川崎北部の医療

症状が現れにくい胃がん・食道がん、川崎市民の方々に適切な医療をどう届けるべきか

症状が現れにくい胃がん・食道がん、川崎市民の方々に適切な医療をどう届けるべきか

日本の死因の第1位を占めるのは悪性腫瘍あくせいしゅよう(がん)であり、中でも胃や食道をはじめとする消化器のがんがもっとも多いとされています。胃がんについては診断・治療技術の進歩により罹患率の低下がみられるものの、その減少は劇的ではなく男性の場合は3番目、女性の場合は5番目に多いがんであるのが実情です。食道がんの罹患率については、男性は横ばい~減少傾向にあり、女性は横ばい~やや増加傾向にあります。いずれのがんも早期に発見すればするほど治しやすくなります。しかし、発症初期には自覚症状がほとんど現れないことが特徴なため、症状がなくても定期的な検診の受診が重要です。

消化器疾患に対する治療は日々進歩しており、医療機関は多様化する治療選択肢と患者ニーズを考慮した治療の提供が求められます。特に川崎市北部では医療需要の増加が見込まれるため、引き続き地域の患者ニーズに応需するための対策が重要といえます。

川崎北部の医療を支える
聖マリアンナ医科大学病院について

安心した生活のため医療者として地域に尽くす

地域の方々に“愛”ある医療を

川崎北部医療圏に属する聖マリアンナ医科大学病院は1974年の開院以来、“生命の尊厳を重んじ、病める人を癒す、愛ある医療を提供する”という理念の下、良質で心の通い合う医療の提供に努めてきました。地域のクリニックの先生方と提携し、患者さんが必要とする医療へとスムーズにつなげられるような体制構築はもちろん、先進的な医療の研究にも注力しています。

特定機能病院・がんゲノム医療拠点病院・地域がん診療連携拠点病院などに指定されており、この地域に住まわれる方々に安心で良質な医療を届けられるよう、我々はこれからも進化を続けていきたいと考えています。理念を胸に地域の皆さまの健康と幸福のため、全力を尽くしてまいります。

川崎北部の
胃がん・食道がんの治療

胃がんの早期発見と治療

早期胃がんはほぼ無症状――異常を指摘されたら先延ばしにせず再検査を

胃がんで現れる症状は一般的に胃の痛みや不快感、胸やけ、吐き気などといわれていますが、早期の段階で自覚症状が出ることはほとんどありません。これらの症状がみられて念のため精密検査(上部消化管内視鏡検査)をした結果、胃がんが見つかるということもゼロではありませんが、自分で気付くのはまず難しいと思います。胃がんを早期で見つけるためには、定期的に検診(特に内視鏡検査や胃部X線検査)を受けていただくことが有用です。40歳以上の川崎市民の方は1年に1回胃部X線(バリウム)検査が受けられます*ので、対象年齢となったら必ず受けるようにしましょう。「ピロリ菌はいないから大丈夫」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、近年ではピロリ菌抗体陰性の胃がんも報告されています。ピロリ菌抗体の陽性・陰性を問わず、検診で異常を指摘されたのであれば、なるべく早めに再検査を受けましょう。

胃内視鏡検査の場合は50歳以上の方が対象であり、頻度は2年に一度です。検診費用など詳しくは川崎市のホームページをご確認ください。

胃がんの早期発見と治療

進行胃がんの患者さんにお話を聞くと「実は去年検診で異常を指摘されていたけれど、再検査を受けなかった」という方が度々いらっしゃいます。自覚症状がないとつい先延ばしにしてしまいがちですが、その先延ばしにした間にがんが進行する可能性もありますので、「大丈夫だろう」と自己判断せず再検査を受けていただくことをおすすめします。

内視鏡センターをリニューアルし、より多くの検査・治療が可能に

当院の内視鏡センターでは日々多くの検査を行っており、上部消化管内視鏡検査については毎年8,000件ほどの総検査件数を誇ります。なお、新入院棟の開設(2023年1月)に伴い、内視鏡センターのリニューアルが行われました。旧センターではカーテンの仕切りのみであった各検査室が個室化され、さらに内視鏡機器もすべて新しいものに変わったことでこれまでよりも安心して検査を受けていただける環境へと生まれ変わりました。また、検査室の造設により、複数名の患者さんの検査を並行して行うことができます。以前までは検査件数が飽和状態で予約待ち日数が多くなりがちでしたが、リニューアルによって患者さんに素早く検査・治療が提供できるようになりました。

内視鏡センターをリニューアルし、より多くの検査・治療が可能に

新センターでは、上部消化管内視鏡検査のみならず、早期胃がんの内視鏡切除にも対応をしています。早期胃がんの内視鏡切除術には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ(ESD)という2つの方法があります。各治療方法は腫瘍の大きさや見た目などで決定していますが、日本では早期胃がんに対する内視鏡治療はほとんどがESDで切除されています。ESDはEMRに比べて難易度が高く、高度な技術と経験が必要とされるため実施できる医療機関が限られる側面がありますが、当院ではどちらにも対応が可能です。内視鏡治療を専門的に行う医師*が複数在籍しており、早期胃がんに対するESDについては毎年100件ほどの実績があります。また、外科と連携し、高難度な治療に対しても積極的に対応をしています。当院の医師は皆、技術と心で寄り添う医療の提供を目指していますので、不安なこと・ご不明点などあれば遠慮せず、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医

解説医師プロフィール

進行胃がんの治療

腹腔鏡下手術で患者さんの負担軽減に努める

内視鏡では切除しきれない胃がんの場合、当院では腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつを積極的に行っています。腹腔鏡下手術とは、お腹に5~10mmほどの穴をいくつか開け、そこから医療用カメラや手術器具を挿入して行う手術です。20cmほどお腹を切開する開腹手術と比べて小さい傷口で済むため、体への負担が軽減できるほか、早期の回復が望めるという利点もあります。

腹腔鏡下手術で患者さんの負担軽減に努める

当院では2010年より進行胃がんに対して積極的に腹腔鏡下手術を導入し、これまでに10年以上の歴史を築いてきました。胃がんの手術はがんの発生している場所によって切除範囲が異なりますが、どの部分の手術であっても可能な限り腹腔鏡下で行っていることも当院の強みの1つです。腹腔鏡下手術はモニターの映像を見ながら行うため簡単な手術ではありませんが、当院では日本内視鏡外科学会認定の内視鏡技術認定医*が行います。技術と経験のある医師が在籍していることにより、胃がんの患者さんへ低侵襲な治療の提供が実現できています。

一定の手術経験があり、ビデオ審査で合格をした者のみが取得できる資格。

時間ロスを削減した診療を提供

時間ロスを削減した診療を提供

“がん”という病名を聞いたとき、誰しも「1日でも早く治療をしたい」と思うはずです。大学病院=検査・手術までに時間がかかるというイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、当院ではスピーディーに対応できる体制が構築できています。すでに胃がんの診断がついている場合には、次の週もしくはその次の週にはすぐに検査入院をしていただける体制を整えています。1週間ほど入院をしていただき、上部消化管内視鏡検査やCT検査など手術をするにあたって必要な検査を行います。迅速に治療につなぐ体制は、ご紹介先(受診先)が内科であっても外科であっても同様です。当院の消化器内科・外科は外来が隣同士になっており、たとえ内科を受診したとしても、外科治療の対象になると推測できる場合はその場ですぐに外科へつなぎます。規模の大きな病院ではありますが、時間のロスを削減し、素早く治療へとつなげられる診療体制は当院ならではの強みです。

解説医師プロフィール

食道がんの治療

高難易度手術も専門医が中心となって治療にあたる

高難易度手術も専門医が中心となって治療にあたる

当院では食道がんの治療にも注力しています。2010年より胸腔鏡下手術と腹腔鏡下手術を導入しており、低侵襲な手術の提供に努めています。食道は頸部けいぶ~腹部にまたがる臓器であり、かつ周囲に心臓や肺など重要な臓器があるなどの理由で一般的に侵襲度・難易度ともに高い手術といわれていますが、当院では全国でも取得者が少ない日本食道学会認定 食道外科専門医*が治療を行います。“侵襲度が高い”“難易度が高い”と聞くと、不安な気持ちが大きくなってしまうかもしれませんが、1人で悩む必要はありませんので相談を重ねながら一緒に治療を進めていきましょう。

2023年4月時点 全国における資格取得者は306名

食道がんに対する光線力学的療法(PDT)を提供

食道がんに対する光線力学的療法(PDT)を提供

進行した食道がんに対する主な治療方法としては、外科手術と化学放射線療法(CRT)があります。CRTは食道を温存することができ治療効果の高いとされる内科的治療ですが、問題点として、がんが治りきらず残ってしまう(遺残いざん)、または再発するリスクがあります。しかし、もし転移がなく、食道内の遺残・再発病変を治すことができれば根治(がんが完全に治る)できる可能性があります。遺残・再発がみられる患者さんに対して当院では外科治療や化学療法よりも低侵襲で、治療効果が高いとされる光線力学的療法(PDT)を提供しています。PDTとは、レーザー光によってがん細胞を変性・壊死えしさせる治療法です。PDTを行える施設は全国でもまだ少なく、神奈川県では当院を含め2施設のみです(2024年1月時点)。

解説医師プロフィール

高度ながん治療を支える腫瘍内科

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

耳なじみのない方も多いかもしれませんが、腫瘍内科はがんを総合的に診る内科で、特に化学療法(抗がん薬を使う治療)を専門とする診療科です。薬の研究・開発は目まぐるしく、それに伴い治療の選択肢も非常に複雑になってきています。当然ながら患者さんの状態はそれぞれで異なり、教科書どおりに治療提案ができない方も多くいらっしゃいます。そのようななかで、“どのような治療戦略を立てるべきか”“どのような薬が適しているのか”など、がん治療の全体的な方針をマネジメントするのが、がんおよび抗がん薬に精通した我々腫瘍内科医の役割です。国内では2000年代に入って発足されはじめた腫瘍内科ですが、当院では2010年という早い時期に開設し、すでに10年を超える歴史があります。

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

当院で行う化学療法は全て腫瘍内科が担っています。胃がんの場合は、手術で切除ができないと判断される場合に当科が治療を行います。また、切除が可能な胃がんであっても、外科と連携し、術後に再発抑制を目的として化学療法を行うこともあります。
食道がんの場合は、化学療法をしてから手術をする流れが標準治療とされているため、早期がんを除き基本的に当科が治療に関わります。食道がんの根治的治療として重要になるのが、放射線療法と化学療法を組み合わせた“化学放射線療法(CRT)”です。食道がんと診断された場合は、外科手術・化学療法・放射線療法の全てに対応できる病院で治療を受けることが大切であり、当院はその全てを実施できる環境を整えています。

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

昨今はインターネットで簡単に医療情報を調べられるため、当院の患者さんでも事前にたくさん調べて来院される方が多くいらっしゃいますが、ご自身の病気について正しく調べられている患者さんは、ほとんどいらっしゃらない印象です。最新の知見・正しい情報を知るには、やはり病院を受診してがん診療を専門とする医師の話を聞いていただくべきだと思います。がんや抗がん薬についてお困りのことがある方は、どのようなことでも構いませんのでぜひお気軽に当院にご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年3月29日
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