仙台医療圏の医療

医療需要の増加が見込まれる宮城県――少子高齢化の中で“よい医療”を維持するために
日本では急速に高齢化が進行しており、すでに全人口の約3割が65歳以上の高齢者になっています。また、少子化による人口減少も深刻です。仙台市をはじめとした6市7町1村で構成される仙台医療圏においても、全国的な傾向と同様、高齢者の増加および人口の減少が予測されています。この状況が続けば、高齢者の医療需要は増加する一方で、医療従事者の不足が深刻化し、地域医療の維持が困難になる可能性もあります。満足度の高い医療サービスを維持するため、地域の医療機関は限られた医療資源を有効活用し、持続可能な医療体制の構築に取り組み続ける必要があるといえるでしょう。
仙台市周辺の医療を支える
仙台医療センター

明るい未来を目指して――紹介患者さんの積極的な受け入れと連携強化を実践する
当院は1937年に仙台陸軍病院臨時宮城野原分院として創設され、現在は国立病院機構 仙台医療センターとして仙台市で医療提供に尽力しています。当院は仙台医療圏内で東北大学病院に次ぐ規模を誇る病院で、三次救急医療機関として24時間365日体制で救急医療に対応しています。また、地域がん診療連携拠点病院、基幹災害拠点病院などの機能も有しています。
地域医療に関しては、地域医療支援病院として効率的な医療提供体制の構築および病診連携*の強化に取り組むことも使命であると考えます。当院では急性期医療を終えた患者さんの逆紹介を積極的に行うほか、かかりつけの先生と当院の医師の“2人主治医制”を推進するなどの工夫を行っています。敷居が高い病院という印象を与えてしまうかもしれませんが、各医療機関が施設の規模・役割に応じてそれぞれの機能を十分に発揮できる体制の構築は、“地域全体の医療を守ること”につながります。
今後も地域医療の中核を担う病院の1つとして、当院だからこそ実践できる医療を駆使し、地域の皆さんに貢献できればと考えております。お困りのことがあれば紹介状を持参のうえぜひご来院ください。
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病診連携:病院と診療所が機能・役割を分担しながら連携し、一貫して包括的な医療サービスを患者に提供すること。
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記載の内容は、2025年2月時点の情報です。

仙台医療センターにおける
潰瘍性大腸炎・大腸がん・
不整脈(心房細動)・肺がん
の治療
潰瘍性大腸炎の治療
若い方に多い病気――血便や下痢などのお腹の悩みは1人で抱えず頼ってほしい
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こることで血便や下痢、腹痛などの症状が現れる病気をいいます。これらの症状が持続的あるいは反復的(症状が落ち着いている時期と悪化する時期を繰り返す)に現れるのが、特徴の1つです。明確な原因は解明されていないものの、近年の医学の進歩に伴って体内の免疫システムの異常が要因の1つであることが分かってきています。

写真:PIXTA
「常にお腹が痛い」「不安でいつもトイレを探している」――つらい思いをしながら、我慢をしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、当院を受診された方にお話を聞くと、漠然とした恐怖感、恥ずかしさから受診できなかったという方や、「きっと何かの勘違いだと思っていた」などという方が多くいらっしゃいます。当院ではそのような気持ちも踏まえ、丁寧な問診に努めています。血便がみられるようになった時期や症状が起こりやすい場面など、できるだけ答えやすいようこちらからご質問をしますので、構えず楽な気持ちでいらしてください。
潰瘍性大腸炎を疑った場合には少しでも早く治療に移行できるよう、初診日に血液検査・便培養検査(採取)・直腸の内視鏡検査を実施します。また、必要だと判断した場合は予約枠を超えて当日中に臨時CT検査が可能な体制も整えています。
幅広い治療選択肢を備え、培ってきた専門性から“寛解”を目指す
治療では炎症を鎮静化させ以前とほぼ変わらない日常生活を送れる「寛解」という状態を目指します。現時点では根治が難しい病気ではあるものの、治療の進歩は目覚ましく、多様な治療法が開発されています。 当院は日本炎症性腸疾患学会より指導施設として認定されており、現在保険適用となっている全ての治療を提供できることが強みの1つです*。基本となるアミノサリチル酸(5-ASA)製剤に加え、ステロイド薬、免疫調節薬、生物学的製剤を使った治療ができるほか、炎症の原因となる血球を除去する“血球成分除去療法”などにも対応可能です。
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2025年2月時点

なお、病名としては同じ潰瘍性大腸炎であっても、適した治療法は症状の程度や患者さんの体質などによって異なります。近年、新たな治療選択肢が増えたことで、診療にはより高い専門性が求められるようになりました。当院では、潰瘍性大腸炎の診療を得意とする専門医・指導医*が在籍しており、専門的な知見を生かして診療を行っています。患者さん一人ひとりに適した治療を見出し、寛解へと導けるよう努めていますので、安心してご相談ください。
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日本炎症性腸疾患学会認定IBD専門医・指導医
長く効果が維持できるよう、患者さんと二人三脚で治療を進める
潰瘍性大腸炎の治療は、“継続”が重要です。投薬方法にも、点滴・注射・飲み薬など複数の方法がありますので、患者さんのご希望やライフスタイルも重視し、治療方針を決定していきます。妊娠・出産などライフプランも含め、一緒に相談しながら無理なく続けられる治療を見つけていきましょう。

大腸がんの治療より精緻な大腸がん手術が行えるロボット支援下手術を導入
大腸(直腸・結腸)がんは、早期に発見できれば十分に根治(がんが完全に治る)が見込める病気です。早期発見のためには、健康診断などで定期的に便潜血検査を受けていただくことが大切です。便潜血検査の結果が陽性の場合には、決して「たまたま」とは思わず速やかに精密検査(大腸内視鏡検査)を受けていただきたいと思います。もし検査の結果、大腸がんが発見されたとしても、早期の段階であれば内視鏡による切除のみで治療を完結できることもあります。

内視鏡治療が適応とならない大腸がんに対しては、手術を行います。大腸がんの手術はこれまで開腹手術や腹腔鏡下手術が行われていましたが、近年ではロボット支援下手術が普及しており、当院でも2台*の手術支援ロボット(ダヴィンチ)を導入しています。

これはロボットアームに装着されたカメラや鉗子(手術器具)を遠隔操作しながら行う手術方法で、従来の手術よりも精密な動きができることが特徴です。ロボットアームに接続された鉗子には複数の関節があるため人の手のような複雑な動きができるうえ、手ぶれ防止機能も備わっています。大腸がんの手術は周囲の神経などを傷つけることなく病変をきれいに取り切る必要があり、特に直腸がんの場合はそれらを狭い骨盤の中で行わなくてはなりません。その点、精密な動きができるロボット手術は、まさに大腸がんの手術に適した手術方法だといえます。
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2025年2月時点
高い専門性を備えた医師・看護師が一丸となり、がんの根治を目指す
当院では高い専門性を備えたチーム医療を実践しており、診断から治療、術後のサポートまで切れ目なく行えることが強みです。
難関として知られる資格の1つに日本内視鏡外科学会が定める技術認定医*という資格があります。当院では大腸領域だけでも私(小山 淳)を含め4名**の取得者がおり、安全で精度の高い手術を提供できるよう体制を整えています。
病状によっては、放射線治療や化学療法(抗がん薬を使った治療)が必要になることもあります。当院には放射線治療専門医(日本放射線腫瘍学会認定)、化学療法を専門とする腫瘍内科医がおりますので、多様な選択肢の中から専門的な観点でよりよい治療をご提案可能です。
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内視鏡手術を安全かつ適切に施行する技術を有し、また指導を担える技量も有すると認められた医師。
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2025年2月時点

また、大腸がんの治療では、病状によって人工肛門(ストーマ)の造設が必要になりますが、造設に対する不安はもちろんのこと、その管理に不安を感じる方も多いと思います。当院では、人工肛門の管理に関して専門的な知識を有する皮膚・排泄ケア認定看護師(日本看護協会認定)が在籍しており、ストーマ外来を通じて術後の生活までしっかりサポートしています。
前向きな気持ちで治療に臨んでいただけるよう職員一同努めてまいりますので、私たちと一緒に治療を進めていきましょう。

不整脈(心房細動)の治療あらゆる検査を駆使し、異常な脈を見逃さない診療に尽力
不整脈にはさまざまな種類がありますが、その中でも近年増加傾向にあるのが心房細動です。これは心房(心臓の中にある部屋の1つ)が細かく震えるようにけいれんする病気で、放っておくと心臓に血液が滞留して血栓ができやすくなり、脳梗塞のリスクが高まることが知られています。また、心房細動は心不全の発症リスクとも深い関わりがあり、心不全の方の約3割が心房細動を合併しているといわれています。心房細動が悪化すると心不全を引き起こし、反対に心不全があると心房細動が治りにくくなるため、両者は切っても切り離せない関係にあります。
この悪循環を防ぐには、できるだけ早い段階で発見し、適切な治療を行うことが重要です。動悸や息切れ、疲れやすさを感じる場合には、「年のせい」と見過ごさず、受診をしていただきたいと思います。

心房細動は発作的に単発で生じるものもあり、検査を行っても異常な脈が検出されないことも珍しくありません。当院では治療が必要な患者さんを適切に拾い上げるべく、さまざまな検査を駆使し、診断をつけられるよう努めています。具体的には、24時間心電図や1~2週間装着する心電図などを活用しながら脈の確認を行います。ただ、それでも検出ができないケースもあり、そのような場合には携帯型心電計を貸し出し、症状を自覚した際にご自身で心電図を記録いただいています。
心房細動は、進行する前に治療をしたほうが再発率を抑えられるといわれています。先述した自覚症状がある方はもちろん、健康診断などで心電図の異常を指摘された方は、たとえ症状がなくても一度受診し、検査を受けていただくことをおすすめします。
十分な技量を担保し、地域と連携しながらよりよい予後を追求する
心房細動の治療には、カテーテルアブレーションという方法があります。これは太ももの付け根などからカテーテル(細い管状の医療器具)を挿入し、不整脈の原因となる異常な電気信号を発する箇所を高周波エネルギーなどで焼灼する治療法です。当院では、この治療をより安全かつ正確に行うために、3Dマッピングシステムを導入しています。3Dマッピングシステムを用いることで、心臓内の異常な電気信号の流れを立体的に可視化し、焼灼すべきポイントを正確に特定できるため、より効果的で安全性の高い治療が期待できます。

また、当院では心房細動だけでなく、頻発性心室期外収縮や心室頻拍などほかの不整脈の治療に対しても、カテーテルアブレーションを行っております。これら幅広い不整脈治療に対応できる専門性を有していることも当院の強みの1つです。
心房細動は治療後も再発することがあり、定期的なフォローが重要です。当院では治療後1年間は約3か月ごとの受診を推奨しており、症状の変化や再発の有無を慎重に評価しています。かかりつけ医とも密に連携し、患者さんが安心して治療を継続できる体制を整えていますので、心房細動にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

肺がんの治療
スピーディーな診断を追求し、よりよい予後を目指す
肺がんは、臓器別のがん罹患数で2番目に多い*がんで、完治が難しい病気の1つです。一方で、近年では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬という新しいタイプの治療薬が次々と登場し、抗がん剤しかなかった時代と比べて治療成績は飛躍的に向上しています。
肺がんの治療においては、迅速な診断が重要です。診断が遅れればそのぶん進行する可能性が高まりますし、何より結果が出るまでの期間が長ければ長いほど患者さんの不安も大きくなることでしょう。当院では、1日でも早く治療を開始できるよう、効率的な検査体制を整え、迅速な診断・治療につなげることを重視しています。
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2020年時点

写真:PIXTA
肺がんの診断・治療には、血液検査や気管支鏡検査、CT検査、MRI検査、PET検査など多岐にわたる検査が必要です。これらは「確定診断のための検査」や「治療薬を検討するための検査」など目的が異なり、通常は段階的に進められます。しかし、先述したとおり時間的猶予はないため、当院では患者さんの状態を総合的に判断し、必要な検査を先回りして並行して行うなど可能な限り時間のロスを削減し、早期治療へとつなげられるよう尽力しています。
がんに伴う症状の軽減も含め、丁寧で寄り添った肺がん診療を実践
治療は基本的に肺癌診療ガイドラインに沿って行われており、治療方針は私たち呼吸器内科以外に病理診断科、呼吸器外科、放射線科の医師が集まる“キャンサーボード”と呼ばれる会議で決定します。手術が可能な場合は呼吸器外科と、放射線治療が必要な場合は放射線科と連携して治療を行っていきます。先述のとおり、肺がんの治療成績は向上しているものの、新しい治療薬が使えるようになったことで、これらに伴う副作用への対応も求められるようになっています。当院は複数の診療科を備える総合病院ですので、複雑化する副作用にも対応可能です。

写真:PIXTA
なお、肺がんは進行した状態で発見されるケースも多いため、不安や心配への配慮はもちろん、痛みやつらさに寄り添った診療を実践することも重要だと考えます。痛みがあるようであれば鎮痛薬の投与を検討したり、息苦しいとおっしゃる患者さんには胸腔穿刺(胸水を排出する処置)を検討したりすることも可能です。
私たちはこうした悩みを遠慮なくご相談いただけるような信頼関係を築くこと、そして満足いただける治療をお届けすることを心がけております。診断や治療にあたってほかの医療機関でのセカンドオピニオンを希望される場合も、遠慮なくお伝えください。
難しい病気を前に大きな不安や心配を感じているとは思いますが、私たちが責任をもってサポートいたしますので、一丸となって乗り越えていきましょう。
- 公開日:2025年4月23日