奈良県における消化器病の医療

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高齢化でリスクが高まる大腸がん――早期発見のため検査体制の充実が大切
奈良県は、高度経済成長期やバブル経済期に大阪都市圏に勤務する方のベッドタウンとして、人口が大きく増加しました。しかし、1999年に144万9,000人に達して以降は人口減少に転じています。現在は少子高齢化が進行し、65歳以上の人口が増加しています。
年齢を重ねるにつれて増加傾向にある病気の1つが大腸がんです。大腸がんはがんの部位別罹患率では、男女共に2番目に多いとされています(2020年時点)。一方で大腸がんは早期に発見することで根治が期待できます。大腸内視鏡検査は大腸がんのほか、潰瘍性大腸炎など別の消化器病の発見にもつながることから、受診の重要性が高まっています。
一方で、奈良県の消化器内科については人口10万人あたりの医療施設従事医師数が全国平均より少ないという状況にあります(2018年時点)。大腸がんをはじめとした消化器病に対するニーズの高まりに応えるため、奈良県の医療機関でも地域の患者さんが安心して検査や治療を受けることができる体制が求められていくでしょう。
奈良県の医療を支える
土庫病院

地域に寄り添い、専門的な治療と包括的なケア体制を全力で提供する
当院は1955年に高田民主診療所として開設されました。1988年に稲次 直樹医師の着任以降、肛門疾患や、炎症性腸疾患(IBD)などの大腸疾患に対し、専門的な医療を提供しています。治療はもちろん、早期発見のための大腸内視鏡検査の実施のほか、患者さんへ定期的に検査時期をお知らせするなどの予防的医療にも力を入れています。
当院ではがん治療にも注力しており、がん患者さんに対しては、内視鏡治療から化学療法、緩和ケア、自宅での看取りまで一貫したケアが可能です。老健施設や訪問看護なども含む施設体系の整備により医療から介護まで地域に寄り添ったサービスを心がけています。現在は中南和地域だけでなく、大阪、三重、奈良市北部などからも患者さんを受け入れています。
また、2025年の5月に奈良県内の病院3施設(吉田病院、おかたに病院、当院)が1つの法人に統合されました。これにより各病院の連携が強化され、同法人として共通した目標を持って協力体制を築いています。
これからも肛門や大腸の病気を専門とする病院として「あらゆるニーズにお応えすること」を目指して、地域の患者さんのために全力を尽くしてまいります。

土庫病院/吉田病院における
大腸がん/大腸ポリープ・痔・
潰瘍性大腸炎(IBD)・
直腸脱の治療
大腸がん/大腸ポリープの治療
自覚症状がなく気づきにくい病気――定期的に検診の受診を

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大腸(結腸・直腸)にできるがんを大腸がんといいます。大腸がんには、正常な粘膜から発生するものと、腺腫というポリープ(大腸の粘膜層が隆起したもの)が、がん化することで発生するものがあります。
大腸がんは、ある程度進行した段階でも症状が出ないことが少なくありません。そのため、がんを早期に見つけるためには、やはり検査を受けることが必要になります。ポリープから大腸がんになるまでには比較的時間がかかりますが、がんが進行すると、血便、お腹の痛み、下痢、便秘といった症状が現れることがあります。
野菜不足の方や運動習慣がない方は、特に注意が必要です。年代としては、高齢になるほどリスクは高まりますが、30歳代から徐々にがんになる方が増えます。便に血が混じっているかどうかを調べる便潜血検査で陽性だった場合には、医療機関で精密検査を受けていただければと思います。
負担の少ない内視鏡治療に注力――外科医によるESD治療でリスクに対応
精密検査の方法としては、カメラを使った大腸内視鏡検査が主流となっています。検査時の痛みに不安がある患者さんもいらっしゃると思いますので、当院の内視鏡検査では、鎮痛薬を使用して検査時の苦痛を軽減できるようにしています。また、検査結果が出るまでの時間を短縮し、その後の診察や治療を迅速に行うことにも力を入れています。組織の一部をとって調べる生検やCT検査で異常が見つかったときにはすぐに医師に連絡が入るようにしており、検査後約1週間で患者さんに検査結果をお伝えして、治療方針の検討に進めるようにしています。

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検査の結果、大腸ポリープやがんと疑わしい病変が見つかった場合、当院では内視鏡を使って大腸の内側からがんを切除する内視鏡治療が可能です。従来からある内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)に加えて、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に対応しています。ESDとは生理食塩水などを病変の下の粘膜下層に注入してから切除する方法です。
ESDは開腹手術と比較すると体に対する負担が少ない治療法ですが、大腸の壁は厚みが4〜5mmと薄いため、まれに治療後に出血や大腸に穴が開く穿孔が起こるリスクもあります。そのため熟練した手技が必要になります。当院では外科医がESDを行うことで、万が一穿孔が発生した場合にも、速やかに外科的な処置ができる体制を取っています。

がんで苦しむ方を1人でも減らしたい――。これが私たちの何よりの願いです。そのために市民公開講座などを開催し、がんに対する正しい知識や早期の検査受診の大切さをお伝えすることで、地域の方々の健康な生活を支えられればと考えています。年1回開催している「健康まつり」では、地域の方々が楽しめるさまざまな催しに加えて、大腸がんや肛門疾患についての解説や検査の紹介もしています。
早めの大腸内視鏡検査の大切さを訴え続けるとともに、良性のポリープのうちに適切に治療することで、できる限り未然にがんを防げるように日々診療にあたっています。ぜひ一度当院にご来院いただければと思います。

痔の治療
3人に1人といわれるほど一般的な病気――女性医師が診察する専門外来も設置

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痔は、お尻周辺の病気の総称です。主に痔核(いぼ痔)、切れ痔(裂肛)、そして痔瘻の3つに分類されます。日本人の3人に1人が痔に悩んでいるといわれるほど一般的な病気です。

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痔核は肛門の内部でいぼが腫れてくるタイプの内痔核と、いぼが外にできる外痔核の2種類があります。
切れ痔は、肛門の皮膚が切れて傷ができたものです。便秘など普段の便の習慣が大きく影響します。便秘傾向が強いと便が硬くなり、皮膚が裂けやすくなります。便秘になりやすいことから、女性に多くみられます。
痔瘻は前段階として肛門内部の小さな穴に細菌が入ることで肛門の周囲が化膿する肛門周囲膿瘍があります。肛門の周囲に吹き出物のような膨らみができ、自然に膿が出たときや、病院で切開して膿を出したときに膿の通り道が残ってしまうと痔瘻になります。痔瘻は特に早期受診が非常に大切な病気です。痔瘻を放置するとがん化するリスクがあるためです。お尻にできものがあり、膿が出ているといった方は、ぜひ早期に診察を受けていただきたいです。

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痔はデリケートな部分の病気であり、どうしても相談しにくいといった患者さんも多いと思います。当院では女性の患者さんのために、女性医師が診察する完全予約の「おしり専門外来」を設けており、受診の抵抗感を可能な限り低減できるように配慮しています。大腸肛門科は日中に時間が取りにくい患者さんのために週に2回(火曜日と木曜日)、夜間診療も実施しております。お尻の痛みが続く場合は、肛門の病気なのか、あるいは別の病気なのかを診断する必要がありますので、まずは一度受診いただければと思います。
患者さんのQOLを大切に希望に合わせた幅広い治療を提案

診察はまずは問診で症状を伺った後に、お尻の視診と、肛門の状態を指で確認する指診をします。その後、肛門鏡で肛門内部の状態を確認します。基本的にはその日のうちに大腸の内視鏡検査まで行うことで、大腸がんやポリープなどの痔以外の病気が隠れていないかまで丁寧に確認していきます。
痔と診断された患者さんに対しては、症状の程度によって治療方針を立てて治療を進めていきます。治療は体への負担が少ないゴム輪結紮術(痔核にゴム輪をかけて縛ることで壊死させる方法)や注射療法(ジオン注射による硬化療法)があります。お尻の括約筋は一度損傷すると修復が難しいため、患者さんが排便に対して不自由を感じることが少なくなるような治療を目指しています。手術が必要な場合には、排便機能を損なわないことを重視しています。痛みの少ない手術をご希望の場合には、麻酔処置にも対応しています。また日帰り手術から数日間の入院を伴う手術まで、症状や患者さんの希望に合わせて幅広い選択肢を提供しています。家庭状況や服用している薬などの個別の事情への配慮や、手術を連休の日程に合わせるといった調整も柔軟に対応します。
痔の症状で来院した患者さんの中には、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)が隠れているケースもあります。当院は大腸・肛門疾患に特化した専門の病院として痔以外の病気があった場合も同科で治療していくことができる体制を整えています。多様な状況に対応し、患者さん一人ひとりのQOLを大切にするのが当院のモットーです。 お悩みの方はぜひご相談ください。

潰瘍性大腸炎(IBD)の治療
その腹痛、実は難病かもしれません――潰瘍性大腸炎(IBD)の症状を見逃していませんか?
大腸と小腸の粘膜に炎症や潰瘍を引き起こす病気の総称を炎症性腸疾患(IBD)といいます。IBDはクローン病と潰瘍性大腸炎に分類され、潰瘍性大腸炎では、血便や粘液便、排便回数の増加などの症状が現れます。痔と自己判断して放置すると症状が進行してしまう可能性がありますので、血便がある場合は速やかに医療機関を受診して大腸内視鏡検査を受けることが大切です。当院では、患者さんをお待たせすることがないように大腸内視鏡検査をなるべく早く実施できる体制を整えています。受診の数日前~直前に出血があったような患者さんの場合は、受診当日に検査を行うことも可能です。
内科と外科の治療を円滑に切り替え、手術のタイミングも慎重に見極める

当院の最大の強みは、日本炎症性腸疾患学会の指導施設としてIBDに精通した外科医が内科的治療も担当している点です。これにより、内科的な治療と外科的な治療の切り替えを円滑にし、手術が必要な場合に適切なタイミングを逃さずに実施できるようにしています。
潰瘍性大腸炎と診断がついた場合、まずは薬による内科的治療を開始します。症状が重い場合には、一時的にステロイドを使って炎症を抑えたり、生物学的製剤などを使用したりします。ステロイドは一時的な症状改善に効果的ですが、長期使用は骨粗鬆症や免疫低下など、体への悪影響を及ぼす可能性があるため、ステロイド依存に注意が必要です。当院では、ステロイドの長期使用をできる限り行わず、早期に他の治療法へ切り替えることで、患者さんの長期的なQOL向上を目指しています。
また患者さんのライフスタイルに合わせて、飲み薬だけでなく3か月に1回の皮下注射や自己注射、あるいは2か月に1回の点滴など、柔軟な治療選択肢を提示しています。働き盛りの年代や通学がある患者さんもいらっしゃいますので、頻繁な通院が難しいという方にも継続しやすい治療をご案内し、日常生活への影響を最小限に抑えられるようにしています。
なお、IBDの薬は使い続けると体内で薬に対する抗体ができて効果がなくなってしまうものもあるので、必ずしも同じ種類を使い続けられるわけではありません。 近年ではIBD治療薬は飛躍的に進歩しており、使用できる薬剤の種類が増え、選択肢が広がっていることから、当院では患者さんの状況に合わせてよりよい薬を選択できるように新たな薬の情報を積極的にキャッチすることも大切にしています。

内科的な治療を行っても病状のコントロールが難しい場合や大腸がんが見つかった場合は、大腸の全摘手術を検討します。現在は腹腔鏡での手術を行っていますが、2025年の秋ごろにはロボット手術の導入を予定しており、より精密で患者さんへの負担が少ない手術を目指していきます。
現在、当院では増加する患者さんに対応していくために、スタッフを増員し、より多くの患者さんをお待たせすることなく受け入れられるように準備を進めています。医師をはじめ、看護師や薬剤師などのスタッフが一丸となって、患者さんが安心して治療に取り組めるよう支援させていただきますので、ぜひ当院を頼りにしていただければと思います。


直腸脱の治療
放置するとリスクが高まる病気――我慢せず早めに相談を

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直腸脱は、骨盤の1番下にある直腸を支えている周囲の臓器や組織が緩むことで、直腸が肛門から体の外に出てしまう病気です。特に高齢の女性に多くみられますが、若い年齢の方にも起こり得ます。
直腸脱という病気自体を知らないという患者さんは多くいらっしゃいます。お尻から何か出てきているような違和感を覚えた際に、痔と思い込んで受診される方がほとんどです。「恥ずかしい病気」と感じて1~2年我慢してしまうケースも少なくありません。
“直腸が外に出ているだけ”と軽く考えられてしまうこともありますが、放置するとさまざまな問題が生じます。直腸が外に出た状態が長く続くと肛門括約筋がダメージを受け、手術後も緩みが残ることがあるため、早期に治療し、括約筋の機能回復を図ることが重要です。このほか、便漏れが悪化したり、直腸の粘膜から粘液と一緒に栄養分が失われることで貧血や低栄養状態が進み、全身に悪影響を及ぼしたりすることがあります。中にはポリープなどの別の病気が隠れている場合もあります。
これらの点からも、気になる症状があれば早めに受診することが何より大切です。あまり知られていない病気であるため、ご本人だけでなく、ご家族や介護施設の職員など周囲の方が異変に気付いた際にも、ぜひ受診をすすめていただきたいです。
体に負担が少ない手術を追求――患者さんが明るい生活を取り戻せるようサポート
直腸脱の治療は手術が基本となります。術式はいくつかありますが、脱出している腸の長さや再発の可能性、患者さんのご年齢などを考慮し、できる限り安全で再発の少ない手術ができるように患者さんにふさわしい術式を選択していきます。

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以前は経会陰手術(肛門側から直腸を縫い縮めたり切除したりする方法など)が主流でした。これは心臓が弱い方など全身麻酔のリスクが高い方でも行えるという特徴がありますが、再発が多いことが難点となります。これに対し当院では腹腔鏡下直腸固定術を第一選択としています。腹腔鏡下直腸固定術では直腸を根本的に元の位置に戻すため、再発率が低いのが特徴です。体への負担も少ないため、高齢の方や合併症がある方でも手術が適応となる可能性があります。術後の回復も早く、手術翌日から歩ける方や、1週間以内に退院される方もいらっしゃいます。
直腸脱はデリケートな部分の病気であるため、受診をためらわれる患者さんが多いです。放置してしまうと、歩きにくさや不快感から外出を控えがちになってしまうことがありますし、結果として人付き合いが希薄になり、QOLが低下することも考えられます。きちんと治療することで、そのような制限から解放され、元の明るい生活を取り戻すお手伝いができればと考えています。患者さんが元のQOLを取り戻せるように全力を尽くしますので、気になる症状がある方は、ぜひ早めに受診いただければと思います。

同医療法人の病院


- 公開日:2025年8月13日