区西南部医療圏の医療

医療需要の増加に伴い患者のニーズに
合った治療の提供が必要に
東京都の区西南部医療圏に属する目黒区、世田谷区、渋谷区は約147万人の方が住んでおり、今後も人口増加が予想される地域です。人口増減率は2015年~2020年にかけて、4.99%と全国平均(-0.75%)を大幅に上回っています。人口増加による医療の需要は2020年を100とすると、2030年には105、2040年には114と右肩上がりになる傾向が見られ、医療機関は患者ニーズに合った治療選択肢の提供が求められます。
目黒区の医療を支える
国立病院機構 東京医療センター

よりよい医療体制を整え、
地域の方々の健康を支える
当院は1942年に創設された3つの医療施設を前身として発足しました。2004年には国立病院機構の1施設となり、640床の病床と、30の診療科*を擁して、地域に根付いた診療を提供しています。国立病院というと大病をしたときに受診する病院というイメージがある方もいらっしゃると思いますが、当院は地域密着型の病院として機能しています。患者さんは、目黒区、世田谷区にお住まいの方が中心です。地域の患者さんにより質のよい医療を提供するため2019年3月からがんゲノム外来を開設いたしました。この外来ではがん細胞に発生している遺伝子変化を解析する「がん遺伝子パネル検査**」を提供しています。 さらに2025年からは、ダビンチSPによるロボット支援下手術を導入するなどさまざまな取り組みを行っています。ほかにも、患者さんの不安や悩みを多職種が連携してサポートする相談支援センター・がん相談支援センターを設置しています。
地域の皆さんの健康を支えるため、私たちはこれからも努力をしてまいります。体調面で不安なことがある方は、紹介状をご持参のうえぜひ当院へご相談ください。
2025年時点
検査にあたって行う初回面談は自費診療(全額自己負担)となり、33,000円(税込)がかかります。面談では検査に必要な資料の確認と説明を行います。

国立病院機構 東京医療センターにおける
前立腺がん/子宮体がん/胃がん・大腸がん/慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎の治療
前立腺がんの治療
切らずに済む“小線源療法”、小さい傷口で腫瘍を摘除できる“ダビンチSPシステム”を導入し、よりよい治療選択を支える
前立腺がんは、日本人男性にもっとも多いがんです*。 早期のがんでは自覚症状が現れることはほとんどなく、多くは検診などでPSA検査(血液検査)をきっかけに発見されます。前立腺がんの治療には大きく分けて放射線治療と手術があります。当院では、幅広い治療選択肢を備え、患者さんの状態に応じて適切な治療を提供できる体制を整えているのが強みです。当院には多くの小線源療法(後述)の経験とロボット支援下手術の経験**があります。
2020年時点
2025年2月時点

放射線療法においては前立腺の内部から治療を行う「小線源療法」を2003年に当院が国内で初めて導入し、20年以上にわたって研鑽を重ねてきました。小線源療法とは、放射線を放出する直径1mm、長さ5mmのチタン製のカプセル(ヨウ素線源)を前立腺内に埋め込み、体の中から病変に放射線を当てる治療です。ほかの放射線治療に比べ直腸や膀胱など周囲の臓器への被ばくが軽微なのが特徴で、手術のように体を切らずに済むため、体へのダメージが少なく、早期社会復帰を目指せるのがメリットです。
手術支援ロボットを2台備え、治療体制の整備に尽力
手術において当院では、特性の違う手術支援ロボット(ダビンチXi、ダビンチSP)を2台*導入し、患者さんの体に負担の少ないロボット支援下手術を積極的に行っています。ロボット支援下手術では、従来の開腹手術に比べて傷が小さいことにより、早期社会復帰が期待できるのが大きなメリットです。そのほか、患者さんの状態によって異なる部分はあるものの、術後の尿失禁の回復が早い、勃起機能の温存率が高いことなどが報告されています。特にダビンチSPは、6か所の傷口が必要なXiシステムに対して、1~2か所の傷で手術を行えるため、より負担を抑えた手術が可能です。それぞれのロボットには得意/不得意があるため、手術の方法は患者さんの状態などを踏まえて決定していきますが、先述した放射線治療も含め多角的な診療体制を整えることでよりよい予後に貢献できればと考えています。

私たちは、がんの根治を目指すことはもちろん、患者さんの治療後のQOL(生活の質)も考慮したオーダーメイドの治療を心がけています。放射線治療・手術のどちらも症例経験が多い*当院だからこそ持てる視点や提案できる治療選択肢があると考えています。お困り事がある方はぜひ一度、当院にご相談にいらしてください。相談をしながら一緒に治療を進めていきましょう。

子宮体がんの治療
「いつもと違う」と感じたら自己判断せず受診してほしい
子宮体がんとは、子宮体部(胎児が育つ部分)にできるがんです。 50~60歳代で発症する方が多いものの、30~40歳代で発症するケースもあります。子宮体がんの特徴は、多くの場合で“不正出血”がみられることです。閉経前は月経周期が乱れやすいため「生理不順だろう」と思ってしまいがちですが、実は子宮体がんなど治療が必要な病気が原因の不正出血の可能性もあります。いつもの月経周期とは異なる時期の出血や閉経後の出血、おりものの異常などは、病気のサインの可能性もありますので、一度産婦人科を受診し、検査を受けていただきたいと思います。

先述した症状がある場合、当院ではまず問診と内診、超音波検査を行います。これらの検査で子宮体がんが疑われる場合には、子宮体部の細胞や組織を採取し、がん細胞の有無を確認します。子宮体がんと診断がついたら、さらにMRI検査やCT検査で転移の有無などを確認して治療へと移ります。
手術支援ロボットの導入や、リンパ節郭清の省略により低侵襲な治療を実践する
治療については手術が可能であれば、子宮や卵巣・卵管を摘出するのが基本となります。当院では、低侵襲(体への負担が少ない)治療に注力しており、その取り組みの1つとして2025年1月よりダビンチSP(手術支援ロボット)を導入しました。早期子宮体がん(IA期)であれば、ロボット支援下手術は保険診療内で受けていただけます。ダビンチSPは、おへその部分を3cm弱切開し、アームを挿入します。アームはお腹の中でカメラ、鉗子など4つに分かれ、病変部の切除を行います。開腹手術や腹腔鏡手術に比べて痛みも少なく、患者さんにとって早期の体力の回復にもつながっています。

写真:PIXTA
また、当院ではQOLの維持・向上のため、センチネルリンパ節*ナビゲーション手術にも取り組んでいます。これはリンパ節への転移の有無を調べ、転移がない場合にはリンパ節郭清(切除すること)を省略するという手術です。リンパ節郭清は再発を防ぐために有用な処置ですが、合併症としてリンパ浮腫(むくみ)が生じることがあるため、必要な場合にのみ行うべきと考えます。不必要なリンパ節郭清を減らすべく、当院では手術中にリンパ節(センチネルリンパ節)を迅速に病理診断し、その場で要・不要が素早く見極められる体制を整えています。当院では、患者さんの状態に合わせて治療をすすめていくことを心がけております。もしも先述したような症状がある場合には、「忙しいから様子を見てみよう」など自分で判断せず、一度、当院へ相談にいらしてください。
センチネルリンパ節:がんが転移する際に最初に到達するリンパ節

胃がん・大腸がんの治療
患者さんの状態に応じて臨機応変に対応

写真:PIXTA
胃がん・大腸がんは早期の段階では自覚症状がほとんど現れません。実際、当科にいらっしゃる患者さんの多くは自覚症状がなく、がんが発見された方々です。検診などで何らかの異常を指摘された場合、または腹痛や血便など症状がある場合も、速やかに精密検査を受けていただきたいと思います。当院では胃がん、大腸がんの疑いのある方にはまず内視鏡検査を行って診断を確定し、内視鏡的に治療可能な早期がんの場合には、消化器内科の先生に内視鏡的な治療(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)などを依頼することがあります。しかし内視鏡的に治療することが困難な場合、あるいは内視鏡治療後に追加の治療が必要と判断された場合には、外科的な手術治療が必要となります。CT、MRI、PET検査などで他臓器への転移の有無を確認し、また全身麻酔に耐えることができるかどうか、心臓・肺の機能検査も併せて実施します。胃がん、大腸がんのいずれも、初診から治療方針が決定するまではおおよそ2週間程度です。なお、がんの進行が速い場合は迅速に治療が開始できるよう努めており、患者さんの状態に応じて柔軟に対応ができる体制を敷いています。
手術支援ロボットを2台備え、低侵襲な手術で患者さんを全面サポート

当院の消化器外科では、もともと開腹手術・腹腔鏡下手術に対応していましたが、胃がんに対しては2014年、大腸がんに対しては2019年以降ロボット支援下手術を導入しています。現在では手術支援ロボットを2台(ダビンチXi、ダビンチSP)導入し、患者さんの体に負担の少ないロボット支援下手術を積極的に行っています。ロボット支援下手術では、従来の開腹手術に比べて傷が小さいことにより、早期社会復帰が期待できるのが大きなメリットです。特にダビンチSPは、5〜6か所の傷口が必要なXiシステムに対して、1~2か所の傷で手術を行えるため、より患者さんの負担を抑え、整容性の高い手術が可能です。病気の状態に応じて、アプローチの方法は患者さんの状態などを踏まえて決定していきます。当院においては、胃・大腸の双方の領域において日本内視鏡外科学会認定のロボット支援手術プロクター(手術指導医)が常勤しており、常に新しい技術の習得と後進の育成にあたっています。
診断から退院後まで担当医が責任をもってフォロー
さらにロボット支援下手術以外でも消化器外科全体の強みとして、初診から診断、手術、そして退院後のフォローまで同一の医師あるいはチームが責任をもって担当いたします。また、手術後の合併症や内科的な併存疾患の悪化などが万一起こった場合でも迅速に対応ができるのは、総合病院である当院だからこそ実現し得る体制だと考えています。胃がん・大腸がんと診断された方、消化器に不安がある方はお一人で悩まず、是非私たちの元へお越しください。


慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎の治療
進行すると難聴になる可能性も――早期の治療が必要
慢性中耳炎とは、中耳での感染や炎症が長期間持続する状態を指します。炎症が続くことで鼓膜に穿孔(穴)が開くことがあり、これが難聴の原因となることもあります。抗生剤などの治療で耳だれが改善しない場合や難聴の悪化が認められる場合は手術が必要となることがあります。

この慢性中耳炎の一種に真珠腫性中耳炎があります。真珠腫性中耳炎とは、耳の中に真珠腫(鼓膜の一部が袋状に陥没し、塊となったもの)ができる病気です。発生する塊が真珠のように見えることから、真珠腫性中耳炎と呼ばれています。真珠腫は放置すると炎症を起こし、周囲の骨(耳小骨や内耳の骨)を徐々に破壊していきます。これにより、難聴、耳痛、耳だれといった症状が現れます。さらに病変が進行すると、耳の内部を走る顔面神経が障害され、顔面麻痺を引き起こすことがあります。こうした症状が進行すると、回復が困難になるため、早期の診断と治療が重要です。

写真:PIXTA
当院では、真珠腫性中耳炎が疑われた場合、聴力検査を行い、鼓膜やその奥に広がる空間の状態を内視鏡やCT検査、MRI検査で確認します。軽症の場合、まず抗生剤の投与や耳処置で炎症のコントロールを試みます。しかし、聴力が回復しない場合や耳だれ・耳痛が持続する場合、骨破壊が進行する場合には、真珠腫を取り除くための手術が必要となります。
サポート体制が充実しているから安心して治療ができる環境

当院では、真珠腫性中耳炎の治療として鼓室形成手術を行っています。鼓室形成手術とは、人工耳小骨または患者さん自身の骨や耳介の軟骨を使用して、耳小骨を再構築する手術です。 当院では従来の顕微鏡手術に加えて内視鏡を用いた鼓室形成手術、外耳道後壁を削らずに行う手術など、低侵襲手術に対応でき、幅広い選択肢を患者さんに提供できるのが強みです。当院には日本耳科学会耳科手術暫定指導医が2名、日本言語聴覚士協会認定の認定言語聴覚士が2名在籍*し、手術後の聴力リハビリテーション・補聴器調整も含めて一貫したサポート体制が整っています。 慢性中耳炎も真珠腫性中耳炎もいかに早く治療を開始できるかがその後の経過に大きく関係します。いま聞こえにくさや耳の不調などを抱えてお悩みの方はぜひ一度ご相談にいらしてください。
2025年2月時点

- 公開日:2025年3月21日