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乾癬特集乾癬の病態概念と注意すべき合併症

乾癬の病態概念と発症要因

免疫の異常に環境因子が重なることで発症する

乾癬かんせんのはっきりした原因は分かっていませんが、発症要因として遺伝的な背景(乾癬になりやすい元々の体質)に基づく免疫の異常が関係していることが近年明らかにされてきています*1
乾癬には免疫機能の異常が関わっており"炎症性サイトカイン"という物質が過剰に産生されます。すると全身に炎症が起こって、皮膚細胞が増殖しすぎてしまい皮膚の新陳代謝が活発になります。この結果、紅斑こうはん(皮膚が赤くなる)、浸潤しんじゅん肥厚ひこう(皮膚が厚く積み上がる)や鱗屑りんせつ(フケのような銀白色の物質)といった症状が現れます。
実際には、遺伝的に乾癬になりやすい体質の方に、以下のような環境因子が複雑に絡み合うことで発症する多因子性疾患と考えられています*2

環境因子の一例

・高脂肪食などの偏った食生活
・ストレス
・けがなどの物理的な刺激
・飲酒
・たばこ
・感染症
・肥満
・高血圧
・脂質異常症
・糖尿病
・メタボリックシンドローム
など

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乾癬は感染しない

このように、乾癬の発症リスクに関わるのは遺伝的な背景に加え、糖尿病や高血圧、食生活などです。乾癬のはっきりとした原因はよくわかっていませんが、ウイルスや細菌などの人から人に感染する性質の病原体が原因ではないことは明らかにされています*3。そのため、乾癬は決して周囲の方にうつりません。

しかしその上で、乾癬を発症すると、さまざまな全身疾患のリスク因子につながることが分かってきています。

全身疾患としての乾癬

乾癬にみられるさまざまな合併症について

乾癬では皮膚だけではなく全身に炎症が起こることから、近年では全身疾患と考えられるようになりました*4そのため、皮膚以外のさまざまな臓器にも影響が及び、全身に下記のような合併症が見られることも珍しくありません。

・メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症)

乾癬の患者さんは糖尿病、高血圧、脂質異常症などのメタボリックシンドロームの合併率が一般の方に比べて高いことが知られています*5
また肥満では脂肪細胞の慢性的な炎症が起こっている状態のため、目に見えないところで全身の炎症が進んでいます。体内で炎症が続くと、体は血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に効かない“インスリン抵抗性”という状態になっていきます。すると、それがきっかけで糖尿病、高血圧、脂質異常症などを引き起こしやすくなります。また、これらの合併症により乾癬の病態自体が増悪し、重症度が高くなるともいわれています。このため、生活習慣の改善などを行い、体重をコントロールすることが重要です。

・虚血性心疾患

重症の乾癬では、心筋梗塞しんきんこうそくなどの虚血性心疾患の合併につながることが分かってきています*6。上述したように、乾癬で全身の炎症が促進されてインスリン抵抗性やメタボリックシンドローム関連疾患が引き起こされると、体は心臓・血管に異常をきたしやすい状態になります。その結果として、血管内皮細胞*の障害から動脈硬化の進行、ひいては虚血性心疾患を合併するリスクが高まるという報告があります。

*血管内皮細胞:血管の内側の表面を覆う細胞。

・ぶどう膜炎

合併頻度はメタボリックシンドロームほど高くはありませんが、一般の方に比べると乾癬の患者さんはぶどう膜炎*を合併しやすいことが分かっています*7。発症すると目が赤くなる、痛みやまぶしさを感じる、視力低下する、見え方の異常が起こる(霧がかかったように見える、歪んで見える、対象物が小さく見える)などが起こります。

*ぶどう膜炎:目の虹彩こうさい毛様体もうようたい脈絡膜みゃくらくまくおよび、それらの隣接組織に炎症が起こる病気の総称。

・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)

乾癬と炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎かいようせいだいちょうえん、クローン病)は、いずれも体に炎症が起こる病気で病態やメカニズムはそれぞれ異なりますが、乾癬の患者さんは通常に比べて炎症性腸疾患を発症するリスクが高くなると報告されています*8過去の研究では、乾癬を発症すると大腸の粘膜にいる免疫細胞や腸内細菌の構成に変化が生じて大腸の炎症を惹起してしまい、その結果として炎症性腸疾患の発症につながると考えられています。

・うつ病、うつ症状

乾癬は皮膚など外観(見た目)に症状が現れる病気であるため、患者さんの多くが周囲の人の視線が気になって自由に外出できない、好きな服を着られない、友人に会いづらいなどの精神的ストレスを感じています。このため、乾癬の患者さんはうつ病を合併していることが珍しくありません。過去の海外の研究では、およそ4人に1人の患者さんにうつ症状が見られると報告されています*9精神ストレスは悪化因子であるため、なるべく日常生活でストレスをためない工夫をすることが大切です。

・関節炎、関節症状

日本における乾癬患者全体のうち、5~15%*10程度にみられる乾癬性関節炎というタイプの乾癬では、皮膚症状だけではなく、手足の指の関節やアキレス腱などの骨と腱・靭帯がくっつくところが痛む、手足の指全体が腫れるなどの関節症状が現れます。また、爪の一部が凹んだりはがれたりすることもあります。なかには皮膚症状よりも先に関節症状が生じるケースもある*11ため、こうした症状を自覚した場合は、乾癬を専門とする医師に相談することをおすすめします。

乾癬は全身炎症性疾患――放置せずに治療を受けて

ここまで述べてきたように、乾癬は“全身に関連する病気”です。炎症性サイトカインなどのはたらきによって全身に炎症が起こり、皮膚のみならず心血管をはじめとする体中のあらゆる臓器にダメージを及ぼして、上述したような合併症を惹起させます。
一方、うつ病を合併している患者さんは今までできていたことができなくなったり、自分自身を否定的な目で見たり、ひどい場合は希死念慮きしねんりょに駆られたりする方もいらっしゃるなど、生活の質(QOL)にも多大なる影響を与えます。
乾癬は時として命に関わる全身疾患だからこそ、皮膚に炎症が起こるだけだからと放置せずに治療を受けることが大切です。疑わしい症状が現れている場合やここで述べた合併症が出た場合、健康診断などで異常を指摘された場合は早めの受診をおすすめします。

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監修
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 主任教授
朝比奈 昭彦 先生
出典:
*1 公益社団法人 日本皮膚科学会(https://www.dermatol.or.jp
*2,3 山本俊幸編.『乾癬・掌蹠膿疱症―病態の理解と治療最前線』中山書店.2020
*4,6 岸本暢将ほか:『乾癬から見た肥満と代謝疾患(アレルギー・膠原病)』日内会誌 108:708-714.2019
*5 Takahashi H, et al. JAMA Dermatol. 2012;39:212-8.
*7 Egeberg A, et al. JAMA Dermatol. 2015;151(11):1200-1205.
*8 Hiroki K, et al. Cell Mol Gastroenterol Hepatol.2018;135-156.
*9 Dowlatshahi EA, et al. J Invest Dermatol.2014;134(6):1542-1551.
*10,11 乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019

参考:
Egeberg A, et al. JAMA Dermatol.2015;151(11):1200-1205.
Hiroki K, et al. Cell Mol Gastroenterol Hepatol.2018;135-156.
乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019
岸本暢将ほか:『乾癬から見た肥満と代謝疾患(アレルギー・膠原病)』日内会誌 108:708-714.2019
公益社団法人 日本眼科医会(https://www.gankaikai.or.jp
公益社団法人 日本皮膚科学会(https://www.dermatol.or.jp
小宮根真弓ほか編著:困ったときに役立つSTEP UP乾癬診療. 第1章 乾癬の基礎知識, 東京, 2019, メディカルレビュー社, pp.34-40
澤田雄宇ほか:『生活習慣と乾癬』産業医科大学雑誌 40(1):77-82.2018
山岸良匡.『メタボリックシンドロームとは?』.e-ヘルスネット. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-001.html 厚生労働省.(2019)
山本俊幸編.『乾癬・掌蹠膿疱症―病態の理解と治療最前線』中山書店.2020
2022年12月作成