川崎北部の医療
早期発見が難しい膵臓・胆道疾患、川崎市民の方々に適切な医療をどう届けるべきか
膵臓がんや胆道がんは早期発見が難しいうえ、診断から治療まで迅速な対応が求められます。しかし、膵臓がん・胆道がんは、特定の検診が定められていません(2024年2月現在)。診断の第一歩となる検査方法の1つとして腹部超音波検査が挙げられますが、一般健康診断の項目には含まれておらず、検査を受けるには自ら希望をする必要があります。医療機関は膵臓がん・胆道がんにおける早期発見の重要性を啓発し、些細なことでも身体の異常を感じた場合の受診率向上に取り組むことが求められます。特に川崎北部では医療需要の増加が見込まれるため、引き続き地域の患者ニーズに応需するための対策が重要といえます。
川崎北部の医療を支える
聖マリアンナ医科大学病院について
地域の方々に“愛”ある医療を
川崎北部医療圏に属する聖マリアンナ医科大学病院は1974年の開院以来、“生命の尊厳を重んじ、病める人を癒す、愛ある医療を提供する”という理念の下、良質で心の通い合う医療の提供に努めてきました。
地域のクリニックの先生方と提携し、患者さんが必要とする医療へとスムーズにつなげられるような体制構築はもちろん、先進的な医療の研究にも注力しています。特定機能病院・がんゲノム医療拠点病院・地域がん診療連携拠点病院などに指定されており、この地域に住まわれる方々に安心で良質な医療を届けられるよう、我々はこれからも進化を続けていきたいと考えています。理念を胸に地域の皆さまの健康と幸福のため、全力を尽くしてまいります。
川崎北部の
膵臓がん・胆道がんの治療
膵臓がんの早期発見
糖尿病や膵臓がんの家族歴は膵臓がんの発症リスク因子
膵臓がんは発症初期の自覚症状がほとんどなく、早期発見が特に難しいがんです。リスク因子(病気の発症確率を高める要因)としては、糖尿病や慢性膵炎、喫煙、肥満などが挙げられます。また、近年では“家族歴”が膵臓がんの発症リスクを高めることが明らかになっています。親子またはきょうだいのうち1人だけでも膵臓がんを発症したことがある方は、そうでない家系の方と比べて膵臓がんのリスクが約4.5倍高くなります。さらに、2人いる場合は6.4倍にまで上昇します。リスク因子がある方、特に家族歴がある方は定期的に健康診断や人間ドックを受け、自身の健康状態をチェックする習慣をつけましょう。検査の内容は、各医療機関でご相談ください。
そのほか、膵臓がんの発見の手がかりの1つとして、“血糖値の急激な変化”も挙げられます。たとえば「これまで正常値だったのに急に健診で糖尿病の可能性を指摘された」あるいは「(糖尿病の治療をしていて)これまでは血糖コントロールができていたのに急に検査結果が悪化した」などの変化があった場合は注意が必要です。糖尿病の急な発症・悪化を機に膵臓がんが見つかる方も多々いらっしゃいますので、「たまたまだろう」と自己判断せず一度病院を受診し精密検査を受けていただきたいと思います。
緊密な連携で、膵臓がんの早期発見・予後改善に挑む
当院では、2022年1月に胆道・膵臓病センターが設立されました。胆道・膵臓病センターでは地域の医療機関と連携し、難しいとされる膵臓がんの早期発見に果敢に取り組んでいます。膵臓がんは難治性のがんとして知られていますが、腫瘍が10mm未満の状態で見つけられれば、5年生存率は80%を超えることが分かっています。当院では少しでも小さいうちに腫瘍を発見するため、胆道・膵臓病センターの医師が率先して地域の医療機関と積極的にコミュニケーションを取り、些細なことでも気になる症状がある患者さんがいれば曜日に関係なくすぐにご連絡いただける関係性を構築しています。
また、膵嚢胞や膵嚢胞性腫瘍も膵臓がんの発症リスクといわれています。膵嚢胞自体ががん化する可能性だけでなく、嚢胞が認められた人の膵臓がんリスクは嚢胞が認められない人の3~22.5倍と報告されています。当院では超音波内視鏡 (EUS) を用いた検査が可能であり、膵臓の内視鏡検査・診断を専門とする医師も多数在籍しています。さらに、消化器内科と外科の外来は隣り合っており、すぐに連携が取れる体制が構築できています。膵臓がんは、兎にも角にもスピードが肝心です。規模の大きな病院ではありますが、各科の強固な連携により時間のロスを削減し、素早く診断・治療へとつなげられる診療体制は当院ならではの強みです。
膵臓がんの手術
短い在院期間を実現
膵臓がんはがんを切除できる状態であれば、根治(がんが完全に治る)を目的として手術を行います。なお、膵臓の手術は侵襲性(体への負担)が高く、合併症が起こりやすいことから一般的に難しい手術といわれています。当院は日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医修練施設A*に認定されており、肝胆膵領域の病気に対して質の高い治療を行っています。特に、膵頭部がんに対する標準術式である膵頭十二指腸切除では合併症の発生率を抑え**、かつ短い術後在院期間***を実現できています。
“侵襲性が高い”“難しい手術”と聞くと不安が大きくなってしまうかと思いますが、手術ができるということは病気を治す術が1つ増えたということです。当院がこれだけの手術成績を残せている理由の1つには、前向きに治療に励んでくださる患者さんの努力が関係していると感じます。どうしてもネガティブな情報に目がいってしまうかもしれませんが、あくまでもそれは一般論です。術前のリハビリテーションを頑張ったり、食事に気を付けたりする努力は手術成績にもつながりますので、“絶対に治すぞ”という強い気持ちで一緒に病気と闘っていきましょう。
胆道がんの早期発見・治療
専門の医師が一丸となって治療の道を切り拓く
胆道がんはその名のとおり、胆汁の通り道にできるがんの総称で、肝内胆管がん・肝門部胆管がん・胆嚢がん・遠位胆管がん・十二指腸乳頭部がんが含まれます。がんのできた場所によって悪性度はそれぞれ異なります。どの種類の胆道がんであっても共通していることは、“早期発見が難しい”ということです。特に胆嚢や肝門部は解剖学的に複雑な部位であるため、そこに発生した胆嚢がんや肝門部胆管がんは手術で取り切れない状態まで進行するのが早いことが特徴です。持病があり定期的に病院にかかっている方が、検査値の異常を指摘されたことをきっかけに精密検査を受けて発見につながるケースはありますが、検査をせずに自ら胆道がんの発症に気付くことはまず難しいでしょう。少しでも早期に発見するには、些細な症状(黄疸や腹痛、体重減少など)でも近隣医療機関を受診することや定期的な健康診断を受けることが重要です。
胆道がんは診断・治療までのスピードが大切です。手術ができる場合はできるだけ早く手術につなげる必要があるものの、“手術ができるかどうか”という判断は医師によって見解が分かれる側面があります。当院では消化器疾患の診療に関わる医師全員が“外科につなげる”ことを常に念頭に置いて検査・診断にあたっており、すでに黄疸が出ている場合でも内視鏡治療で黄疸の改善を試み、可能な限り手術が行えるようにしています。
がんができている場所によって術式は異なり、肝臓の中を通る胆道にできたがん(肝内胆管がん)の場合は肝臓の切除を行います。肝臓を切除する際は肝臓に残された機能(肝予備能)を適切に評価することが大切であり、しっかりと検討を重ねたうえで手術に臨めるよう一丸となって取り組んでいます。
先に述べたとおり、黄疸が現れている場合は黄疸に対する処置も必要です。当院では内視鏡的経乳頭胆道ドレナージ術を得意とする医師も在籍しており、必要な治療を網羅的に行える体制が整っています。
高度ながん治療を支える腫瘍内科
“チーム聖マリ”のノウハウを生かし、治療のチャンスを見出す
耳なじみのない方も多いかもしれませんが、腫瘍内科はがんを総合的に診る内科で、特に化学療法を専門とする診療科です。国内では2000年代に入って発足されはじめた腫瘍内科ですが、当院では2010年という早い時期に開設し、すでに10年を超える歴史があります。
膵臓がん・胆道がんはどちらも病状がかなり進行した状態で診断されるケースが多く、化学療法1つとっても治療は簡単ではありません。そのうえ、ほかのがんに比べて選択できる薬が少ないのが現状です。ただ、そのような状態の中であっても治療のチャンスを見出すのが、我々腫瘍内科および“チーム聖マリ”の使命です。
当院では、がん治療開発の中心的存在として多くの臨床試験・治験を行っているほか、がんゲノム医療*にも注力しています。昨今、膵臓がん・胆道がんに対するがんゲノム医療が注目されており、特に胆道がんについてはゲノムデータ(がん遺伝子パネル検査)によって治療薬が見つかる可能性があることが研究で明らかになっています。日本ではまだがんゲノム医療は標準的なアプローチにはなっていないものの、当院では対象となる患者さんに遺伝子パネル検査を積極的にご提案しています。
昨今はインターネットで簡単に医療情報を調べられるため、当院でも事前にたくさん調べてから来院される方が多くいらっしゃいますが、ご自身の病気について正しく調べられている方はほとんどいらっしゃらない印象です。最新の知見・正しい情報を知るには、やはり病院を受診してがん診療を専門とする医師の話を聞いていただくべきだと思います。地域のがん診療を担う医療機関として、1人でも多くの患者さんを救うため日々尽力していますので、膵臓がん・胆道がんの治療に迷いや不安がある方はぜひ我々の元にいらしてください。
- 公開日:2024年3月29日