福岡県・福岡市のがん医療

がん治療を行う医療機関の選択肢は多数

写真:PIXTA

がん治療を行う医療機関の選択肢は多数

人口約510万人(2024年11月1日時点)を抱える福岡県では、1977年から現在まで死亡原因の第1位ががんとなっています。2024年3月には“第4期福岡県がん対策推進計画”が策定されるなど、県全体としてがん診療に対する体制の強化が進められてきました。
福岡県にはがん診療連携拠点病院が24か所あり、その内訳は大学病院や総合病院、がんセンターなどさまざまです。5大がん(肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん)の治療をはじめとした基本的ながん診療を行う医療機関の選択肢は多いといえるでしょう。今後は社会の高齢化を見据えた高齢者に対するがん診療の拡充はもちろん、若い世代のがんや希少がん、難治性のがんまでしっかり診療できる体制の構築が求められています。

福岡市の医療を支える
九州がんセンター

地域がん治療の一翼を担う

“病む人の気持ち”そして
“家族の気持ち”に寄り添い
時代のニーズに合わせたがん医療を提供

九州がんセンターは1972年に九州で唯一のがん専門診療施設として開設されました。設立当初からチーム医療に取り組んでおり、密な院内連携による、スピーディーで切れ目のない診療体制が強みです。また2018年にはがん診療を専門とする国内の病院としては初となる「老年腫瘍科ろうねんしゅようか」を設立し、地域に必要とされる医療提供体制を整えてきました。
がんセンターとしての当院の役割は、基本的ながん治療だけでなく希少がんや悪性度が高いがんなどの難しい症例の治療にも対応することです。手術・薬物療法・放射線治療といった主要な治療法はもちろん、がんゲノム医療などの検査・治療にも対応しており、治験や臨床試験を通してよりよい治療法の開発にも取り組んでいます。
時代の流れとともに地域の環境や治療内容は変化しますが、病む人とご家族の気持ちに寄り添う精神は変わらず当院に根付いています。この信念を持ち続けると同時に、時代のニーズに応えるべく新たな発想も取り入れ“今患者さんのために何ができるか”を職員一人ひとりが常に考え、これからも地域の皆さまの健康に貢献します。

院長プロフィール

九州がんセンターの
肺がん・子宮体がん・
肝がん/神経内分泌腫瘍・
食道がん治療

肺がんの治療

初期症状が乏しく検診が早期発見の鍵

初期の肺がんは症状が乏しいため、転移による症状が発見のきっかけとなるケースも珍しくありません。早期発見をするためには、まず定期的な検診を受けていただくことが重要です。血が混じった痰や息苦しさなど、何らかの症状がある場合は検診を待たずに近隣のクリニックを受診しましょう。当院では地域のクリニックや市中病院に向けて、肺がんが少しでも疑われる方がいらっしゃる場合は積極的にご紹介いただくようお伝えしています。紹介状をお持ちの方は、できるだけ速やかにご来院ください。
当院を受診された方に対しては、まずCT検査、PET検査、MRI検査を行ってがんの広がりを調べ、検査結果に応じて治療方針を検討します。“肺がんかもしれない……”という不安な時間を可能な限り短縮できるよう、スピーディーに診断することを心がけています。また、あいまいな説明が不安につながることもありますから、患者さんが置かれている状況や検査後のステップをきちんとお伝えすることで、気持ちの整理をつけやすくなるよう努めています。

初期症状が乏しく検診が早期発見の鍵

密な連携でさまざまな治療法・副作用に対応

がんが見つかった場合は、当院では初診から1~3週間ほどで治療を開始します。
肺がんのステージ(進行度)によって治療法はさまざまですが、手術を行う場合はできるだけ早く日常生活に復帰できるよう、胸腔鏡下手術やロボット支援下手術など、患者さんの体への負担が少ない手術を行っています。また肺がん治療において薬物療法の進歩は目覚ましく、遺伝子検査によって患者さん一人ひとりの体質や病態に合った治療が増えつつあります。診療各科の知見を共有しながら、肺がんの進行度に応じて免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などを使った薬物療法、または薬物療法と放射線治療を両方行う化学放射線療法を行います。
加えて、当院では標準治療を提供することはもちろん、条件に適合すれば治験に参加して治療を受けていただくことも可能です。一般の診療だけでなく国際的治験にも携わることで新しい治療開発に貢献するとともに治療選択の幅も広がり、それぞれの患者さんに合った治療法を提案できるように努めています。

密な連携でさまざまな治療法・副作用に対応

副作用に対応する体制も整っており、患者さんに可能な限り安全に治療を行えることも当院の強みです。分子標的薬の副作用である皮膚や消化器の症状など、呼吸器腫瘍科だけで対処するのが難しいケースでも、各診療科が横断的に連携して、薬による有害事象を素早く適切に対応できる体制を備えています。 また当院は緩和ケアチームも擁しており、体の痛みのケアを専門とする医師や心のケアを専門とする医師、看護師、臨床心理士、薬剤師などが入院・外来問わず患者さんのさまざまなつらさに寄り添います。
がんの状態を見極め、患者さんのご希望に合わせて適切な治療方法を提案いたしますので、肺がんの治療はぜひ当院にお任せください。

解説医師プロフィール

子宮体がんの治療

婦人科がんの中で一番患者数が多い子宮体がん

子宮体がんは子宮内膜*から発生するがんです。近年は子宮体がんが増加傾向にあり、婦人科がんの中でもっとも多いがんとなりました。50〜60歳代に多くみられますが、近年は30~40歳代で罹患する方もいます。
代表的な症状として、不正出血や血の混じったおりもの、閉経前の若年女性においては月経不順などが挙げられます。当院へ受診される患者さんの多くは、婦人科クリニックや市中の病院で細胞診や組織診を受け、異常が見つかった方です。万が一異常が見つかった場合は、紹介状をご持参のうえ、ぜひ当院にご相談ください。

子宮の体部(胎児が育つ場所)の内側を覆っている粘膜組織。

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術による低侵襲な治療

子宮体がんに対する治療の第一選択は、子宮や卵巣・卵管を切除する手術です。初診から手術までの期間は通常3~6週間と、スピーディーに治療につなげる体制を構築しています。
手術前の検査で早期がんと予想される場合、腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつやロボット支援下手術などの、開腹手術に比べて体への負担が少ない手術が行える場合もあります。腹腔鏡下手術やロボット支援下手術では、お腹に数か所の小さな穴を空け、そこからカメラや医療器具を挿入して手術を行います。ロボット支援下手術のほうが術中の視野を確保しやすい、精微な手術を行いやすいといった利点はありますが、手術の内容や質にほとんど差はありません。これらの手術は開腹手術と比較して傷が小さいため体力の回復が早く、早期に退院できる点がメリットです。できる限り日常生活への影響が少なく済む治療法も視野に入れて治療方針を検討しますので、お仕事や育児のことなど心配なことがある方は遠慮せずお伝えください。

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術による低侵襲な治療

幅広い年代の思い・体調に寄り添った治療を提供

“適切な治療をなるべく早く患者さんにお届けすること”をモットーとしていますが、この“適切な治療”は患者さんのライフプランによってさまざまです。治療後に妊娠を望む若年の患者さんの場合、早期のがんであれば手術ではなくホルモン療法によって子宮や卵巣・卵管を残せる可能性もあります。当院では実際に、治療後に妊娠に至った患者さんもいらっしゃいます。当科には女性医師が5名在籍*しており、女性特有のお悩みも相談しやすい環境ですので、治療後のご希望もお伺いしながら患者さんに適した治療をご提案いたします。
また、高齢の患者さんの場合は年齢が同じでも元気な方もいらっしゃれば、持病のある方や体力が落ちている方もいらっしゃいます。当院には老年腫瘍科という診療科があり、高齢の患者さんの全身状態や認知機能などを細かく評価することを行っています。患者さんの状態や希望を考慮し、がんの根治性を第一優先とするのか、副作用の少なさを重視するのかなど、お一人おひとりに合わせた治療やケアの提供に努めています。

幅広い年代の思い・体調に寄り添った治療を提供

子宮体がんには子宮頸しきゅうけいがんのような有効性が高いがん検診がないため、症状を見逃さずに病院を受診することが早期発見につながります。月経不順などの症状を軽く考えず、また閉経後の性器出血があったら必ず検査を受けることが重要です。気軽に受診できるかかりつけの婦人科をぜひ持っていただきたいと思います。いざというときは、がん診療の経験を重ねた当科の医師が治療にあたりますので、どうぞ安心してご来院ください。

2024年12月現在

解説医師プロフィール

肝がん・神経内分泌腫瘍の治療

専門的な知見をもとにがんを見極め、適切な診断・治療につなげる

近年、アルコール性肝障害や脂肪肝などを背景とする非ウイルス性肝細胞がんにかかる方が増加しています。肝がんになっても自覚症状がないことがほとんどですが、健康診断で肝障害の程度は数値としてはっきりと現れます。気になる結果が出たら、まずは病院を受診するようにしましょう。また、治療法の進歩によりウイルス性肝炎は早期に発見して治療すれば治るようになってきていますので、疑いがあればすぐに当院にお越しください。

専門的な知見をもとにがんを見極め、適切な診断・治療につなげる

肝臓に生じるがんの大半は肝臓の細胞から発生する肝細胞がんですが、検査の結果、肝内胆管がんや後述する神経内分泌腫瘍と診断がつくこともあります。これらは治療方針が大きく異なるため、正確な診断が欠かせません。当科(消化器・肝胆膵内科)では必ず生検(がんの組織を採取して顕微鏡で調べる検査)を行い、きちんとがんの性質を調べたうえで診断をしています。また肝臓、胆管、膵臓すいぞうを専門とする医師がそれぞれ在籍しており、専門的な立場から検査結果をしっかりとチェックする体制が整っています。

さまざまな治療法に対応し日常生活まで寄り添う

肝がんの治療法には、手術や、穿刺せんしなどの局所療法きょくしょりょうほう塞栓療法そくせんりょうほう、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの全身薬物療法、肝動注療法、放射線治療などさまざまな選択肢があり、それぞれメリットや注意点が異なります。当院の肝がん治療の強みは、前述に挙げた治療法全てに対応していることです。
治療方針は外科、内科、放射線治療科でディスカッションして決めています。病態によっては複数の治療法を組み合わせる場合もあります。また「入院期間をできるだけ短くしたい」「副作用があってもしっかり治療したい」など、患者さんのご希望やライフスタイルも踏まえて、治療法をご提案いたします。高齢の方の場合は、体力や体の状態、家族構成などを考慮して継続できる治療を検討する必要があります。当院には“老年腫瘍科”という高齢のがん患者さんを専門的に診る診療科があり、体の機能や認知機能などを細かく評価したうえで可能な限り安全に治療が行える体制が整っています。
肝がん患者さんはもともとの肝臓自体が硬くなる肝硬変になっておられるケースが多く、がんの再発も高頻度です。長期にわたって経過を観察する必要があり、病院と縁が切れることはなかなかありません。当院は、患者さんに一生寄り添う気持ちを大切に、医師だけではなく看護師や社会福祉士、薬剤師など、多職種が連携してケア・診療にあたっています。

希少がんの神経内分泌腫瘍治療にも対応

神経内分泌腫瘍(NEN)は、ホルモンなどの体内物質を分泌する“神経内分泌細胞”から発生する希少がんです。全身のどこにでも発生する可能性がありますが、膵臓をはじめとする消化器から発生する割合が多くを占めています。NENは肝臓に転移しやすく、肝臓の画像検査で影が見つかり、発見されるケースも珍しくありません。NENの診断には、組織を採取して顕微鏡で調べる検査が必要です。進行が穏やかなNETと、増殖スピードが早く転移や再発を起こしやすいNECの2種類があり、当院はどちらの治療にも対応しています。
いわゆる「膵臓がん」(正式には浸潤性膵管がん)とは異なり、NENは転移があっても手術で取り切れる場合には完治が期待できるため、まずは手術ができるかどうかを判断します。NENの診断と手術をはじめとする治療方針の決定には多くの診療科の連携が必須であり、高度なチーム医療が求められる領域といえます。また、NENが発生しやすい膵臓は手術の難しい臓器ですが、膵臓手術のハイボリュームセンター*である当院では経験を積んだ医師が手術にあたり、可能な限り安全な治療を実現しています。肝転移したNENを全て切除できない場合は、肝がんの治療と同様の肝臓に対する局所治療に加えて、抗がん剤による全身化学療法も積極的に行っており、当院で診断から治療までのすべてのプロセスを完結できます。

年間の膵臓手術(膵切除)件数が20例以上となる病院。

希少がんの神経内分泌腫瘍治療にも対応

多職種が連携し治療と日常生活をサポート

近年では、ルテチウムオキソドトレオチドという薬を使用し、放射線でがんを攻撃する“ペプチド受容体放射性核種療法”が開発され、NENに対する治療選択肢の幅が広がっています。一般的な放射線治療は体の外からがんを狙って放射線を照射しますが、この治療法では放射線を出す薬を点滴により体内に投与します。この薬はがん細胞に集まる性質を持っているため、放射線が全身に回ることはありません。がん細胞をピンポイントで狙えるためこれまでの治療薬に比べて副作用が少なく、高い治療効果も見込めます。治療直後は体から放射線が放出されるため、投与のたびに短期の入院が必要となるほか、退院後一定期間には制限*があるものの、それ以外に注意点はなく仕事との両立も可能です。
治療方針を検討するディスカッションでは、看護師やメディカルソーシャルワーカーなど、患者さんの一番近くでケアに携わる職種の意見も積極的に取り入れています。診療科・職種を超えて一丸となって患者さんに寄り添い、日常生活と治療の両立を全力でサポートしますので、まずはぜひNET外来までお気軽にご相談ください。

周囲の方に接する際は1~2m以上離れる必要があるなど、日常生活における制限があります。

多職種が連携し治療と日常生活をサポート
解説医師プロフィール

食道がんの治療

早期発見が難しい食道がんも見逃さないよう丁寧に検査

食道がんは内視鏡検査でも早期発見が難しいがんです。患者さんが苦しさを感じるため喉から食道の上部に内視鏡を長くとどめておけず、病変を見逃しやすいことがその背景の1つです。
当院では検査手技の向上を図ることはもちろん、狭帯域光観察(NBI)*も実施し、病変を見落とさない検査に尽力しています。これにより通常の観察では分かりにくい病変や微細な構造も観察でき、見逃しの予防および早期発見に役立ちます。特に飲酒・喫煙の習慣がある方やお酒を飲んで顔が赤くなりやすい方など、食道がんのリスクが高い方の場合はよりいっそう注意して検査しています。

がんを観察する際に色調を調整する技術。

低侵襲手術を積極的に実施し、患者さんの負担を軽減

低侵襲手術を積極的に実施し、患者さんの負担を軽減

食道がん治療における当院の強みは、内視鏡治療や手術、放射線治療といったさまざまな治療法に対応しており、総合的な視点から適切な治療計画を立案できる点です。食道がんの治療法は深達度(がんの深さ)や転移の有無によって異なるため、腫瘍の大きさや状態を見極め、患者さんに適した治療法をご提案しています。
手術のみでの治療が難しいがんに対しては、抗がん薬治療を行ってから手術を行うのが基本です。当院では2020年から全ての症例で低侵襲ていしんしゅうな胸腔鏡下手術またはロボット支援下手術を行っており、この4年間*で開胸手術になった例はありません。胸腔鏡下手術やロボット支援下手術では、胸にあけた数か所の小さな穴から器具を挿入して手術を行うため開胸の必要がなく、術後の痛みが少なく済みます。また、呼吸機能が落ちている患者さんには胸部ではなく喉とお腹を小さく切開する縦隔鏡下手術を行うことで、呼吸器の合併症予防にも努めています。
喉に近い部位に食道がんがある場合、手術後の発声に不安を抱える方もいらっしゃるでしょう。当院では頭頸科とも連携し、できる限り発声機能を温存できるよう薬物療法や放射線治療も組み合わせて集学的な治療を提供しています。
標準的な食道がん治療はもちろん、当院では治験や臨床研究も精力的に行っています。患者さんによっては新たな治療の選択肢をご提案できる可能性もありますので、どうかあきらめずに治療していきましょう。

2020年4月~2024年12月

がん患者さんへの治療・ケアの経験を積んだ医療スタッフも親身にサポート

がん患者さんへの治療・ケアの経験を積んだ医療スタッフも親身にサポート

食道がんの治療には診療科間の連携だけでなく医療スタッフの協力も欠かせません。食道がん患者さんの中には、喉のつかえなどの症状によって思うように食事が取れず、治療前から体力が落ちている方もいらっしゃいます。がんの治療を行うにはある程度体力が必要ですので、管理栄養士と連携し栄養指導を行い、体力の回復をサポートします。
また、手術後のリハビリテーションにも幅広く対応しており、嚥下機能えんげきのう(ものを飲み込む機能)の回復・維持にも力を入れています。手術前後の嚥下機能をしっかりと評価しながらリハビリテーションを行いますので、元の生活に近い暮らしを送れるように一緒にがんばっていきましょう。
“がんセンター”と聞くと気軽に受診しにくいイメージもあるかもしれませんが、当院では職員一同患者さんを親身にサポートできる体制が整っています。どんな悩みもお一人で抱えずに、ぜひご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年1月31日
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