることができなかった不整脈の検出が期待できます。

どのような病態にも対応できる心房細動治療を目指す

心房細動が進行するとその不整脈が1週間以上続く “持続性心房細動”に移行します。心房細動は、無治療の状態が長く続けば続くほど治りにくくなるため、当院では持続性心房細動になる前、あるいはすでに持続性心房細動に移行している場合は1年以内のカテーテル治療(カテーテルアブレーション)をおすすめしています。
カテーテルアブレーションは、足の付け根などからカテーテル(細い管状の医療機器)を挿入して心臓まで通し、異常な電気信号を発している心臓の筋肉を焼灼する治療法です。“焼灼”と聞くとどうしても怖い気持ちが強くなってしまうと思いますが、そのような方にも安心して選択いただけるよう当院では基本的に麻酔により眠っている間にカテーテルアブレーションを行っています。そのため、術中に痛みを感じることもありません。

どのような病態にも対応できる心房細動治療を目指す

また、再発した心房細動など複雑な病態にも対応できるよう、3Dマッピングシステムを導入しています。これは心臓CT検査や心臓超音波検査の画像を組み合わせ、カテーテルの位置情報や心臓内の電気情報をコンピューター画面上に表示できるシステムです。不整脈の原因となっている場所を正確に把握でき、効率的でより安定的な治療が目指せます。
当院では毎年200例以上のカテーテルアブレーションを実施しており、2023年度(2023年4月~2024年3月)は295例の治療を行いました。中には、能登・加賀地域からご紹介で来院される患者さんもいらっしゃいます。
心房細動は早期であればあるほど多くの治療選択肢をご提示できる可能性が高まりますので、気になる症状がある方はぜひお早めに受診ください。病状やライフスタイルに合わせて、薬物療法やカテーテルアブレーションなどの選択肢から適した治療をご提案いたします。

心臓血管外科も加わり、より専門性の高い心房細動治療を目指す

一般的に心房細動の治療は循環器内科医によるカテーテルアブレーションが主流となっているものの、当院では必要に応じて手術による治療も実施しています。心房細動は、心臓の病気であると同時に“脳の病気”でもあるといわれます。心房細動自体が直接的に命に関かかわることはありませんが、血栓(血の塊)ができやすくなり、血流に乗って脳に詰まると脳梗塞のうこうそくを発症します。その場合、命に関わる事態となりますので、当院では循環器内科医と心臓血管外科医が連携し、脳梗塞のリスクが高いと判断した患者さん(心臓弁膜症を併発している方など)に対しては手術を検討します。

心臓血管外科も加わり、より専門性の高い心房細動治療を目指す

心房細動の手術については、WOLF-OHTSUKA 法(ウルフ-オオツカ法)という術式による治療を実施しています。この手術は心房細動に対するアブレーション治療を心臓の外側から行い、かつ血栓の原因となる左心耳(心臓の構造の一部)の切除も行う方法です。心房細動の治療と脳梗塞のリスク低減が同時に図れる治療であり、また人工心肺を用いないことも特徴です。
心臓手術に対して怖いイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、低侵襲手術ていしんしゅうしゅじゅつていしんしゅうしゅじゅつの発展によって心臓手術に伴う体の負担は以前より軽減できるようになってきました。手術にあたって不安な点や迷っている点があればぜひご相談ください。

解説医師プロフィール

狭心症の治療

精密な検査・診断により根拠に基づいた“本当に必要な治療”を見極める

狭心症は、心筋(心臓の筋肉)に血液を送る血管(冠動脈)が狭くなることにより、一時的に心筋が酸素不足に陥る病気です。治療法には薬物療法・カテーテル治療・手術(冠動脈バイパス術)の3種類があります。
当院の狭心症治療の強みは、血管の状態を的確に評価し、“本当に必要な治療”を見極められる体制が構築できていることにあります。狭心症の治療法の1つであるカテーテル治療は、体への負担の少なさから広く普及している治療法ですが、術後は血液をサラサラにする薬を一定期間服用する必要があるうえ、何より体にとって異物であるステントが体内に残ります。もちろんカテーテル治療も研究のうえ確立された治療法ではあるものの、体内に何も残さずに済むのであればそれに越したことはないでしょう。

精密な検査・診断により根拠に基づいた“本当に必要な治療”を見極める

当院では、血管の狭窄きょうさく(狭くなること)がある=カテーテル治療をすべきと一律に判断することはせず、狭窄によって心臓にどれだけの影響があるのかを厳密に評価し、本当に必要だと判断できる場合にのみ治療を実施するようにしています。
なお通常、狭窄の重症度を評価するにはカテーテルを挿入したうえで病変部にワイヤーを通す検査が行われます。しかし治療において侵襲(体への負担)を減らすために厳密な評価を行うわけですから、検査についても可能な限り負担の少ない方法を採用すべきだと考えます。当院ではFFR-CTという検査システムやQFRというソフトウェアを駆使しており、体にカテーテルやワイヤーを挿入せずとも血流の状態を把握することが可能です。新しいテクノロジーも積極的に取り入れながら、より安全な医療を提供できればと思っています。

低侵襲手術と手厚い術後サポートで早期に自宅に帰れるよう尽力

検査の結果、外科手術が必要だと判断した場合は冠動脈バイパス術を検討します。冠動脈バイパス術は、体内の別の血管を心臓の血管に縫い付け、狭窄している冠動脈を迂回して血液が心臓に届くようにする手術です。
従来、冠動脈バイパス術は人工心肺を使用して心臓を一時的に停止させて行うことが一般的でしたが、当院では患者さんの体の負担を軽減するため、人工心肺を使用せずに行う“心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)”を積極的に実施しています。
OPCABは心臓が動いている状態で手術を行うため、執刀医に要求される技術は必然的に高くなります。当院にはOPCABを行える十分な技量を担保しており、冠動脈バイパス術が必要になる症例の多くにOPCABを実施しています。また、また場合によっては人工心肺を使用せず、かつ約10cmの小さな切開で行う冠動脈バイパス術(MIDCAB)も可能です。通常の開胸手術に比べて傷口が小さいことで術後の痛みが少なく、早期にリハビリテーションを開始できるため退院期間の短縮が期待できます。

低侵襲手術と手厚い術後サポートで早期に自宅に帰れるよう尽力

手術を受ける医療機関によっては、術後一定期間が経過したら転院して療養する場合もありますが、当院では薬物療法から手術、術後のリハビリテーションに至るまで一貫して同じ院内で受けていただくことができます。手術が終わってからできる限り早く自宅に帰れる“真の早期退院”を目指して患者さんをサポートいたしますので、手術に伴う体力低下が心配という方もご安心いただければと思います。

解説医師プロフィール

大動脈瘤の治療

破裂すると命に直結する病気――定期的な検査を

大動脈瘤だいどうみゃくりゅうは、大動脈(もっとも太い血管)がこぶのように膨らんで、1.5倍以上の太さになった状態です。大動脈瘤は腹部にできる場合と胸部にできる場合があり、腹部では3cm以上、胸部では4.5cm以上で大動脈瘤と診断されます。5.5cm以上になると破裂リスクが高くなるため、5cm程度で治療の対象となります。

破裂すると命に直結する病気――定期的な検査を

大動脈瘤は破裂するまでほとんど症状がありません。しかし、ひとたび破裂すると命に関わるため、健康診断や人間ドックなどで定期的に超音波検査やX線検査(レントゲン)を受けることが重要です。大動脈瘤の原因の多くは動脈硬化ですので、高齢の方や高血圧の方、喫煙歴のある方は特に注意いただきたいと思います。

高い技量を担保し、多様なステントグラフトの中から適切な機種を選択

破裂の可能性がある大動脈瘤に対して、従来は開胸・開腹手術を行うことが一般的でした。しかし近年では低侵襲な治療法であるステントグラフト内挿術が普及しており、当院でも積極的に実施しています。ステントグラフト内挿術は、足の付け根から血管内にカテーテルを挿入し、ステントグラフト(バネ状の金属がついた人工血管)を大動脈瘤のできている部位に留置する治療法です。開胸手術と異なり、ステントグラフト内挿術では胸を大きく切開する必要がないため、患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。手術の翌日には多くの方が歩行できるほど負担が少ないため、入院期間の短縮や早期の社会復帰にもつながります。

高い技量を担保し、多様なステントグラフトの中から適切な機種を選択高い技量を担保し、多様なステントグラフトの中から適切な機種を選択

なおステントグラフトには複数の機種があり、それぞれサイズなどに違いがあります。当院では現在*国内で使用可能な機種(胸部5種、腹部7種)全てを扱えることが強みです。患者さんの血管の形状により適した機種を選択できることで治療可能な患者さんの幅も広がり、実際80歳代や90歳代の患者さんにステントグラフト内挿術を行った例もあります。以前までは治療が困難と判断された患者さんでも治療ができるようになってきていますので、ぜひ諦めずにご相談ください。

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2024年8月時点

開胸手術の技術力も担保し、二刀流の治療で患者さんのよりよい生活を支える

当院ではステントグラフト内挿術のほか、開胸・開腹手術(人工血管置換術)にも十分対応できる体制を維持し、いわば“二刀流”の治療を実践しています。ステントグラフト内挿術と人工血管置換術にはそれぞれ利点と注意点があり、患者さんに合わせて治療法を選ぶことが重要です。たとえば比較的若い年齢の大動脈瘤患者さんであれば、長期成績の分かっている人工血管置換術が適している場合もあるでしょう。当院の実施件数としてはステントグラフト内挿術の比率が高いものの、開胸手術が行える技術も担保しているため、患者さんにより適した治療法をご提案可能です。

開胸手術の技術力も担保し、二刀流の治療で患者さんのよりよい生活を支える

大動脈疾患に対して幅広い治療選択肢を持てていることは当院ならではの強みだと感じます。大動脈の病気を専門に扱う“大動脈疾患専門外来”も設置しておりますので、体調面で不安なことがある方はぜひ受診ください。

解説医師プロフィール

心不全の治療

強固な多職種連携により心不全を起こさない・悪化させない管理を目指す

心不全は狭心症や不整脈などの心臓の病気や高血圧などさまざまな原因で発症するため、日頃から適切に管理をすることが重要です。当院では病院全体で心不全に対する意識が高く、高血圧や動脈硬化など心不全のリスクがある方に対して早い段階からサポートができるよう努めています。 発症前の段階から適切な治療をすることで患者さんが心不全で入院することがないようにと考えています。

強固な多職種連携により心不全を起こさない・悪化させない管理を目指す

もちろん心不全で入院された方に対しても十分なサポートができる体制を整えています。心不全に関する多職種カンファレンスを定期的に開いており、患者さんを取り巻く状況なども含めて話し合うことで、多面的なケアがかなえられるようにしています。このカンファレンスには、循環器内科医や緩和ケア専門医(日本緩和医療学会認定)のほか、看護師、理学療法士、薬剤師や管理栄養士、歯科衛生士、ソーシャルワーカーなど専門性の異なるさまざまな職種が参加します。
日本循環器学会認定の心不全療養指導士資格を持つスタッフや日本看護協会認定の慢性心不全看護認定看護師も在籍しています*ので体調面で不安なことがあれば、どんなに些細なことでもご相談ください。

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2024年8月時点

内科医と外科医の密な連携により適切な治療やサポートに尽力

心不全は患者さんによって原因や病状が多様であり、患者さんお一人おひとりに合わせた治療や支援が必要です。それぞれの患者さんによりよい治療を提供するためには、内科・外科双方の連携も欠かせません。当院では内科と外科が同じ病棟におり、毎日会話がある風通しのよい環境で仕事をしています。判断の難しい患者さんについては、どちらか一方の意見に偏らないよう、循環器内科医と心臓血管外科医が合同カンファレンスなどで意見交換をし、内科・外科両方の観点からより適切な治療を導き出しています。

退院後も見据え、入院を繰り返さないよう地域全体で患者さんを支える

心不全は入院を繰り返すたびに心臓が弱まっていくため、再入院を防ぐことが重要といわれています。そのため、当院では入院中だけではなく退院後の治療・管理にも力を入れています。
心不全の病状を悪化させないよう、石川県では、地域全体で患者さんを見守るための “心不全地域連携パス・手帳”が作成されています。 心不全患者さんの体の状態や薬の情報が記録でき、当院でも積極的に活用しています。

退院後も見据え、入院を繰り返さないよう地域全体で患者さんを支える

手帳にはさまざまな職種のスタッフが患者さんの情報を記録します。退院後、かかりつけの先生にこの手帳をお見せいただければスムーズかつ正確に情報を共有でき、反対にかかりつけの先生から当院への情報共有にも活用できます。地域の医療機関と連携して常に退院後を見据えた治療を行っておりますので、不安な点があればすぐにご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年10月1日
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