石川県の脊椎脊髄疾患診療

需要増加が見込まれる“背骨の病気”。安心できる診療体制の実現が求められる

需要増加が見込まれる“背骨の病気”。
安心できる診療体制の実現が求められる

椎間板ついかんばんヘルニアをはじめとする背骨の病気は、脊髄(脳につながる中枢神経)も扱うため、整形外科の中でも特殊な診療領域といえます。また生まれつきの病気から加齢に伴う病気まで、幅広い世代が対象となります。
しかし、石川県内ではこれらの背骨の病気(脊椎脊髄疾患せきついせきずいしっかんせきついせきずいしっかん)を専門とする医師が不足していることが実情です。外科治療を専門とする医師が病院にいない、あるいは1人しか在籍していない病院もあるなかで、県内の高齢者人口は増加傾向にあり、それに伴って脊椎脊髄疾患の需要も増加することが予想されます。県内のどの地域に住んでいても受けたい治療を受けられるよう、まずは診療体制の整備や若手医師の育成が急務といえます。

石川県の脊椎脊髄疾患診療を支える
金沢医療センター 整形外科

低侵襲かつ専門的な治療を提供し、質の高い医療で地域に貢献

低侵襲かつ専門的な治療を提供し、
質の高い医療で地域に貢献

当科では、患者さんによりよい治療を提供できるよう、体への負担に配慮した治療も駆使しながら日々診療に励んでいます。 私(整形外科 医長・吉岡 克人)は、この脊椎脊髄疾患領域のスペシャリストを目指し、11年間医局でさまざまな病気に向き合ってきました。経験を重ね、現在は脊椎内視鏡下手術・技術認定医*の資格を保持しています。内視鏡治療は医療技術の進歩によって普及した治療法で、従来の手術に比べて 低侵襲ていしんしゅう ていしんしゅう(体への負担が小さい)であることが特徴です。脊椎脊髄疾患に対して、内視鏡治療を含む幅広い治療を提供できることが当科の強みだと自負しております。
また、脊椎脊髄外科指導医**の資格も有しており、指導医として手術の見学の受け入れや近隣病院の医師へ指導なども行っています。これからも診療のみならず後進医師の育成を通じて地域に貢献していきたいと考えています。背骨の病気で気になることがあれば、紹介状をお持ちのうえぜひ当科へお越しください。

*

日本整形外科学会認定。整形外科専門医および脊椎脊髄病医(それぞれ同学会認定)の資格を取得した後、実技試験を受けて技術を認定された医師。

**

日本脊椎脊髄病学会認定。若手脊椎脊髄外科医の診療・研究活動を指導するに相応しいと認定された医師。

医師プロフィール

金沢医療センター 整形外科の
椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・腰椎すべり症・60歳以降の側弯症(成人脊柱変形)治療
椎間板ヘルニア・
脊柱管狭窄症・
腰椎すべり症・
60歳以降の側弯症
(成人脊柱変形)治療

椎間板ヘルニアの治療

患者さんの生活に寄り添った診療を提供

椎間板ヘルニアとは、背骨(椎骨)の間にある“椎間板”が飛び出すことで周りの神経を圧迫し、痛みやしびれが現れる病気です。特に腰(腰椎)には負担がかかりやすく、腰に生じた場合は腰椎椎間板ようついついかんばんようついついかんばんヘルニアと呼ばれます。“ヘルニア”という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますし、身近に椎間板ヘルニアを患っている方もいらっしゃるかもしれません。
患者さんの多くは、保存療法として薬物療法や神経ブロック療法などを受け、安静に過ごしていただければ症状の改善が見込めますが、中には手術が必要な場合もあります。一般的には薬物療法を3か月ほど継続して、痛みやしびれの改善がみられなければ手術を検討すべきとされていますが、これはあくまで1つの基準です。運動麻痺や排尿障害があるような重症の場合には早期の手術が必要になります。適切な治療は患者さんによって異なりますから、ご自身に合った治療を受けるためにも、まずは病院を受診していただきたいと思います。

患者さんの生活に寄り添った診療を提供

当院の場合、MRIの結果と患者さんのご希望をもとに、具体的な治療方針を決定していきます。日常生活を問題なく送れればよいという方もいらっしゃれば、仕事やスポーツなどをされていてより早期に痛みを取り除きたいという方もいらっしゃるでしょう。当院では患者さんが望まれる生活を送れるよう診療に向き合っています。
手術では、内視鏡を用いたMED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)という術式を採用しています。神経を傷つけないよう手術する必要があるため、繊細かつ専門的な技量が要求されますが、十分な知識と技量を備えた医師が執刀しており、安全な治療に努めています。身体的な負担は小さく、術後1週間以内に退院される方がほとんどです。

早めの受診で広がる治療の選択肢

保存療法や手術以外に、腰椎椎間板ヘルニアの治療法には椎間板内酵素注入療法もあります。この治療法では、薬剤を患部に注入することによって、神経を圧迫している椎間板の膨らみを抑え、症状の緩和を目指します。この治療によって手術を回避できる可能性も期待できます。保存療法で改善が見られない方などが対象であり、一生に一度しか投与できないため、慎重な判断のうえ治療を行っています。
なお、椎間板内酵素注入療法は即座に効果が現れるものではないため、痛みを限界まで我慢してから受診すると、この治療をおすすめできない場合があります。早めにご相談いただくことで、患者さんに合った治療法を検討できると考えています。インターネットの一般的な情報だけでご自身の状況を自己判断せず、腰椎椎間板ヘルニアの症状によって生活の質が低下していると感じた場合は、ぜひ当科への受診を検討ください。

解説医師プロフィール

脊柱管狭窄症の治療

患者さんの思いに寄り添い、治療を提案

脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうは、脊柱管が狭まることで、中にある神経が圧迫される病気です。症状としては、足のしびれや 間欠跛行かんけつはこう かんけつこうなどが挙げられます。間欠跛行とは、たびたび休憩しなければ長時間歩けない状態を指します。加齢性の病気のため自然に治ることはなく、徐々に症状が進行する可能性もあるため、適切な診断および治療介入が重要です。
治療方法には保存的療法(手術以外の治療法)と手術があり、治療方針については患者さんのご要望もお伺いしながら決定していきます。症状があっても生活に支障がない、あるいはさほど気にならないという方は保存的療法で様子をみても十分だと考えます(重症例を除く)。一方、症状のせいで友人との旅行を楽しめないなど、患者さんが不便さを感じている場合には手術も視野に入れつつ治療を進めていきます。いずれにしてもまずは腰椎の状態を把握する必要がありますので、まだ受診をしていないという方は検査を受けていただきたいと思います。すでに診断を受け、治療について迷っている方は紹介状をお持ちのうえ、一度当院へご相談ください。

患者さんの思いに寄り添い、治療を提案

体への負担に配慮した内視鏡治療で、高齢の方にもやさしい治療を実現

手術では脊柱管を圧迫している組織を取り除き、脊柱管内の神経の通り道を広げる治療を行います。当院は基本的にMEL(内視鏡下腰椎椎弓切除術)という術式を採用しており、2cmほどの切開で治療を行います。狭窄している箇所が1か所であれば手術は約40~50分、2か所であれば1時間半ほどで終了します。体への負担が小さく済むため、当院では高齢の方でもほとんどの方が1週間ほどで退院されています。

体への負担に配慮した内視鏡治療で、高齢の方にもやさしい治療を実現

手術と聞くと抵抗を感じるかもしれませんが、当院では80歳以上の患者さんへの手術が20%以上を占め、再び歩けるようになり喜ばれる方もいらっしゃいます。当科では脊柱管狭窄症の状態をきちんと見極めて、安全に治療を行えるよう努めておりますので、単に「歳のせいだ」と思い込まず、ぜひ一度ご相談ください。

解説医師プロフィール

腰椎すべり症の治療

“すべり”そのものにアプローチし再発防止に努める

脊柱管狭窄症の原因の1つに、腰の骨がずれる“すべり症”が挙げられます。MRIやX線検査の結果、すべり症と診断され、手術を受けるかどうか迷っている方もいらっしゃるかもしれません。
すべりが生じて、神経が圧迫されている場合、手術では神経を圧迫している椎弓ついきゅうや黄色靱帯を切除する除圧術か、腰骨のすべりそのものを固定する固定術による治療が検討されます。固定術はその名の通り骨を固定するため、根本的な治療には向いているものの、除圧術と比べて侵襲度(体への負担)が大きい治療になります。もちろん固定術が必要な患者さんもいらっしゃいますが、当院ではすべりの有無のみで固定術と決めることはせず、患者さん一人ひとりの骨の状態を確認したうえで治療方針を決定します。固定が必要な症例を見極めることで、少しでも患者さんに負担の少ない治療をご提供できればと考えています。

術式を使い分け、患者さんの身体的な負担軽減につなげる

術式を使い分け、患者さんの身体的な負担軽減につなげる術式を使い分け、患者さんの身体的な負担軽減につなげる

固定術が必要な患者さんに対しては、2つの術式を使い分けることで可能な限り侵襲を抑えられるよう工夫して治療を行っています。従来の固定術は背中を15cmほど切開するもので、それに伴い組織の損傷も大きくなってしまうことが課題でした。当院では、患者さんの体への負担を考慮し、小切開で必要な部分に対してのみ処置ができるMIS-TLIF(低侵襲経椎間孔的椎体間固定術)とLLIF(側方経路腰椎椎体間固定術)という2つの術式を使い分けています。どちらも組織の損傷を最小限に抑えながら、スペーサー(背骨を安定させる金属)とスクリュー(金属のねじ)を挿入して脊椎を固定する治療です。すべりが1か所の場合は背中からの切開のみで行えるMIS-TLIFを、2か所以上ある場合は脇腹と背中の2か所を切開して行うLLIFによる治療を検討します。いずれも患者さんの体への負担を最小限に抑える工夫をすることで、早期の退院・社会復帰につなげられればと考えています。
固定術に対して抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、今は負担の少ない術式も開発されてきています。低侵襲手術は緻密な手術操作が必要で難易度が高い治療となるものの、私たちは自信をもって治療を行っており、全国から医師が見学に来てくださることもあります。受診をしたからといって必ずしも固定術を受けなければならないわけではありませんので、つらい症状がある方はぜひ一度ご相談にいらしてください。

解説医師プロフィール

60歳以降の側弯症
(成人脊柱変形)治療

まずは手術という選択肢があることを知ってほしい

まずは手術という選択肢があることを知ってほしい

背骨が左右に曲がった状態になることを側弯症といい、高齢の方では成人脊柱変形とも呼ばれます。側弯症は、加齢や、幼少期に発症した側弯症が進行することで発症します。症状が徐々に進行するため、ご本人では気づかないケースもあり、周囲から「体が曲がっている」と指摘されて来院される方もいらっしゃいます。
生活に支障がなければ、必ずしも手術を受ける必要はありません。しかし、患者さんの中には手術を行うことで生活の質が改善される方がいらっしゃるのも事実です。まずは“側弯症は治療できる”ということを、多くの方に知っていただきたいと思っています。当院では患者さんの生活をよりよいものにできるよう真摯に治療に向き合っていますので、生活でお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひ相談にいらしてください。

患者さんの生活を支えるために――大がかりな手術も可能な限り低侵襲化に努める

手術は2回に分けて背骨の矯正と固定を行い、背骨を自然な弯曲に近づけます。1回目の手術では脇腹を切開し腰椎を矯正固定します。1週間ほどで再度手術を行うため、組織の損傷が小さく済むよう低侵襲に行っています。2回目の手術では背骨をまっすぐにするため約30cmにわたって背中を切開し、胸椎から骨盤まで矯正用の金属を挿入します。大がかりな治療となりますが、背骨の曲がりが原因で杖を使わなければバランスが取れず歩けない、座っているだけ・食事をしているだけでも痛くてつらいといった場合には、手術を行うメリットが上回ると判断し、検討を進めます。
なお、手術では背骨を固定するため、術後にはかがむ姿勢を取ることが難しくなり、畳に座る生活や農作業が制限されるなど、一定のデメリットを伴います。そのため当院では、手術のメリットや必要性について、1~2か月かけて患者さんと一緒にじっくりと検討を重ねます。

患者さんの生活を支えるために――大がかりな手術も可能な限り低侵襲化に努める患者さんの生活を支えるために――大がかりな手術も可能な限り低侵襲化に努める

以前、側弯症を発症して以来車いすで生活されていた患者さんがいらっしゃいました。その方は受診の際、気分の落ち込みが大きくあまり元気がないご様子でした。慎重に検討を重ねてその方は手術を決断されたのですが、術後歩けるようになったことで笑顔を取り戻されました。生活の質を維持できるよう努めますので、一緒に相談しながら治療方針を検討していきましょう。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年10月1日
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