一宮市のがん医療
全国的に頻度の高い乳がん・子宮がん。
進行してから見つかる卵巣がんへも対策が必要
愛知県一宮市の人口は2012年までは増え続けていましたが、その後は減少の一途を辿っており、高齢化も進んでいます。病気による死亡原因は男女共にがんが1位ですが、がん検診の受診率が低下傾向にあることが課題です。2019年の全国データでは、女性のがんの中で乳がんの罹患数は1位、子宮がん*は5位で、一宮市のがん患者数も全国と同様の傾向にあります。また、卵巣がんは頻度が高くはないものの、進行してから見つかることが多く予後の悪いがんとして知られており、速やかに適切な治療を行うことが必要です。
*
子宮体がん・子宮頸がんなどを合計した子宮がん全体の患者数
尾張西部の医療を支える
一宮西病院
新設した“レディース外来”で
きめ細かながん医療を提供
一宮西病院は愛知県西部の一宮市に位置する総合病院です。“断らない医療”をモットーに、24時間365日救急車の受け入れを行っています。また、“患者さんファースト”のきめ細かな医療の提供を目指し、女性に多い病気に対応する“レディース外来”を2023年9月に開設し、婦人科・乳腺外科・形成外科専門外来を1か所に集約しました。診療科の枠を超えて医師が連携して診療にあたり、プライバシーに配慮した空間でゆったりと過ごしていただくことができるなど、長期間通院される患者さんの受診のハードルや初診時の患者さんの不安が解消されるような環境を整えています。当院が率先して“断らない医療”“患者さんファースト”の診療体制を実践することで、地域医療によい影響を与えたいと考えています。
一宮西病院の 乳がん・子宮体がん・卵巣がんの治療乳がん・子宮体がん
卵巣がんの治療
卵巣がんの治療
乳がんの治療
診断から術後の治療まで一貫し、一人ひとりに合わせた診療を
当院は“患者さんそれぞれの不安に寄り添って診療すること”をモットーに、乳がん診療にあたっています。乳がんは女性ではもっとも多いがんで、女性の9人に1人がかかるといわれています。また40歳代後半から50歳代、60歳代で発症する人が多く、子育て中の方やお仕事をされている方、ご家族の介護をされている方などさまざまです。手術後10年近くホルモン療法を必要とする場合もあり、患者さんと医師が非常に長い付き合いになります。ライフステージが変化していくなかで相談しづらい悩みや、病気・治療以外の悩みが生じることでしょう。当院は診断から手術、その後の治療まで一貫して院内で受けられる体制ですので安心して治療を継続していただきたいです。治療中の悩みがあれば、私たちのチームに打ち明けてくだされば解決の糸口が見つかることもあるかもしれません。日常生活と並行して治療を行っていくためにも1人で抱え込まず、どのようなことでもお話しいただければと思います。
“レディース外来”で的確な診断と治療を目指す
当院の“レディース外来”は、女性に多い病気を扱う診療科が1つに集まっています。たとえば更年期障害がある乳がん患者さんに対しては、乳腺外科と婦人科とが協力してアプローチするなど、患者さんの病状や希望を医師・スタッフ間で密に共有して診療にあたっています。頻度は低いものの男性の乳がんもありますので、もちろん男性の患者さんも利用いただけます。女性だけに特化するのではなく、男性の医師を希望する場合は男性医師が対応するなど、一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。
院内には健康診断や人間ドックの検査をワンフロアで実施できる“メディカルサポートセンター”を備えているのも特徴です。検査で陽性と診断された方がスムーズに外来受診できるように整備し、近隣の乳腺クリニックとも連携して迅速に診断を行っています。当院では細胞診、針生検に加えマンモトーム生検(超音波ガイド下)も行っており、より確実な診断が可能です。病理を専門とする医師も在籍しており、確定診断後、素早く的確に治療を進めることができます。
さまざまな診療科・部門と連携してきめ細やかなケアを実現
乳がんの治療には手術、放射線療法、薬物療法などがあり、ほかの診療科との連携が不可欠ですが、当院ではそれぞれの分野に精通した医師同士の連携がスムーズなのが強みです。乳房再建術は形成外科と共同で行っています。シリコン製の人工物を使う人工物再建、自分のお腹や背中の組織で再建する自家組織再建のどちらにも対応し、患者さんのニーズに合わせた選択肢をご提案しています。薬物療法は免疫療法も含め標準治療全てに対応しています。外来化学療法室は2023年に増床して新しくなりました。化学療法に精通した腫瘍内科医や認定看護師*が常駐しており、リラックスした環境の中で治療を受けていただける体制が整っています。手術後の後遺症として多い“リンパ浮腫”に対しては、専門の外来(リンパ浮腫外来)で個別相談やリンパマッサージ、弾性着衣の紹介や運動指導などを提供しています。ほかにも緩和ケアチームと連携した心のケア、薬物療法による脱毛や爪の障害に対するアピアランスケアにも積極的に取り組んでいます。
* 日本看護協会認定 がん化学療法看護認定看護師
乳がんは早期発見・早期治療すれば、これまでと同じ日常生活を送ることが期待できる病気です。院内のみでなく、地域や社会全体にも、乳がんへの理解や、治療を頑張っている患者さんへの温かい接し方が広く浸透していくよう、日々の診療に努めてまいります。
子宮体がんの治療閉経後の出血、月経以外の出血があれば受診を
子宮体がんは子宮体部(妊娠した場合に胎児が育つ部分)にできるがんで、早期発見・早期治療が非常に重要です。50歳代から60歳代で発症する方が多いですが、若くしてかかる場合もあります。子宮体がんは初期から症状が出やすく、もっとも多くみられる症状が性器からの出血です。初期の段階で見つかれば十分に治る可能性があります。閉経後の出血や月経以外での出血がある場合は、速やかに受診をしていただければと思います。検査をしてがんではないことが分かればそれが1番ですので、まずはご相談にいらしてください。
子宮体がんの診断のためには子宮内膜の組織を採取して調べる検査(細胞診)を行いますが、短時間で終わります。ほか、CT検査、MRI検査、血液検査、超音波検査を併用して診断していきます。当院には日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医が2人在籍し(2024年3月現在)、子宮体がんをはじめとした婦人科がんに対して専門性の高い診療を行える点が強みです。日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会 臨床遺伝専門医も在籍しており、遺伝要因が関わるがんにも対応しています。
手術支援ロボット“ダビンチSP”で、より負担の少ない手術が可能に
子宮体がんの治療は、原則手術となります。当院では患者さんの体への負担が少ない低侵襲手術に対応しており、お腹を切らず穴を開けて手術する“腹腔鏡下手術”、同様にお腹の穴からロボットアームを入れ遠隔で操作する“ロボット支援下手術”を積極的に行っています。日本産科婦人科内視鏡学会認定の技術認定医、日本婦人科ロボット手術学会認定のロボット支援手術プロクターなど、専門資格を持つ医師が手術にあたっています。
ロボット支援下手術においては、すでに導入済みの“ダビンチXi”に続いて2024年1月に新型の手術支援ロボット“ダビンチSP”を導入し、体への負担をより軽減することが可能となりました。従来型の“ダビンチXi”による手術はお腹に4か所穴を開ける必要がありましたが、“ダビンチSP”はおへそに1か所穴を開けるだけで手術することができます。おへそには元々しわがあるので手術後の傷が目立ちにくく、患者さんの早期回復が期待できます。
“ダビンチSP”の導入による手術実施は国内で5施設目(愛知県で2施設目)となります(2024年1月現在)。子宮体がんに対する腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が保険適用されるのはステージがIA期の場合となりますので、手術適応についてはお気軽にお問い合わせください。
受診しやすい環境づくりで早期発見・早期治療に尽力
当院の特徴の1つである“レディース外来”は、婦人科や乳腺外科など女性に多い病気を扱う診療科が集まった外来です。広々として清潔感があることに加え、ほかの診療科とは隔てられていて人目を気にせず過ごせる空間となっています。また婦人科には女性医師が常駐しており、受付で希望を伝えていただければ女性医師の診察を指定することも可能です。
女性特有のがんは複数ありますが、がん検診の受診率は決して高くないのが実情です。私たちはこの状況を改善するべく、積極的に検査や診察を受けられるよう環境づくりに努めていきますので、心配な症状があればぜひ一度当院にお越しください。
卵巣がんの治療
専門性の高い治療が求められる卵巣がん
卵巣がんは頻度の低いがんではあるものの、有効性のある検診が確立されていないことや初期症状が少ないために、進行してから見つかることが多いのが現状です。腹水(お腹が張る)や腹痛といった症状が現れてから進行した状態で見つかった、またはほかの病気の検査でたまたまCT検査をした時に見つかったという患者さんが多くいらっしゃいます。もし卵巣がんが見つかった場合は、専門の医師による治療を速やかに受けることが重要です。特に卵巣はほかの臓器に囲まれた位置にあり、ほかの臓器を合併切除する必要が生じることもありますので、消化器外科や泌尿器科など他科との協力体制が整っている医療機関で治療を受けていただくことをおすすめします。当院は総合病院でさまざまな診療科があり、婦人科には日本婦人科腫瘍学会認定の婦人科腫瘍専門医が2人在籍しています(2024年3月現在)。また、薬物療法を専門とする腫瘍内科との連携も強く、専門性の高い治療を提供することができます。
術中迅速病理診断で正確な診断と治療に努める
卵巣に腫瘍が見つかった場合は、正確な診断と治療のために病理検査(腫瘍などの組織を採取して顕微鏡で観察する検査)が欠かせません。腫瘍が良性なのか悪性(がん)なのか、また卵巣がんの中でもどのような種類なのかによって治療方針が異なるためです。ただし卵巣は骨盤の中にあり、体の外から針を刺すだけでは組織を採取できません。そのため、病理検査をするには手術で組織を採取する必要があります。当院では画像検査や血液検査の結果がんが疑われる場合はまず手術をし、術中迅速病理診断を行います。その後さらに詳しく調べて最終的な診断をつけ、適切な治療を進めていきます。
患者さんが安心できる環境で、共に計画を立てて治療を行う
III期、IV期の卵巣がんの患者さんはほとんどの場合、薬物療法を行います。進行して腹腔内にがんが広がっている、目に見えないがんが残っている可能性が高いなどで、手術のみでがんを取り切ることは困難なためです。卵巣がんの薬物療法はここ数年で変化しており、従来とは異なるアプローチでがんを攻撃する新しい薬も登場しています。今後も医療技術の進歩によって卵巣がんの治療成績は向上していくことでしょう。
化学療法については、当院ではほかの病棟とは区切られた場所に30床を有する“外来化学療法室”を設けており、外来通院の患者さんがリラックスして治療を受けられる環境です(2024年3月現在)。
また緩和ケアについても体制を整えており、専門の診療科(緩和ケア内科)と病棟を備えています。病気や治療に関する不安や悩みを伺いながら、がん治療と並行して患者さんの苦痛の緩和に努めています。
治療はもちろん完治を目標に進めていきますが、卵巣がんは進行してから見つかることも多いのが現状です。そのため、私は卵巣がんをはじめ婦人科がんの診療を行う際は、難治の可能性も含めて病気や治療のことを患者さん・ご家族に詳しく説明することを大切にしています。今後の人生設計にも関わることですので、病気のことをご自身が正しく理解することは重要です。どのようなことも丁寧にお伝えしていきますので、共によりよい治療計画を立てていきましょう。
- 公開日:2024年4月25日