港区の医療を支える
愛育病院

プレコンセプションケアに注力――女性の生涯を豊かに

写真:PIXTA

プレコンセプションケアに注力
――女性の生涯を豊かに

女性の社会進出などに伴って、第1子出産時における平均年齢は、40年の間(1980~2020年)で26.4歳から30.7歳に上がっています。また、妊娠出産の機会が減っていることで、現代の女性は昭和初期と比較して9~10倍の月経回数を経験するといわれています。ライフスタイルの変化や月経数が増加したことを背景に、月経痛やPMS、子宮内膜症をはじめ月経や女性ホルモンの分泌に起因するトラブルや病気が増えているといわれています。
そのようななか、当院では“プレコンセプションケア”を積極的に推進しています。プレコンセプションケアとは、女性やカップルが、若いうちから妊娠や出産などのライフプランを考えながら生活や健康に向き合うことです。私(百枝 幹雄)はこれまでの診療経験から、若いうちからのヘルスケアや対策がその後のライフプランに大きく影響すると実感しました。人生100年時代とされる現代において、妊娠や結婚を考えていなくても、また結果的にそのような選択をしなかったとしても、早くから自分の体に向き合い、健康で豊かな人生を過ごせるようサポートしていきます。

時代のニーズに応じた周産期医療・婦人科疾患治療を提供

撮影/川澄・小林研二写真事務所

時代のニーズに応じた周産期医療・婦人科疾患治療を提供

当院は東京都の総合周産期母子医療センターとして、質の高い医療を提供しています。産科の緊急手術やハイリスク妊娠、低出生体重児の管理など、高い専門性が求められる症例にも産婦人科と小児科、新生児科が緊密に連携して対応可能です。また助産師外来や母乳外来を開設しており、産前・産後のサポートにも取り組んでいます。
当院は“お産の病院”というイメージが強いかと思いますが、妊娠・出産に関わる医療やケアの拡充はもちろん、女性が健やかに過ごせるよう社会の変化に柔軟に対応しています。当院が開設された当初は、乳幼児やお母さんの分娩後の死亡率を引き下げることが周産期医療の課題でした。しかし現在は環境が改善し、当院に求められる役割はそれだけに留まりません。近年では女性の社会進出やコロナ禍を背景に、産後うつになる方が増えています。当院では周産期メンタルヘルス外来を開設し、専門の医師が産後の女性をサポートしています。
また、院内に内視鏡手術センターを備え、婦人科疾患に対する内視鏡手術*を積極的に行っています。 “キズは小さく痛みは少なく早い回復を目指して”をモットーに掲げ、患者さんに満足いただけるよう、日々研鑽を重ねています。妊娠・出産のことはもちろん、体のことで気になることがあれば、ぜひ気軽に当院にお越しください。

*

直径5mmの内視鏡(細長いカメラ)を使って行う治療。お腹に開けた小さな穴から内視鏡や医療器具を挿入して行う。

愛育病院における
子宮筋腫・子宮内膜症・
卵巣嚢腫の治療・無痛分娩

子宮筋腫の治療

ライフステージを見据え、納得のいく治療選択肢を提案

子宮筋腫は子宮にできる良性腫瘍りょうせいしゅようのことです。30歳以上の女性では約3割に子宮筋腫があるといわれています。主な症状は過多月経(月経の出血量が異常に多いこと)やそれに伴う鉄欠乏性貧血などです。子宮筋腫はがんではありませんが、月経困難症や不妊症を引き起こしたり、筋腫が周辺の臓器を圧迫して便秘や頻尿の原因になったりすることもあります。
当院では薬物療法または手術による治療を行っています。薬物療法を行っても改善がみられない場合や症状が重い場合には、手術を検討します。手術には子宮を温存して筋腫だけを摘出する方法と子宮を全摘出する方法があり、妊娠を望む患者さんへは、子宮を温存する方向で治療法を検討します。患者さんの中には「全摘出は避けたい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、子宮を全摘出することで、月経困難症の解消のほか、子宮筋腫の再発や子宮がんが発生する可能性がなくなるといったメリットもあるのです。当院では、症状や患者さんの年齢、妊娠や子宮温存を希望されているかなど、ライフステージを考慮して患者さんと一緒に治療法を検討します。

黎明期から磨いた技術を礎に、対話を重ねよりよい治療を目指す

当院は患者さんの体への負担を小さくするため、内視鏡手術を積極的に行っています。従来の開腹手術より小さい切開で済むため、術後の回復が比較的早いことや、整容面にも大きく影響しないことなどがメリットです。
私(百枝)はちょうど日本で内視鏡手術が普及し始めた1990年代からさまざまな症例に対して内視鏡手術を行い、研鑽を積んできました。内視鏡手術は開腹手術よりも難しく、一定以上の技術レベルが要求されますが、腹腔鏡技術認定医ふくくうきょうぎじゅつにんていい*として患者さんにやさしい治療を提供すべく、できる限り内視鏡手術で治療を行っています。

黎明期から磨いた技術を礎に、対話を重ねよりよい治療を目指す

写真:PIXTA

子宮筋腫の手術にあたって「まずは家族と相談したい」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。お伝えしたとおり子宮筋腫はがんではなく良性腫瘍のため、急いで手術する必要はありませんし、中には1~3か月ほど相談・検討を重ねてから手術に臨む患者さんもいらっしゃいます。手術に対しては何よりも患者さんの気持ちを大切にしたいと考えていますので、まずは、お気軽にご相談ください。

*

婦人科領域における内視鏡手術を安全かつ円滑に施行する技量と、指導者としての資質を有することを日本産科婦人科内視鏡学会に認定された医師。

解説医師プロフィール

子宮内膜症の治療

患者さんのライフステージや希望に沿った治療を提供

子宮内膜症は、子宮の内膜組織が子宮の内側以外にできてしまう進行性の病気で、月経がある女性の約10%にみられます。主な症状は月経時の下腹部痛や腰痛、性交痛、排便痛などです。子宮内膜症は、不妊症の原因にもなるほか、症状や年齢によっては卵巣がんの原因になる可能性もあります。
子宮内膜症の治療は、特に将来的に妊娠を希望されている患者さんの場合は早ければ早いほどよいです。私(百枝 幹雄)は特定非営利活動法人 日本子宮内膜症啓発会議を立ち上げ、子宮内膜症の早期発見の重要性を発信し続けています。子宮内膜症のセルフチェックリストの監修もしていますので、病院にかかる判断に迷う方はぜひ活用のうえ、受診を検討ください。

患者さんのライフステージや希望に沿った治療を提供

写真:PIXTA

治療法には、薬物療法と手術があります。子宮内膜症を治すと一言で言っても、患者さんごとに治療のゴールは異なります。月経トラブルの解消、不妊治療の一環、がんの発症予防など、子宮内膜症の重症度はもちろん、患者さんの年齢やライフステージに沿った治療方法を提案します。薬物療法では鎮痛薬の投与やホルモン療法を検討します。鎮痛薬を飲んでも症状の改善がみられない場合は、低用量ピルや黄体ホルモンなどのホルモン療法を推奨します。子宮内膜症の治療に用いる薬は複数あり、そのアプローチは多様です。当院では薬の効果をみながら適切な処方になるよう細やかに調整を重ね、症状の改善に努めています。

繊細な技術が要求される症例にも対応

薬物療法で症状の改善がみられない場合は、内視鏡手術を行います。嚢胞のうほうだけを摘出する方法と、卵巣や卵管も摘出する方法の2通りがあり、妊娠を希望するのか、再発予防に重点を置くのかなどを患者さんと相談しながら手術のアプローチを検討します。

繊細な技術が要求される症例にも対応

子宮内膜症の手術では子宮内膜症の病巣を摘出したり、癒着を剥離はくりしたりします。当院が採用している内視鏡手術は手術後の創が目立ちにくく、見た目に配慮した手術が可能な一方で、開腹手術のように患部を直接見ることができないため、術者には高い技術が要求されます。チョコレート嚢胞*などの場合は、卵巣以外にも卵管や尿管、腸管に癒着が生じている場合があり、ほかの臓器を傷つけないよう安全に配慮した手技が求められます。当院では日本産科婦人科内視鏡学会認定 腹腔鏡技術認定医が安全に配慮して治療を行っています。どのようなタイプの子宮内膜症が見つかっても、私が責任をもって治療いたしますので、ぜひ相談にいらしてください。

*

子宮内膜症が卵巣内で進行し、古い血液がたまった状態を指す。4~6cm以上の大きさになると手術を検討する。

解説医師プロフィール

卵巣嚢腫の治療

早期の段階では自覚症状がほとんど現れない卵巣嚢腫

卵巣らんそうは通常2~3cmほどの大きさで、子宮の左右に1つずつあります。ここに発生する腫瘍のうち、内容物が入った袋状の形のものを卵巣嚢腫らんそうのうしゅといいます。嚢腫の中身は卵巣から分泌される液体の場合もあれば、毛髪や歯などの組織がたまる場合もありさまざまです。発症初期はほとんど無症状なため、健康診断などで超音波検査を受けて「卵巣が腫れている」と指摘され、来院される方が多い傾向にあります。卵巣嚢腫の多くは良性ですが、進行して大きくなると、下腹部痛や頻尿などのほか茎捻転けいねんてん(根元で捻じれること)が起こることもあり、救急対応が必要となる場合もあります。卵巣の腫れを指摘された場合は、なるべく早く病院をいただくことをおすすめします。

傷が小さく低侵襲な腹腔鏡下手術で安全性と整容性に配慮

当院の場合、嚢腫が5cm以下の場合は、4〜6か月に1回のペースで経過観察を行います。嚢腫が5cm以上ある場合や患者さんが症状でお困りの場合には手術を検討します。

傷が小さく低侵襲な腹腔鏡下手術で安全性と整容性に配慮

手術では、正常な卵巣の組織を温存して卵巣嚢腫だけを摘出する方法と、卵巣を全て摘出する方法の2つの方法があります。妊娠の希望や症状、年齢などによって患者さんと相談のうえ、より適した方法を提案します。どちらの方法でも、お腹に5mmほどの穴を開けて内視鏡手術を実施します。この手術は開腹手術に比べて術後の痛みや体への負担が少ないのがメリットです。また当院では安全性だけでなく整容性(術後の見た目)にも配慮した治療に努めています。傷はおへそに1か所、下腹部に左右1か所ずつで計3か所となりますが、おへその創は特に目立ちにくく、残りの2つも大きく目立つ創にはなりません。
先ほどもお伝えしたとおり、初期症状はほとんどないため、健康診断などの機会には、超音波検査などをオプションで付けて、意識的に早期発見することも非常に重要です。すでに気になる症状がある方は、お近くのクリニックでかまいませんので婦人科を受診いただきたいと思います。そして、専門的な治療が必要になった際には、ぜひ当院へお越しください。安全に配慮して、患者さんに満足いただける治療を目指します。

解説医師プロフィール

無痛分娩

24時間365日対応が可能――産科医・麻酔科医・助産師が出産をサポート

無痛分娩*は、麻酔によって分娩の痛みを和らげることができ、不安を軽減して赤ちゃんを産むための有用な選択肢です。
当院の麻酔科には7名の常勤医師がおり、全員が日本麻酔科学会認定 麻酔科専門医の資格を有し、産科麻酔に精通しています(2025年3月時点)。夜間や休日でも麻酔科医が院内に常駐しており、24時間365日いつでも無痛分娩に対応できる体制を整えています。無痛分娩のご希望がありましたら適切なタイミングで無痛分娩を開始することはもちろんですが、無痛分娩中の突発痛に対する薬剤の追加投与や硬膜外カテーテル調整なども迅速に行うように努めています。分娩の進行には個人差があり、なかなか計画どおりに分娩が進まないこともあります。当院では麻酔科医が常駐しているからこそ、一度、無痛分娩を中止し、患者さんに食事や休憩を取ってもらい、様子を見ながら無痛分娩を再開するといった細かな対応も可能です。また、緊急の帝王切開の手術麻酔はもちろんのこと、予期せぬ産科出血などで全身管理が必要となったときにも麻酔科医が対応できることが当院の特長です。
無痛分娩では産科医、麻酔科医、助産師で1つのチームとなることが大切です。当院では産科医、麻酔科医、助産師で毎日ミニカンファレンスを行い、症例ごとに分娩方針を共有して診療やケアの向上に努めております。特に、助産師は妊婦さんのそばに寄り添い分娩のケアを行うと同時に、細心の注意を払って容体の変化をみています。妊婦さんにとっても我々医師にとっても大変心強い存在です。

24時間365日対応が可能――産科医・麻酔科医・助産師が出産をサポート

写真:PIXTA

無痛分娩の麻酔方法は硬膜外麻酔単独か、硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔を組み合わせるかの2通りです。分娩の進行状況や陣痛の痛みの程度、赤ちゃんの状態を確認しながら麻酔方法や使用する薬剤の選択を行っております。痛みの感じ方や不安感は人それぞれですから、妊婦さんのご希望を確認しながら、適切なタイミングで麻酔を行い、安心して出産できるよう努めています。

オンライン講座で安心・安全なお産を目指す

当院では、無痛分娩をご希望されている方に向けてオンライン講座を配信しています**。動画では無痛分娩の概要だけでなく、リスクや妊娠中の過ごし方など、事前に知っておいていただきたいことを産科医、麻酔科医、助産師から分かりやすくお伝えしています。安心・安全な出産には、無痛分娩の知識を身につけ、深めていただくことが重要です。ぜひ講座を受けていただき、一緒に安全なお産を目指しましょう。

オンライン講座で安心・安全なお産を目指す

写真:PIXTA

なお東京都では、2025年10月から無痛分娩にかかる費用の助成制度を開始予定です。当院では産科医、麻酔科医、助産師がワンチームとなり、連携して出産に向き合っています。無痛分娩に興味があるものの不安を抱えている方、心配事や相談したいことがありましたら、まずは当院にお問合せください。

*

無痛分娩は自費診療(全額自己負担)となります。

 

1)無痛分娩の費用:

 

オンライン講座受講者150,000円(税込)

 

オンライン講座未受講者200,000円(税込)

 

2)リスクや副作用(お産の後に起こる可能性があるもの):

 

・排尿障害

 

・感覚障害、運動障害、異常感覚

 

・硬膜穿刺後頭痛

 

・硬膜外血腫・膿瘍(非常にまれ)

 

・局所麻酔薬中毒(非常にまれ)

 

・カテーテル遺残(非常にまれ)

 

**オンライン講座受講料3,300円(税込)

解説医師プロフィール
伯水 崇史 先生
麻酔科標榜医
伯水 崇史先生
プロフィール詳細を見る
  • 公開日:2025年3月27日
病院ホームページを見る