院長インタビュー

茨城県の医療を支え、数多くの先進医療を世界に発信する筑波大学附属病院

茨城県の医療を支え、数多くの先進医療を世界に発信する筑波大学附属病院
松村 明 先生

筑波大学 脳神経外科 名誉教授

松村 明 先生

この記事の最終更新は2017年10月05日です。

茨城県つくば市天久保に位置する筑波大学附属病院は、「教育の筑波」と呼ばれ、診療や研究のほかに、卒前・卒後を含めた医学教育を行う機関として、優れた研究者や教育者、医療人を輩出してきました。

同院では、陽子線治療をはじめとする高度医療、薬剤や医療機器の実用化を目指す臨床研究・治験を推進する体制、茨城県の医療体制の整備および質の向上を目指した人材育成プログラムなど、さまざまな事業を行っています。

筑波大学附属病院の取り組みと担うべき役割について、病院長の松村明先生にお話を伺いました。

当院は、筑波大学が1973年に総合大学として発足した翌年に着工し、1976年10月に15診療科320床で開院しました。茨城県からは医師不足の解消や、地域医療向上の期待を受け、診療や研究のほかには、卒前・卒後を含めた医学教育を行う機関として始動しました。

2012年に新棟「けやき棟」を開設し、重症病棟66床、精神病棟41床を含む合計800床を整備しました。「けやき棟」には、日本で初めて導入された天井走行型術中MRI手術室やハイブリッド手術室をはじめ、ダビンチ手術装置、内視鏡手術装置、急性期患者受入体制の充実のための重症病棟(ICU、小児ICUなど)を備え、全国でもトップレベルの高度医療を提供しています。

2015年度の1日平均外来患者数は約1,700名、1日平均入院患者数は716名です。手術数については、脳腫瘍・心筋焼灼術・ペースメーカーの手術数において、全国10位以内に入りました。国立大学病院のなかでは、がん放射線治療、脳腫瘍、心筋焼灼術、ペースメーカー、甲状腺がんの手術数において毎年3位以内に入っています。年間7,000件以上の手術を実施しており、全国から患者さんがご来院されています。

当院は、1983年に陽子線治療施設を整備して臨床研究を積み重ね、2001年に日本で唯一の大学附属病院陽子線治療施設として陽子線治療を始めました。これまで30年以上にわたり4,500例以上の治療を行ってきました。国内の医療機関だけではなく、海外からの視察も多く、研修の受け入れや患者さんの受け入れを積極的に進めています。当院発の陽子線治療装置や専門的スキルを持つ人材は国内外に広がっており、当院は世界の陽子線治療の拠点といえると思います。

陽子線治療は、放射線があたる場所を最小限にできます。従来の治療が困難な患者さんやご高齢の患者さんに関しても、安全で有効性の高いがん治療が提供できます。とくにお子さんの場合は放射線の影響を受けやすいため、成長や発達、生殖機能などに影響をおよぼさないように、正常組織への放射線をできるだけ減らす必要があります。陽子線治療は、小児がんが治った後に放射線治療を行ったことが影響して罹患すると思われる二次がんの発生率も極めて低いです。

当院では、小児がん治療に積極的に取り組み、これまでに273名の陽子線治療を行いました。(*2016年3月時点)国内で最も多い小児がんの治療実績を有しています。当院の治療実績が認められ、2016年4月からは、小児がん患者さんへの陽子線治療が保険適用となりました。当院では、小児科、放射線腫瘍科の専門医以外にも、小児がんや小児脳腫瘍の専門医など、陽子線治療以外の治療体制も整っているため、高度な医療を提供することが可能です。日本全国からたくさんの小児がんの治療を希望する患者さんがご来院されています。

筑波大学附属病院の受け入れ体制

筑波大学附属病院の受け入れ体制

 

遠方から来院し、通院して治療を受ける小児がん患者さんとご家族に対して、市内の企業に協力をいただき病院近接の宿泊施設を低価格でご提供する「キッズハウスプロジェクト」という取り組みをしています。長期間にわたる陽子線治療を受けていただくなかで、我が家のようにほっとできる空間をご提供し、安心して治療に臨んでいただきたいと思います。

また、陽子線治療に使用する大型設備がお子さんたちに不安や恐怖心を与えないよう、治療室の壁面をお子さんに人気のキャラクターたちでラッピングするなどの工夫をしています。

スヌーピーが描かれた陽子線治療設備

筑波大学内および筑波研究学園都市を中心とする研究機関の研究成果の実用化をより強力に支援するため、2015年につくば臨床医学研究開発機構「T-CReDO」を設置しました。ここでは薬剤や医療機器を、スピーディーに実用化させるためのサポート体制が整備されており、常に30件程度のプロジェクトを支援しています。さらに、臨床試験の実施の支援、医療技術の開発を目指す若手研究者の育成、臨床研究に関わる研究者の生涯教育・研修の推進なども行っています。

T-CReDOのモデル図

 

「T-CReDO」の組織のひとつである「未来医工融合研究センター」では、医学と工学の連携による医療機器や薬剤の臨床開発をサポートしています。当センターは、病棟内に設置されており、医師や看護師と企業や研究所などの外部研究者がいつでも共同で実証研究を行うことができる環境が整っています。また、モーションキャプチャーなどを設置した画像解析が可能なスタジオを整備し、最先端科学を駆使した臨床研究や共同研究を行っています。

これまでの活動実績としては、病棟内でロボットスーツHAL®を用いた医師主導の臨床治験や、脳腫瘍に対する自家がんワクチンの開発、企業と連携した離床アシストロボット リショーネ(ロボティックベッド)の実証研究などがあります。当院に入院されていた末期がんの患者さんは、痛みがひどく動けないほどだったのにもかかわらず、リショーネを使って車椅子に乗ることができました。そして、窓から外の景色をみることができ、「久しぶりにこんなきれいな景色をみた」と感動されていたことが、とても印象的でした。

ロボットスーツHALを使った臨床治験の様子

茨城県の人口10万人あたりに対する医師数は、全国ワースト2位です。深刻な医師不足による地域医療の崩壊を防ぐため、行政や医師会、社会福祉法人および企業と連携して、さまざまな方法を用いて地域医療の再生プランに取り組んでいます。

当院の教員が県内の11か所の中核的病院に勤務する地域医療教育センター・ステーション制度を全国に先駆けて導入しました。医師が不足している病院にただ派遣するのではなく、その病院で教育指導体制を構築し、地域に根ざした医師の育成を目指しています。もちろん診療支援も行い、地域医療に貢献しています。

当院や連携する市中病院で研修を受けて医師となった約1,300人の卒業生が、県内で医療に従事しています。茨城県内の約3分の1の医師は、筑波大学附属病院の出身者です。

当院は、当時の国立大学病院では採用されていなかったレジデント制度を1976年の開院当初から取り入れて、研修医が研修に集中できるように病院を挙げて取り組んでいます。

研修環境としては、2012年にオープンした新しい病棟「けやき棟」で、高度先端医療や急性期医療などの高い専門性を修得できる教育体制を整備しています。また、ジェネラリスト志向の方にもスペシャリスト志向の方にも対応できるように、研修診療科ごとに大学病院と市中病院を選択することができ、それぞれの特徴を活かした効率的な研修を行っています。

当院の研修プログラムは、一人ひとりの希望に応じて、幅広い選択肢のなかからその人にあった研修プログラムを組むことができ、最適なキャリアパスを提供できる体制を整えています。

松村明先生

当院は開院以来、「真のチーム医療」を提供できる病院を目指し、医師・看護師・医療職の生涯教育に取り組んでいます。卒前・卒後・生涯にわたる教育・研修の環境づくりと、地域に根ざした医師の育成に力を入れ、優れた医療従事者を数多く輩出してきました。海外研修制度についても今後は、レジデントや指導医のみならず、医療従事者や事務職などにも枠を拡大したり、海外からの患者さんや研修医を受け入れたりして、グローバルな病院を目指します。

当院の大きな特徴として挙げられる陽子線治療については、陽子線治療の保険適応の拡大を目指して活動を続けます。さらには、次世代粒子線治療である「中性子捕捉療法(BNCT)」の実用化に向けても取り組んでいきます。

これからも当院ならではの先進的な医療を提供できるように努力し、さらなる医療の発展に貢献していきます。

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  • 筑波大学 脳神経外科 名誉教授

    松村 明 先生

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