多摩市のがん医療
高齢化が進む多摩市の医療
多摩ニュータウンなど、1960年代から開発が進められてきた多摩市は高齢化が進んでいます。1989年当時5%余りだった高齢化率は2019年には28%を超え、30年で5倍以上になりました。約7,000人だった高齢者人口は4万人を超えています。健康寿命*は東京都26市の中で男性1位、女性も2位と元気な高齢者が多い多摩市ですが、近年**は入院患者数の上位を「新生物(がん)」が占めています。多摩市では今後も高齢化が進むと予想されており、2030年には3人に1人が高齢者になると見込まれます。多摩市内における専門性の高いがん治療の提供は、今後も地域の大きな課題といえるでしょう。
日本医科大学
多摩永山病院の医療体制
がん治療の中核的な病院として地域を支える
多摩永山病院は1977年に診療を開始した日本医科大学の医療機関です。病床数は405床、24の診療科と救命救急センターを持つ三次救急医療施設であり、地域の中核的な病院としての役割を担うほか、重症度が高い患者さんの受け入れ、緊急手術や集中治療を行っています。当院は2003年より「地域がん診療拠点病院」、2010年4月に東京都より「東京都がん診療連携拠点病院」に指定されました。現在では毎年約700件*のがん手術を行っており、さまざまながんへの治療を提供しています。ほかにも緩和ケアの提供やがん相談支援センターの設置など、地域で誰もが適切ながん医療を受けられる環境づくりを進めています。「遠方の病院に通うのが大変」「身近に相談できる医療機関を探している」といった方は当院においでください。
日本医科大学 多摩永山病院の
胃がん・食道がん・
膵臓がん・大腸がんの治療
胃がんの治療
拡大内視鏡も使用し、詳細な検査を実施
胃がんの診断は主に消化器内科医が担当します。胃がんが疑われる場合には、まず病変の有無を確認するために内視鏡検査を行います。内視鏡検査は胃カメラを胃の内部に挿入し、病変部位を診断する際に役立ちます。
当院の検査は一般的な内視鏡検査に加え、拡大内視鏡や特殊な光を用いてがんの深さを診断したり、色素を散布した内視鏡も併用しており、病期の状態に合わせた詳しい検査が可能です。胃の内部を観察し、がん化が疑われる部位については胃がんの診断を確定するため、カメラに付属する機器で組織を採取する「生検」を実施します。確定診断後、転移状態を診る必要がある場合には、CT検査やMRI検査といった詳細な画像検査を行い、お体の状態を確認します。
胃がんの進行に合わせた治療を選択
まず粘膜の表層部分などの初期の胃がんに対しては、消化器内科医がESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という術式を用いて病変部分を切除します。ESDは、治療をするための胃カメラで粘膜のみを剥離するため、術後の回復が早く、消化機能への影響もほとんどないことが特徴です。当院では、これまで約40件(2023年実績)の早期胃がんに対しESDを行っています。治療を選択するためには、診断も大切であり、胃がんの診断において当院ではエンドサイドスコピーという診断のための胃カメラを導入しています。エンドサイドスコピーは、従来の胃カメラよりも拡大率が大幅(最大520倍)に向上し、生きたままの腫瘍細胞を見ることができます。エンドサイドスコピーを含め、最新の設備を活かしてより正確な診断と治療を行っており、患者さんへの負担も少なく治療を行うことができます。
また、各診療科が緊密に連携しており、手術が必要な場合には消化器外科へ転科し治療を行います。消化器外科には日本内視鏡外科学会が認定する内視鏡外科技術認定者や日本消化器外科学会が認定する消化器外科専門医など、専門技術を持つ医師が多数在籍しており(2024年10月時点)、その経験・知識を生かしたがん治療を提供しています。
患者さんに合わせた手術方法のご提案
当院では2023年から手術支援ロボット「ダビンチXi」を導入しました。お腹に開けた小さな穴から手術用のロボットアームを挿入し手術を行います。腹部を大きく切開する必要がないため、お体への負担が少ない手術(低侵襲手術)が行えます。従来の手術に比べて術後合併症が少なく、従来の開腹手術と比べ入院期間の短縮も期待できます。従来の腹腔鏡下手術と開腹手術に加え新たな選択肢が増え、より患者さんのお体に合わせた治療がご提案できるようになりました。
当院では胃がんの手術だけでも年間30件から40件*を実施しています。手術も経験を積み重ねた医師が担当しますので、安心してご相談ください。
薬物治療とコンバージョン手術にも力を入れる
当院では、確定診断時に転移やがんの進行により根治手術が不可能と思われる場合でも、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを併用した化学療法を積極的に行います。薬物療法後に手術へと治療を変更する「コンバージョン手術」にも力を入れています。これは薬物療法によって切除可能な状態をめざすものであり、当院では切除を担当する外科医も化学療法に参加しています。統括的な治療を提供できるのが当院の強みといえるでしょう。
薬物治療の選択には、病理診断科によるバイオマーカー検査の結果を参考にしながら個々のがんの特性を判断し、消化器外科や消化器内科、薬剤科、外来化学療法室など院内各部署が協力して治療にあたります。コンバージョン手術は高度に進行したがんでも根治手術の可能性がある治療方法として、患者さんにご提案しています。
胃がんの治療後、お体の状態が落ち着いた患者さんには、近隣のクリニックと連携して経過観察を行っています。胃がんは男女ともに減少してきていますが、高齢者では罹患率が高いがん疾患です。検査から治療、術後のケアまで、院内・院外の地域完結の連携が当院の目指すところですので安心してご相談ください。今後も、地域に根ざした、手術、薬物療法、放射線療法を一貫し、質の高い治療を提供できる医療機関として継続していきたいと考えています。
食道がんの治療
がんの進行とともにあらわれるさまざまな症状
食道がんの初期には自覚症状がないことがほとんどです。しかし、がんの進行とともに自覚症状や体への影響が現れてきます。がんが進行すると飲食時に違和感や物がつかえるといった感覚を覚えることがあります。当院でも、そういった症状が出てから受診する人が最も多いです。
また、食道がんが進行するにつれて、食事や水分が飲み込みづらくなるため体重が減少します。肺や神経周囲のリンパ節など周囲の器官に転移すると、胸・背中の痛み、咳、声のかすれが現れることもあります。
食道がんはできるだけ早期に発見し、がんの状態に合わせた適切な治療が必要になります。
苦痛に配慮した検査も実施
診察では医師の問診の後、バリウム検査や内視鏡検査を行います。内視鏡検査ではご希望や患者さんの状態を鑑みて鎮静薬を使用し、苦痛の軽減に配慮した検査も可能です。当院では、それに加えがんの疑いがある場合には、組織の一部を採取して生検を実施し、病理診断部と消化器内科の医師が連携して診断を行います。
低侵襲手術を重視
食道がんの治療は、病気の進行度に応じてご提案しています。粘膜の表層部分など初期の食道がんに対しては、消化器内科医が胃カメラを用いてESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行います。ESDは体への負担が小さく、入院期間の短縮や、治療後のQOL(生活の質)向上も期待できます。抗血栓薬の服用や透析治療など、ほかの病気の治療を受けている方でも無理のない範囲で受けられる可能性がある治療としてご提案しています。
ESDで除去が難しい食道がんに対してはほかの方法をご提案しますが、近年当院では開胸手術を行うことはほとんどありません。その代わりの方法として体に開けた複数の小さな穴から手術道具を挿入する「胸腔鏡下食道切除術」を開腹手術と比べてお体への負担が少ない(低侵襲)治療として提供しています。当院の胸腔鏡下食道切除術は患者さんが安心して治療を受けていただけるよう、年々実施件数を重ねています。当院では日本食道学会認定の食道外科専門医が2名、うち一人は日本内視鏡外科学会の技術認定医であり、エキスパートによる手術が行われております。
また2023年からは手術支援ロボット「ダビンチXi」を導入し、手術中の傷口が小さいだけでなく、精緻な手術操作が可能なため出血量が少ないなど、より低侵襲な治療が可能となりました。ダビンチ手術は今後も症例数を重ね、将来的には全ての食道がん治療への適用を目指しています。
都心の病院と同等の医療を提供
加齢や心臓・肺機能が悪いなどの理由で手術が難しい場合には、免疫チェックポイント阻害薬などの薬物治療や放射線治療などをご提案します。これらの治療では複数の方法を併用してお体の機能維持をするのが目的ですが、薬物治療や放射線治療を行うことでがんが縮小し手術が可能になる場合もあります。薬物治療や放射線治療は、認知症や高齢者の方も受けやすい点もメリットの1つと考えています。
また、当院では4か月ごとに検査を行い、再発の早期発見に努めています。放射線治療は食道がん再発の際にも有効な方法です。再発が5か所以内(オリゴ転移)の場合には、毎週の定位放射線治療(SBRT)でがんを根治できる可能性もあります。当院は東京都がん診療連携拠点病院に指定されている医療機関です。治療方針も食道がんの治療ガイドラインの改訂に合わせて更新しており、都心の大病院と比べても遜色のない治療を受けていただけます。
周辺地域のクリニックとの連携も密に行っておりますので、かかりつけの先生を通じての受診も多くなっております。飲食時の違和感や気になる症状がありましたら放置せず、まずはご相談ください。
膵臓がんの治療
膵臓がんの進行ステージ
膵臓がんは男女ともにみられるがん疾患であり、早期発見が難しいがんの1つです。膵臓がんはがんの大きさや周囲への広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無により0期からⅣ期までのステージ(病期)に分かれます。
もっとも初期の0期はがん細胞が膵管内にとどまっておりほかの臓器への転移がみられない状態です。膵臓内にとどまり(2㎝未満)リンパ節転移がないものがⅠ期、それを超えるとⅡ期へと入ります。腫瘍進展範囲が周囲主要血管である腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈へ及ぶとⅢ期、他臓器へ転移が及ぶとがんはⅣ期に入ります。(日本膵臓学会の分類より)
早期発見が難しい膵臓がん
手術での切除が可能な膵臓がんは0期からⅡ期までのがんであることがほとんどです。そのためいかに早期に発見するかが大切なのですが、当院でも0期の状態で発見できる膵臓がんはあまり多くないのが現状です。
主な症状としては、がんの進行に伴い腹痛や食欲不振、腹部膨満感(お腹が張る感じ)、全身の皮膚が黄色くなる黄疸、腰や背中の痛みといったことが起こりますが、こうした症状はほかのさまざまな病気でもみられるため、がんの発見まで時間を要することも少なくありません。中には糖尿病への罹患や悪化をきっかけに膵臓がんの発見に至ることもあります。当院でも受診時にはすでにⅢ期やⅣ期といったステージになっている方がみられます。
各診療科が緊密に連携
当院では、消化器内科と消化器外科が連携し総合的に診療を行っており、0期からⅣ期まで幅広い症例の膵臓がんに対応できるのが特徴です。総合診療科で診察後、内科で内視鏡検査、CT検査、超音波内視鏡検査などを行いがんの有無や進行度を確定します。
治療は膵臓がん診療ガイドラインに沿った診療を行っており、他の大学病院やがんセンターなど全国各地の病院と比べても遜色のない治療をご提供しています。
診療では各種検査結果を考慮し、患者さんのご希望をお伺いしながら治療方針を決めていきます。手術を行う場合には、消化器外科の医師から二度あるいは三度に分け膵臓の役割、がんの状態などを丁寧に説明します。手術以外の治療法が適している場合には適宜、治療効果の評価を行いお身体の状態に合わせて化学療法や放射線療法など各種治療を併用します。放射線治療では放射線治療科の医師と連携しながら、生活への影響にも配慮した治療を行います。ある程度がんが進行した方でも、化学療法や放射線治療によりがんが縮小した際には 、積極的にコンバージョン手術のご提案を行っています。
長く・元気でいられる治療を提供したい
当院は日本肝胆膵外科学会から高難度肝胆膵(肝臓、胆道、膵臓)の外科手術を年間50例以上行っている修練施設(A)、日本膵臓学会認定指導施設として認定されています。さまざまな膵臓がん手術にチーム医療で対応しています。また、内科や外科、地域の先生方との連携を密に行った結果、膵臓がんを早期発見できることが増えており、年間40件近くの膵手術を行うなかで、0期の膵臓がん患者さんを数名手術することができています。
今後はゲノム診断などの各種検査や2023年に導入した手術支援ロボット「ダビンチXi」を活用し、診療のレベルアップを図りたいと考えています。また当院では膵臓がんの早期発見に向け、地域の先生方への啓発活動も行っています。膵臓がんへの心配をお持ちの方や、治療を始める方が安心して相談できるよう、各診療科・スタッフが一丸となり、患者さんが「長く・元気でいられる」医療を提供してまいります。
大腸がんの治療
罹患率上位の大腸がん
大腸がんは男女ともに罹患率が高く、2019年の調査では男性は前立腺がん、女性では乳がんに次いで罹患率第2位の病気となっています。当院では主に、がん検診などの便潜血検査で陽性反応がみられた方の精密検査・治療や、地域の医療機関でがんの診断を受けた方の治療にお応えしています。便潜血検査陽性の方には内視鏡検査を、すでに診断がついている場合には、がんの進行度を確認するためにCTなどの画像検査を行います。もしも、お腹の中の癒着などが原因で内視鏡検査ができない場合でも、CTを使用した大腸検査(CTC)*とリキッドバイオパシー(血液検査による癌の遺伝子検査)を併用し、お体の状態を確認します。
診療科間の緊密な連携
当院の検査の大きな特徴は診療科同士の緊密な連携です。放射線科や病理診断科など、診療科同士が患者さんの情報共有を密に行っており、患者さんの病気や状態に応じた緊急検査も可能です。たとえば大腸部に悪性と思われる腫瘍がみられた場合、診療科と病理診断科がカンファレンスを行い、通常数日ほどかかる検査を3、4日で完了させ迅速な確定診断を行うことも可能です。
大腸がんの治療は罹患部分の切除が基本となります。当院ではその際、切除を内視鏡で行うのか、手術を行うのかという早期の判断が、治療をスムーズに進めるポイントになると考えています。そこで、消化器内科と消化器外科が連携しお体の状態に合わせた治療をご提案しています。また、開業医の先生からいただいた画像をもとに、院内で情報共有ができるシステムを築くことで、より迅速な対応が可能となりました。たとえばすでに他院でがんと診断されている場合には、受診いただいた日から3週間以内に手術を受けていただけるように努めています。
お体への負担に配慮した治療を提供
日本内視鏡外科学会が認定する内視鏡外科技術認定医が在籍しており(2024年10月時点)、専門知識や経験を生かした大腸がん治療をご提供しています。現在、早期がんの方には内視鏡カメラを用いたESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)治療を、進行がんの方には開腹手術に代わりお腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡下手術を中心に行っています。どちらの治療もお体への影響が従来より小さく(低侵襲)、治療や回復時間の短縮が期待できます。
手術方法はがんの進行具合をみて決定します。たとえば、検査の結果明らかに初期がんである場合には内視鏡で行えるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を選択します。もしもがん細胞が粘膜下層まで達している場合には最初から手術を前提に治療計画を考えます。またESDの後、粘膜下層への影響がみられた場合には、速やかにカンファレンスを行い手術の予定を立てます。
仮に複数の箇所へのがんの転移、大腸がんと胃がんなどの重複がんがみられる場合でも、各専門チームが手術に参加し一度の手術で同時切除を行っています。大腸がん治療後は遺伝子検査なども活用し、定期的に診察を行い再発の有無を確認します。再発した場合には抗がん薬や放射線治療などお体の状態に合わせた方法を組み合わせて治療を進めます。
手術支援ロボット「ダビンチXi」の活用
2023年、当院では手術支援ロボット「ダビンチ」を導入し、直腸など大腸がんの手術への使用を始めました。ダビンチは10倍の拡大率を持つカメラやロボットアームを搭載しており繊細な手術が可能です。深部直腸がんの治療など従来の腹腔鏡下手術では困難だった治療がより安全性に配慮できるようになりました。支援ロボットを用いた手術は「出血が少ない」「傷口が小さい」「早期の回復」など患者さんにさまざまなメリットが期待できる治療法です。今後は手術時の第一選択として、大腸がん治療により活用していく予定です。
- 公開日:2024年12月24日