千葉県の医療
人口増加および高齢化が進む東葛北部
――適切な医療を等しく届けるためには
東葛北部医療圏(柏市・松戸市・野田市・流山市・我孫子市)では、総人口が増加傾向にあります(2019年時点)。2040年には減少が見込まれているものの、75歳以上の人口は増加の一途をたどるとされており、引き続き医療ニーズは高い状態が続くでしょう。しかし、医師数は全国平均より少なく、特に救急医療の不足感が強いことから医療圏内の連携体制の強化が課題とされてきました。この課題を受け、柏市では命に直結する疾患(循環器疾患や消化管出血など)ごとの医療ネットワークが構築されています。今後は対象疾患の拡大など“地域医療を支える協力体制”の充実化が期待されます。
千葉県の医療を支える
おおたかの森病院
専門性の高い医療者が結束し、
安心して暮らせる地域を目指す
当院があるおおたかの森地区は、住みたい街ランキングの上位に選ばれるほど暮らしやすい街で、子育て世代を中心に注目されています。医療の面からみたこの地域の特徴は、特定の領域で専門性の高い診療体制を構築しており、それぞれの分野で協力し合って患者さんを診ていることです。たとえば、当院では循環器や消化器に関する診療に強みがあるため、救急隊や周辺の病院から循環器疾患や消化器疾患の患者さんが紹介されてきます。
特に消化器外科においては、高い専門性と技量を必要とする肝胆膵疾患の手術や腹腔鏡手術を得意とし、循環器内科においては新たな治療法の導入に取り組むほか、国内外で注目されるカテーテル治療も実施しています。また、心臓血管外科では24時間体制で動脈瘤の手術を行い、広域からの受け入れを行っています。
1人でも多くの患者さんを助けたいという気持ちで、地域の医療機関との連携にも積極的に取り組んでいます。今後も地域住民の皆さんが、住み慣れたこの街で自分らしい暮らしを続けられるよう尽力してまいりますので、体調面で心配なことや困りごとなどがありましたらぜひ一度ご相談ください。
おおたかの森病院における
急性大動脈解離について・心筋梗塞・膵臓がん・変形性膝関節症の治療 急性大動脈解離について・
心筋梗塞・膵臓がん・
変形性膝関節症の治療
心筋梗塞・膵臓がん・
変形性膝関節症の治療
急性大動脈解離について
病院到着前に約7割の方が亡くなる病気――日頃からよりよい生活習慣の実践を
急性大動脈解離はほとんどの場合で何の前触れもなく起こり、ひとたび発症すると、突然胸や背中に激痛が走ります。激しい痛みが現れた場合は一刻も早く救急車を呼んでください。なお、救急車を呼べる状態でないこともありますし、救急車を呼べば必ず助かるという病気でもありません。 病院到着前に約7割の方が亡くなり、24時間で約95%が亡くなるとされる致死的な病気ですので、日頃から発症しないよう心がけていただくことが重要です。
急性大動脈解離は突然発症するものであり、確実な予防方法はありません。とはいえ、高血圧や肥満、脂質異常症、喫煙など血管に負荷をかける要因を排除することは重要です。救急搬送に至るような事態を避けるべく、すでに生活習慣病を患っている方はきちんと治療をしたうえで、生活習慣も積極的に整えていただきたいと思います。当院では高血圧や動脈硬化などのリスク因子がある方には、定期的なCT検査をおすすめしています。CT検査で大動脈瘤(血管の膨らみ)が見つかった場合は適切な治療をすることで、突然破裂するような事態を可能な限り防ぐことができます。破裂した方の中には「大動脈瘤に気付かなかった」「気付いていたけれど治療をしていなかった」という方も多くいらっしゃいます。「あのとき検査/治療をしていれば……」ということにならないよう、ぜひ生活習慣を整えつつ、ご自身の体の状況を定期的にチェックいただきたいと思います。
抜群の連携力で1人でも多くの命を救うことに尽力
急性大動脈解離は、ほかの病気と間違われることが多々あります。多くは胸や背中の痛みが生じるとされているものの、意識消失や手足の麻痺、足のしびれ、激しい腹痛などが現れるケースもあります。症状から脳梗塞や急性腹症などが疑われ、確定診断に時間を要している間に命が失われることもあるのです。急性大動脈解離は兎にも角にも時間との闘いです。救えたはずの命が救えなくなる――そのような事態が起こらないよう、当院では大動脈解離の病態や怖さを院内のみならず救急隊員の方々にも共有し、可能な限り時間のロスを最小限に留められるよう尽力しています。
なお、急性大動脈解離にはA型とB型*があり、A型の場合は発症後1時間経過ごとに死亡率が1%上昇するといわれています。1分1秒でも早く手術を行うためには、スタッフの連携が欠かせません。当院ではスタッフ全員が“とにかく早く手術室に運ぶこと”の重要性を理解しており、診断から治療までのスピードは抜群だと自負しています。
手術についても決して簡単ではなく、心臓を止めて行ううえ脳や腎臓など複数の臓器に影響が及ぶ可能性が常につきまとう、非常に侵襲度(体への負担)が大きい手術となります。先述のとおり、当院では目の前の命を救うべく全員が尽力しています。しかし、私たちがどんなに力を尽くしても、救い切れない命があるのが大動脈解離という病気です。今一度その怖さを知っていただき、大動脈瘤があると言われている方、あるいはご家族や知人の病状が心配だという方は、遠慮なく当院にご連絡ください。
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正式には、Stanford (スタンフォード)A型・ Stanford B型。解離が生じた部位によって分類される。
心筋梗塞の治療地域の患者さんを素早く必要な治療につなげる体制を構築
心筋梗塞とは、心筋(心臓の筋肉)に血液を送る血管が詰まって、心筋が壊死する病気です。発症すると締め付けられるような強い胸の痛みや圧迫感などが現れ、一刻も早く治療が必要になります。放置すれば命に関わる病気ですので、突然胸の激痛に襲われたり、胸の締め付けが20分以上続いたりするような場合など、今までにない症状が現れた場合は我慢せず、すぐに救急車を呼んでください。
病院に到着後は迅速に検査を行い、診断がついたらすぐさまカテーテルによる再灌流治療を実施します。再灌流治療とは、血管の詰まりを解消し、血流を再開させる治療です。当院では各スタッフが緊密な連携を図り、診断から治療へ可能な限り最短でつなげられる体制を構築しています。
また、柏市では循環器救急医療を支えるネットワーク“柏ハートネット”が稼働しており、当院も参画しています。柏ハートネットは緊急カテーテルを行える4つの医療機関*が連携し、救急搬送の迅速化・適正化を目的として構築された体制です。院内・院外問わず、患者さんが速やかに治療を受けられる体制を構築していますので、いざという時もご安心いただければと思います。
もちろん、救急搬送に至らないようにすることも大切です。高血圧や糖尿病、脂質異常症などは心筋梗塞の発症リスクを高める要因となりますので、これらの病気をすでに患っている方はきちんと治療を受けるようにしましょう。
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2024年8月時点
おおたかの森から世界へ――診療技術の伝達にも注力
カテーテル治療は急性の心筋梗塞だけではなく、さまざまな病変に対して行われます。当院ではカテーテル治療の中でも特に複雑な病態に対する治療を得意としています。カテーテル治療自体は狭くなったところを広げるシンプルな治療方法ではあるものの、血管の状態によっては難易度が高く、治療の安全性を担保するには医師の十分な技量と経験が必要となります。慢性完全閉塞病変慢性完全閉塞病変・石灰化病変・左冠動脈主幹部病変・多枝病変など一般的に治療が難しいとされる病態にも対応可能な点は当院の強みの1つです。
また、当科では「最高の治療をおおたかの森で,おおたかの森から世界に発信」を理念として診療を行っており、学会活動にも積極的に取り組んでいます。これまで培ってきた技術・経験を世界にも届けるべく、治療手技を海外に生中継で届ける“ライブデモンストレーション”を行っています。時には実際に海外へ呼ばれ、その場で手技を見せることもあります。
カテーテル治療は広く普及した治療ですが、そのぶん医師の経験や技量によって差が生まれやすい治療でもあります。当科が率先して国内外の学会を通して情報発信を行うことで、1人でも多くの患者さんがカテーテル治療の恩恵を受けられるよう尽力してまいります。私たちは誇りと自信をもって診療にあたっています。何か違和感があった場合には「このくらいで……」と思う必要はありませんので、ぜひ受診ください。
膵臓がんの治療
迅速な診断と処置により、できる限り短期間で手術へつなげる
膵臓がんは自覚症状が現れにくく手術が行えた症例を含めても5年生存率が10%ほどと厳しい疾患ですが、早期の段階で手術ができれば5年生存率は50%を超えてきます。当院では、少しでも早い段階で膵臓がんを発見すべく近隣の医療機関と密に連携を図り、膵臓がんのリスクがある方を積極的にご紹介いただいています。膵臓がんを発見する手がかりとして、膵管拡張や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)が挙げられます。これらがみられる方は膵臓がんのリスクが高まるとされていますので、精査および定期的な経過観察が欠かせません。当院では発症リスクの高い方を早い段階から適切にフォローし、もしも膵臓がんを発症したとしても早期の治療介入が叶えられるように努めています。
なお、膵臓がんは進行スピードが早いため、発見してから手術に結び付けるまでの速さが何よりも重要です。とはいえ、すでに黄疸(白目や皮膚が黄色くなる症状)が現れている場合は、まず減黄処置(黄疸に対する治療)を行って改善を待ち、それから手術となります。その点、当院は中規模の病院であり、小回りの利く環境です。消化器内科と外科が速やかに連携を図ることで入院翌日には減黄処置が開始できることが多く、これによりがんの手術にも迅速につなげられる体制が構築できています。
合併症のない治療を心がけ、多職種が一丸となってよりよい予後を追求する
膵臓がんは手術の中でも特に複雑で難易度が高い領域とされており、その理由の1つに合併症の発症率の高さが挙げられます。私たちは合併症を可能な限り最小限に抑えるべく、これまでの執刀経験で培ってきた技量・知識の全てを投じ、あらゆる工夫を凝らして手術に臨んでいます。また、がんの根治のみならず、早期回復に注力していることも特徴です。術後、問題がなければ翌日から離床いただき、立つ動作から少しずつリハビリテーションを進めます。高齢の方で入院による体力低下などが心配な方も、ご安心いただければと思います。
膵臓は食べ物の消化に関わる臓器であり、術後は栄養管理も重要です。低栄養状態は膵臓機能のさらなる低下にもつながり得ますので、当院では膵液(食べ物を消化しやすくする消化液)の流れが滞らないよう術中に腸と膵臓をきちんとつなぎ合わせるほか、術後は管理栄養士も介入することで抜け目のないサポート体制を整えています。
膵臓がんと診断されたら、誰しも大きな不安や恐怖を感じることと思います。たしかに膵臓がんは難治性のがんとして広く知られているものの、中には手術をして5年以上生きている方や、抗がん薬治療をして2年・3年と生きている方もいらっしゃいます。医療は日々進歩していますし、私たちも治療のチャンスを見出すべく全力で診療にあたっていますので、どうか諦めず一度ご相談にいらしてください。
変形性膝関節症の治療
「膝の痛みくらいで……」と思わずに受診を
変形性膝関節症とは、膝の軟骨がすり減り、関節が変形することで痛みなどが生じる病気です。年齢を重ねるとともに患者さんの数が増え、40歳以上の約半数の方が患っているといわれています。直接的に命に関わる病気ではないものの、放っておくと安静時にも膝が痛むようになったり、歩行が困難になったりする可能性もあり、その場合、日常生活に大きな影響を及ぼします。運動ができたり自分の身の回りのことができたりすることは充実した生活につながりますし、特に運動については認知症予防にもつながるとされています。「歳だから仕方ない」「膝の痛みくらいで」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、生活の質を上げるためにも痛みがある場合はきちんと治療をすることが大切です。
「膝の痛み」といっても考えられる原因は多岐にわたり、正しい診断ができなければ治療もスムーズには進みません。当院では、専門医もしくは指導医*が専門的な知見をもって診断と治療を行っています。変形性膝関節症と診断が付いた場合は、鎮痛薬の服用や関節内注射などの保存的療法(手術以外の治療法)を一定期間行います。痛みが改善するようであれば保存的療法を継続しながら経過観察をしますが、改善しない場合は手術を検討します。治療の目的は “ご自身の力で無理なく動いていただけるようにすること”です。痛みの軽減を図ることももちろんですが、当院では患者さんの生活やご希望も大切に考えながら治療方針を決定しますので、まずは一度お気軽にご相談いただければと思います。
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日本整形外科学会認定 整形外科専門医、日本整形外科学会認定 整形外科指導医
自分の足で歩き続けられるように――多職種が一丸となって治療をサポート
手術について、近年では “人工膝関節置換術”という治療が行われることが多くなっており、当院でも実施可能です。この治療は、変形した膝関節の表面を切除し、そこに人工の関節を設置する方法です。例えるならば、虫歯の治療をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。痛みの原因となっている部分を削りますので、除痛効果に優れた治療法です。痛みが軽減すればこれまで妨げられていた関節の動きも取り戻すことができ、活動範囲の拡大や筋力の維持・向上にもつながります。
当院では術後支援にも注力しており、医師や看護師のほか理学療法士や管理栄養士、ソーシャルワーカーなども加わり多職種が一丸となって早期退院をサポートしています。また、入退院のスケジュールを画一化することはせず、個々の患者さんに合ったスケジュールを立てて進めていきます。「普段どういった生活をされているのか」などをお伺いしながらオーダーメイドの治療提供ができればと考えています。相談を重ねながら治療を進めていきましょう。今は“ご高齢だからこそ元気に動くこと”が重視される時代になっており、実際、当院では80歳代・90歳代で手術を受けた方もいらっしゃいます。少しでも痛みがある方、生活に不便さを感じる方は遠慮する必要はありませんので、ぜひ一度当院にいらしてください。
- 公開日:2024年12月4日