耳鼻咽喉科疾患の医療

QOLの低下を招く耳鼻咽喉科疾患、適切な受診につなげるための課題も

QOLの低下を招く耳鼻咽喉科疾患、
適切な受診につなげるための課題も

耳鼻咽喉科じびいんこうかで扱う病気は、アレルギー性鼻炎など比較的身近なものから希少がんまで多岐にわたります。直接的に命に関わる病気は多くないものの、脳の病気が原因となって症状が現れているケースもあるため早期受診・診断が重要です。また、治療を急ぐ病気がなかったとしても、聞こえにくさや鼻づまりなどの症状はQOL(生活の質)を大きく低下させてしまうため適切な治療が求められます。社会的ニーズの多い耳鼻咽喉科ですが、扱っている病気について一般の方々に広く知られていない現状があります。めまいや首の腫れなど、一見すると耳鼻咽喉科とは関係のないように思える病気・症状も耳鼻咽喉科で治療可能であるものの、認知が不十分であることから適切な診断を受けられていない方もいます。耳鼻咽喉科疾患の診療を行う医療機関は医療ニーズに応じた専門性の高い医療体制の確立と同時に、人々の理解を深めるため病気の啓発活動にも取り組み続けることが必要といえるでしょう。

札幌市の医療を支える
耳鼻咽喉科麻生病院

耳鼻咽喉科を専門とする病院として

耳鼻咽喉科を専門とする病院として

北海道、特に札幌では1980年代後半に総合病院など多くの病院が開設しました。しかし、耳鼻咽喉科の診療を専門とする病院はなかったため、外来から手術、入院、アフターケアまで一貫した耳鼻咽喉科診療を提供する病院として1987年に当院を開院しました。
かぜや中耳炎、副鼻腔炎ふくびくうえんなど日常的にかかりやすい病気から突発性難聴や聴神経腫瘍ちょうしんけいしゅようまで耳・鼻・喉に生じる病気全般を扱っており、薬を使用した内科的治療と手術を含めた外科的治療の力で“治す”ことを目的に診療しています。加えて、QOLに関わる機能をできる限り損なわないこと・患者さんの身体的/精神的負担を軽減することも重視しています。
病気に休みはありません。ですから、私たちも年中無休で診療を行っています。耳鼻咽喉科診療を担う医療人として可能な限り患者さんの要望を伺い、適切な治療方法をご提案できるよう日々努力していますので、気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。

理事長プロフィール

耳鼻咽喉科麻生病院の
甲状腺腫瘍・副鼻腔炎・
突発性難聴・めまいの治療

甲状腺腫瘍の治療

健診などで偶然見つかることが多い病気――悪性の場合は手術が第一選択

甲状腺腫瘍は、喉仏のどぼとけの下にある小さな臓器(甲状腺)にできる腫瘍です。腫瘍が大きくなると首の腫れや飲み込みにくさなどが現れるものの、発症初期の段階では自覚症状がほぼありません。当院でも、健康診断や他の病気の検査時に偶然見つかって来院される患者さんがほとんどです。

健診などで偶然見つかることが多い病気――悪性の場合は手術が第一選択

甲状腺腫瘍には良性と悪性(甲状腺がん)があり、まずは検査をしてその鑑別を行います。検査の結果、良性と分かった場合は基本的に経過観察を、悪性の場合は手術を検討します。ただし、甲状腺腫瘍は人の目に触れやすい“首”にできるのが特徴です。そのため、当院では良性腫瘍であっても、患者さんの生活に支障をきたしている場合などは手術も視野に入れながら治療方針を決定していきます。良性/悪性で手術の適応は異なるものの、ご希望を十分にお聞きしたうえで、それぞれの患者さんに適切と考えられる治療を提示できるよう努めています。

整容面に配慮した手術“VANS法”を導入

甲状腺の手術において従来の外切開手術では首の中央部分を切開するため、目立つところに大きな傷が残ります。甲状腺の病気は特に女性に多いこともあり、整容面の問題が課題とされていました。この課題を解決するため、当院では“内視鏡補助下甲状腺手術(VANS法)”を導入しています。内視鏡を使用することで外切開手術よりも傷が小さく済むうえ、切開する部分は鎖骨の下のため襟元が開いた服でも傷が見えにくいのが特徴です。
VANS法は2016年*に良性腫瘍やバセドウ病に対して保険適用となった新しい治療法で、提供している医療機関はまだ多くありません。当院では“耳鼻咽喉科を専門する病院として可能な限り要望をかなえたい”という思いのもと、体制の整備を進め、2021年よりVANS法を提供できる施設となりました。もちろん病状によっては外切開手術のほうが適していることもありますが、VANS法でも同等の効果が得られる可能性が高いと判断した場合は積極的にご提案しています。

悪性腫瘍に対しては2018年より保険適用。

整容面に配慮した手術“VANS法”を導入

“首の手術”と聞くと「怖い」と感じる方のほうが多いことでしょう。私たちは病気の治癒のみならず患者さんの心に寄り添った診療を大切にしています。現在の病気の状態はもちろん、今後の治療の要否や治療選択肢、起こり得るリスクなども含めて明確かつ丁寧にご説明させていただきます。些細なことでも遠慮する必要はありませんので、気になる症状があればまずはご相談にいらしてください。

解説医師プロフィール

副鼻腔炎の治療

がんが隠れているケースも
――「ただのかぜ」と思わず受診を

副鼻腔炎は、鼻の近くにある空洞(副鼻腔)に炎症が起こる病気で、当院でも受診される患者さんが多い病気の1つです。軽症であれば自然に治ることもありますが、炎症が長引いて“慢性副鼻腔炎”(いわゆる蓄膿症ちくのうしょうと呼ばれる状態)に移行することも多々あります。慢性化すると薬では治りにくく手術が必要になることもありますので、早い段階から適切な治療を受けていただくことをおすすめします。

がんが隠れているケースも――「ただのかぜ」と思わず受診を

副鼻腔炎の治療では、まず内服治療を行いながら経過観察をします。抗菌薬などを内服していただき、症状の改善がみられるようであればそのまま治療を継続します。3~4か月ほど内服治療を続けても症状が改善しない場合は、先述のとおり手術も検討します。絶対に手術をしなければならないというケースはまれではあるものの、顔の痛みや嗅覚障害などの症状は生活の質に大きく影響しますので、当院では患者さんの困り事をお伺いしながら適した治療をご提案しています。また、「副鼻腔炎のせいだと思っていた症状が、実はがんによるものだった」というケースもあります。いずれにおいても適切な診断・治療が重要ですので、気になる症状があればぜひ一度私たちにご相談ください。

低侵襲かつ安全性の高い副鼻腔手術の実現を目指す

副鼻腔は蜂の巣のように複雑な構造をしており、膿がたまるなどして空気の流れが悪くなると炎症が長引きやすくなります。そのため、手術では副鼻腔を隔てる壁を取り除いて“清潔が保てる構造”にします。狭い入り口を大きく開放することで空気が流れやすくなり、たまった膿なども排出しやすくなるため、炎症の改善を目指すことが可能です。
手術は鼻から内視鏡を挿入して行います。鼻の中の構造に手を加える手術であり、顔の表面に傷が残ることはありませんので、その点はご安心いただければと思います。

低侵襲かつ安全性の高い副鼻腔手術の実現を目指す

なお、副鼻腔は目・脳など重要な臓器や組織のすぐそばにあるため、手術の際はそれらを傷つけないよう慎重に治療を行わなくてはなりません。十分な知識と技量を持つ医師が執刀するのはもちろんですが、当院では術中部位の様子がリアルタイムで分かるナビゲーションシステムという手術支援機器も導入して、さらなる安全性の向上に努めています。
2024年現在、入院期間は原則1週間としていますが、短縮ができればより手術を受けていただきやすくなると思いますので、新たなシステムや技術などは今後も積極的に導入を検討していく予定です。副鼻腔炎の症状に悩まされている方、あるいは手術をすすめられていて選択に迷っている方は、ぜひ当院にいらしていただけると嬉しいです。

解説医師プロフィール

突発性難聴の治療

聞こえにくいと思ったら“今すぐに”耳鼻科の受診を

突発性難聴は、その名のとおり突然起こる難聴で、ほとんどの場合は片耳に起こります。患者さんにお聞きすると、多くの方が「いつ、何をしているときに急に聞こえなくなった」とはっきり記憶しているほど明確な症状が現れるのが特徴です。「聞こえにくい」「耳に何かが詰まった感じがする」などの症状のほかに、耳鳴りやめまいを伴うことも多くあります。

聞こえにくいと思ったら“今すぐに”耳鼻科の受診を

突発性難聴の治療において重要なことは、“とにかく早く治療を開始する”ことです。早く治療を開始するほど改善しやすく、発症後2週間ほどが経過した場合は改善が非常に厳しくなります。「しばらく様子をみれば治るかも」「忙しいから来週の休みに病院に行こう」などとは思わず、「おかしい」と思ったらその日のうちに受診いただきたいと思います。当院は365日年中無休で診療を行っていますので、週末や祝日に症状が現れたという場合でも即日の診療が可能です。

鼓室内ステロイド注入療法も取り入れ、安全性に配慮した治療を提供

突発性難聴の治療は、ステロイド薬(内服もしくは点滴)による薬物療法が中心となり、当院では基本的に内服薬で投与しています。また、病状によっては血管を拡張させる薬などの点滴を併用する場合もあります。ステロイド薬は適切に使用すれば有用な治療薬ではあるものの、考慮すべき副作用が多く、糖尿病やB型肝炎などの持病がある方には慎重に投与を行わなければなりません。
当院には入院設備がありますので、定期的な通院が難しかったり持病があったりして入院が必要だと判断した方にも安心して治療を受けていただける環境が整っています。反対に、入院できない/したくないという方は外来で完結できる治療方法も検討可能ですので、相談しながら継続しやすい治療を決めていきましょう。
繰り返しになりますが、突発性難聴の治療は“発症後いかに早く開始できるか”がその後の経過に大きく関係します。耳の聞こえにくさや閉塞感、耳鳴りなどの症状を感じたら、とにかくできるだけ早く受診していただきたいと思います。

解説医師プロフィール

めまいの治療

多いのは“良性発作性頭位めまい症”――診断には問診が重要

めまいを起こす病気には多くの種類がありますが、当院では“良性発作性頭位めまい症”がめまい症例の7~8割を占めています。この病気は内耳にある“耳石”という小さな粒が三半規管(半規管)に入り込むことで起こるめまいで、頭を動かしたときなどに突然グルグルと目が回るような激しいめまいが生じます。しかし、“良性”という名のとおり悪い病気ではなく、適切に治療をすればほとんどの場合で治せるめまいです。

多いのは“良性発作性頭位めまい症”――診断には問診が重要

受診したときは不安でパニック状態の患者さんもいらっしゃいますので、当院では問診でめまいの様子を丁寧に聞き取り、この病気の可能性が高い場合には「耳が原因で起こるもので重篤な病気ではないこと」「治療をすればほとんど軽快すること」などを説明し、安心していただけるよう努めています。問診の結果、良性発作性頭位めまい症が疑われる場合は、“眼振がんしん検査”を行います。良性発作性頭位めまい症ではめまいに伴って特徴的な目の動き(眼振)が生じるため、検査で症状の有無を確認します。

完治するまで治療は継続を――専門的な治療も取り入れ、QOLの向上を追求する

良性発作性頭位めまい症など内耳に原因がある場合は、薬物療法が基本です。とはいえ、めまいに対する特効薬はなく、あくまで神経のはたらきを回復・安定させるための薬で症状の回復を促します。当院で治療の際にお伝えしているのは、めまいの治療は症状が治まってから最低でも2~3か月の治療継続が必要ということです。一見、治ったように思えても、検査をしてみると眼振が生じていることも多々あります。めまいの症状が治まったからといって自己判断で薬の服用を中止せず、検査で問題ないと判断ができるまで治療を継続していただきたいと思います。

完治するまで治療は継続を――専門的な治療も取り入れ、QOLの向上を追求する

良性発作性頭位めまい症では薬物療法に加えて、“浮遊耳石置換法ふゆうじせきちかんほう”という理学療法を行うこともあります。浮遊耳石置換法とは、半規管に入り込んだ耳石の位置を戻す治療です。医師が手で患者さんの頭を回転させて耳石の移動を促します。頭を動かすことでめまいが引き起こされるため、症状が生じたばかりの患者さんを不安にさせてしまわないよう、当院では薬による治療で少し症状が落ち着いてから必要に応じて実施しています。 なお当院では、良性発作性頭位めまい症のみならず、めまいの検査や治療はほぼ全て行うことが可能です。メニエール病に対する中耳加圧療法など、新しい治療にも積極的に取り組んでいます。もし検査の結果、耳ではなく脳の病気によるめまいが疑われる場合には連携する地域の脳神経外科にご紹介いたしますので、安心してご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年9月18日
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