大分県北部医療圏の医療

医療の質・提供体制の充実を図り、地域で医療を完結するために

写真:PIXTA

医療の質・提供体制の充実を図り、
地域で医療を完結するために

大分県北部医療圏(中津市、豊後高田市、宇佐市)は、2020年時点で15万人以上の人口を有する地域です。医療の提供体制をみると、人口10万人あたりの病院病床数は全国平均の1164.02床に対して1567.08床と上回る一方、医師数は全国平均の307.04人に比べて279.79人と下回っている状況です。特に、中津市山間部の過疎地域では、医師の高齢化と退職により、医療資源不足が深刻な課題となっています。
地域の方々が福岡県や大分市、別府市など遠隔地に足を運ぶことなく安心して治療を受けられるよう、圏域の医療機関は特徴となる機能を強化・連携し体制を充実させ、医療の質と量の向上に努めることが求められています。

大分県北部周辺を支える
中津市立中津市民病院

お子さんからご高齢の方まで、地域の方の健康を守り“拠り所”になりたい

お子さんからご高齢の方まで、地域の方の
健康を守り“拠り所”になりたい

中津市立中津市民病院は、2000年に国立中津病院から経営移譲を受けて開院しました。それ以来、大分県北部医療圏で唯一の公立病院として、救急医療やがん診療、周産期医療、小児医療などをカバーし、地域の皆さまの健康を支えてまいりました。
当院では地域のニーズに合わせて診療科の新設や病棟の増設を行い、県外に足を運ぶことなく必要な医療を受けていただけるよう、設備・体制の充実を図っております。近年新たに腎臓内科の診療を開始したことに加え、2024年には救急科、臨床腫瘍科りんしょうしゅようか、肝臓内科、呼吸器内科の体制も整えました。また、2025年2月からは手術支援ロボット(ダヴィンチ)による手術も開始いたしました。
当院は地域の皆さまが安心して子どもを育てることができ、そして高齢者になっても安心して暮らしていけるよう拠り所となる病院を目指し、これからもよりよい医療の提供に努めてまいります。

中津市立中津市民病院における
食物アレルギー・
大腸がん・
前立腺がん・
子宮頸がん/子宮体がんの治療

食物アレルギーの治療

木の実による食物アレルギーが増加――まずはかかりつけの先生に相談を

食物アレルギーの治療

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近年は食物アレルギーがある子どもの数が増加傾向にあり、2歳児の約10人に1人に食物アレルギーがある*とも報告されています。これまで、鶏卵・牛乳・小麦が三大アレルゲン(アレルギーを誘発する物質)といわれていましたが、2024年の調査では木の実類(クルミ・カシューナッツなど)が鶏卵・牛乳に次いで3番目に高い割合で原因となっていることが報告されました。

2020年の調査時点

“食べられるものは食べる”ことが治療につながる

食物アレルギーの治療として、アレルゲンとなる食物の摂取を制限しても、実はアレルギーは減少せず、むしろ増加することが報告されています。そのため食物アレルギーの治療は、原因となる食べ物を完全に除去するのではなく、アナフィラキシーショック*への対策をしっかりしたうえで、“食べられる量は摂取すること”が原則になります。
そこで、当院で行っているのが“食物経口負荷試験”です。1歳以降のお子さんを対象として、定期的に半日入院をしていただき、摂取してもアレルギーの症状が出ない量を慎重に見極めながら、徐々に食べる量を増やしていきます。症状が現れない量が分かるだけで、ご家庭で食事を作る際の不安を軽減できますし、お子さんも少しずつ食べられるものが増え、生活の質の向上につながります。
一般的に卵アレルギーでは、6歳までに7~8割のお子さんが卵を問題なく食べられるようになるといわれています。食物経口負荷試験を行うことによって安全に摂取できる量が分かれば、入園・入学にあたって食事への不安を払拭できると考えます。お子さんがアレルギーかもしれないと思ったら、まずはかかりつけの先生に相談のうえ、アレルギーの診断や食物経口負荷試験が必要になった場合にはぜひ当院をお訪ねください。

食物アレルギーの治療

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食物経口負荷試験に加えて、食物アレルギーの治療では食事と栄養の指導も欠かせません。それを担うスタッフとして、当院には、日本アレルギー学会認定のアレルギー専門医のほか、日本小児臨床アレルギー学会認定の“小児アレルギーエデュケーター”という資格を持った管理栄養士と看護師が在籍しています。アレルギーに関する高度な知識と指導・管理技術を持つスタッフが、お子さんのケアはもちろん、ご家族のサポートもいたしますので、いつでも頼っていただければと思います。
食物アレルギーの治療は、この薬を使ったらすぐによくなるというものではなく、症状が出ないようにうまく付き合っていくことが大切です。適した治療法はお子さんごとに異なりますから、私たち医療スタッフはどのようなアプローチがよいかご家族と一緒に考え、お子さんの成長を見守っていきます。どうか安心して、治療をおまかせください。

アレルギー反応が短い時間で全身に激しく現れる現象。

解説医師プロフィール
伊藤 創太郎 先生
伊藤 創太郎先生
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大腸がんの治療

適切な診断に努め、術後の生活を見据えた治療方針を提案

大腸がんは、早期の段階で発見できれば手術によって根治が期待できます。ただ、初期にはほとんど症状が現れないためできるだけ早くがんを発見するためには、定期的に検診を受けていただくことが大切です。特に、便潜血検査で陽性となった場合には大腸内視鏡検査をきちんと受けることが非常に重要です。当院では大腸がんの疑いがある患者さんや大腸がんと診断された方に対して、消化器内科での大腸内視鏡検査に加え、必要に応じて放射線科によるCT検査も行っており、診療各科が連携して、適切な診断・治療につなげる体制が整っています。

大腸がんの治療

よりよい治療選択肢を提案すべく、ロボット支援下手術を導入

大腸の中でも直腸は肛門こうもんに近い部位のため、直腸がんの治療においては“肛門の機能を残せるかどうか”という点も重視して治療方針を決定する必要があります。加えて肛門周辺の神経が傷つくと膀胱直腸障害や性機能障害を引き起こす可能性もあるため、慎重に手術を行い、QOL(生活の質)を担保する治療を目指しています。
当院では、地域の皆さまに対してより高度な治療を提供するため、2025年2月からロボット支援下手術を導入しています。一般的に大腸がんの手術では、腹腔鏡下手術*が主流となっており、ロボット支援下手術も同様の方法で行います。腹腔鏡下手術と比較した場合のメリットとしては、主に以下のことが挙げられます。
・患部を3Dの立体的な画像で表示でき、見やすい状態で手術できること
・鉗子の可動域が広く、複雑な動きに対応できること
・手ぶれ防止機能があり、精密な手術が可能なこと など
これらによって、腹腔鏡下手術よりも出血リスクやがんの取り残しリスクの軽減が期待できます。また直腸がんの手術では骨盤内で鉗子を操作する必要があるため、限られたスペースの中で高い操作性を発揮できるロボット支援下手術のメリットを特に発揮できます。
なお、もちろんロボット支援下手術にもデメリットがあります。鉗子を直接操作する腹腔鏡下手術と違って、患部に触れる感覚がないことや、手術時間が長くなることなどです。当院では日本内視鏡外科学会 技術認定医3名**を中心に、安全性に十分配慮した体制を整え、患者さんに適した治療法をご提案していきます。

大腸がんの治療

治療に向き合う患者さんには、それぞれ異なる背景やご意向があります。当院では一人ひとりの患者さんと向き合い、院内の各診療科・多職種間で連携をとりながら、“患者さんにとってふさわしい治療は何か”を共に考えています。親身ながん診療の提供に努めておりますので、一緒に治療をがんばっていきましょう。

腹腔鏡下手術:お腹に小さな穴をいくつか開けて、内視鏡や鉗子かんし(組織をつまんだり、切ったりする医療器具)を挿入して行う手術。

ビデオ審査を経て、手術手技の基準を満たした医師が認定される資格。中津市立中津市民病院では、2025年2月時点で3名の常勤医師が在籍している。

解説医師プロフィール

前立腺がんの治療

地域での連携、迅速な検査体制で早期発見・早期治療を目指す

前立腺がんは自覚症状が少ないため、早期発見のためには定期的な検診が重要です。特にPSA(前立腺特異抗原)検査は、前立腺がんを発見するうえで有用な検査です。
当院では早期発見ができるよう地域の医療機関と密に連携を図っています。かかりつけの先生のもとで定期的にPSA値をモニタリングしていただき、高値を示した患者さんは精密検査が可能な当院へご紹介いただくなど、状況に応じて適切な医療を提供するために、地域を挙げて前立腺がん診療に取り組んでいます。

地域での連携、迅速な検査体制で早期発見・早期治療を目指す

当院を受診いただいたら、MRI検査でがんの有無や位置を確認します。がんが疑われる場合、または年齢的にリスクが高いと判断される場合は、前立腺生検によって確定診断を行います。当院では、ご不安な状況が長引かないよう、速やかに検査を行い、初診から診断の確定までを1か月~1か月半で完了することを目指しています。

低侵襲な治療を地域で完結――ロボット支援下手術に加えIMRTも導入

前立腺がん治療では、手術、放射線治療、薬物療法などの選択肢があります。治療方針は、患者さんの年齢やがんの悪性度、合併症の有無などに加え、可能な限り患者さんのご希望も尊重しながら決めていきます。納得のいく治療となるよう、不安なことや気になることは何でも聞いてください。
手術では、ロボット支援下手術に対応しています。開腹手術に比べて小さい切開で行えるため、術後の痛みが少なく、回復が早いことが特徴です。また、手ぶれ補正機能などによって精度の高い手術が可能となるため、尿漏れなど後遺症のリスク低減も期待できます。出血量も開腹手術と比べて少なく、輸血率が低いことも分かっています。
私(元 貴彦)は九州大学の関連病院で研鑽を積み、前立腺がんに対する泌尿器ロボット支援手術プロクター*も保持しています(2025年5月時点)。病院それぞれで確立された手術手技を学び、それらの長所を生かした手術を行っております。単にがんを治療するだけでなく患者さんのQOL(生活の質)を維持できるよう治療にあたりますので、ぜひご相談いただけたらと思います。

低侵襲な治療を地域で完結――ロボット支援下手術に加えIMRTも導入

さらに、当院では放射線治療(IMRT)の設備も導入予定です。これにより、ロボット支援下手術と放射線治療の両方が当院で完結できるようになり、患者さんの負担軽減につながると考えています。地域で治療を完結したいという患者さんのニーズにもお応えできるよう、診療体制の強化にも努めてまいります。
前立腺がんの治療は、患者さんにとって大きな負担となることがあります。当院では、患者さんの不安や悩みに寄り添うだけでなく、総合病院としての強みも生かし、合併症をお持ちの患者さんでも安心して前立腺がん治療を受けていただけるよう、スタッフ一同、患者さんのサポートに尽力します。前立腺がんは早期発見・早期治療が重要ですので、気になる症状がある方は紹介状をお持ちのうえ、ぜひご相談ください。

日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会認定の資格で、ほかの医師にロボット支援下手術を指導可能な手技レベルを持つ医師を指す。

解説医師プロフィール

子宮頸がん/子宮体がんの治療

気になる症状があれば、まずはクリニックへ受診を

子宮頸しきゅうけいがんは、子宮の入り口にできるがんです。主な症状には、不正出血や、おりものの異常、腹部や腰の痛み、足のむくみなどがありますが、初期段階ではほとんど症状が現れません。そのため、20歳以上の方は定期的に検診を受けることをおすすめします。
子宮体がんは、子宮の中にある内膜から発生するがんです。主な症状としては不正出血が挙げられます。50~60歳代の方に多くみられるがんですが、40歳代後半から患者数が増え始めるがんといわれています。少しでも気になることがあれば、まずはお近くのクリニックでかまいませんので早めに受診をしましょう。

婦人科がん治療を専門とする医師を中心に、適切な治療を提供

当院では治療ガイドラインに則した標準治療(一般的に推奨される治療)を患者さんにご提案しており、治療選択肢が複数ある場合には、患者さんとご家族の希望を最大限に尊重しながら治療を行っています。
当院の大きな強みは、婦人科がんの治療を専門とする医師を中心とし、手術、化学療法、放射線療法などを組み合わせた集学的治療に対応していることです。当院には、日本婦人科腫瘍学会認定 婦人科腫瘍専門医が2名在籍しています*。これは、規定の手術数や症例を経験したうえで、試験に合格した医師が認定されるもので、現在大分県内では13名のみが認定されている資格です*。これまでの診療経験で培ってきた技量や知識を最大限に生かし、専門的な婦人科がん診療を提供しています。

2025年1月時点

子宮頸がん/子宮体がんの治療

写真:PIXTA

子宮は膀胱や大腸など、ほかの臓器に囲まれた位置にあり、ほかの臓器を合併切除する必要が生じることもありますが、当院では消化器外科や泌尿器科など他科との連携がスムーズで安全に配慮した手術を行える体制が整っています。また、私は日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医でもあり、初期の子宮体がんに関しては腹腔鏡下手術にも対応可能です。この手術は従来の開腹手術に比べて体への負担が少なく回復も早いことが特徴ですので、適応となる患者さんへは積極的におすすめしています。

子宮頸がん/子宮体がんの治療

写真:PIXTA

子宮頸がんと子宮体がんは、早期発見できれば決して治りにくいがんではありません。子宮頸がんに関しては、お伝えしたとおりがん検診が非常に有効ですので、ぜひ積極的に受けていただきたいと思います。また気になる症状があれば“こんなことで受診してよいのだろうか”と思わずに、クリニックを受診しましょう。
当院では、婦人科腫瘍を専門とする医師を中心に安心して治療を受けられるよう環境づくりにも努めてまいりますので、いざというときには紹介状をお持ちのうえ、ぜひ当院にお越しください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年4月1日
  • 最終更新日:2025年5月29日
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