呼吸器疾患の医療情勢

呼吸器疾患の医療情勢

種類の多い呼吸器疾患
啓発と早期治療が大切

呼吸器疾患には幅広い種類があり、かぜ症候群や肺炎、喘息のように一般に広く知られる病気がある一方で、患者数の少なさや病態の複雑さゆえにあまり知られていない病気も存在します。たとえば肺非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症などがその一例で、進行すると喀血かっけつ(咳とともに血液が吐き出される症状)を伴う場合があるため注意が必要です。社会的な認知度が低いために発見が遅れ、治療の効果が思うように得られず苦痛を取りきれない、あるいは命に関わるケースが発生する可能性があります。医療機関は治療の必要性を啓発すると同時に、医療提供体制の構築を進めることが求められています。

関東地域の肺疾患医療を支える
東京病院

関東地域の肺疾患医療を支える東京病院

呼吸器センターを設置し、
患者さんの拠り所として
幅広い疾患に対応

当院の歴史は、かつて亡国病とも呼ばれた結核の診療と療養に端を発します。現在では、結核のみならずあらゆる呼吸器疾患に対して専門的な診療を提供し、北多摩地域の中核的な病院として役割を果たしています。2010年に設置した呼吸器センターでは感染症、腫瘍(肺がんなど)、びまん性肺疾患(間質性肺疾患など)、 慢性閉塞性肺疾患まんせいへいそくせいはいしっかんまんせいへいそくせいはいしっかん(COPD)、アレルギー性肺疾患、肺循環喀血センターの6つの部門を備えて専門家集団が対応しています。また気管支喘息、肺炎、気胸などの呼吸器疾患を中心に、24時間体制で救急の患者さんを受け入れる体制が整っています。私たちはこれからも呼吸器疾患で苦しむ方々の拠り所となれるよう、質の高い医療の提供に努めていく所存です。

東京病院 呼吸器センターの
喀血・肺非結核性抗酸菌症・間質性肺疾患・肺アスペルギルス症の治療
喀血・肺非結核性抗酸菌症
間質性肺疾患
肺アスペルギルス症の治療

喀血の治療

検査から治療方針の説明までスピーディーに対応

何らかの原因で気道・肺の血管が傷つき、咳とともに血液が吐き出される症状を“喀血かっけつ”といいます(咳がない状態で喀血する場合もあります)。主な原因となるのは気管支拡張症、肺非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、結核などの呼吸器疾患ですが、精密検査を行っても原因が分からないこともあります(特発性喀血)。現在では結核を原因とする喀血は減っている一方、非結核性抗酸菌症による喀血が増加しています。

喀血の治療喀血の治療

当院は2010年に“喀血外来”を開設し、毎週火曜日の午後に予約制で専門診療を行っています(2024年6月時点)。造影剤の注射による “3D-CTアンギオグラフィー検査”を行って立体的に胸部の血管の構造を調べ、喀血の責任血管を見つけ出して適切な治療につなげます。予約のうえで時間内に受診いただければ、検査から今後の治療方針の説明まで当日中に行うことが可能です。喀血でお困りの方は、主治医ともご相談のうえで来院予約をご検討ください。
なお、出血の量が多く、数枚のティッシュでは受け止めきれないような場合(特に息苦しさを伴う場合)には、緊急な受診が必要とお考え頂き、かかりつけ医にご連絡頂くか、救急車の利用を検討してください。

チームの協働により集学的治療を実現

喀血の治療

喀血は原因疾患に対して薬物治療を行うほか、責任血管に対する“ 気管支動脈塞栓術きかんしどうみゃくそくせんじゅつかんどうみゃくそくせんじゅつ”という血管カテーテル治療を検討します。カテーテル治療は、足の付け根あるいは手首の動脈から細い管を挿入して責任血管に詰めものをし、出血を止める方法です。また、薬物治療とカテーテル治療の両方を行っても症状が再発する場合は、原因疾患に伴う肺病変の拡がり・合併疾患および年齢などを考慮のうえで外科手術による肺の一部切除も検討します。当院はこれらの治療を組み合わせた“集学的治療”の体制が整っており、それぞれの治療を専門とするチームが常に議論し、迅速に対応できることが大きな強みです。
喀血は症状がコントロールできなければ命に関わることがあるため、それを避けるためにあらゆる選択肢を検討することが大切です。また命に関わらなくても、入浴や運動を制限してしまうなど、喀血によって患者さんの生活の質が低下することもあってはならないと考えています。そのため、私たちは生活スタイルや価値観を丁寧に伺い、一人ひとりの希望に近づけるよう、日々診療に努めています。
慢性的な肺の病気があり喀血の症状が現れているにもかかわらず、治療を諦めている患者さんもいらっしゃるようです。お困りの患者さんが適切な治療にたどり着けず、結果として喀血によって命を落とすような事態は避けたいと強く思っています。気になる症状がある方は、どうか当院に早めに相談いただけたらと思います。

解説医師プロフィール

肺非結核性抗酸菌症の治療

パンフレットを用いながら患者さんに丁寧に説明

肺非結核性抗酸菌症は、結核菌以外の抗酸菌が肺に感染して起こる病気です。菌種は150種類以上ありますがそのほとんどを“マック菌”が占めており、土や水の中などに存在しています。入浴や土に触れる作業を通じて菌を吸い込むことで感染すると考えられており、結核とは異なり、人から人へは感染しません。現れる症状は咳や痰、倦怠感、発熱、体重減少などがありますが、非結核性抗酸菌に感染すると必ず発症するわけではなく、自覚症状のない方もいます。
呼吸器疾患診療の歴史がある当院には、肺非結核性抗酸菌症でお困りの患者さんが絶えず来院しています。一般に知られていない病気ですので、分かりやすい言葉によるパンフレットを使用し、まずは肺非結核性抗酸菌症がどのような病気かを理解していただけるように努めています。また、患者さんのかかりつけ医との連携も大切にしており、当院の医師と“2施設主治医制”という考え方で、密に情報共有をしながら治療を進めています。当院での治療で症状が安定した後は、かかりつけ医のもとで日常的な治療を継続していただき、専門性が高い肺非結核性抗酸菌症の診療は当院で行うという、患者さんにとって効率的な診療を目指しています。

肺非結核性抗酸菌症

東京病院 呼吸器センター

患者さんが前向きになれる治療を

肺非結核性抗酸菌症

肺非結核性抗酸菌症になっても、すぐに治療が必要とは限りません。症状がない場合は経過観察とする患者さんもいらっしゃいます。現在広く用いられている診療の見解に基づき、患者さんのご要望をうかがいながら、まず肺非結核性抗酸菌症についてご理解をいただきます。その上で治療を決定していきます。投薬だけでは不十分な場合もありますので、理学療法や栄養相談についてもお話しをさせていただきます。
不安を抱えて受診される方が多いと思いますし、「肺非結核性抗酸菌症は治療が難しい」というイメージを持たれている方もいらっしゃると思います。患者さんのご病状によっては、薬剤の効果がある方もおいでになりますし、残念ながら十分な効果が認められない患者さんもいらっしゃいます。そういった患者さんには、現在用いることができる薬剤でできるだけ進行を抑制し患者さんの質を下げないように心がけています。私たちは患者さんそれぞれの生活を考慮し、前向きになれるような診療を心がけていますので、どうか希望を捨てないでいただきたいと思います。

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佐々木 結花 先生
佐々木 結花先生
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間質性肺疾患の治療

早期診断・治療で急性増悪を防ぐ

間質性肺疾患は1つの病気を指す言葉ではなく、肺の間質というところに異常をきたす種々の疾患を指します。症状には痰を伴わない咳や動作時の息切れなどがありますが喫煙している方にも多い疾患であり、その場合「たばこを吸っているせいだ」と思われている方が多いため、病気が見逃されていることがあるのが現状です。早めに受診していただいたほうができることも多いため長引く咳や息切れなどの症状のある方、健診で異常が見つかった方はぜひ受診していただきたいです。特に喫煙している方は定期的に肺のX線検査を受けていただくことをおすすめします。

間質性肺疾患の治療

間質性肺疾患はかぜ症候群などをきっかけに急激に状態が悪化(急性増悪)することがあり、その場合は命に関わる可能性もあります。そのため当院では急性増悪が起こる前に正しく診断をつけること、病気がどのような性格のものであるか理解していただくこと、そして治療を適切なタイミングで開始できることを目指しています。病気そのものや日常生活を送るにあたっての注意点などについてパンフレットなどを活用しながら丁寧に説明し、患者さんの理解を深めていただけるように心がけています。

薬以外の治療も行い、生活の質を維持できるよう努める

間質性肺疾患の治療

間質性肺疾患は膠原病に合併するものも多く、治療は他の診療科とも連携しながら進めていきます。薬物治療では主に抗炎症薬(炎症を抑える薬)と抗線維化薬(組織が硬くならないようにする薬)を使います。どちらの薬を使うかは病気の進行やタイプにより異なり、検査をして判断します。薬物治療は適切に、そして慎重に進めることが大切です。ステロイド薬や免疫抑制薬などの副作用を伴う薬剤を使うこともありますが、当院では多数の医療者が議論を重ねることで適切な方に適切なタイミングで使うよう努めています。
また長期的にこの病気と付き合ってゆくためには運動や食事など日々の生活習慣も気をつける必要があります。当院ではリハビリテーションスタッフや管理栄養士と協力して積極的に運動療法や栄養療法を提案し、患者さんの生活の質を維持できるように努めています。病気とうまく付き合いながら日常生活を送れるよう、かかりつけ医とも協力し、適切な治療を提供してまいります。

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肺アスペルギルス症の治療

慎重な問診や検査で的確に病態をつかむ

肺アスペルギルス症は、アスペルギルスという真菌(カビ)に感染することで起こる病気です。通常は病気の原因になりにくい菌ですが、免疫力が低下していたり病気で肺に空洞があるなど、本来の肺構造がこわれてしまっている場合、発症することがあります。咳や痰、血痰、喘鳴ぜんめい(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)といった症状があり、重症になると発熱や食欲不振、喀血、息苦しさなどが現れます。
日本において肺アスペルギルス症は、慢性、侵襲性しんしゅうせい、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の3つに大きく分かれ、それぞれ治療法が異なります。ただし実際には病態が複雑ではっきり区別できない症例もあり、慎重な問診や検査が必要です。

肺アスペルギルス症の治療

左:呼吸器外科 深見 武史先生、
右:呼吸器内科:鈴木 純子先生

当院の場合、結核の治療歴がある方に血痰や発熱がみられ結核の再発が疑われたり、抗生剤で肺炎がよくならなかったりしていらっしゃるケースが多いです。また、肺非結核性抗酸菌症や肺気腫などの呼吸器疾患で外来を受診されていて画像所見で影が見つかり、追加検査で肺アスペルギルス症が発見されるケースもあります。このように診断と治療の難しい病気ですが、当院は長年にわたって呼吸器疾患診療に携わり、多様な患者さんを診てきました。その知見と経験を大いに生かして的確に病態をつかみ、よりよい医療の提供に努めています。

薬物治療に加えて手術も検討し、可能な限り根治を目指す

肺アスペルギルス症の治療

肺アスペルギルス症の治療は主に薬物治療となります。慢性・侵襲性の肺アスペルギルス症に対しては抗真菌薬をメインに使います。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の場合は元々喘息にかかっている方も多いため、喘息の治療を継続して行いながらステロイド薬を使います。また慢性肺アスペルギルス症の血痰・喀血症状は当院の喀血チームがカテーテル治療で止めてくれますし、病変が肺の一部で局所的であれば、薬で症状をある程度抑えてから切除手術を行い、根治を目指します。全国でも限られた数しか行われていない大手術ですが、当院は年間10例(2022年実績)の手術を行っており、術者の知識や経験が十分に生かされているという自負があります。
近年、昔に比べて薬の種類が増え、新しい薬も開発されています。今は既存の薬を使い症状をコントロールしながら新しい薬を待つことができる時代です。気になる症状がある方はかかりつけの先生に当院への紹介を希望いただき、ぜひ一度私たちのもとへ受診していただければと思います

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年7月31日
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