院長インタビュー

世界と地域に求められる医療を実現する島根大学医学部附属病院

世界と地域に求められる医療を実現する島根大学医学部附属病院
井川 幹夫 先生

公立世羅中央病院 非常勤医師

井川 幹夫 先生

この記事の最終更新は2018年07月17日です。

島根県唯一の特定機能病院である島根大学医学部附属病院は、地域の医療最後の砦として救命救急医療を手がけるだけでなく、専門性に特化した高度かつ先進的な医療にも多数取り組み、なかには世界に先駆けた臨床研究もあります。また後進の若手医師育成、職員が働きやすい環境整備にも力を入れています。

当院の手がける医療とその内容、病院を支える医師に対する研修教育体制などについて、病院長の井川幹夫先生にお話を伺いました。

病院外観(島根大学医学部附属病院よりご提供)
高度外傷センターとドクターカー(島根大学医学部附属病院よりご提供)

県内4番目の救命救急センターとして、2012年10月に認可を受けました。

これは、従来からの救急診療実績が評価されたことに加え、ER型救急システム採用、ICU増床、HCU(重症集中ケアユニット)新設、MCU(重症管理病棟)設置などにより、重症の方を受け入れて診療する体制が整備・強化されたことが大きいです。

より高度な医療を提供可能な態勢も整っていることから、県内全域から患者さんを受け入れています。県内には山間部や離島地域もあるため、ときに当院の医師を乗せた防災ヘリが急行して対応にあたることもあります。

2017年度では救急車2,422台、ヘリ搬送122台を当院で受け入れました。

ハイブリッドER(高度外傷センター)(島根大学医学部附属病院よりご提供)

島根県内では、交通事故が原因の外傷による死亡率が高く、地理的な問題などから病院に搬送されるまで時間がかかりがちです。そのため、交通事故の救命率向上が長年の大きな課題のひとつでした。

当院では、Acute Care Surgeryと呼ばれるアメリカで誕生した概念を取り入れた高度外傷センターを、2016年4月に開設しました。ここでは救命救急センターと連携をとりながら、Acute Care Surgery講座スタッフや各診療科の医師、看護師、放射線技師など多職種がチームとなり、重症外傷や急性腹症など急性外科疾患を24時間治療しています。

より迅速に処置を開始するため、患者さんが搬送されてくることがわかった段階で初期診療体制の準備や、到着後すぐ蘇生手術を開始可能な体制を整備しています。また患者さんにかかるダメージを最低限に抑えるため、搬送された患者さんを動かすことなくCT撮影、血管造影、検査(+塞栓術)や手術ができるハイブリット手術室を導入しました。

当院では、女性の患者さんを一生涯にわたって支え続けられるような医療の実践を心がけています。

婦人科では、子宮や卵巣の病気や不妊症だけでなく、高齢の女性に多い性器脱や更年期障害なども診療しています。2017年4月からは、腹腔鏡下子宮頚癌手術やダヴィンチを使用したロボット支援下子宮頚癌手術を先進医療として行える施設として認可されました。また、HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)と呼ばれる遺伝要因がはっきりしている乳がん卵巣がんに対し、BRCA検査、遺伝子カウンセリング、RRSO(リスク低減卵巣卵管切除術)など一連の診療も可能です。

産科では、妊娠中の女性が安心してお産に臨んで、赤ちゃんと一緒に笑顔で元気に退院していただくことを目標にしています。陣痛から回復までの時間を移動することなく過ごせるLDR室を完備しており、超緊急帝王切開が必要な場合には同じフロアにある手術室で手術決定から赤ちゃん誕生まで最速11分で可能です。また出生前診断、流産早産の予防、不育症治療にも積極的に取り組んでいます。

2015年9月には、島根県の周産期母子医療センターの指定を受けました。妊娠や出産に対しリスクがある妊婦さんも受け入れるほか、赤ちゃんに対する外科治療や心臓血管手術を実施しています。低出生体重児や、異常や病気を持って生まれた赤ちゃんは、状態に応じてNICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復治療室)で周産期専門医(新生児、産科)の医師が管理します。手術が必要な赤ちゃんには、小児科や小児心臓外科を専門とする医師が治療にあたります。

厚生労働省によって都道府県がん診療連携拠点病院に指定されています。島根県のがん診療の中心地として、希少がんや小児がんを含むすべてのがん患者さんに対し、3大療法と呼ばれる手術、放射線治療、抗がん剤治療のみでなく、緩和ケア、がん経験者によるピアサポート、就労支援など、患者さんが包括的な治療と支援を届けられるよう整えています。

厚生労働省では、個々人の遺伝子を調べることでがんの効果が高く副作用の少ない治療方法などを決定したりするがんゲノム医療実施のため、全国11病院をがんゲノム医療中核拠点病院に指定しました。当院はこれらに協力する「がんゲノム医療連携病院」として、がんゲノム医療センターを立ち上げ、診療の安全な実施管理、人材育成、遺伝カウンセリングなどを実践・管理しています。

再生医療とは、幹細胞などの特殊な細胞を移植して、臓器や組織を再生する医療です。当院では、厚生労働省の認可を受けた特定細胞加工物製造施設で細胞の製造や調整を行い、再生医療センターでこれらを用いた治療をします。

1996年に、それまで治療困難とされていた膝関節軟骨損傷に対する自家軟骨細胞移植術を日本で初めて実施したことを皮切りに、骨が弱くなったり変形しやすくなったりする低フォスファターゼ症という病気に対する間葉系幹細胞と造血幹細胞移植による組織再生(骨の再生)成功など、数々の実績をあげています。

大学病院としては日本で3件目となるアレルギーセンターを、2017年4月に開設しました。

アレルギー反応とその影響は皮膚や目、鼻、消化器など全身のさまざまな場所に出現して、治療が難しいものも多いです。アレルギーセンターでは皮膚科、小児科、耳鼻咽喉科、呼吸器・化学療法内科、消化器内科が協力しあい、科学的根拠にもとづいた診療を行っています。特に当院は食物アレルギー、鼻アレルギー、好酸球性消化管疾患に対する診療と研究実績があり、今後はアレルギー疾患に対する新しい治療方法確立にも、より重点的に取り組んでいきます。

ダヴィンチ(島根大学医学部附属病院よりご提供)

2018年度の診療報酬改定により、新たに12件の手術に対し手術支援ロボット「ダヴィンチ」による保険適用が認められました。

島根大学医学部附属病院ではロボット支援手術推進センターを開設、県内唯一の特定機能病院として、体に負担をかけにくい手術を多くの患者さんに適正かつ安全に提供しています。

総合ハートセンターのメンバーが中心となり、大動脈弁狭窄症の患者さんに県内初となるTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)を、2018年4月に実施しました。

TAVIは高度な技術が求められる治療ですが、患者さんの体にかける負担が少なくて済みます。これまで、体力面などの問題から手術を諦めざるを得なかったご高齢の患者さんに対する有効な治療方法として、県内にも浸透させたいと考えています。

当院は、県内における医療のセンターとして高度かつ先進的な医療を手がけるのみでなく、地域医療にも貢献しています。

高齢化が進行するなか、地域に暮らすみなさんが住み慣れた土地で自分らしい生活を続けていただけるよう、地域医療連携センターでは行政や地域の医療機関と連携して、より地域に根ざした医療サービスを提供しています。

入退院や転院手続き、自宅や施設での療養生活、医療福祉サービスなどに対する不安や疑問は、いつでもご相談ください。

島根大学医学部附属病院の取り組みをより多くの方に知っていただくため、広報活動にも力を入れています。

当院では2種類の広報誌を発行しており、地域の開業医の先生方に向けた『島大病院ニュース』では当院の診療機能や設備など、患者さんに向けた『しろうさぎ』では医療や病気に関するコラムや職員紹介などを中心に掲載しています。

職員が講師をつとめる健康講座では、病気に関する基礎的な情報、検査方法や治療方法、医療機器、食事と健康の関係性など、毎回さまざまなテーマを取り上げています。

人口減少と高齢化が全国に先駆けて進行している島根県ですが、医師数と看護数はここ数年で増加傾向にあります。

島根大学医学部附属病院では、医学生や若手医師の研修教育体制を充実させると同時に、職員のみなさんが働きやすい職場づくりをすすめています。2007年には、NPO法人イージェイネットによる「働きやすい病院評価」の認証を受けました。

地域医療総合教育センター内に、専従スタッフを有する4つの教育専門部門を開設しました。

初期研修と専門研修のサポートにより若手医師のキャリア形成支援と地域医療を担う医師の育成に貢献する卒後臨床研修センター、患者さんの安全・医療の質向上・病院経営効率化という相反する命題解決に取り組み病院マネジメントの一端を担う病院医学教育センター、内視鏡治療やダヴィンチなど低侵襲手術に欠かせない技能習得のためのトレーニングや講習会を企画運営する内視鏡手術トレーニングセンター、医学生実習・定期講習・出前研修の実施や医療シミュレーションをつうじて地域医療の充実に貢献するクリニカルスキルアップセンターがあります。

女性医師の活躍がめざましくなったことを受け、仕事と家庭の両立を病院全体でサポートできるよう、ワークライフバランス支援室を開設しました。

まだ子供が小さい職員が安心して仕事に取り組めるよう、院内には定員90名の「うさぎ保育所」を開設、基本・一時預かり保育や終夜保育、学童一時保育体制を充実させました。また病院に併設されている特性をいかして、小児科の医師や看護師が在籍する病児・病後児保育室「ニコニコうさぎ」でも、お子さんをお預かりしています。この夏には学童保育施設もオープンします。

島根大学医学部附属病院は、県内唯一の特定機能病院として高度医療を手がける一方で地域医療もこなす、地域にとってなくてはならない病院です。当院では今後、患者さんの心身を診る総合診療体制の整備を予定しています。

「高度かつ先進的な医療の実践をつうじて、一人でも多くの患者さんを助けたい」、「自分らしい生活をおくる地域の方々を、地域医療の力で支えたい」気持ちをお持ちの方の応募をお待ちしております。

当院は大学病院という性質上、どうしても「なんとなく行きにくい、敷居の高い病院」というイメージを持たれがちです。こうしたイメージを解消するため各種広報に積極的に取り組むほか、外来の患者さんには定期的に、入院された患者さんには退院時にアンケートをお願いして、ご意見やご要望を伺っています。私自身も病院長として、院内を巡回して問題点や改善点を探したり、ヒアリング等を行ったりして、患者さんの満足度向上のヒントを常に探しています。

今後も、県民のみなさんに必要とされる医療を提供し続け、愛される病院でありつづける。それが、私たち島根大学医学部附属病院で働く職員すべての願いであり、目標です。

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