泉州地域の医療

気付きにくい心臓弁膜症、泉州地域の方々へ適切な治療を届けるためには

気付きにくい心臓弁膜症、泉州地域の方々へ適切な治療を届けるためには

泉州医療圏は岸和田市をはじめとする8市4町からなり、総人口は約90万人です(2020年時点)。2015年をピークに人口は減少傾向にありますが、その一方で高齢化率は年々上昇しています。2050年には高齢者が4割以上を占めると予測されており、医療提供体制のさらなる強化が求められます。
高齢化に伴って増加する病気の1つに心臓弁膜症が挙げられます。心臓弁膜症は放っておくと突然死を招く恐れのある病気です。しかし、推定される患者さんの数と、実際に治療を受ける患者さんの数に大きな乖離があり、治療介入の重要性について情報が浸透していないことが課題とされています。心臓弁膜症を早期に診断し適切な治療につなげるため、各自治体や医療機関は一丸となって発症および重症化予防に取り組み続ける必要があるといえます。また、心臓の病気は救急搬送が必要になるケースもあります。施設ごとの医療機能を把握したうえで、医療圏全体で救急指定病院との効率的な連携体制を構築することも大切といえるでしょう。

泉州地域の医療を支える
岸和田徳洲会病院

“断らない”を信念に、質の高い医療で地域に貢献し続ける

“断らない”を信念に、質の高い医療で地域に貢献し続ける

当院は1977年に徳洲会グループ3番目の病院として開院し、地域の中核的な病院として発展してまいりました。特に救急医療に注力しており、“断らない”という信念のもと泉州地域における救命救急の最後の砦として24時間体制で診療にあたっています。救命救急センターの設置はもちろんのこと、ドクターヘリの受け入れ・ラピッドレスポンスカー(機動性に富んだドクターカー)の導入も行い、緊急処置を必要とされる患者さんへいち早く医療を届けられる体制を構築しています。
心血管疾患に対しては、1人でも多くの患者さんへ治療提供ができるよう新しい技術・治療機器の導入にも積極的に取り組んできました。幅広い心血管疾患に対し、多くの治療実績を誇り、抜け目のない医療が提供できていると自負しております。当院だからこそ提供できる質の高い医療を追求し、これからもこの地域に暮らす方々の健康と生命いのちを守り支え続けてまいります。

院長プロフィール

岸和田徳洲会病院における
心臓弁膜症の治療

心臓弁膜症の早期発見

心機能が落ちる前に早期診断と治療を

心臓弁膜症とは、心臓の弁が正常に機能しなくなる病気の総称です。具体的な種類としては、大動脈弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症・僧帽弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症などがあります。中でも高齢化社会において増加傾向にあるのが、大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症です。種類によってそれぞれ病態は異なるものの、どの心臓弁膜症でも言えるのは適切なタイミングでの治療が重要ということです。

心機能が落ちる前に早期診断と治療を

軽症~中等症の場合は薬を内服しながら経過観察を行いますが、重症の場合はできるだけ早いタイミングで手術をするのが望ましいとされています。というのも、早い段階で手術ができれば、発症前の生活を取り戻せる可能性が高いためです。治療が遅れるほど心筋(心臓の筋肉)へのダメージが蓄積して心機能は低下していきます。このような状態になると、たとえ手術で弁を治療したとしても心機能は回復しにくく「手術をしたのに胸が苦しい」などということになり得ます。また、ダメージが蓄積された心臓は危険な不整脈を引き起こす可能性もあり、放っておくと突然死のリスクも伴います。
動悸や息切れなどの症状がある、または健康診断などで心雑音を指摘されたことがある方は、お近くのクリニックで構いませんので循環器内科を一度受診いただきたいと思います。なお、心臓弁膜症は進行する可能性のある病気です。すでに診断されている方は軽症の場合で3~5年ごと、中等症の場合で1~2年ごとに心臓超音波検査を受け、適切な治療のタイミングを見逃さないようにしましょう。

解説医師プロフィール

心臓弁膜症の低侵襲手術(MICS)

完全内視鏡下MICSにより体への負担を抑えた手術を実践

重症心臓弁膜症と診断がつき、耐術性(手術に耐える体力)に問題がないと判断した場合は基本的に手術を検討します。通常、心臓弁膜症の手術は胸骨を縦に切開する“胸骨正中切開”という方法で行われます。この方法では、喉元からみぞおちにかけて20〜30cmほどの大きな傷あとが残るうえ、胸骨を切って心臓にアプローチするため回復にも時間を要します。これに対し、当院では低侵襲心臓手術ていしんしゅうしんぞうしゅじゅつ(MICS:ミックス)という術式を積極的に行っています。

完全内視鏡下MICSにより体への負担を抑えた手術を実践

MICSは開胸せず、肋骨ろっこつの間から心臓にアプローチする手術方法です。小さな傷口で済むため整容面に優れており、かつ開胸手術と比べて痛みが少なく感染症のリスクも減らすことができます。また、骨を切らないため、術後の早期回復・早期社会復帰が望めることが大きなメリットです。当院では運動についても制限は設けていませんので、退院後は通常どおりの生活に戻っていただけます。心臓へのアプローチ方法は大きく変わるものの、MICSの治療成績は開胸手術と同等であることが報告されています。
なお、MICSには開胸器(骨の間を広げて病変部を見やすくするための器具)を用いて直視下で行う方法もありますが、当院では完全内視鏡下で行います。内視鏡であれば肋骨の間を広げずに処置ができ、骨への負担を減らすことができます。これにより術後の痛みをさらに軽減することが可能です。

無症状の方にこそ内視鏡下MICSという選択肢を知ってほしい

重症心臓弁膜症で何らかの自覚症状が現れている場合は手術の絶対適応となるものの、中には症状がなく進行し、重症化するケースもあります。自覚症状がない場合、手術適応は心臓の状態などをみて総合的に判断をしますが、きっと「症状がないのに大きな手術を受けるのは嫌だ」と思う方も多いでしょう。その点、MICSは開胸手術と同レベルの治療を体への負担が少なく実施できるわけですから、まさに無症状の方にこそ適した方法といえます。
具体的な治療方法については、大動脈弁狭窄症の場合、傷んだ大動脈弁を人工弁に置き換える“大動脈弁置換術”を実施します。僧帽弁閉鎖不全症の場合は、多くの場合で弁の異常を修復する“弁形成術”を行います。当院ではどちらの術式も“完全内視鏡下”で実施可能であり、術式問わずMICSのメリットを維持した治療に努めています。特に大動脈弁置換術を内視鏡下で行える施設は大阪府内全体でも少なく、当院の強みの1つです。

無症状の方にこそ内視鏡下MICSという選択肢を知ってほしい無症状の方にこそ内視鏡下MICSという選択肢を知ってほしい

傷口の具体的な大きさについては、大動脈弁置換術の場合で4~4.5cmほど、僧帽弁形成術の場合で3cmほどです。どちらも切開する場所は右胸やわきの下のため正面から傷が目立ちにくく、女性の場合は乳房に隠れてほとんど見えなくなります。
繰り返しになりますが、心臓弁膜症は治療のタイミングが重要です。無症状の方であっても “今のうち”に手術を受けていただくことで、将来的に健康的な生活を維持できる可能性も高まります。手術をすすめられていて治療に迷われている方は、ぜひ一度当院へご相談ください。開胸手術・MICSのどちらにも精通した医師が双方のメリット・デメリットをしっかりとご説明いたします。不安なこと・分からないことがあれば、遠慮せずお尋ねいただければと思います。

経験を積んだハートチームの総合力を生かして診療にあたる

経験を積んだハートチームの総合力を生かして診療にあたる

心臓の手術では、循環器内科医・心臓血管外科医の連携はもちろんのこと、看護師やリハビリテーション職などを含めたチーム全体の連携が重要です。また、専門的な知識や高い技量が求められるため、どこで手術を受けても同じとはならず、医療の質にはスタッフそれぞれの経験が直結します。当院では内科・外科の連携がスムーズなうえ、心臓弁膜症の単独手術だけでも年間62例*実施しており、それだけの経験を積んだスタッフたちが診療に関わります。これまでに培った総合力を生かし、スタッフ一同サポートいたしますので、安心していらしてください。

2023年度(2023年4月~2024年3月)実績。大動脈弁置換:23例、僧帽弁形成:19例 、僧帽弁置換:10例、2弁以上の合併手術:10例、緊急/準緊急手術:4例

解説医師プロフィール

心臓弁膜症のカテーテル治療

TAVI/MitraClipにより、手術困難な患者さんにも治療提供を目指す

重症心臓弁膜症の治療は、基本的に手術が第一選択となります。ただ、高齢であったり、ほかの病気も患っていたりする方の場合は、手術のリスクが高く不適応と判断されるケースも多々ありました。このような課題を解決するため、当院では手術よりも体への負担が少ない“カテーテル治療”を積極的に導入しています。詳しくは後項で説明しますが、大動脈弁狭窄症に対しては、TAVI(タビ)という方法で治療を、僧帽弁閉鎖不全症に対しては、MitraClip(マイトラクリップ)という方法で治療を行います。「手術ができない」と判断された方でも当院であれば治療ができる可能性もありますので、まずは1度ご相談にいらしていただければと思います。なお、治療選択肢があると分かっても、その決断は簡単なものではないはずです。迷いや不安なども含めてじっくりとお話を伺いますので、相談を重ねながら一緒に治療を進めていきましょう。

大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療:TAVI

TAVIでは、カテーテルという細い管を血管から挿入し、人工弁を装着することで心機能の改善を図ります。太ももの付け根などを1〜5cmほど切開すればよいため、開胸することなく治療が可能です。また、処置の際に人工心肺を使用する(心臓を止める)必要もないため、これまで耐術性の観点から手術が困難とされた患者さんへも治療が提供できるようになりました。当院におけるTAVIの詳細については、こちらの紹介ページもご参照ください。

僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療:MitraClip

僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療:MitraClip

MitraClipでは、カテーテルという細い管を血管から挿入し、閉まりが悪くなった僧帽弁を専用のクリップで引き合わせる処置を行います。全身麻酔下*で行う治療ではあるものの、3mm程度の傷で処置ができ、患者さんの体への負担を軽減することが可能です。MitraClipは2018年に保険適用となった治療法ですが、当院では同年すぐに導入しました。当院におけるMitraClipの詳細については、こちらの紹介ページもご参照ください。

麻酔科標榜医:高木 治(たかぎ おさむ)先生

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年6月28日
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