道東(釧路、根室、北網、
十勝地方)の医療

写真:PIXTA
人口の30%以上が65歳以上と深刻な
高齢化が医療課題に
釧路、根室、北網、十勝医療圏は、北海道の道東地域にあたります。この地域の人口は約84万人、人口増減率は2015年~2020年にかけて-5.43%*ほどと全国平均(-0.75%)を大幅に下回っており、人口が減少傾向にあります。さらに高齢化率も32.9%*(全国平均28.6%)と深刻です。高齢化によって増加する病気の1つに、心疾患が挙げられます。心疾患で現れる症状は、加齢に伴う変化との区別がつきにくい側面があるため、地域の各医療機関は連携を強化し、病的な症状が疑われる方を早い段階で適切な検査・治療に結び付けることが重要といえます。
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人口増減率・高齢化率ともに釧路、根室、北網、十勝医療圏の平均値です。
道東の医療を支える
釧路孝仁会記念病院

経食道心エコー検査を心疾患の治療に役立てる
心疾患が疑われる場合に行う検査の1つに、心臓超音波検査(心エコー検査)があります。一般的な心エコー検査(経胸壁心エコー検査)は、超音波を送受信する機器を胸に当てて、心臓の大きさや動き、血液の流れなどを観察する検査です。この検査は、皮膚の上から超音波を当てるため、肋骨や肺などの心臓周辺の臓器によって検査視野が狭くなる側面があります。当院では必要に応じて、経食道心エコー検査を施行しています。経食道心エコー検査とは、胃カメラのように口から食道に医療機器を挿入し、食道から心臓を観察する検査です。食道は心臓のすぐ後ろに位置するため、食道からアプローチすることで通常の心エコー検査より近距離かつ、遮る臓器がない状態で心臓の詳細を観察することができます。三次元画像を用いており、心臓弁膜症の評価などに有用です。また、経カテーテル左心耳*閉鎖治療**を行う際には、術前術中に実施している検査です。
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左心耳:心臓の端にある耳たぶの形をした部位。
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経カテーテル左心耳閉鎖治療:心臓の中の血栓が原因となる脳梗塞の予防として、左心耳の入口にデバイスを留置する方法。

迅速な検査と診断が心疾患の治療を左右する
当院では、診断に必要とされる検査を迅速かつ柔軟に実施できる体制が整っています。たとえば、診察の結果、すぐに心エコー検査を実施したほうがよいと判断した患者さんがいた場合には、あらかじめ用意している検査枠を超えてその日のうちに検査を実施することもあります。1分1秒を争う心臓の病気を治療するには、迅速な検査が求められます。当院では24時間体制で急な検査、治療に対応できますので、締め付けられるように苦しい、押されるように痛いなどの胸の変化を感じたときには昼夜を問わずいらしてください。

釧路孝仁会記念病院における
狭心症/心筋梗塞・不整脈・
大動脈瘤・心臓弁膜症の治療
狭心症 / 心筋梗塞の治療
冠動脈の狭窄で起こるのが狭心症、心筋の壊死で起こるのが心筋梗塞

狭心症は、心筋(心臓の筋肉)に血液を送り込む冠動脈という血管の狭窄(狭くなること)によって発症する病気です。心筋への血液量が減少することで、酸素の供給も不足するため、息苦しさや胸の痛みなどが現れます。狭心症が進行すると、心筋梗塞の発症にもつながります。心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まって心筋が壊死する病気で、発症した場合は緊急の治療が必要です。狭心症・心筋梗塞のどちらも多くは動脈硬化が原因となって発症する病気です。すでに動脈硬化を指摘されている方は、定期的な受診をおすすめします。なお、先述した症状だけでなく、みぞおちの痛みや、場合によっては腕の痛みなどが現れることもあります。これらの症状がみられたときは、速やかに当院へご相談ください。常に「もしかしたら自分が……」という危機感を持っていただくことが狭心症をはじめとする心疾患の早期発見につながります。
1分1秒を争う病気に対応すべく、迅速に治療を行える体制を整える
狭心症・心筋梗塞の治療には、薬物治療・カテーテル治療・冠動脈バイパス術があり、当院においてはこれらどの治療にも対応可能な体制を整えています。カテーテル治療とは、手や足の動脈からカテーテル(医療用の細いチューブ)を挿入して行う治療です。狭窄のある冠動脈部分をバルーン(風船)で拡張し、ステント(金属製の網状の筒)を留置することで、血液の流れを回復させます。実はこの釧路地域は海に近いという土地柄、塩分過多な食事をする方が多く動脈硬化が進行している人が多いです。そのためカテーテル治療を行う際も、血管が硬くバルーンだけでは血管が広がらない患者さんが多くみられます。そこで当院では、ロータブレーダー(血管内の動脈硬化による病変部位を削る治療)の他に、血管内石灰化破砕術(IVL)の導入をしました。この治療は血管内の硬い(石灰化した)部分に衝撃波を照射して破砕することで、血管内腔を広げる治療です。

症状が重度でカテーテル治療が適用にならないと判断した患者さんには、冠動脈バイパス術を行っています。この手術は冠動脈の血流が悪くなった部位に、患者さんご自身の手や足、胸から採取した血管をつなげ、血液の迂回路を作るという方法です。特に心筋梗塞は時間との勝負となる病気です。よい経過を得るためには発症から90分以内の血流の再開が推奨されているため、当院では患者さんが治療室に入ってから30分以内の治療開始を目指します。可能な限り時間のロスを削減できるよう24時間365日、医師をはじめスタッフたちが常に体制を整えています。何か困った症状がみられたときはぜひ当院へいらしてください。

不整脈の治療ほかの臓器を傷つけないパルスフィールドアブレーションを導入
不整脈とは、脈が遅くなる(徐脈性不整脈)、脈が速くなる(頻脈性不整脈)、不規則になるという状態をいいます。不整脈の種類は多く、治療選択肢も多岐にわたります。徐脈性不整脈の治療は、足りない脈を補うためにペースメーカーでの治療がメインとなり、頻脈性不整脈は脈を減らすための薬物療法やカテーテルアブレーションというカテーテル手術が選択肢として挙げられます。不整脈の中でも、患う方が多く早期からの治療が必要となるのが、心房細動という不整脈です。心房細動は、心房が小刻みに震える状態で脈が不整になり、動悸、息切れといった症状や心臓の中に血栓ができて脳梗塞を引き起こしたり、心不全の原因になったりするため、薬物療法やカテーテルアブレーションによる治療を行います。

カテーテルアブレーションは、足の付け根などから、カテーテル(医療用の細い管)を挿入し、不整脈の原因となっている心筋部分に熱や冷却を加える治療法です。研究のうえ確立された有用な治療法ですが、原因部分にやけどや凍傷を作って治療するため、周辺の組織(食道や横隔神経)に熱が伝わり傷つけるというリスクがあります。当院ではよりリスクの少ない心房細動の治療を行うため、2025年2月より、パルスフィールドアブレーション(PFA)を導入しました。PFAは熱を発生させずに治療するので、ほかの臓器を傷つけるリスクがなく、不整脈の原因となっている心筋にのみアプローチすることが可能です。
心房細動による脳梗塞のリスクを軽減する経カテーテル左心耳閉鎖治療
さらに当院では心房細動の脳梗塞予防として、経カテーテル左心耳閉鎖治療を行っています。心房細動になると、左心耳(心臓の端にある袋状の部位)内に血液が滞留して血栓となり、脳梗塞を引き起こす可能性があります。血栓予防のために抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を使いますが、出血性合併症を起こすことも少なくありません。そのため、脳梗塞リスク、出血リスクの高い患者さんに対し経カテーテル左心耳閉鎖治療をおすすめしています。この治療は、全身麻酔下で2時間程度の手術で、入院期間は約5日間です。治療方法は足の付け根からカテーテルを通して、WATCHMAN(ウォッチマン)というデバイスで左心耳の入口を塞ぎます。血栓のできやすい部位を閉じてしまうことで脳梗塞のリスクを軽減できるうえ、ほとんどの方において治療後半年ほどで抗凝固薬の服用も中止できるため、出血のリスクも減らすことができます。

心臓の治療というとハードルが高く諦めてしまう患者さんもいらっしゃいますが、治療法は進歩しています。いつ不整脈が起こるか分からず不安を抱えながら生活している患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ当院にご相談ください。よりよい治療法を一緒に探していきましょう。

大動脈瘤の治療
破裂するまで症状がほとんどみられないサイレントキラー
大動脈瘤とは、大動脈(体の中で最も太い血管)に瘤ができ、血管が通常の1.5倍以上の太さになった状態です。腹部と胸部にできる場合があり、腹部では3cm以上、胸部では4.5cm以上で大動脈瘤と診断されます。

症状としては、胸部大動脈瘤では声がかすれる、腹部大動脈瘤ではお腹のあたりの瘤に触れるとドクドクするなどがあります。しかしほとんどの場合、破裂するまで症状がないことからサイレントキラーと呼ばれています。大動脈瘤は、事前に発見することが難しい病気ですが、健康診断で胸部や腹部のCT検査をしたことで、偶然見つかる患者さんも少なくありません。早期発見につながる1つの方法としては、40歳代を過ぎたら1回、胸部と腹部のCT検査を受けるとよいと思います。
治療選択肢を複数備え、患者さんの状態に適した大動脈瘤治療を提供する
破裂の可能性がある大動脈瘤に対して、当院では少し前までは開胸・開腹手術を行うことが一般的でした。しかし近年では低侵襲な治療法であるステントグラフト内挿術が普及しており、当院でも実施しています。ステントグラフト内挿術は、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、ステントグラフト(金属製のバネ付き人工血管)を大動脈瘤のできている部位に留置する治療法です。

この治療法は、胸を大きく切開する必要がなく、患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。手術後、2~3日以内には多くの方が歩行可能になるほど回復が早いこともメリットといえます。なお、瘤が大きくステントグラフト内挿術が適さないと判断した場合は、胸やお腹を切開して、瘤ができている部分の大動脈を人工血管に取り換える人工血管置換術を行います。こちらは侵襲性が大きい治療ですが、瘤を取り除き人工血管に置き換えるため、手術後に再発する可能性が低いことが長所です。当院では、患者さんの状態に応じて2つの手術に対応できることが強みです。症状がないことが多い病気ですが、先述したような前兆がみられた場合は、当院へご相談にいらしてください。

心臓弁膜症の治療
息切れ、動悸がみられたら年のせいだと思わず必ず受診を
心臓には4つの部屋があり、それぞれは弁で仕切られています。この弁が硬くなって開きにくくなったり、壊れて閉まらなくなったりする状態が心臓弁膜症です。発症早期には自覚症状が現れにくく、息切れや動悸などの症状が現れたときにはすでに進行しているケースが多くみられます。放っておくとさらに病状が悪化する可能性もありますので、気になる症状が現れた場合には「年のせいだから」などとご自身で納得せず、一度受診をしていただきたいと思います。

当院ではまず聴診を行い、心雑音がないかを確認します。聴診で雑音が認められた場合、心臓超音波検査(心エコー)で弁が機能しているかを観察し診断を確定します。
患者さんが望まれる生活を実現することが当院の役割
当院では心臓弁膜症に対する治療として、従来の開胸手術(胸骨正中切開手術)と、胸腔鏡で行うMICS(低侵襲心臓手術)を行っています。患者さんの耐術能(心肺機能のはたらきなどから想定される手術に耐えられる力)から、どちらかの術式を選択します。胸骨正中切開手術はどの弁の治療にも対応できるメリットがあります。しかし、胸部を20~30cm程度切開する必要があるうえ、人工心肺装置を用いて(心臓の動きを止めて)行う手術のため患者さんの体に負担がかかることから、比較的若い方におすすめしています。一方、胸腔鏡を使うMICSは右胸の肋骨の間を約7cm程度切開し、原因となる弁にアプローチする方法です。心臓を止めるのは同様ですが、骨を切らないため出血が少なく低侵襲で済むことから、主に僧帽弁を治療する患者さんに適応となります。

さらに当院では2025年夏頃から、カテーテルを足の付け根から挿入して大動脈弁の治療を行うTAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)を導入する予定です。この治療は開胸せず小さな傷で、短時間で治療が済むことから高齢の患者さんに向いている手術といえます。心臓弁膜症の患者さんは高齢の方が多く、手術というと治療を諦めてしまう方が多い傾向がみられます。当院では患者さんの状態に合った治療選択肢をご用意し、治療方針を決める際は必ず患者さんご本人がどのような生活を望まれるのかをお聞きしていますので、ぜひご相談ください。

- 公開日:2025年4月25日