川崎北部の医療

増加傾向にある大腸がん、川崎市民の方々に適切な医療をどう届けるべきか

増加傾向にある大腸がん、川崎市民の方々に適切な医療をどう届けるべきか

日本の死因の第1位を占めるのは悪性腫瘍あくせいしゅよう(がん)であり、中でも大腸がんをはじめとする消化器のがんがもっとも多いとされています。大腸がんの罹患率は男女ともに2番目に多いとされており、40歳以上から年を重ねるにつれて増加傾向にあります。大腸がんは、発症初期には自覚症状がほとんど現れないことが特徴であり、定期的な検診の受診が重要です。

消化器疾患に対する治療は日々進歩しており、医療機関は多様化する治療選択肢と患者ニーズを考慮した治療の提供が求められます。特に川崎北部では医療需要の増加が見込まれるため、引き続き地域の患者ニーズに応需するための対策が重要といえます。

川崎北部の医療を支える
聖マリアンナ医科大学病院について

安心した生活のため医療者として地域に尽くす

地域の方々に“愛”ある医療を

川崎北部医療圏に属する聖マリアンナ医科大学病院は1974年の開院以来、“生命の尊厳を重んじ、病める人を癒す、愛ある医療を提供する”という理念の下、良質で心の通い合う医療の提供に努めてきました。

地域のクリニックの先生方と提携し、患者さんが必要とする医療へとスムーズにつなげられるような体制構築はもちろん、先進的な医療の研究にも注力しています。特定機能病院・がんゲノム医療拠点病院・地域がん診療連携拠点病院などに指定されており、この地域に住まわれる方々に安心で良質な医療を届けられるよう、我々はこれからも進化を続けていきたいと考えています。理念を胸に地域の皆さまの健康と幸福のため、全力を尽くしてまいります。

川崎北部の
大腸がんの治療

大腸がんの早期発見と治療

早期大腸がんはほぼ無症状――異常を指摘されたら先延ばしにせず再検査を

大腸がんは40歳以上の方に多いがんであり、罹患率も増加傾向にあります。大腸がんの10.5%が50歳未満であり、40~49歳の大腸がん症例は2000~2002年から2014~2016年にかけて15%近く増加しています。大腸がんは早期の段階で発見・治療ができれば根治を望めるがんですが、実際の死亡率は依然として高いのが実情です。その矛盾が生じている理由としては、やはり“発見の遅れ”が挙げられるでしょう。発見の遅れを防ぐためには、定期的に健康診断(検診)を受けることが重要です。大腸がんの検査方法の1つとして、便潜血検査があります。便潜血検査は2日分の便を取って提出するのみの簡単な検査ではありますが、大腸がんの検出に有用な検査です。

早期大腸がんはほぼ無症状――異常を指摘されたら先延ばしにせず再検査を

消化器内科 消化管チーム

なお、便潜血検査で一度でも陽性が出た場合は、できるだけ早く精密検査を受けるようにしましょう。進行大腸がんの患者さんにお話を聞くと「実は去年から異常を指摘されていた。2回目の指摘を受けたから受診をした」という方が度々いらっしゃいます。また、「以前、憩室けいしつ出血と言われたから今回もきっとそうだ」「昔から痔があるからそのせいだ」と自己判断をしてしまっている方も多い印象です。ですが、先延ばしにしている間に内視鏡では切除できない腫瘍しゅようになる可能性は大いにあり得ます。だからこそ1年に一度必ず検査を受け、異常が指摘された場合は精密検査(下部消化管内視鏡検査)を受けていただくことが大切です。

内視鏡センターをリニューアルし、より多くの検査・治療が可能に

当院の内視鏡センターでは日々多くの検査を行っており、下部消化管内視鏡検査については毎年5,000~6,000件ほどの検査件数を誇ります。なお、新入院棟の開設(2023年1月)に伴い、内視鏡センターのリニューアルが行われました。旧センターではカーテンの仕切りのみであった各検査室が個室化され、さらに内視鏡機器もすべて新しいものになったことでこれまでよりも安心して検査を受けていただける環境へと生まれ変わりました。また、検査室の造設により、複数名の患者さんの検査を並行して行うことができます。以前までは検査件数が飽和状態で予約待ち日数が多くなりがちでしたが、リニューアルによって患者さんに素早く検査・治療を提供できるようになりました。

内視鏡センターをリニューアルし、より多くの検査・治療が可能に

下部消化管内視鏡検査の際に大腸ポリープが見つかった場合、当院では積極的に切除を行っています。大腸ポリープは必ずしもがんになるわけではないものの、6mmを超えるポリープは小さいポリープに比べてがん化する頻度が高いといわれています。当院では大きさ問わず対応が可能です。小さいポリープであれば外来で治療を行うことが可能ですし、大きなポリープでも入院での治療とすることで患者さんに安心して検査・治療を行なっていただけるような環境を整えています。実際、切除が推奨される大腸ポリープがあり、当院にご紹介で来院される患者さんも多々いらっしゃいます。

内視鏡センターをリニューアルし、より多くの検査・治療が可能に

なお、当院では早期大腸がんの内視鏡切除にも対応をしています。早期大腸がんの治療法には、主に内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ(ESD)・内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)という方法があり、当院ではどの治療も実施しています。各治療方法は腫瘍の大きさや見た目などで決定しています。その中で大きな腫瘍に対して行うESDはEMRに比べて難易度が高く、高度な技術と経験が必要とされるため実施できる医療機関が限られる側面がありますが、当院には内視鏡治療を専門的に行う医師*が複数在籍しており、早期大腸がんに対するESDについては毎年120件ほどの実績があります。また、外科と連携し、高難度な治療に対しても積極的に対応しています。
下部消化管内視鏡検査や内視鏡治療を実施している医療機関は多々ありますが、先に述べたとおり当院では毎年多くの検査・治療を行っています。検査件数が多いということは、それだけ経験を積んできた医師が多いということでもあります。当院の医師は皆、技術と心で皆さまに寄り添う医療の提供を目指しています。不安なこと・ご不明点などあれば遠慮せず、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医

解説医師プロフィール

大腸がんの手術

根治性を担保し患者さんのQOL(生活の質)を考慮した治療を行う

内視鏡では切除しきれない大腸がんの場合、外科手術(病変とリンパ節の摘出てきしゅつ)が必要となります。手術方法には開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、当院では体に負担の少ない腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつでも開腹手術と同等の根治性の高い手術を行うことが可能であり、積極的に腹腔鏡下手術を行っています。 腹腔鏡下手術とは、お腹に5~10mmほどの穴をいくつか開け、そこから医療用カメラや手術器具を挿入して行う手術です。切除したがんを取り出すために4~5cmほどお腹を切開する必要はありますが、大きくお腹を切開する開腹手術と比べて小さい傷口で済むため、体への負担が軽減できるほか、早期の回復が望めるという利点もあります。また、カメラで拡大しながら手術を行うため出血も少なく、術後癒着も軽減できるといわれています。

根治性を担保し患者さんのQOL(生活の質)を考慮した治療を行う

また、当科では治療の根治性と低侵襲性ていしんしゅうせい(体への負担が少ない)に加えて、術後のQOLも維持・向上できる治療の提供に努めています。大腸がんは病変部位や病状によってストーマ(人工肛門じんこうこうもん)を作る必要があり、患者さんの生活が大きく変わる可能性があります。ストーマは永久的なものと一時的なものがありますが、たとえ一時的なものでもストーマを作ることに対して患者さんは抵抗があると思いますし、作らなくてもよいならそうしたいでしょう。できる限り患者さんがいつもどおりの生活を維持できるよう、“肛門が残せるかどうか”という点も重視しながら治療方針を決めていきます。

根治性を担保し患者さんのQOL(生活の質)を考慮した治療を行う

治療方針を決める際は、現在の病気の状態や手術で起こり得るリスク(出血や合併症の発症など)についても十分に説明するため、どうしても不安が大きくなってしまうかもしれません。ただ、一緒に病気と闘うには患者さんご自身にも病状や治療についてよくご理解いただく必要があります。分からないことがあれば些細なことでもご質問いただいて構いません。しっかり説明もさせていただきますので、相談を重ねながら一緒に治療を進めていきましょう。

解説医師プロフィール

進行大腸がんに対する集学的治療

多様な治療選択肢の中から素早く適した治療へとつなげる

大腸がんの治療方法は日々研究が進んでおり、実に多様な治療選択肢があります。近年では進行直腸がんに対して、これまで術後に行われていた放射線治療と化学療法(抗がん薬を使った治療)を全て術前に行う治療法(Total Neoadjuvant Therapy:TNT)が注目されており、当院でも必要に応じて実施しています。TNT以外にも複数の治療法がありますが、放射線療法や化学療法などを適宜行うことによって手術が可能になったり、あるいは手術をせずに済んだりするケースもあり、肝がんや肺がんなどに比べて大腸がんは治りやすい病気になりつつあると感じます。

多様な治療選択肢の中から素早く適した治療へとつなげる

どのような治療法が適しているかは患者さんによって異なるものの、当院では可能な限り個々の患者さんのご希望に応えることをモットーとしています。根治性の高い、かつ患者さんのご希望に応えられる治療を目指すためには各科の医師の連携が欠かせません。当院では消化器内科と外科の外来が隣同士になっており、また、院内に放射線治療科・腫瘍内科も備えていますので、多様な選択肢の中からよりよいと判断できる治療へとスムーズにつなげられる体制が構築できています。規模の大きな病院ではありますが、時間のロスを削減し、素早く治療へとつなげられる診療体制は当院ならではの強みです。
患者さんのご体調はもちろん考慮しますが、年齢を理由に行える手術の制限などは設けていません。手術後の生活についても一緒に考えながら、治療方針を決めていきましょう。

解説医師プロフィール

高度ながん治療を支える腫瘍内科

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

耳なじみのない方も多いかもしれませんが、腫瘍内科はがんを総合的に診る内科で、特に化学療法(抗がん薬を使う治療)を専門とする診療科です。国内では2000年代に入って発足されはじめた腫瘍内科ですが、当院では2010年という早い時期に開設し、すでに10年を超える歴史があります。当然ながら患者さんの状態はそれぞれで異なり、教科書どおりに治療提案ができない方も多くいらっしゃいます。そのようななかで、“どのような治療戦略を立てるべきか”“どのような薬が適しているのか”など、がん治療の全体的な方針をマネジメントするのが、がんおよび抗がん薬に精通した我々腫瘍内科医の役割です。
先にも述べたとおり、大腸がんは多くの治療選択肢があり、治療に迷いが生じてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。大腸がんは特に化学療法を行うタイミングとゲノム検査に基づいた治療選択が重要であり、当院では遺伝子パネル検査などを用いたゲノム医療に力を入れていますので、まさに我々の腕の見せどころだと感じます。

腫瘍内科とは? ――化学療法を一挙に担う診療科

当院ではがん治療開発の中心的存在として、大腸がんの患者さんに治療のチャンスを提供できるよう多くの臨床試験・治験も行っています。どなたでも参加ができるわけではないものの、登録基準に合致した場合は新たな治療の選択肢をご提案できる可能性もあります。
昨今はインターネットで簡単に医療情報を調べられるため、当院の患者さんでも事前にたくさん調べて来院される方が多くいらっしゃいますが、ご自身の病気について正しく調べられている患者さんはほとんどいらっしゃらない印象です。最新の知見・正しい情報を知るには、やはり病院を受診してがん診療を専門とする医師の話を聞いていただくべきだと思いますので、がん治療や抗がん薬に関してお困りのことがある方はおひとりで抱え込まずぜひ当院にご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年3月29日
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