東京警察病院における
前立腺がん・脳卒中・
乳がん・変形性関節症の治療

前立腺がんの治療

まずは定期的なPSA検査を――より精度の高い診断を目指した検査体制を整備

前立腺がんの9割は検診などでのPSA検査(血液検査)の異常値をきっかけに発見されますが、1割は骨転移(ステージ4)を伴って発見されます*。“命に関わらないがん”といわれることもありますが、決して何もしなくてよいがんではありません。骨転移のある前立腺がん患者さんの10年生存率は約3割ですので、約7割の方は亡くなっています**。
予後については、がんの性状や進行の程度などによって異なりますので、まずは早期発見が重要です。命を守るためにも、50歳を超えたら1年に1回程度の頻度でPSA検査を受けていただくことをおすすめします。

参考文献:前立腺がん検診ガイドライン2018年版 p6

参考文献:院内がん登録生存率集計 国立がん研究センター がん情報サービス 3)10年生存率集計報告書 2012年 生存率報告書全文 p50 前立腺がん ステージ4

まずは定期的なPSA検査を――より精度の高い診断を目指した検査体制を整備

来院いただいたらMRI検査などを実施し、前立腺がんを強く疑う場合は、前立腺生検を行います。会陰えいん部(陰嚢いんのう肛門こうもんの間)から針を刺すため「怖い」と感じる方もいらっしゃると思いますが、当院では全身麻酔下で検査を行っており、痛みはありませんのでご安心ください。また、より精度の高い生検を行うため、MRI画像と超音波画像を融合させた標的生検(MRI/US融合生検)を実施しています。
これらの検査を行って診断が確定したら、がんの進行度や年齢、患者さん本人のご希望などをお伺いしながら治療方針を決めていきます。

診療科の垣根を越えた前立腺がんの専門チームでよりよい治療を見極める

前立腺がん治療センターを設置しており、診療科間の垣根のないシームレスな診療体制を構築していることが強みです。泌尿器科医、放射線科医、病理診断科医が連携を図りながら診療にあたっています。

診療科の垣根を越えた前立腺がんの専門チームでよりよい治療を見極める

前立腺がんの治療には大きく分けて手術と放射線治療があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。手術は体内からがんを取り除けるメリットがある一方で、術後合併症として勃起障害や尿失禁が生じる可能性があります。放射線治療は組織を切除しない分これらの合併症は軽減できる一方で、放射線の影響で排尿障害や膀胱直腸炎、二次発がんなどが生じる可能性があります。

診療科の垣根を越えた前立腺がんの専門チームでよりよい治療を見極める

当然ながらどのような治療が適しているかは患者さんによって異なり、それは想定し得るデメリットについてもいえることです。当院では専門領域の異なる医師同士が常にコミュニケーションをとっておりますので、多角的な観点から一人ひとりの患者さんに適した治療をご提案可能です。

多様な選択肢を備え、希望の治療がかなえられる体制構築に努める

患者さんが希望される治療に応えられるよう、治療選択肢の充実を図っていることも強みです。特に放射線療法は、体の“内”から放射線を当てる小線源治療と、体の“外”から放射線を当てる外照射のどちらにも対応できます。大きな前立腺の方は排尿障害が強く出てしまうので、患者さんの状態に合わせてメリット、デメリットを相談しながら治療方針を相談していきましょう。

多様な選択肢を備え、希望の治療がかなえられる体制構築に努める

手術は、ダビンチXiを使ったロボット支援下前立腺全摘術を行っています。 小さい傷口で済むため、開腹手術に比べて体への負担を抑えた手術が可能です。
ご選択に応じてスムーズに対応できる体制を整えておりますので、前立腺がんの可能性を指摘された方、あるいは治療選択に迷っている方がいらっしゃいましたら、紹介状をご持参のうえぜひ当院へいらしてください。

解説医師プロフィール

脳卒中の治療

治療のゴールデンタイムを逃さないために――脳卒中に即応できる体制を整備

当院には、脳血管の治療を専門に行う脳血管内治療科と脳の外科治療を行う脳神経外科の2つの診療科があります。2017年に、この2つの診療科が中心となって治療を行う脳卒中ケアユニット(SCU)を開設しました。これは、急性期の脳卒中の患者さんを受け入れる専用の病棟です。

治療のゴールデンタイムを逃さないために――脳卒中に即応できる体制を整備

SCUは、脳卒中の診療を専門とする医師のみならず、専任の看護師やリハビリテーションスタッフなどから構成されています。多職種が連携することで、発症早期から退院まで切れ目のない診療を提供することが可能になります。
さらに2022年には、一次脳卒中センター(PSC)コア施設の認定も受けました。PSCコア施設は、日本脳卒中学会が認定するPSC施設のうち、常時自施設で血栓回収療法が実施可能なことなど一定の要件を満たした施設を指します。当院では脳血管内治療を専門とする医師*が3名おり、脳卒中に対して常に即応できる体制を敷いています。

日本脳神経血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医・指導医(医師の人数や資格は2025年3月時点の情報です)

治療のゴールデンタイムを逃さないために――脳卒中に即応できる体制を整備

脳卒中は、ある日、突然起こる病気です。片側の手足の麻痺や、喋りにくさ、片目が見えづらいなどの症状は脳卒中の前触れの可能性もあります。脳梗塞(脳卒中の一種)治療のゴールデンタイムは短く、症状が現れてから4.5~6時間以内とされています。移動や診断の時間を考えると、この時間は「あっという間」です。もしもこのような症状が現れた場合は、様子を見ず速やかに救急車を呼んでください。

脳血管内治療・外科的手術も対応できる充実した環境を整える

脳血管内治療・外科的手術も対応できる充実した環境を整える

脳卒中とは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が切れる「脳出血」「くも膜下出血」に大きく分類されます。脳梗塞が起こった場合、脳の虚血(十分な酸素が供給されなくなること)を一刻も早く解除しなければなりません。脳梗塞に対しては、当院では発症後の経過時間に応じて、血栓を溶かす点滴治療(tPA静注療法)や、カテーテルを使って血栓を直接取り除く血管内治療(血栓回収療法)を迅速に行います。脳出血・くも膜下出血が生じている場合は、速やかに止血や血腫(血液の塊)の除去を行います。

脳血管内治療・外科的手術も対応できる充実した環境を整える

なお、超急性期治療のみならず、脳卒中の予防治療にも注力しています。くも膜下出血の原因の1つに脳動脈瘤のうどうみゃくりゅうの破裂があり、これを防ぐには未破裂脳動脈瘤の治療が有用です。これまで開頭手術が一般的とされていましたが、当院においてはカテーテルを用いた血管内治療も駆使し、できるだけ侵襲しんしゅう(負担)の少ない治療に努めています。

脳血管内治療・外科的手術も対応できる充実した環境を整える

先述したとおり脳血管内治療科と脳神経外科の双方を備えていますので、多角的な観点で検討可能なうえ、ときにはそれぞれの治療を組み合わせるなどよりよい治療を追求できる環境があります。

一丸となって、発症させない・再発させない脳卒中診療に尽力

脳の組織は一度損傷を受けると自然に再生することはないため、脳卒中は治療をしても後遺症が残る傾向にあります。また、治療後は再発にも注意をしなければなりません。当院では可能な限り後遺症が残らないよう発症後の急性期から積極的にリハビリテーションを開始し、MSW(医療ソーシャルワーカー)とも連携を図り、退院後の生活環境を整える点も考慮した切れ目のない診療体制を構築しています。
外来受診時から超急性期の対応、退院後の生活まで幅広い観点をもって診療にあたらせていただきます。未破裂の脳動脈瘤が指摘されている方、あるいは体調の変化などご心配な点がある場合には、可能な限り紹介状をご持参のうえ、どうぞ遠慮なく当院へいらしてください。

健康保険法に基づき、紹介状をお持ちでない初診患者さんの場合には診療費とは別に初診時選定療養費7,700円(税込)が発生いたします。

解説医師プロフィール

乳がんの治療

女性であることがリスク因子といえる時代――定期的な検診と早期受診を

近年、日本人の女性の9人に1人が乳がんにかかるといわれています。遺伝などが原因になることが知られていますが、罹患率を見ると「家族にいないから大丈夫」と安心できる時代ではありません。20歳代~90歳以上まで幅広い年代で発症し得る病気ですので、女性である以上リスク因子があると考え、定期的に検診を受けていただきたいと思います。

女性であることがリスク因子といえる時代――定期的な検診と早期受診を

写真:PIXTA

しこりなど乳房に何らかの症状がある方は、できるだけ早めに受診をしていただくことをおすすめします。「診断されることが怖い……」という方もいらっしゃると思いますが、乳がんは早期発見できれば十分に根治が見込める病気です。早い段階での治療介入を逃さないためにも、まずは一度診察・検査を受けていただきたいと思います。

診断から治療、その後のケアまでさまざまなニーズに対応できる環境を整備

当院では、乳腺センターを設置しており、迅速な対応および診断後も一貫して対応できることが強みです。受診いただいたら、まず触診やマンモグラフィーとエコー検査を行い、悪性の可能性もある所見を認めたら、その日のうちに針生検を実施します。また可能な限り速やかに治療に移れるよう、必要に応じて当日中にCT検査・MRI検査を行うこともあります。なお、マンモグラフィーやエコーは予約の有無にかかわらず全て女性技師が担当いたします。

診断から治療、その後のケアまでさまざまなニーズに対応できる環境を整備

適した治療は、がんの進行度やタイプにもよりますが、当院では手術から化学療法、放射線治療、緩和治療、また乳房再建まで包括的な医療を提供できる環境を整えています。リンパ浮腫に関する専門的な知識をもつ女性看護師による日常生活での指導やリンパ外来での施術も行っており、まさに乳がん治療を行うにあたって理想的な体制が構築できていると感じます。不安な気持ちに寄り添える体制を整えておりますので、安心して受診していただければと思います。

30年後、40年後も笑って過ごせるように――未来を見据えて共に歩む

30年後、40年後も笑って過ごせるように――未来を見据えて共に歩む

当院では標準治療をおすすめしますが、同じ病名であっても望まれる生活や価値観などはその方によって異なりますから、患者さんが治療を受けられる上でも何を大切にされたいか、診察の際には、お仕事や趣味・ご家族のことなどにもお話に耳を傾けるよう心がけています。近年では抗がん薬の副作用を抑える薬もよくなってきており、病気にとらわれずに闘病前の生活をできるだけ変えずに治療を続けている方もいらっしゃいます。闘病中はつらいことや不安なことも多々あるかもしれません。ただ「あのときにあの治療を受けてよかった」――そう思っていただけるよう職員一同精いっぱいサポートいたします。笑って過ごせる未来に向けて、一緒に治療を進めていきましょう。

解説医師プロフィール

変形性関節症の治療

専門的な知見を生かし、痛みの“本当の原因”を見極める

変形性関節症とは、軟骨がすり減ることで関節が変形し、痛みや腫れ、可動域(関節が動かせる範囲)の制限などが生じた状態です。関節の中でも、膝関節ひざかんせつ股関節こかんせつなどに起こりやすい傾向にあります。

専門的な知見を生かし、痛みの“本当の原因”を見極める

当院では痛みの原因を正確に見極めるべく、受診いただいたら問診のうえ腰椎ようつい(腰の骨)から股関節、膝関節までのX線(レントゲン)やMRI撮影を行います。膝の痛みだと思っていた症状の原因が股関節にあることもありますし、脊椎(背骨)の病気が予測される場合でも検査をすると実は原因が股関節にあるケースもあります。このような例を見逃すことのないよう、網羅的な検査を行う体制を整えていることが当院の特徴です。

難易度の高い再置換術にも対応可能な技量を備え、よりよい治療の提供に努める

当院の医師たちは多岐にわたる手術方法を習得しており、特に人工関節置換術においては1970年代前半から長年にわたって研鑽を重ねてきました。この経験を基盤に、当院では再置換術 (人工関節を交換する手術)にも対応できる技量を備えていることも強みです。

難易度の高い再置換術にも対応可能な技量を備え、よりよい治療の提供に努める

昔の人工関節の寿命が長くなく、再置換術が必要になることも多くありました。再置換術では一度入れた人工関節を取り出す必要があるため、通常の人工関節置換術よりも高度な技術が求められます。近年では長持ちする人工関節が開発されているものの、骨粗鬆症に関連した人工関節の周囲骨折が増加傾向にあります。この場合、骨折の治療のみならず人工関節の再置換術が必要になることもあり、当院で治療を受けられる患者さんも度々いらっしゃいます。

基礎疾患があっても対応できる万全な体制に努め、“幸せになれる治療”を追求

近年は医療の発展に伴って、術式や使用するインプラント(人工関節)にはさまざまな選択肢があります。当院では“患者さんが本当に幸せになる治療の提供”を目指すため、治療を検討する際には必ず「痛みが軽減したら何をしたいですか」と伺っています。答えはさまざまですが、その答え(希望)をもとに手術方法やインプラントの選定、リハビリテーションの計画を立て、望まれる生活を実現すべく尽力いたします。

基礎疾患があっても対応できる万全な体制に努め、“幸せになれる治療”を追求

手術を受けるにあたって、リハビリテーションに不安を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。リハビリテーション科では、医師や理学療法士、作業療法士など多職種が機能回復をサポートする体制が整っていますので、ご安心ください。
また当院は循環器科、呼吸器科、腎代謝科など複数の診療科を備える総合病院ですので、糖尿病などの基礎疾患がある患者さんも各科で総合的に診療し、問題がないと判断できれば手術の実施が可能です。
「手術は怖い」と感じる方も多いと思いますが、人生にプラスになる治療をご提供できればと考えています。痛みでお困りの方は、紹介状をお持ちのうえ、ぜひご相談にいらしてください。私たちが責任をもって診療いたします。

解説医師プロフィール

区西部医療圏の医療

人口増加に伴い多様な疾患に対応できる医療機関が必要に

写真:PIXTA

人口増加に伴い多様な疾患に対応できる
医療機関が必要に

東京都の区西部に位置する中野区、練馬区、杉並区には2020年時点で約169万人が住んでおり、今後も人口増加が予想される地域です。3区を合わせた人口増減率の平均は2015年~2020年にかけて4.72%と全国平均(-0.75%)を大幅に上回っています。どの区も生産者人口が高齢者人口を上回っているのが特徴ではあるものの、高齢化は緩やかに進んでいます。働く世代の思わぬ事故や病気だけでなく、高齢者特有の病気まで、多様なニーズに対応できる医療機関が求められているといえるでしょう。

地域の医療機関と連携しよりよい医療を届ける
東京警察病院

職域病院として社会の安全に寄与し、地域医療への貢献を目指す

職域病院として社会の安全に寄与し、
地域医療への貢献を目指す

東京警察病院は、警視庁全職員の共同出資により1929年に開院した病院です。当時は主に警視庁職員の治療にあたっていましたが、現在では一般の患者さんが多く利用している地域の中核病院として医療を提供しています。当院のある中野区は、練馬区、杉並区に隣接しており、この地域の方々の一次救急(入院や手術を伴わない救急医療)から二次救急(入院や手術が必要な患者さんへの救急医療)まで24時間365日対応しています。東京都CCUネットワーク*にも参加しており、心筋梗塞しんきんこうそくなどの急性心血管疾患への対応が可能なほか、一刻を争う脳卒中の急患にも常時対応できる“一次脳卒中センター(PSC)コア施設(日本脳卒中学会認定)”でもあります。また、乳腺センターや前立腺がん治療センター、人工関節センターなど領域ごとにセンター化を図っていることも特徴です。各センターにおいては専門的かつ包括的な医療の提供を目指して強固な連携体制が敷かれています。
「医療の質の向上と患者さまの満足を目指し、日夜努力いたします」という当院の理念のもとにスタッフ一同が地域の皆さんに信頼される病院でありたいと考え、日々の診療に励んでいます。これからも、安全な医療の提供と充実した診療体制の整備に力を尽くし、急性期病院としての役割を果たすとともに、よりいっそう、地域の皆さんの健康と安心に寄与できるよう努力してまいります。

東京都CCUネットワーク:急性心血管疾患に対し、迅速な救急搬送と専門施設への患者収容を目的とした東京都のネットワーク。

院長プロフィール
長谷川 俊二 先生
長谷川 俊二先生
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  • 公開日:2025年5月1日
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