院長インタビュー

医療と福祉・保健活動をとおして、地域社会に貢献する大分県済生会日田病院

医療と福祉・保健活動をとおして、地域社会に貢献する大分県済生会日田病院
林田 良三 先生

社会福祉法人恩賜財団済生会支部大分県済生会日田病院 病院長

林田 良三 先生

この記事の最終更新は2018年08月02日です。

大分県済生会日田病院では、3つの役割(済生会グループとしての役割、地域唯一の公的病院としての役割、社会福祉法人としての役割)を担い、誰もが公平に受けられる医療、地域に不足している医療機能の補完、社会的弱者への福祉、保健活動を実践しています。

病院の診療体制の特徴や、医療・保健・福祉活動をとおしての地域貢献などについて、病院長の林田良三先生にお話を伺いました。

病院全体図(大分県済生会日田病院よりご提供)
病院外観(大分県済生会日田病院よりご提供)

大分県済生会日田病院の診療体制の特徴のひとつが、生計困難者への無料低額診療の提供です。1911年の済生会創立時の生計困難者に無償で医療を行い、生(いのち)を済(すくう)という「施薬救療」の理念は全国の済生会病院に今でも受け継がれています。

当院の無料低額診療実施率は年々高くなっており、2017年度は全外来、入院患者延数の11.3%でした。医療におけるセーフティーネットとしての当院の役割は高齢化社会、貧困や格差が問題とされる社会において今後さらに重要性を増すと考えています。

多職種によるミーティング風景(大分県済生会日田病院よりご提供)
多職種によるミーティング風景(大分県済生会日田病院よりご提供)

大分県西部医療圏における唯一の公的病院として5疾病5事業(精神疾患と周産期医療を除く)を中心に診療機能の充実と地域連携を進めてきました。5疾病とはがん脳卒中、急性心筋梗塞糖尿病、精神疾患、5事業とは救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療のことです。

1990年の開院時に共同利用型病院(24時間、365日二次救急に対応)、以後、1991年にはへき地中核病院(2003年~へき地医療拠点病院)、1997年に災害拠点病院、1999年には第2種感染症指定医療機関へ指定されています。2003年に救急ユニット(ICU、CCU、救急病棟)開設、2004年には透析医療も開始しました。2008年に地域がん診療連携拠点病院の指定を受け、回復期リハビリテーション病棟を開設し、2013年の地域医療支援病院の承認、2015年の地域包括ケア病棟と緩和ケア病棟開設など、医療行政上の指定、認定を受けるとともに地域に不足している医療機能の補完を積極的に行い、地域唯一の公的病院としての歩みを着実に進めてきました。

外科、内科、婦人科、放射線科、麻酔科が中心となってがん診療を行っています。

外科

消化器外科、呼吸器外科、乳腺外科を専門とする外科の医師が常勤しており、消化器がん肺がん乳がんなどに対する手術を行っています。また、胸腔鏡、腹腔鏡を用いた低侵襲手術を積極的に導入、実施しています。ほかにも、消化器がん、肺がん、乳がんに対する化学療法(抗がん剤治療)も非常勤の腫瘍内科の医師の助言を得ながら、外科の医師が中心となって実施しています。

内科

常勤、非常勤の消化器内科の医師が、がんに対する内視鏡診断や内視鏡治療を行っています。また、2018年5月現在血液内科の医師が1名常勤しており、血液悪性疾患の診療にあたっています。

婦人科

2018年5月現在、2名の常勤と非常勤の医師で、婦人科悪性疾患の外科治療、薬物治療を行っています。

放射線科

放射線科の医師はがんの画像診断を行うとともに、がんに対する放射線治療を行っいます。

麻酔科

麻酔科の医師はがん手術の麻酔を行うとともに、14床ある緩和ケア病棟で終末期がん患者さんの終末期医療に携わっています。

緩和ケア病棟(大分県済生会日田病院よりご提供)

乳腺センターの開設

この地域でも増加している乳がん患者さんに治療だけでなく全人的支援を行うため、2013年に乳腺センターを開設しました。日本乳がん学会の認定を受けた乳がんの専門医を中心に、乳がん患者さんにさまざまな視点からチームによる支援を行っています。また、手術が必要な場合には、美容上の問題にも配慮して、放射線治療の専門医や形成外科の医師と連携して、乳房温存または乳房再建手術を検討しています。

2018年5月現在、脳神経外科の医師が1名でこの任にあたっていますが、脳血管疾患はこの地域でも高齢化の進行とともに増えていくことが予測されており、脳神経外科の医師の増員、神経内科の医師の確保が急がれます。

心臓血管内科

県が主導する大分県医療計画において、当院は急性心筋梗塞における急性期医療の対応医療機関に指定されています。2018年4月から心臓血管内科の医師を増員して、急性心筋梗塞診療の一層の充実をはかっています。また、手術などのより高度な治療が必要と判断した患者さんに対しては、大学病院などと連携し、ドクターカーやドクターヘリによる緊急搬送を行います。

非常勤の内分泌代謝内科の医師がこの診療にあたっていますが、この地域では糖尿病患者さんが増加傾向にあります。この地域に日本糖尿病学会の認定を受けた糖尿病の専門医がいないことを考えると、一日も早い常勤医の赴任が待たれます。

整形外科

都市部と比較して高齢化が進んでいる地域であり、高齢者が関節や腰の痛みを訴えたり、転倒骨折したりして受診されることが多くなっています。2018年5月現在、当院には日本麻酔科学会の認定を受けた麻酔科の専門医が2名(中村浩司先生・仁田亜由美先生)常勤しており、多くの基礎疾患を合併している高齢者にも安全な麻酔管理下での骨折手術が可能です。

また、術後は回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟でのリハビリテーションの実施により、退院後も質の高い生活ができるよう支援を行います。

腎臓内科

2018年5月現在、腎臓内科医が2名常勤しており、糖尿病性腎症などの腎疾患の診療、透析医療を行っています。糖尿病患者さんの増加に伴い、糖尿病性腎症を併発する患者さんも増えており、腎臓内科の医師の役割は増していくものと思います。

歯科口腔外科

市中の歯科診療所では対応困難な歯科治療、口腔外科領域の手術を行っています。

また、医科歯科連携の一環として、がん患者さんの周術期、化学療法時の口腔ケアなども実施しています

大分県西部医療圏には、当院を入れて4つの救急指定病院があります。なかでも総合的な診療が必要な場合には当院で受け入れることが多いです。この地域では2017年、4,020件の救急車による患者搬送が行われていますが、そのうち1,209件、30.1%が当院へ搬入されています。当院で受け入れられず圏外へ搬送される救急患者さんもいます。地域完結できるようマンパワーの充実をはかり、救急車搬入件数を増やしていきたいと思います。

DMAT(災害派遣医療チーム)(大分県済生会日田病院よりご提供)
DMAT(災害派遣医療チーム)(大分県済生会日田病院よりご提供)​

1997年に災害拠点病院の指定を受けて以来、大分県西部医療圏における災害医療の拠点としてDMAT(災害派遣医療チーム)の配備、災害時自家発電装置の増設、EMIS(広域災害救急医療情報システム)、DMAT車両などの整備を進めてきました。2016年4月の熊本地震では地震発生当日にDMAT隊を熊本に派遣しました。また、2017年7月に発生した九州北部集中豪雨では、院内に災害対策本部を設置して傷病者の受け入れ体制を即座に整えたほか、避難地域にお住まいの人工呼吸管理をされている在宅療養中の患者さんの受け入れ、医師会と連携して避難所への巡回診療などを実施しました。

また、被災時には全国の済生会ネットワークをとおして迅速な支援を受けられることも強みです。

へき地への巡回診療や、へき地診療所への代診医の派遣などにより、へき地医療にも貢献しています。

2018年5月現在、常勤の小児科の医師2名で、この地域の小児科医療にあたっています。この地域で唯一の小児科入院施設のため、小児救急に対しては2名の常勤医では不十分です。輪番制などの地域をあげての体制づくりが必要と考えています。

医療の枠組みをこえて保健・福祉活動で地域に貢献しています。これは「なでしこプラン」(生活困窮者支援事業)と称して、全国の済生会グループをあげての取り組みです。

当院は大分市に大分県地域生活定着支援センターを開設し、2018年5月現在6名の相談員を配置しています。2017年度は年間のべ4,195件の支援を行いました。また、大分市内にある更生保護施設(あけぼの療)へ2名の相談員を出向させ、入寮者の健康診断、医療機関への受診を無償で支援しています。ほかにも、入寮者の健康保険の取得や社会復帰支援も行っています。

今後も、地域包括ケアのシステム作りが進む大分県西部医療圏においても、福祉・保健活動をとおして街づくりに積極的に関わっていくことは、社会福祉法人としての役目と考えています。

済生会では、医療、保健、福祉の提供と充実をつうじて、病気、老い、障害、境遇などに悩む方達に寄り添い支援します。そのため、医師、看護師、コメディカルなど職種に関係なく、当院に勤務するすべての職員に、このような済生会理念に対する理解と意識の共有が求められます。

地域の医療を支える職員の心身の健康を保つため、入職時に適性検査を受けていただきます。入職後、仕事に慣れるまでの期間は先輩職員による充実したサポートとともに、必要に応じて臨床心理士によるカウンセリングを受けることも可能です。

子育てしながら働く職員をサポートするため病院敷地内に託児所「なでしこ」を開設、0歳~小学校就学前までの子どもを預かっています。

医療の現場は每日が忙しく、そしてさまざまなストレスにさらされています。日々の仕事に忙殺されていると、医療を志したときに抱いた使命や夢をついつい忘れてしまうこともあるでしょう。

ふと、そのような自分に気づいたときは医療者としての原点に立ち返ってほしいと思います。目の前の患者さんをなんとかしたいという、医療者と患者の一対一の関係のなかにその原点があるはずです。このことは、どんなに社会情勢や医療情勢が変わっても変わることはありません。医療者としてのプロ意識、公益性の高い仕事の担い手であることのプライドを原点に立ち返ることで取り戻せると思います。

誰も経験したことのない少子高齢化に直面している日本では今、医療・介護情勢が激動する時代を迎えています。これは医療者だけの問題ではなく、住民のみなさんに関わる大切な問題です。ぜひ、多くの方にこのことを知って、考えてほしいと思います。大分県済生会日田病院では、医療・福祉サービスの提供をつうじてより多くの方に寄り添い続けるため、地域のニーズに合わせて柔軟に変化、対応できる病院でありたいと考えています。

医療や福祉に対するニーズは、社会的もしくは地域特有の影響を受けて、常に変化し続けます。当地域で必要とされる医療や福祉のあり方は今後さらに変化していくでしょう。

当院がこの地域で果たしている公益性の高い役割に誇りをもってほしいと思いますし、その役割を継続するために変っていくことを厭わないでほしいと思います。

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  • 社会福祉法人恩賜財団済生会支部大分県済生会日田病院 病院長

    林田 良三 先生

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