院長インタビュー

地域住民が安心して暮らせる社会づくりをめざして-伊勢赤十字病院の取り組み

地域住民が安心して暮らせる社会づくりをめざして-伊勢赤十字病院の取り組み
楠田 司 先生

伊勢赤十字病院 院長

楠田 司 先生

この記事の最終更新は2018年01月16日です。

日本赤十字社 伊勢赤十字病院は、1904年に「日本赤十字社 三重支部 山田病院」として、三重県度会郡四郷村に開設されました。2012年に伊勢市に新築移転し、現在の名称に改称しました。現在は病床数655床の規模を有し、三重県南部の急性期病院として地域の医療を支えています。

同院では、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。院長である楠田 司先生にお話を伺いました。

 

当院は、日本赤十字社支部病院の第1号として設立された歴史ある病院です。開院以来113年間にわたり地域住民の健康を支えてきました。

その使命は、赤十字病院という公的医療機関のため、地域医療や救急・へき地医療、災害救護に重点が置かれています。

三重県南部の特徴は、西は紀伊山地、東は伊勢湾、熊野灘に挟まれた南北に長い地形にあります。急患発生時には搬送経路の不備により、適時・適切な医療の提供が困難となる場合も少なくありません。そのため、当院は、1985年に救命救急センターを開設して以来、県南部唯一の三次救急医療施設としてタイムロスのない医療の提供を実現すべく、地域の医療機関と密接な連携体制を構築し、急性期・救急医療に注力してきました。

三重県南部においては、急性期医療を提供できる医療施設は限られています。特に、脳神経外科・脳血管内治療科・循環器科・心臓血管外科などの迅速な対応が迫られる診療科や、小児・周産期医療など、すべての診療科の急性期疾患に対応できるのは当院のみとなっています。すなわち、三重県南部の急性期・救急医療の「最後の砦」として機能しており、決して断らない医療を展開しております。

その結果、当地域の急性期疾患患者のうち、当院で治療された患者さんの割合は、がん84.1%、脳卒中93.9%、急性心筋梗塞100%、糖尿病83.5%(2016年(平成28年度)DPC評価分科会公開データ)を占めていることになります。

また、当地域は高齢化率が27%となっており、65歳以上のご高齢の患者さんが多いという特徴があります。このため、外科的手技に比べて低侵襲で身体への負担の少ないIVRというカテーテルを使った血管内治療の実績が多いのが特徴です。脳卒中や急性心筋梗塞にはこの治療を選択されることも多く、特に高齢者に多い大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が行えるのは三重県南部では当院のみとなっています。

IVRは、治療に伴う肉体的・精神的苦痛の軽減だけでなく、術後管理を容易にし、入院期間を短縮させ、早期社会復帰をもたらすなど患者さんの退院後の負担軽減にもつながっています。

救急医療につきましては、1週間のうち6日間は当院が輪番病院となっています。救急患者さんの搬送先が見つからないという事態が決して起こらないように、ほぼすべての診療科が24時間365日患者さんの受け入れ準備をしています。その結果、救急車受け入れ台数は全国16位、そのうち重篤患者受け入れ数は全国8位(2016年(平成28年度)調査)となりました。また、ドクターヘリの基地病院でもあるため、三重県全体の約55%の救急患者さんが当院に搬送され、治療を受けています(2017年11月現在)。

当院は、地域がん診療連携拠点病院に指定されています。地域で医療を完結させることを念頭に置いているため、当院では一貫したケアができるように連携パスを用いて、地域医療機関と連携体制を構築しています。

がん登録数は、全国集計でみると、県下では、大学病院に次ぐ実績となっています。治療においては、手術、化学療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療を基本としています。手術においては、ご高齢患者さんの増加により、より侵襲の少ない鏡視下手術を可能な限り選択するようにしています。

化学療法については、外来化学療法を基本としています。50床の外来化学療法室を整備し、化学療法専任医師のほか、がん化学療法看護認定看護師やがん専門薬剤師を配し、安全な化学療法の施行に努めています。

さらに、放射線治療につきましては、さまざまな方向から、強度を変化させた放射能を当てることで、よりピンポイントに病巣部の治療が行えるIMRT(強度変調放射線治療)が可能です。特殊な治療として、舌がんや歯肉がん、口腔底がんに対しては、整容性を考慮して手術を選択せず、放射線治療とともに腫瘍の栄養血管にカテーテルを挿入し、抗がん剤持続注入の治療を行っています。

外来においては、緩和ケア内科医、がん看護専門看護師、がん性疼痛看護認定看護師、緩和ケア認定看護師で構成される「がんサポートチーム」が緩和ケア外来(症状緩和外来、リンパ浮腫外来)や、がん看護外来を行っています。さらに、がんサロンとして、管理栄養士、理学療法士も加わった多職種による学習会や交流会が開催されています。

国内、国外の災害時における医療救護活動は赤十字としての重要な使命であることから、被災地への迅速な救護班の派遣とともに、地域災害拠点病院としてその役割と機能を発揮できる体制として常時、災害救護班8班、DMAT3班を編成、DMAT隊員24名を登録しています。

大規模災害訓練や図上訓練、南海トラフ巨大地震発生を想定した内閣府広域搬送訓練にも毎年参加し、いつでも緊急出動できる体制を整えています。

昨年の2016年に発生した熊本地震では、熊本赤十字病院が被災したため、診療支援として医師や看護師、事務員、心のケアのための臨床心理士を派遣しました。

また、国際救援にも積極的に参加をしており、近年では、ハイチコレラ対策支援事業、ウガンダ北部医療支援事業、バングラデシュ南部避難民救援にも看護師を派遣しています。

当院に与えられた最大の使命は、地域医療の安定を図ることだと考えています。地域に不足する医療機能を補完し、地域の他医療機関をバックアップするというのが、求められている基本姿勢だと思っています。

この地域には元々、緩和ケア病棟がありませんでした。そのため、緩和ケアが必要になった患者さんは、住み慣れた地域を離れ、ほかの地域の医療施設に移っていただかねばなりませんでした。そういった状況を改善すべく、当院の新築移転の際に緩和ケア病棟をつくりました。地域の患者さんを多く受け入れ、患者さんがいつまでも住み慣れた地域で暮らせるように努力しています。

病院併設の訪問看護ステーションもこの地域にはなかったため、1998年に立ち上げました。

以前よりこの地域には、訪問看護ステーション自体はありましたが、人工呼吸器やカテーテル管理など、高度医療が必要な小児や難病患者さん、あるいは入他院を繰り返すがん患者さんが自宅療養に移るときには、医師とすぐに連絡が取れ、医療機能を携えた訪問看護ステーションでないと、対応が難しいことがあります。専門性の高い訪問看護が提供できることが大切だと考え、当院に併設しました。

当院はかかりつけ病院での診療機能の向上が、地域の健康維持管理に大きな影響を与えると考え、地域医療の安定を図るために、かかりつけ医となる開業医の先生方の診療をバックアップしています。

具体的には、当院の医師や看護師、薬剤師、理学療法士などが出向いて、栄養指導や薬剤管理の指導をしたり、リハビリテーションの方法や日常生活で取り入れた方がいい運動を教えたりしています。さらには、レントゲン機器の漏洩線量の測定、出力線量の測定なども行っています。開業医の先生方との密な連携を図り、地域全体で住民のみなさまの健康を守っています。

2012年からは栄養指導を行なっています。2017年11月現在まで164施設に266回出張、825名に対して指導を行いました。患者さんや開業医の先生方に大変喜んでいただけているサービスだと感じています。

当院には「お伊勢さんネット(OISESAN NET)」というシステムがあります。これはインターネット回線を使ったシステムであり、地域の病院でCTをとった際に、当院に連絡があり画像がこちらに送信されるというものです。

このシステムは、地域の専門医不在を補完するものです。

たとえば、当院に届いた画像と臨床所見から脳梗塞だとわかれば、CTを撮った病院の医師も同乗し、血栓溶解剤を投入しながら、当院に搬送することができます。このように治療開始時間を可能な限り早め、患者さんの機能障害をなるべく軽減させるためのネットワークです。

今後はこのシステムをさらに広げていきたいと考えています。

病院として患者さんに満足していただくことは、もちろん第一ですが、職員の満足も得られなければ質の高い医療は提供できないと考えています。職員が働きやすいよう、職場づくりに関しては非常に努力しています。

当院の新築時に掲げたコンセプトは、「医療人に優しい病院づくり」です。女性医療従事者のための休憩スペースや、多職種が自由な用途で使用可能なオープンカンファレンス、プライベート空間と業務空間のオンとオフを分けた空間づくりを心掛けました。

このコンセプトが評価されて、2013年日本医療福祉建築協会より「医療福祉建築賞」を受賞しました。

当院には24時間稼働している保育所があり、夜勤担当者は完全無料で利用できます。看護師は育児休暇が3年まで取得でき、お子さんが小学校を卒業するまでは夜勤が免除される制度も活用できます。

女性医師に対しても、同様にお子さんが小学校を卒業するまでの12年間は当直を免除でき、さらに主治医免除、短時間正規職員採用という制度もあります。

こうした女性のワークライフバランスに配慮した取り組みが評価され、2016年三重県の「女性が働きやすい医療機関」の認証を受けました。

昨今、医師の過重労働が問題視されていますが、当院では当直明けの早期帰宅を勧めています。

女性の働きやすさをメインの課題としていた「ワークライフバランス委員会」に加え、新たに「働き方委員会」を立ち上げ、医療従事者の過重労働を減らす検討を始めました。ワークシェアリングや、ワークシフティング、チーム医療の推進など、どういった働き方が労働時間短縮につながるか議論し、2年間で策定、5年後には対応できるように進めていきたいと考えています。

当院は、医療従事者の教育やキャリアアップに対するバックアップに関しても、最大限行なっています。

医師は希望すれば、複数の診療科での研修が可能であり、自分自身で研修プログラムを作成することができます。学会の旅費や参加費を病院が負担するのはもちろん、論文作成時の支援もしています。国内留学についても資金援助を含めて最大限希望が叶うように配慮をしています。

看護師についても、専門看護師や認定看護師、特定行為に関わる研修など、資格取得希望者には、働き方など特別な配慮を行っています。さらに、資格の継続に必要な学会への無償参加など支援を行っています。奨学金制度は全職種に適応しており、物心両面からのサポートができているものと自負しています。

三重県南部には、少子高齢化や交通網の整備が不十分といった環境面の問題があります。そのようななかで、いかに急性期医療を適時提供できるかが当院の課題であり、解決すべき問題です。ドクターヘリは有視界飛行のため、天候によって左右される可能性もあり、万能とはいえません。ICTなどを用いてホットラインを充足し、今以上に各種医療機関と連携を進める必要があるでしょう。ドクターカーも検討事項です。

現在地域で議論されている病院の機能分化についても積極的に取り組んでいく必要があると考えています。ほかの地域と同様、当地域でも回復期を担当する医療施設が少なく、患者さんに遠くの回復期病院に転院いただくといったご負担をかけることがあります。どういった機能分化をすれば、患者さんにとって安心できる地域完結型医療が構築できるのか、2025年に向けて早急に解決したい問題です。

地域連携の面で、当院が今後進めていくべきだと考えているのは、介護福祉施設との連携です。今まで、医療と介護の連携はスムーズといえませんでした。できるだけ病院の敷居を低くして、もっとフランクな交流をつくっていきたいと考えています。

私たちがめざす病院は、地域の医療ニーズに応じた独自の使命感を持ち、患者さんとかかりつけ医に高い信頼を得て、すべての職員が満足して働ける病院です。そして同時に、地域の健康増進を積極的に推し進め、社会から必要とされる病院です。こういった病院と介護・福祉施設との協働こそが、将来必要とされる健康が担保された新たな町づくり、地域づくりには極めて重要と考えております。

当院は、常に患者さん一人ひとりに寄り添い、質の高い急性期医療を提供し、伊勢志摩地域ならではの地域完結型医療、地域包括ケアシステムの一端を担っていきたいと考えています。

当院は、100年以上の長きにわたり地域のみなさまと共に歩んでまいりました。

少子高齢化、人口減少に直面している我が国では、医療、介護、福祉体制が大きく変わろうとしています。しかし、今後、医療情勢・医療体制がどのように変わろうとも、当院は、常に患者さんにとって高品質という付加価値をともなった医療を提供し続け、患者さん中心の医療を求め続けていきます。今年は昨年よりも、来年は今年よりも良質な医療の提供に努め、広く社会に貢献し、信頼される病院であり続けたいと考えています。

この不変の真理を堅持し、職員一同持てる力を結集して地域の健康を守ってまいります。

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