院長インタビュー

高度で先進的な医療をリードする北海道大学病院——国際化を進め地域にも密着

高度で先進的な医療をリードする北海道大学病院——国際化を進め地域にも密着
秋田 弘俊 先生

北海道大学病院 病院長、北海道大学大学院医学研究院 腫瘍内科学教室 教授

秋田 弘俊 先生

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北海道大学病院は、1921年開院の医学部附属病院と、1967年開設の歯学部附属病院が2003年に統合して設立されました。診療だけでなく、教育・研究機関として、医師の育成と高度で先進的な医療の開発にも力を入れています。今回は、国立大学病院長会議 国際化プロジェクトチームのリーダーとして国際化を進めながら、地域のニーズに沿った医療の提供を目指す、北海道大学病院 病院長 秋田弘俊(あきたひろとし)先生にお話を伺いました。

北海道大学病院は、①地域医療とともに、②高度先進的医療の開発と提供、③優れた人材の育成を主なミッションとして設立されました。当院の強みは、北海道大学という教育・研究機関に付属する病院として、北海道の医療を長くリードしてきたことであると考えています。

また、紹介率(地域医療機関から紹介されて来院する患者さんの割合)は約90%、逆紹介率(急性期医療の終了後に北海道大学病院から地域医療機関へ紹介した患者さんの割合)も約50%と、多くの病院と連携しています*

*2018年度の紹介率は86.16% (年間)、逆紹介率は47.3%(年間)

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当院では、高度で先進的な医療のひとつとして、陽子線治療に取り組んでいます。当院の陽子線治療では、動体追跡法という技術を用いており、呼吸などによって微妙に動いている体内の腫瘍を狙って治療することができます。当院では、国家プロジェクトである最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の支援を受けて、2009〜2014年の間に、株式会社日立製作所と共同で動体追跡法を組み込んだ陽子線がん治療システムを開発しました。このシステムを搭載し小型化した新しい機器を日立製作所が作製し、アメリカやヨーロッパ、シンガポールなどに輸出しています。同時に、当院では海外からの見学や研修を受け入れて国際貢献も行っています。

当院では、移植医療にも取り組んでいます。当院では、ほとんどの移植治療が可能です。特に、肝移植に積極的に取り組んでおり、たとえば、1991年12月〜2019年12月には329例の肝移植を行いました。心臓移植は2014年に初めて実施し、これまでに数例の実績があります。また、造血幹細胞移植推進拠点病院として、造血幹細胞移植にも注力しています。安心して移植医療を受けていただける体制を築くとともに、移植に携わる人材の育成にも力を入れています。

当院は、厚生労働省指定の医療法上の臨床研究中核病院(全国12施設のひとつ)、がんゲノム医療中核拠点病院(全国11施設のひとつ)、小児がん拠点病院(全国15施設のひとつ)、造血幹細胞移植推進拠点病院(全国9施設のひとつ)として、幅広い領域において、高度で先進的な医療の開発と提供、人材育成、研究推進に取り組んでいます(2019年時点)。

陽子線治療、がんゲノム医療、小児がん、造血幹細胞移植というキーワードが示すように、当院は、特に悪性腫瘍に対する治療において強みを持っているといえるでしょう。

北海道大学病院は、国立大学病院長会議の国際化プロジェクトチームのリーダーを務めており、国際化を強く推進しています。

具体的には、CME(医学生涯教育)のプログラムを作成し、主にアジアの医師に向けて展開しています。実際に、フィリピンや中国の医師を受け入れ、観光も兼ねたメディカルツーリズムを実施し、その間に教育を受けていただいています。

医療通訳者を常勤で置いていることも当院の強みであると考えています。たとえば、当院では、医療通訳者として、台湾の輔仁大学文学部医療通訳学科から台湾(中国語)の方を雇用しています。また、2018年に外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証を受けており、海外からのインバウンド患者の受け入れにも力を入れています。

北海道大学病院は隣国であるロシアと医療の面で協力関係にあり、特にサハリン州とは長年協力体制を継続し、患者さんを受け入れています。

ウラジオストクでプーチン大統領が毎年開催している東方経済フォーラムには、2016年に当時の病院長である寳金清博(ほうきんきよひろ)先生が参加しました。2017年、安倍晋三首相は8項目からなる日露経済協力プランの最初に“医療水準を高め、ロシア国民の健康寿命の伸長に役立つ協力”を掲げています。2018年には日露医学医療シンポジウム(新潟)において、私ががんのゲノム医療について講演して交流を深めました。

こうしたロシアとの医療交流は、北海道大学病院の特徴であり、当院は医療という分野で、日露関係の強化にお力添えしていると考えています。

当院の医師の人事に関する課題は、評価システムにあると考えています。本来、人事制度は評価制度によって機能しますが、2019年現在、当院は医師の能力をきちんと評価するシステムを持っていません。そのため、漫然と卒業後も大学に残る傾向があったり、適切な人材が流出してしまったりするケースが見受けられます。これは大学が回避しなければならない問題のひとつです。今後は、当院の看護師や検査技師などの評価制度のように、しっかりとした内部評価システムを作る必要があると考えています。

当院は、今後、病院を再開発する予定です(2019年時点)。当院は、建物自体は定期的にメンテナンスしているため立派に見えるかもしれませんが、配管などのインフラストラクチャーは老朽化してきています。1988年から1994年にかけて竣工した現在の病院で診療を開始した当時と比べると、日本の医療システムや医療環境、人口構成、疾病構造は大きく変わっていますので、その変化に対応できるよう、当院も建物を抜本的に見直しフレキシブルな構造に変えていきたいと考えています。

再開発を行ってからは、地域密着型の医療サービスもさらに強化しなければならないと考えています。基本的に医療は地場産業です。決してグローバルではなくローカルな世界であり、地域に根ざしたデパートと同じであると考えています。
当院が位置する札幌市では、全道からの人口の流入によって、2040年ごろまで現在の人口が維持され、大きく減少しないと予測されています。同時に、65歳以上の人口割合は高まり、医療を必要とする人々は増加すると予測されています。

これらのことから、当院は、地域に密着する高度急性期および急性期病院として、地域の医療機関と連携しながら、地域が求める医療サービスを提供していきたいと思います。また、同時に、社会のニーズに合った医療サービスを提供できるような医療人を育成する教育体制も築いていきたいと考えています。

年齢が若い方の診療は比較的シンプルで、単一臓器にひとつの病気を抱えているケースが多いです。しかし60歳以上になると、複数の病気を複数の臓器に抱えているケースが増えてきます。高齢化が進行するなか、個々の患者さんの置かれる社会状況や職場環境、経済状況、家庭環境や家族構成、食生活まで、多様な要素全てを考慮して、さまざまな切り口で捉えなければ、患者さんや病気の本質は見えてきません。たとえば、高血圧の原因が職場のストレスというケースもあるのです。このようなところまで考慮しながら医療サービスを提供していかなければならないと考えています。

そこで当院が考える次のミッションのひとつは、診療科の壁を取ることです。現状では、循環器内科と整形外科など、診療科間が分裂してしまっています。本当は複数の病気を持つ患者さんの診療方針について、複数の診療科が同じプラットフォームで検討し、診療しなければなりません。現在の大学病院の分割主義では、ある診療科で診たら次は別の診療科と、全部の診療科を回らなければならないのです。各診療科が総合的な医師の育成を目指した人材養成をしていくべきだと考えています。当院は今後の再開発に向けて、診療科の壁を取り払い、協力体制を築いていきたいと思います。

若手の医師や、これから働く医師へ

北海道大学病院では、しっかりと教育できる環境を整えています。教育には、当然若手の医師も参加します。2000年前の聖人であるヒポクラテスも、技術や知識を教えることも医師にとって重要な仕事であると述べています。私は、この考えに共感しています。後輩や周りに対して無償で教えること自体が、私たち医師のミッションではないでしょうか。

大学病院の医師だから教えなければいけないのではなく、後輩に対する指導は、医師の本業のひとつなのです。私たちの仕事は、先輩から後輩に伝承していく部分も非常に大きいため、教育が本業という思いを持って大学病院に来てください。

診療の環境は、依然として年々厳しくなっています。若手医師の皆さんは、診療業務に忙殺され、教育にも研究にもなかなか関われないことに不安を感じているかもしれません。北海道大学病院では、診療業務は決して楽ではありませんが、日々の臨床の場で学ぶことも多く、教育や研究が十分にできる環境をつくっています。広い視野と高い視点を持った医師を目指して、ぜひ意欲と志を持って、来ていただきたいと考えます。

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  • 北海道大学病院 病院長、北海道大学大学院医学研究院 腫瘍内科学教室 教授

    秋田 弘俊 先生

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