院長インタビュー

地域医療の要として高度医療を提供する厚木市立病院

地域医療の要として高度医療を提供する厚木市立病院
山本 裕康 先生

東京慈恵医科大学附属病院 副院長、厚木市 前病院事業管理者、厚木市立病院 前院長

山本 裕康 先生

この記事の最終更新は2017年12月03日です。

厚木市立病院は、1951年に神奈川県厚木市に県立病院として発足した医療機関です。県から厚木市へと移管され市立の医療機関となったのは2003年(平成15年)のことです。移譲を受けた厚木市は、同院を地域に不足する医療を補完し、高度な医療提供を行う医療機関とすべく、病院の改修に乗り出しました。2010年に改修の計画がまとめられ、少しずつ改修を重ねながら地域医療の要となる医療機関としての体制を整えてきました。同院の取り組みや病院の現状、これからめざす姿について、院長である山本 裕康先生にお話を伺いました。

当院は、診療科27科と病床数347床を有し、開院以来、地域に高度な急性期医療を提供してきました。各診療科が強固に連携し、一丸となって医療提供をすることで地域の方々の健康を守っています。

2003年に移譲を受けた厚木市は当院に、救命救急センターや母子医療センター、地域がん診療拠点病院といった地域に不足する機能を補い、さらに高度医療を提供しうる医療機関をめざして施設・設備の整備に乗り出しました。

当院は、整備を進めるなかで厚木市がめざす医療機関へと変貌をとげ、現在は高度急性期を提供する医療体制を構築しています。2017年11月には新病院建設工事の全行程が完了し、地域医療の要として長くその役割を果たしていくことが期待されています。

当院は厚木市に移管した際に、病院の運営改革に着手しました。その後、施設改修及び新設備導入に関する計画がまとまったのは2010年のことであり、その年の10月に当院へ着任した私も、その計画に基づいて新施設の設計に携わりました。新病院の建設工事は2012年から開始され、2017年11月にようやく完成のときをむかえます。

日々の診療を続けながら新病院の建設を行うため、これまで3つの期間に分けて工事を進めてきました。第1期工事では外科系設備・救急センター・集中治療室などを、第2期工事では内科系設備・外来などを、第3期では駐車場を、それぞれ整備しています。この工程は、重症な疾患の治療が行える施設及び医療機器の整備を第1期で行うことにより、高度な医療をより早く地域の方々に提供することをめざして決定したものです。外科系設備・救急センター・集中治療室を早い時期に完成させたことが、地域の先生方や患者さんからの信頼につながっていると実感しています。

厚木市が当院に求めていた役割は、地域の高度医療を担う大学病院やセンター病院に近い水準の医療提供です。

そのための設備に関する課題は病院の新設によってクリアできました。さらに、スタッフの医療に対する意識を高めてもらうことを目的に、スタッフをほかの医療機関へ派遣し研修してもらうこととしました。集中治療室の看護師は藤沢市民病院へ、臨床工学技師は東京慈恵会医科大学附属病院で研修することで現代の医療技術を体感してもらい、当院がめざす医療がどのような水準のものであるか知る機会を設けたのです。まだまだ理想の医療水準に届いているとはいえませんが、私の院長着任当初と比べると、かなり向上してきていると感じています。

当院の強みは、高度医療を提供する大規模病院と同等の治療を、多くの分野で実施できることです。限られた人材や予算のなかで、特定の診療において突出した得意分野を持ちこれを維持しようとすると、必ずどこかに綻びが生じてしまいます。当院は、この綻びをつくらないために、一般的ではあるがクオリティの高い診療を幅広く取りそろえていくことを選択しました。これが当院の強みともいえます。

当院の医師の95%が東京慈恵会医科大学附属病院から派遣されてきた医師たちです。彼らの多くは当院で半年から3年ほど勤務したあとに大学へと戻ります。大学で先進医療を学んだ医師たちが当院で多くの臨床を経験し、また大学へと戻っていくという流れができているのです。当院が幅広い高度医療を取りそろえられるのは大学病院との連携のおかげでもあります。

当院は、大学病院やセンター病院のように先進医療を提供する医療機関ではありません。しかし、先進医療がスタンダードになった瞬間にその治療法を取り入れ、地域の方々に提供していく病院でありたいと考えています。有用性が高く、新しい治療法を幅広く取りそろえることで、これからも地域に質の高い医療を届けてまいります。

当院では、高度医療を幅広く提供することを目指しています。しかし、すべての分野で医療の質と安全性を担保することは難しいことです。そこで、当院が提供する必要性の低い診療はあえて取り入れないという判断をくだしました。たとえば、心臓外科などでは十分な症例数を経験してようやく質の高い医療が実践できることが知られています。また、白血病などの血液疾患や臓器移植なども、特定の施設に集約して診療をおこなった方がよいと考えられています。私自身は腎移植内科が専門ですが、当院での臓器移植はまだ困難だと考えています。そこで、当院ではこれらの診療は行わず、必要に応じてその分野を得意とする近隣の代表的医療機関をご紹介させていただくことにしました。

このように、地域で実践されている医療の状況をみながら、どの診療を提供し、どの診療を提供しないかを見極めてきたのです。

提供しないと判断した診療科や治療法がある一方で、当院で積極的に行っている診療があります。そのひとつが血管外科による血管内治療です。当院に多くの医師を派遣してくれている東京慈恵会医科大学附属病院の血管外科では、大動脈瘤に対するステントグラフト手術が国内屈指の症例数を誇っており、国際的にも高く評価されています。この治療法を得意とするスタッフが当院に常勤医として派遣されていることから、血管外科の開設を決定しました。また、脳神経外科では、未破裂の脳動脈瘤に対するコイル塞栓術や、脳梗塞に対する血栓回収療法など、最先端の血管内治療を行っています。

これらの血管内治療は、当院に新設したハイブリッド手術室と呼ばれる血管造影装置を完備した手術室で行っています。

こういった、当院が提供することに意味をもつ治療を積極的に取り入れた結果、私の着任前は年間2,000件程度だった手術件数が年間4,000件にまで増加したことにつながっていると感じています。

当院が提供する価値の有無にかかわらず、提供すべきであると判断することのできる診療科及び治療法もあります。そのひとつが小児医療です。現在、厚木市内で入院治療に対応している小児科があるのは当院のみです。市の要請を受けて、当院は手厚い小児医療を地域に提供してきました。公立病院である厚木市立病院にとって、地域に足りていない機能を補完していくことも大切な役割のひとつです。

現在、日本では医療分野の細分化や専門化が進んでいます。たとえば、以前の大学病院の内科では第一内科・第二内科という大きな枠組みで診療していました。しかし、現在は循環器内科・消化器内科・呼吸器内科など臓器別に細分化して診療科を開設している医療機関がほとんどです。

細分化や専門化が進めば、より高度な専門医療の提供ができるというメリットがありますが、その反面、専門性に特化しすぎることによって、自身の専門以外の患者さんを診ることができない医師が増えてしまうというデメリットもあります。そのような意味では、総合的な見地に基づく診療の提供は重要であるといえます。

そのうえで、私は医師が自身の専門分野を持つことには賛成しています。専門分野をもち、その専門性を高めることで医師として成長していくことができるためです。自身の専門性を高めながら、幅広い疾患にも対応しうる視野を持つことが理想的な医師のあり方であると考えています。当院では、それぞれに専門性をもつ医師たちが緊密に連携することで、病院全体で総合診療を提供していく体制づくりを行っております。

当院では、診療科間の垣根をなくし横のつながりを強化することで、病院全体で総合診療を実践しています。診療科間の垣根をなくす取り組みのひとつとして、大きな医局を一部屋だけ設置し、すべての診療科の医師がそこに集まるようにしました。

1つの部屋にさまざまな診療科の医師たちが集まることで交流が生まれ、医師が自身の専門分野以外の知識を身につけることにつながっているとともに、一体感も生まれています。どんな医師であっても、専門外の病気のことまで100%理解することは困難です。わからないことがあれば、すぐ専門分野の異なる医師に尋ねることができる環境を整えることで、医師たちの強いつながりが生まれ、病院が一丸となって総合的な診療を行う体制ができているのです。

当院では、すべての医師が集まる勉強会「集談会」を、月に一度のペースで開いています。この勉強会は、それぞれの診療科に、自身の専門分野で新たにスタンダードとなりつつある重要なトピックスを発表してもらい、それを全科で共有することを目的としたものです。医師たちが、ほかの専門分野の情報を得ることで、幅広い視野で医療を見つめる意識を持つよい機会にしてほしいという思いで、この取り組みを続けています。

当院で新たに実施した「内視鏡併用腹腔鏡下胃部分切除術」は、内科と外科の連携がしっかりとれていなければ実現しなかった治療法のひとつです。

「内視鏡併用腹腔鏡下胃部分切除術」とは、内科医師が内視鏡で内側から摘出箇所をマーキングし、外科医師が腹腔鏡で外側から切除する複合的な摘出手術です。当院がこの手術を適用しているのは、胃腫瘍です。胃の外側に腫瘍が大きくでっぱっており内側からの摘出が難しいうえに、外側からでは最適な摘出箇所がわかりづらい症例でした。内視鏡併用腹腔鏡下胃部分切除術を適用せず、腹腔鏡で外側からのアプローチだけであれば、おそらく胃の3分の1は切除しなければならなかったでしょう。しかし、この術式を採用することで小さな範囲の切除でおさえることができたのです。

当院がこれまでに取り組んできた診療科間や医師間の連携強化は、このような形で実を結んでいます。

当院は、「こんな診療・研究がやりたい」という各診療科からのリクエストを積極的に受け入れてきました。新たな取り組みを寛大に受け入れる姿勢が功を奏し、スタッフたちも積極的にアイデアを出してくれています。スタッフ一人ひとりが、当院でなら自分たちの理想の医療ができるというマインドをもつことが、より質の高い医療の提供につながると考えています。

半年に一度行っている各科ヒアリングは、院内の各セクションと定期的に意見交換を行い医療の質の向上につなげるための取り組みです。企業が戦略の明確化や業績の評価に用いるバランススコアカード(BSC)を使い、医師や看護師をはじめ院内のあらゆるスタッフにヒアリングを行ってきました。

BSCには、現在どのような医療を実践していて、それをどのように改善していかなければならないのか、またどのようにすればその改善が実現するのかといった内容を記載してもらっています。考え方を文章化することでフィードバックがしやすくなり、スタッフへ適切な意見や感想を伝えることができるのです。スタッフと密に連絡を取り合えるうえ、スタッフたちのモチベーションアップにもつながっていると感じています。

どのような状況であっても救急搬送を受け入れる体制を整えておくべき、という思いのもと当院では年間平均4, 000台以上の救急車を受け入れてきました。その一方で、医療安全を最優先に考え、入院病棟の患者さんを優先せざるを得ない場面も発生します。そのような状況下においては、どうしても搬送を受け入れられない場合もあります。このような状況を少しでも改善できるよう、今後も努力を続けてまいります。

当院では、スタッフ自身が納得できる診療を提供することが、医療の質の向上につながると考えています。自分たちの理想を出し惜しみすることなく、それぞれのスタッフが自信をもって提供できる、高水準の医療をこれからも実践してまいります。また当院は、地域に根ざした医療を提供していきたいという思いのもと、施設の改革整備を進めてきました。その施設がようやく完成いたします。今後は、新しくなった病院とともに、地域のみなさまが安心して暮らせるよう努めてまいります。

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  • 東京慈恵医科大学附属病院 副院長、厚木市 前病院事業管理者、厚木市立病院 前院長

    山本 裕康 先生

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